はぐくみ幸房@山いこら♪

「森を育み、人を育み、幸せ育む」がコンセプト。株式会社はぐくみ幸房のブログです。色々な森の楽しさ共有してます♪

林分の発達段階

2023年07月06日 | 森林管理・森林空間・森林整備のお話

 僕の中で、森林は樹木が集合した空間であり、森林を育てることは、木を育てることという認識を持っています。

 樹木医という立場からすると、健康な樹木の集合体が健康な森林であり、不健康な樹木の集合体が不健康な森林です。

 森林の基本構成は「樹木」であること。 

 

 というわけで、その樹木の成長に応じるように、森林も発達していきます。

 このことを「林分の発達段階」と言い、藤森隆郎先生が提唱したもので、森林づくりを進める、森林施業を体系化する上で、非常に重要な知識です。

 しかし、色んな講座で、「ご存じですか?」と尋ねても、残念ながら「?」という顔をされる方が多いです。

 林業大学校や林学の大学を卒業された方でも、「?」という顔をされる方もおられ、「遷移のことですか?」と混在される方も・・・。

 

 森林づくりや森林施業に関する講義の依頼を受けたときは、室内外関わらず、「林分の発達段階」をお伝えし、現場で応用するように心がけています。

 目標とする森林、目指すべき森林をイメージする上で、「林分の発達段階」は分かり易いので、理解しておきたい知識ではないでしょうか。

 なお、この投稿に載せている絵や表は、「森林生態学 持続可能な管理の基礎(藤森隆郎著)」を元に、作成したものです。

 

 動画でも紹介しているので、併せてご覧下さい。

森の知識はぐくMOVIE「林分の発達段階」

 

 林分の発達段階は、4つに分類されます。

 なお、( )書きの林齢は、イメージを持っていただくための目安の林齢です。

 この林齢に達すれば、その段階になったということを示すものではありません。

 発達段階は、地域・環境・樹種などによって異なり、じっくり、森林を観察し、その変化に気づかないと発達段階を判断することは出来ません。

 机上の数値ではなく、現場重視です。

 

 林分発達段階は、次の4段階に分けられます。

 1「林分初期段階(おおむね10年生まで)」

 2「若齢段階(おおむね10年生~50年生まで)」

 3「成熟段階(おおむね50年生~150年生)」

 4「老齢段階(おおむね150年生以上)」

 

 次に、それぞれの段階における森林の特徴についてです。

 

「林分初期段階」

 林分がスタートする段階です。

 人工林だと、人が山に苗木を植栽することで、林分がスタートします。

 天然林だと、風で種が運ばれて発芽するなど、自然に植物が芽生えることで、林分がスタートします。

 

 特徴として、

・林床まで光が直接当たる明るい環境。

・様々な種が侵入するため、種間競争が激しい。

人工林では、下刈り、つる切り、除伐といった育林施業が必要な林分。

  → 植栽木を激しい種間競争に勝ち残らせるため、下刈りや除伐を行う。

 

 この段階の森林のイメージです。

 人工林。

 天然林。

 

「若齢段階」

 樹木の成長が旺盛な時期で、樹木同士が接する様になる段階で、林冠が閉鎖する森林です。

 樹木の成長が盛んなので、人工林だと、間伐しても、再び、林冠が閉鎖します。

 

 特徴として、

・樹木は若く、直径も小さいが、「互いに接する」、「混み合う」、「せめぎ合う」という感じの林分。

・強度の閉鎖状態になる。

・樹木は育ち盛り。光合成を盛んに行い、どんどん成長する。

・林冠が閉鎖するため、大半の光が使い尽くされ、林床まで光がほとんど当たらない暗い環境。

・下層植生(林床植生)が極めて乏しい。

・種の多様性も乏しく、土壌の発達も停滞し、表層土壌の流亡も起こる場合がある。

 

 この若齢段階は数十年続きます。(林齢的には40~50年生までとされています。)

 成長が旺盛な時期を迎える段階なので、適切な時期に適切な施業が必要な状態の森林が若齢段階です。

 若齢段階の時に施業を行ったか否かによって、次を迎える成熟段階の状況も異なってきます。

 特に、スギやヒノキなど針葉樹の単一な人工林ほど、顕著な差が生まれます。

 

 若齢段階の森林のイメージとして、

 人工林。下層植生が生えていない。よく見る人工林ですね。

 成長が旺盛な時期で、間伐しても、すぐに林冠が閉じやすい。

 だから、若齢段階の時点で、適切な時期に間伐を行うことが重要であると言うことが理解しやすいと思います。

 一方で、年輪幅が狭い木材を生産したいなら、若い時期の旺盛な生長量をコントロールする必要があります。

 間伐だけではコントロールしがたいので、生きた枝を除去する枝打ちを行い、樹木の生長量をコントロールします。

 

 そして、天然林の若齢段階も下層植生が乏しい。

 

