前回の雨滴衝撃と土壌侵食に関連して、間伐による土壌侵食の抑制効果について、考えたいと思います。
間伐しない/間伐したの違いが、土壌侵食にどのような影響が考えられるのか、イラストなどを使いながらお話したいと思います。
前回ラストに、「こういう森林だと土壌侵食が起こりにくいよね。」というお話をしました。
さて、森林に降った雨は、樹幹を通じて地面に到達する雨「樹幹流」と樹冠(枝葉)から落下して地面に到達する雨「林内雨」の2種類があり、林内に降る雨は「林内雨」が圧倒的に多くなります。
林内雨は、降った雨を枝葉で受けてから落下するため、林内雨の雨滴は、普通に降る雨の雨滴よりも、雨滴の直径(雨滴径)が大きく、雨滴衝撃を受ける力は林内雨滴の方が強いと言われています。
少し、強引な例えになりますが、屋根が受けた雨水も、一度、集積してから落下するので、屋根の真下にある土壌が削られているという現象に似ている・・・と思います。きっと・・・、たぶん(^_^;)。
←我が家のヤギ小屋
枝葉が受け止めた雨が集積し、林内に落下するため、林内の雨滴衝撃は林外よりも強いということです。
ただし、樹冠(枝葉)を通過してからの落下になるので、その強さは一定ではなく、降雨量、時間、空間によってバラツキが大きくなります。
また、樹高が10m以上に達する林齢20~30年生の森林では、雨滴による侵食を加速させる方向になってしまうと言われています。
単純に高い位置から落下した雨滴の方が、衝撃は強いよね。ってことですね。
だから、雨滴径が大きい林内雨が生み出す雨滴衝撃と雨滴侵食を抑えるものとして、林床を覆ってくれる落葉落枝、草本類やシダ、コケ類、低木類の存在が非常に重要となります。
落葉層の存在だけで、土壌侵食量は半分から1/10になったという報告もあり、落葉層の存在も軽視してはいけません。
ここまでのまとめとして、
・通常の雨よりも林内雨の雨滴径の方が大きいため、雨滴衝撃は林内の方が強い。
ただし、強さは一定ではなく、降雨量・時間・空間によってバラツキがある。
・樹高10m以上に達する20~30年生の森林では、雨滴侵食を加速させる傾向にある。
・雨滴衝撃と雨滴侵食を抑えるものとして、林床に存在する落葉・草本類・シダ・低木類が重要。
このことをふまえ、間伐の有無による雨滴衝撃と雨滴侵食の影響を考えたいと思います。
まず、間伐しないと森林はどうなるか。
光が届きにくい下枝は、光合成が十分に行えず、枯れてしまいます。
上へ上へと伸びる上長成長(伸長成長)は、間伐の影響を受けないので、そのまま伸びていきます。
再び、下枝に光が届かなくなり、十分な光合成を行えず、さらに下枝が枯れます。
このような状況になっても、変わらず、上長成長(伸長成長)は進みます。
そして、下枝の枯れ上がりも進むので、樹木全体の葉量が減少します。
葉量の減少は、光合成生産量の減少に繋がるので、幹は太らず、細長い感じの樹形になってしまいます。
次は間伐をした場合。
下枝に光が行き届くことで、光合成を十分に行うことができ、下枝は枯れません。
樹木の葉量の減少も抑えられ、光合成生産量も減少せず、幹を太らせることが出来ます。
上長成長(伸長成長)は、間伐する/しないの影響を受けません。
間伐をすると、幹は太く、下枝の枯れ上がりが起こりません。
間伐をしないと、幹は細く、下枝の枯れ上がりが起こります。
間伐した森林(左)と間伐しない森林(右)の違いをイメージすると、こんな感じです。
地上から生きた枝までの高さ(枝下高)が違ってきます。
間伐した森林の方が枝下高が低く、間伐しなかった森林の枝下高は高くなります。
ということは、樹冠を通過した林内雨が林床に落下する高さは、間伐しない森林の方が高いと言うことになります。
間伐しない森林は、樹冠が小さいため、雨を受ける枝葉の層が薄い。
間伐した森林は、樹冠が大きいため、雨を受ける枝葉の層も厚い。
枝葉が受け止められる雨の量は前者の方が少ないので、強い雨が降ると、受け止められず、次から次へと高い位置から雨滴が落下します。
同じ強さ、同じ量の雨が降ったとき、雨を受け止める量、雨の勢いを抑制できる力、雨滴が落下する高さなどを考えると、間伐しない森林の方が断然、不利だと思います。
しかも、間伐しない森林は、枝葉の量が少なく、光合成生産量も少ないので、根まで十分な栄養が行き届かず、貧弱な根になっています。
一方、間伐した森林は、枝葉の量は多く、光合成生産量も多いので、根まで栄養が行き届き、発達した根をもちます。
間伐しない森林、根が貧弱な樹木で構成された森林で発生する雨滴衝撃と雨滴侵食。
しかも、枝下高は高くなるから、より高い位置から雨滴が落下する。
間伐した森林、根が立派な樹木で構成された森林で発生する雨滴衝撃と雨滴侵食。
枝下高が低くなるため、低い位置から雨滴が落下する。
間伐する/しないの違いだけで、雨滴衝撃と雨滴侵食による影響の差を想像していただけるのではないのかなと思います。
間伐しないと、林床に草が生えない上、雨滴が落下する位置も高くなるので、雨滴衝撃と雨滴侵食の影響はさらに大きくなりますよね。
間伐すると、林床に光が届き、草が生え、下枝も枯れにくくなるので、雨滴が落下する位置も低くなります。
さらに、低木類も生えてくると、林内雨を多段階で受け止められるので、さらに雨滴衝撃を緩和し、雨滴侵食を抑制します。
雨滴衝撃と雨滴侵食。
その影響を抑えるためには、落葉、草、低木類の存在が重要です。
間伐をしないと重要な存在である草や低木類が生えてこない上、下枝が枯れ上がることによって、高い位置から林内雨が落下します。
特にヒノキは、葉が細かいため、雨滴衝撃によって細片化し、雨滴侵食によって落葉が流されるため、ヒノキ林の林床では裸地化や侵食が起こりやすくなります。
林床に生える草本類や低木類は、単に土壌侵食や土壌の移動を抑えるだけでなく、雨滴径が大きい林内雨による雨滴衝撃を緩和するという重要な役割を持っているので、林床に光を与えてくれる間伐という施業はとても重要です。
さらに、間伐によって下枝の枯れ上がりを抑えることが、林内雨が落下する高さを少しでも下げ、雨滴衝撃を緩和する効果にも繋がっていきます。
先に断っておきますが、イメージ写真です!
高木・低木・草本類の3段階の森林のイメージ。
写真の森林は3段階になっているけど、残念ながら、良い森林ではないです(-_-)
んー、この写真は、逆に出さない方が良かったかな・・・(-_-)
とは言え、間伐をして林床に光が届けば、林床に草や低木類が生えるというわけではありません。
間伐をして林床に光を届けることで、林床に草や低木類が生える環境が整う。ですね。
なので、間伐したけど、林床に何も生えなかったら、伐り足りなかった、種子を供給する母樹などがなかったという可能性が考えられるかも(^_^;)。