「成熟段階」

 樹木が成熟期を迎え、樹木の成長が緩やかになります。

 そのため、間伐や自然枯死によって出来た林冠の空間は、すぐに閉鎖されず、下層植生が少しずつ生え始める段階の森林です。

 

 特徴として、

・劣勢木の枯死や間伐などにより樹木が減少し、林冠が開いても、すぐに閉じない林分。

・林冠に隙間が生まれる林分で、林床まで光が届くようになるため、下層植生(林床植生)が増え始める。

 → 複層林が成立する段階

・種の多様性が増し、水土保全の機能が高まる。

 

 上層木の樹種によりますが、この状態は100年前後かそれ以上続くとされています。

 

※若齢段階=林冠の隙間がない。下層植生がない(少ない)。

※成熟段階=林冠に隙間がある。下層植生がある(多い)。

 

 成熟段階の森林のイメージ。

 多くの方が、「理想とする人工林」、「美しいと感じる人工林」が成熟段階の人工林です。

 まずは、約90年生。

 

 約120年生前後の人工林

 

 約150年生以上の人工林。

 

 天然林のイメージ。

 ※少し無理矢理な写真ですが、あくまで、イメージです・・・。

 

 

4.老齢段階

 樹木の老齢化が進み、大きな枯死木や倒木が見られ、林冠に大きな空間ができ、そこに次世代の稚樹が見られる段階の森林です。

  

特徴として、

・樹木が老齢に達し、大木の枯死が見られる。

・大木の枯死や攪乱などの倒木によって、林冠に大きな穴が開き、成熟段階よりも光が差し込み、局地的に明るい環境ができる。

・小径木~大径木、成長が旺盛な木~衰退木、次世代を担う芽生えたばかりの樹木~枯死木まで幅広い樹齢層に恵まれた林分。

・林分の構造が複雑で、生物多様性や水土保全の機能が高い。

 

 木材生産を目指す人工林は、老齢段階に至るまで育てることは、難しく(ほぼない)、人工林は成熟段階の途中で終わるとされています。

 植えた木が、自然に枯死するまで維持し続ける人工林って、ないですよね・・・・。

 

 老齢段階の森林のイメージ。

 大小様々なサイズの樹木が、芽生えたばかりの樹木から倒木まで同時に存在する森林。

 

 常緑樹の老齢段階。

 

 そして、ここからが重要なところです。

 それぞれの段階において、発揮される機能が高い/低いを示したグラフを藤森先生が示しています。

 純生産量は成熟段階を迎えると、低下するとされていましたが、近年、高齢人工林の研究が進み、成長は低下せず、横ばいという風に見直されています。

 このグラフのとおり、水源涵養や生物多様性などの機能は、成熟段階から上がるとされています。

 よく、「公益的機能重視の森づくりをしたい!」と言う方には、「成熟段階または老齢段階の森林を目指しましょう。」と説明すると同時に、それがいかに困難で、長い道のりであることを理解してもらい、後継者など人材育成も必要などのお話もさせていただいています。

 「災害に強い山を作りたい。」

 「水が豊かな山を作りたい。」

 「生物の多様性が豊かな山を作りたい。」

 こうした山づくりを目指すのであれば、目標は成熟段階の後期~老齢段階になります。

 そのためには、目の前にある伐採跡地にどんな樹種を植え、どんな林分初期段階を作り上げるのか。

 また、若齢段階の林分を迎えたとき(または目の前の若齢段階の林分)、どのような施業が必要なのか、をしっかりと観察し、考える必要があります。

 

 

 次に、森林に期待する働きのアンケートでは、災害防止、温暖化防止、水源の涵養がトップ3で、その次が木材生産となっています。

 

 そして、現在の齢級別森林面積。(※1齢級は5年生刻み。例:10齢級は46~50年生。)

 成熟期を迎えつつある人工林が増えています。

 これから、国民が期待する公益的機能の高まりが始まる段階にある人工林が増えてくる・・・とも考えられます。

 もちろん、手入れが行き届いていない人工林もあるので、全ての人工林とは言い難いですが、公益的機能の高い森林に誘導していく可能性は0ではないと思います。

 しかし、現状は、国民が期待する第4位の木材生産を進めるため、皆伐を推進する傾向にあります。

 

 林分発達段階に基づき、現場を観察すると、その様子をうかがえる点が多々あります。

 もちろん、若齢段階でも、環境や手入れ次第では、下層植生が生えている林分もあります。

 でも、それは光が入りやすいという環境が加わっている可能性もありますし、下層植生自体がわずかな光環境を好む種類である可能性もあります。

 様々な環境や条件が加わることによって、林分発達段階が100%、そのまま現場と一致するわけではないですが、現場毎にその傾向を観てみると、理論どおりだと納得いくものが非常に多いです。

 

 林分発達段階、それぞれの段階が発揮する機能の高い/低い、齢級構成、国民アンケート。

 それぞれをつなぎ合わせて考えてみると、どういう方向を目指すべきなのかな、自ずと見えてくる。と、個人的には考えています。

 よく、水源涵養など機能別でゾーニングしていますが、機能別より発達段階をベースにゾーニングし、その段階に応じて、機能を柔軟に発揮させた方が良いのでは?と個人的には考えています。

 

 成熟段階を迎えた木材の生産をどんどん進めていくべきなのか。

 国民が求める公益的な機能の発揮を目指した森林づくりをどんどん進めていくべきなのか。

 機能と木材生産と両立できる方法を進めていくべきなのか。

 

 目標や方向性を機能に絞るのもいいですが、目指すべき森林の姿をイメージするなら、林分発達段階が分かりやすいと思います。

 これも、1つの良い指標だと思うので、ご存じなかった方は、これを機に、興味を持っていただきたいです!

 林分の発達段階など、こうした基礎的知識を理解し、身につけた上で、現場を見ると、山の見方が変わると同時に視野も広がり、そして、選択肢も広がり、山での活動がますます楽しくなります。

 もちろん、森林散策でもこの知識は大いに役立ちます!

※2019年11月の記事を改編

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作業道設計 × 表土移動の痕跡

2022年04月13日 | 森林管理・森林空間・森林整備のお話

 クライアントから搬出間伐の依頼をいただき、作業道設計のため、現地踏査を行いました。

 

 立木の形状や径級は、申し分ない人工林なので、良材が採れそうです(^o^)。

 

 一部、急傾斜な所もありますが、比較的、道が付けやすい地形で、緩やかな傾斜も多く、測量兼踏査がサクサク進む♪進む♪

 

 この勢いで、支線を入れようと思い、50mほど測量した矢先、突如、状況が変わる・・・(-_-)。

 

 堆積する落ち葉を除けて、地表面を見てみると、表土が動いた痕跡が・・・

 

 堆積する落ち葉を払いつつ、スギの根元の観察を重ねると・・・

 赤い矢印が示すとおり、スギの根が地表面から丸見え・・・。

 

 本来、樹木の根は、地面の中にあります。

 その根が、地表面から出ていると言うことは、「表土が動いて、根が剥き出しになった」可能性が考えられます。

 もしくは、「この下に岩が埋まっていて、成長した根が下に潜れず、地表面に現れた」可能性も・・・。

 

 今回は、岩石の痕跡らしいものが見当たらなかったし、剥き出した根も小さいので、前者と判断。

 この辺り一帯の地表面に動いた痕跡があったので、支線はやめて、退避(回避)場所に変更。

 今回は、クライアントに費用負担をかけないことを優先し、この先の管理も視野に入れて、工作物を設けない自然地形を活かした道として設計することにしました。

 

 作業道を設計または作設する際は、根の状態を観察してみると、表土移動の痕跡が見えてくるので、是非、ご参考下さい。

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表土流亡と山歩き

2022年04月01日 | 森林管理・森林空間・森林整備のお話

 仕事以外でも山を登ったり、森の中を歩いたりするんですが、ついつい、色々なことを気になってしまいます。

 職業病ですね(T_T)。

 

 山を登るとき、森の中を歩くとき、人が歩ける歩道を利用すると思います。

 元々、歩道だった道もあれば、多くの人が山の中に入ることで、自ずと歩道になったような道もあります。

 山や森の中で、踏み固められた地面は、人にとって、登りやすい・歩きやすい道の1つですよね。

 

 その一方で、雨が降ったとき、踏み固められた地面は、水が流れてしまう水道にもなってしまいます。

 人が歩いていない地面と人が歩いた地面を比較した場合、前者よりも後者の方が、土壌構造がカチカチに硬く、降り注いだ雨水が土の中に吸収されず、その表面を流れてしまいます。

 その結果、土が流され、根っこが剥き出しの状態になってしまうこともあります。

 

 場合によっては、空中浮遊した根っこなんかも・・・

 

 元々、空中浮遊した根ではなく、最初は、地面の中にあった根っこです。

 それが、雨水が降って、土が流されて、根っこが剥き出しになった・・・と言うわけです。

 

 根は樹木にとって、とても大切な器官です。

 土の中にあるはずの根が、剥き出しの状態で地上に現れることは、樹木の健康にとって、良くありません。

 

 そして、剥き出しになった根の上が歩きやすいと言って、そこを歩いてしまうと、踏まれたことで根が傷付き、少しずつ、根の皮が剥がれ、根の中が剥き出しになり、そこから腐朽菌が侵入してしまう・・・なんてことにも繋がっていきます。

 

 また、写真のような場所で、その周辺の木が伐採され、地面の下まで太陽の光が届くようになったとします。

 すると、太陽の光があたるようになった地面では、地温が上昇し、地上から剥き出た根が乾燥しやすくなり、樹木の樹勢が弱まり、最悪、枯れてしまいます。

 樹勢が弱くなった樹木や枯れた樹木の根は、地面の土や岩を掴む力が弱くなってしまうので、森林が備える機能の1つである表土流亡を防ぐという機能が低下してしまいます。

 

 森林が備える機能を維持するためには、もちろん、森林整備は大切です。

 一方で、山歩きを楽しむ中で、表土流亡に繋がる一面もあるということです。

 

 そんな視点で、山や森を見ながら歩いてみて下さい。

 そんなことを考えてしまうと、山歩きを楽しめなくなってしまうかもしれませんが、自分の目で見て、歩いて、確かめることはとても大切です。

 そして、歩くコースを少しずらす、根の上は絶対に歩かないなど、自分自身の中で、樹木や森への負担がないような歩き方を工夫するという楽しみを見つけて下さい。

 

 人が歩くことによって起こる山や森の変化に気づくことで、山や森の中を歩くレベルが上がった気がするので、逆に楽しくなるんじゃないのかな~

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広葉樹の林内樹形

2021年05月13日 | 森林管理・森林空間・森林整備のお話

 広葉樹の森。

 環境に良くて、災害に強いというイメージを持つかもしれませんが、「針葉樹だけの森」より良い・強い。ってだけで、広葉樹さえ植えれば、良いという訳ではなく、スギやヒノキの人工林同様、手入れは必要です。

 

 植栽した広葉樹林かどうかは、分かりませんが、ある日、ヒョロっとした広葉樹林に出会いました。

 基本的に、森の中に生育する樹木は、一定のエリアに生えている本数が多い(本数密度が高い)とヒョロっとした樹形になります。

 大雑把な表現になりますが、イラストにすると、次のような感じです。

 左は、本数が多い場合。

 右は、本数が少ない場合。

 

 本数が多いと言うことは、隣り合う樹木の間隔が狭い。

 本数が少ないと言うことは、隣り合う樹木の間隔が広い。

 

 隣り合う樹木の間隔が狭いと言うことは、枝を十分に広げられないので、葉っぱの量も少なくなります。

 葉っぱの量が少ないと言うことは、光合成の生産量も減少し、結果、幹は太らず、細い幹になってしまう上、根っこにも十分な栄養が行き届きません。

 

 一方、隣り合う間隔が広いと言うことは、枝を十分に広げられ、葉っぱも多く着けることが出来ます。

 葉っぱの量が多いと言うことは、光合成の生産量も増え、結果、幹が太り、根っこにも十分な栄養を届けることが出来ます。

 

 本来の広葉樹は、「この~木、なんの木、気になる木~♪」で有名な日立のCMソングに出てくるような樹形を理想としています。

 日立CM この木なんの木 HITACHI

 

 さて、「広葉樹の森を作るゾ!」という行動を起こすにあたって、一番大切なことは「目的」です。

 

 広葉樹の資源を利用した森を作る場合、漠然とした利用ではなく、建築材に利用するのか、キノコ原木に利用するのか、薪や炭などの燃料に利用するのか、製紙用チップに利用するのか、家具に利用するのか、などなど「資源の利用目的」によって、植える樹種はもちろんのこと、森を作るための施業方法も変わります。

 一方、資源利用ではなく、山崩れが起こりにくい森にしたい、観光やレジャーで楽しめる森にしたいなど、環境思考的な「森林の利用目的」も同様です。

 

 資源利用を目的とした場合、基本は、本数密度が高い(樹木同士の間隔が狭い)方が有利です。

 

 それは、次のような利点があるから。

 ・幹の根元の直径と先の直径の差が少ない木材(完満材)に育つので、歩留まりが良い。

 ・枝があまり大きく広がらないので、伐採時に出来る枝条のゴミが少ない。

 逆に、欠点としては、

 ・健康とは言えない樹木の集団になるため、根の発達に不安があり、山崩れを防ぐ能力も万全とは言えない。

 

 スギやヒノキの人工林同様、本数密度が高い広葉樹の森林も間伐によって、本数密度を下げることで、樹木の成長・林冠の広がりをコントロールする必要があります。

 しかし、スギやヒノキと異なり、広~く枝を張りたい広葉樹は、樹木の間隔を広くして欲しい!と、願っています。(たぶん。)

 

 いずれにしろ、植栽した広葉樹も人工林なので、森づくりの「目的」に応じて、お世話をする必要があります。

 環境林的な目的で、広葉樹の森を育てたい場合、上のイラストのように、枝が広げられる空間を確保してあげることが、基本となります。

 資源利用を目的とした場合、利用目的、収穫時の効率、伐採後の片付けなども考えながら、生産者の都合や目的に応じて、コントロールする必要があります。

 

 木材も利用しつつ、環境に貢献できる広葉樹の森を作りたいな~・・・という場合。

 例えば、6mの広葉樹材を確保する!という目標を設定した場合、イラストのように、一番下にある大きな枝の位置を、地上から7~8mくらいの位置になるようコントロールするといいと思います。

 

 必要とする広葉樹の木材を確保した上で、健康的な広葉樹を育てることが可能になります。

 その代わり、樹木の本数密度は低いので、歩留まりが悪く、面積に対しての収穫量も少なくなります。

 あと、枝葉の量も多いので、処理が大変・・・。枝葉を使うにしても、使わないにしても・・・。

 

 あくまで、広葉樹の基本的な、学問的な特徴によるお話ですが、理解しておいた方が、森づくりのイメージを描けるし、何より応用力が身に付きます。

 さらに、地形や方位など現場の環境条件の加わってくるので、スギやヒノキのようにはいきません。

 

 実は、今回、潜伏芽(せんぷくが)とか、ここに書かなかった広葉樹の特徴もあります。(それは別の機会に。)

 

 伝えたかったことは、広葉樹をコントロールして、森林として仕立て上げるのは、難しいぃ~。ということです。

 僕がよく講義の中で、「針葉樹は犬。広葉樹は猫。」という例え話をしています。

 それは・・・、猫のしつけは、犬のしつけより難しいってことです。

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歩道

2020年12月26日 | 森林管理・森林空間・森林整備のお話

 山の中を歩くとき、歩道があると、とても歩きやすいですよね。

 これは、登山だけでなく、林業という労働でも同じ事が言えます。

 

 皆さんなら、次の作業をするとき、「歩道がある」と「歩道がない」、どちらの環境がいいですか?

 

 植栽の時に、苗を背負って運ぶ。

 植栽作業の現地までの通勤。

 防護柵の資材を運ぶ。

 下刈り作業の現地までの通勤。

 保育間伐の作業現地までの通勤。

 林内の巡視。

 立木の調査(踏査)。

 検査の立ち会い。

 現地の案内。

 

 歩道の存在は、あらゆる作業に影響を与えるため、コスト縮減の効果も十分に期待できます。

 歩道新設の当初に費用を投資する必要はありますが、歩道もインフラ整備の1つです。

 長期的に使用し、関わる全ての作業の安全性と効率性が向上することで、コスト縮減と言う形で、投資した費用が回収できると考えられます。

 

 僕が林業に関わり始めた頃、作業に従事する方達は、歩道をとても大切にしていました。

 補強や修繕が必要な箇所があれば、仕事の合間に行っていました。

 保育間伐の時、伐倒木が歩道を塞がないようにしました。

 時には、伐倒木を利用して、歩道際の補強に活用していました。

 

 そういう作業を見てきたので、こういう現場に出会うと、悲しい気持ちになります。

 伐倒木の下をくぐらないと歩けない歩道。

 チェーンソーや資材を持っていると、とても歩きにくいです。

 

 伐倒木によって塞がれた歩道。

 迂回しないと歩けない歩道。

 もしくは、枝条の中を突っ切らないと歩けない歩道。

 もはや、歩道としての機能は無いに等しいですね。

 

 自分がケガをしたとき、歩道があると、どうですか?

 同僚がケガをしたとき、歩道があると、どうですか?

 

 この現場で、次に主伐するとなったら、このような伐倒木は、踏査や作業の手間というか邪魔じゃないですか?

 ちょっとした手間の積み重ねが、コストと安全に影響を与えると思いませんか?

 この現場に、二度と来ないつもりで作業をすると、いずれ、仕事が回ってこない、仕事を頼まれないと言うことに繋がるんですけどね・・・・。

 

 歩道の幅員は0.4~0.6m程度。

 林内にある伐倒木や立木を利用して歩道を作設します。

 林業は50年、60年と長い年月、森林と付き合う産業です。

 当年コストだけでなく、管理という長期的なコストも視野に入れて、歩道整備や歩道新設という作業を取り入れることは、非常に重要なことではないでしょうか。

 

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林内雨滴と間伐

2020年07月30日 | 森林管理・森林空間・森林整備のお話

 前回の雨滴衝撃と土壌侵食に関連して、間伐による土壌侵食の抑制効果について、考えたいと思います。

 間伐しない/間伐したの違いが、土壌侵食にどのような影響が考えられるのか、イラストなどを使いながらお話したいと思います。

 

 前回ラストに、「こういう森林だと土壌侵食が起こりにくいよね。」というお話をしました。

 

 さて、森林に降った雨は、樹幹を通じて地面に到達する雨「樹幹流」樹冠(枝葉)から落下して地面に到達する雨「林内雨」の2種類があり、林内に降る雨は「林内雨」が圧倒的に多くなります。

 林内雨は、降った雨を枝葉で受けてから落下するため、林内雨の雨滴は、普通に降る雨の雨滴よりも、雨滴の直径(雨滴径)が大きく、雨滴衝撃を受ける力は林内雨滴の方が強いと言われています。

 

 少し、強引な例えになりますが、屋根が受けた雨水も、一度、集積してから落下するので、屋根の真下にある土壌が削られているという現象に似ている・・・と思います。きっと・・・、たぶん(^_^;)。

←我が家のヤギ小屋

 

 枝葉が受け止めた雨が集積し、林内に落下するため、林内の雨滴衝撃は林外よりも強いということです。

 ただし、樹冠(枝葉)を通過してからの落下になるので、その強さは一定ではなく、降雨量、時間、空間によってバラツキが大きくなります。

 

 また、樹高が10m以上に達する林齢20~30年生の森林では、雨滴による侵食を加速させる方向になってしまうと言われています。

 単純に高い位置から落下した雨滴の方が、衝撃は強いよね。ってことですね。

 だから、雨滴径が大きい林内雨が生み出す雨滴衝撃と雨滴侵食を抑えるものとして、林床を覆ってくれる落葉落枝、草本類やシダ、コケ類、低木類の存在が非常に重要となります。

 落葉層の存在だけで、土壌侵食量は半分から1/10になったという報告もあり、落葉層の存在も軽視してはいけません。

 

 ここまでのまとめとして、

・通常の雨よりも林内雨の雨滴径の方が大きいため、雨滴衝撃は林内の方が強い。

 ただし、強さは一定ではなく、降雨量・時間・空間によってバラツキがある。

・樹高10m以上に達する20~30年生の森林では、雨滴侵食を加速させる傾向にある。

・雨滴衝撃と雨滴侵食を抑えるものとして、林床に存在する落葉・草本類・シダ・低木類が重要。

 

 このことをふまえ、間伐の有無による雨滴衝撃と雨滴侵食の影響を考えたいと思います。

 まず、間伐しないと森林はどうなるか。

 

 光が届きにくい下枝は、光合成が十分に行えず、枯れてしまいます。

 

 上へ上へと伸びる上長成長(伸長成長)は、間伐の影響を受けないので、そのまま伸びていきます。

 再び、下枝に光が届かなくなり、十分な光合成を行えず、さらに下枝が枯れます。

 

 このような状況になっても、変わらず、上長成長(伸長成長)は進みます。

 そして、下枝の枯れ上がりも進むので、樹木全体の葉量が減少します。

 葉量の減少は、光合成生産量の減少に繋がるので、幹は太らず、細長い感じの樹形になってしまいます。

 

 

 次は間伐をした場合。

 下枝に光が行き届くことで、光合成を十分に行うことができ、下枝は枯れません。

 樹木の葉量の減少も抑えられ、光合成生産量も減少せず、幹を太らせることが出来ます。

 

 上長成長(伸長成長)は、間伐する/しないの影響を受けません。

 間伐をすると、幹は太く、下枝の枯れ上がりが起こりません。

 間伐をしないと、幹は細く、下枝の枯れ上がりが起こります。

 

 間伐した森林(左)と間伐しない森林(右)の違いをイメージすると、こんな感じです。

 地上から生きた枝までの高さ(枝下高)が違ってきます。

 間伐した森林の方が枝下高が低く、間伐しなかった森林の枝下高は高くなります。

 ということは、樹冠を通過した林内雨が林床に落下する高さは、間伐しない森林の方が高いと言うことになります。

 間伐しない森林は、樹冠が小さいため、雨を受ける枝葉の層が薄い。

 間伐した森林は、樹冠が大きいため、雨を受ける枝葉の層も厚い。

 枝葉が受け止められる雨の量は前者の方が少ないので、強い雨が降ると、受け止められず、次から次へと高い位置から雨滴が落下します。

 同じ強さ、同じ量の雨が降ったとき、雨を受け止める量、雨の勢いを抑制できる力、雨滴が落下する高さなどを考えると、間伐しない森林の方が断然、不利だと思います。

 

 しかも、間伐しない森林は、枝葉の量が少なく、光合成生産量も少ないので、根まで十分な栄養が行き届かず、貧弱な根になっています。

 一方、間伐した森林は、枝葉の量は多く、光合成生産量も多いので、根まで栄養が行き届き、発達した根をもちます。

 

 間伐しない森林、根が貧弱な樹木で構成された森林で発生する雨滴衝撃と雨滴侵食。

 しかも、枝下高は高くなるから、より高い位置から雨滴が落下する。

 

 間伐した森林、根が立派な樹木で構成された森林で発生する雨滴衝撃と雨滴侵食。

 枝下高が低くなるため、低い位置から雨滴が落下する。

 間伐する/しないの違いだけで、雨滴衝撃と雨滴侵食による影響の差を想像していただけるのではないのかなと思います。

 

 間伐しないと、林床に草が生えない上、雨滴が落下する位置も高くなるので、雨滴衝撃と雨滴侵食の影響はさらに大きくなりますよね。

 間伐すると、林床に光が届き、草が生え、下枝も枯れにくくなるので、雨滴が落下する位置も低くなります。

 

 さらに、低木類も生えてくると、林内雨を多段階で受け止められるので、さらに雨滴衝撃を緩和し、雨滴侵食を抑制します。

 

 雨滴衝撃と雨滴侵食。

 その影響を抑えるためには、落葉、草、低木類の存在が重要です。

 間伐をしないと重要な存在である草や低木類が生えてこない上、下枝が枯れ上がることによって、高い位置から林内雨が落下します。

 特にヒノキは、葉が細かいため、雨滴衝撃によって細片化し、雨滴侵食によって落葉が流されるため、ヒノキ林の林床では裸地化や侵食が起こりやすくなります。

 林床に生える草本類や低木類は、単に土壌侵食や土壌の移動を抑えるだけでなく、雨滴径が大きい林内雨による雨滴衝撃を緩和するという重要な役割を持っているので、林床に光を与えてくれる間伐という施業はとても重要です。

 さらに、間伐によって下枝の枯れ上がりを抑えることが、林内雨が落下する高さを少しでも下げ、雨滴衝撃を緩和する効果にも繋がっていきます。

 

 先に断っておきますが、イメージ写真です!

 高木・低木・草本類の3段階の森林のイメージ。

 写真の森林は3段階になっているけど、残念ながら、良い森林ではないです(-_-)

 んー、この写真は、逆に出さない方が良かったかな・・・(-_-)

 

 

 とは言え、間伐をして林床に光が届けば、林床に草や低木類が生えるというわけではありません。

 間伐をして林床に光を届けることで、林床に草や低木類が生える環境が整う。ですね。

 なので、間伐したけど、林床に何も生えなかったら、伐り足りなかった、種子を供給する母樹などがなかったという可能性が考えられるかも(^_^;)。

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雨滴衝撃と土壌侵食

2020年07月26日 | 森林管理・森林空間・森林整備のお話

 強い雨が何日も降り続けると、山が崩れないか、土砂災害が起こらないか、色々な不安を感じます。

 雨が降ると、なぜ、山崩れが起こるのか?

 どういう状態の山だったら、起こりにくいのか?

 イラストと写真を使いながら、簡単にお話したいと思います・・・が、専門家ではないので、雑な内容であること、ご容赦下さいm(_ _)m(先に謝っておきます(^_^;)。)

 

 本題に入る前に、1つ理解していただきたいことがあります。

 ここに、土を耕した地面があります。フカフカの地面です。

 

 この地面に、雨が降ると・・・

 

 耕して、フカフカだった地面が固くなります。

 畑で野菜を作った経験のある方なら、こういう現象を何度も見ているかなーと思います。

 このように、降った雨が地面にぶつかる(叩きつける)力を「雨滴衝撃」と言います。

 

 雨滴衝撃によって、硬くなった土の上に、雨が降ると・・・

 

 土の表面が硬くなったことで、土の中に水が吸収されず、水たまりが出来ます。

 

 柔らかい土が雨滴衝撃によって、硬い土になるということは、「土の表面に隙間が無くなり、土の表面が目詰まりを起こした。」ということです。

 ことわざの「雨降って 地固まる」とは、まさにこのこと。

 ことわざの意味とは大きく異なりますが、雨が降ったことで、地面が揺るぎない結束になったことで、水を通しにくい地面になったというわけです。

 

 さて、この状況を、斜面である山に置き換えて考えてみます。

 

 フカフカの土です。

 

 雨が降ります。

 

 雨滴衝撃により、地表面が固くなります。

 

 固くなった地表面を降った雨水が流れます。

 雨滴衝撃によって地表面が固くなったことで、土壌構造が破壊され、地表面の隙間が目詰まりを起こします。

 

 流れた雨水が地表面を削り、水の通り道を作ったり、水が溜まりやすい場所を作ってしまいます。

 

 そして、雨が降ります。

 

 降った雨と流れた雨水が1箇所に溜まります。

 この水が溜まった場所が、崩壊に繋がる原因となります。

 

 水が溜まることで、水気をたっぷり吸い込んだグチャグチャの土壌になります。

 もしくは、溜まった水が少しずつ、地面の下に染みこみ、そこが徐々に水の道になって、やがて亀裂を招き、崩壊へと繋がるかもしれません。

 あくまで、理解しやすいようにと、イラストでイメージしていただくための説明なので、乱暴なまとめ方にご容赦下さいm(_ _)m。

 

 降った雨による雨滴衝撃によって、土壌が飛散します。

 バケツを地面に置いたままにしていると、ある日、雨が降って、バケツの外側にたくさん土が付着しますよね。

 地面と接している建物の基礎部分なども、雨が降った後、細かい土が付きます。

 このように雨によって土壌が飛散する、雨によって土が動かされることを「雨滴侵食」といいます。

 この雨滴侵食

 畑の様な平地だと、雨によって飛散する土壌は四方に飛び散ります。

 一方、山の様な斜面だと、雨によって飛散する土壌は斜面下方へ飛び散ります。

 斜面下方に土壌が飛び散るということは、土壌が斜面下方に移動していると言うことになります。

 だから、下層植生や樹木が存在することによって、斜面下方への土壌の移動が抑制される。というわけです。

 

 雨滴衝撃雨滴侵食によって、土壌が飛散し、土壌構造が破壊されると、土壌表面にある隙間が埋まって、目詰まりを起こし、土壌への雨水浸透が妨害されてしまい、地表面を雨水が流れ、やがて侵食へと発展していきます。

 

 ザックリ言えば、降った雨が、地面を直接、叩きつけられることによって、いくつもの小さな変化が、やがて大きな変化へと変わり、表面侵食に繋がるということです(^_^;)。

 

 雨滴衝撃の力、地表面を流れる水の量と速度は、山の土壌の表面(地表面)が、どんなものに被われているか、その地表面の状態によって異なります。

 

 一番ダメな状態は、「土壌が何も覆われていない状態」です。

 伐採跡地は、枝条が残されていたり、切り捨てられた伐倒木などが散乱しているので、何も覆われていない状態よりはマシですね。

 昔は、たき付けなどのため、山から枝条を集めていたので、伐採跡地に枝条が無く、地表面が剥き出し状態になることが多々あったようです。

 そういうことがない現代においては、皆伐跡地が最も危険な状態ではないかと思います。

 

 やがて、草が生えると、何もない状態よりも雨滴衝撃は緩和され、地表面を流れる水の速度も抑えられます。

 また、雨滴侵食による斜面下方への土壌の移動も抑制されます。

 

 しかし、草は、地面の中深くかつ広範囲に根を張らないので、やはり草だけでは土壌を緊縛する力は弱い。

 そこに木が生えることで、草だけの状態よりは、土壌侵食が起こりにくくなります。

 

 さらに、木が増え、根が浅い樹種と根が深い樹種が入り交じって生えることで、土壌を繋ぐ緊縛力が高まり、さっきの状態よりも、土壌侵食リスクは下がります。

 降った雨を木が遮ってくれるので、木が地面を覆うことで、林冠が雨水を遮断し、雨が地面に直接叩きつけられない状態になります。

 加えて、落葉と落枝の存在も雨滴衝撃を抑制してくれます。

 

 しかし、雨が降り続けたり、強い雨が降ると、林冠を通り抜けて、林内にも雨が降り注ぎます。

 木が生い茂って、下層植生が乏しい状態よりも、根が浅い樹種/根が深い樹種、高い樹木/低い樹木、草と木など、森林の成り立ちがより複雑な状態の方が、雨滴衝撃や雨滴侵食をさらに緩和してくれます。

 倒木があると、さらに土壌の動きを止めてくれるかもしれません。

 降ってくる雨だけでなく、地表面を流れる水の分散や流れる速度を緩和しないといけないので、落葉や落枝だけでは、その効果は期待できません。

 だから、木の下に生える草や灌木、低木性の樹木の存在が重要になってきます。

 

 「森林の土壌はスポンジの様に柔らかく、水を吸収し、蓄える。」と言われています。

 柔らかい状態を維持するためには、雨滴衝撃によって地面が固くなることを防ぐ必要があります。

 そのためには、土壌が木・草・落葉などに覆われていないといけません

 森林の土壌に隙間(孔隙)があることで、林内に降った雨水を吸収することが出来ます。

 しかし、吸収するスピードはゆっくりなので、一斉に林内に雨水が降り注ぐと、キャパオーバーで上手く吸収することが出来ません。

 森林に生える樹木は、雨滴衝撃から地面を守るだけでなく、林内に降り注ぐ雨水のスピードを緩和させるという働きもあります。

 さらに、樹木の根が広がり、樹木同士の根が結合することで、土壌の緊縛力が高まり、地表面を流れる水による侵食を防いでくれます。

 根が浅い樹木、根が深い樹木、高い木の根、低い木の根、草の根、落葉落枝などが多いほど、地表面を流れる水の侵食を防ぎ、流れる水のスピードを緩和してくれます。

 

 長々と書きましたが、つまり、こんな森林だ!ってことです(^_^;)。。。

 細かい説明とかしなくても、なんか、土砂災害とか防いでくれそうですよね!

 もちろん、こういう状態の森林でも崩れてしまうことはありますが、崩壊するリスクを下げる(減災)ということが重要だと思います。

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下刈り・隔年下刈り・無下刈り

2020年07月04日 | 森林管理・森林空間・森林整備のお話

 人工林における保育作業の中で、下刈りが最も労力とコストがかかる作業と言われています。

 そして、木材価格が低迷する中で林業経営の採算性を確保するため、再造林や保育のコストを下げることが重要で、下刈りの省略化という方法が提案され、すでに、導入されている方もいらっしゃるかと思います。

※植物生理の視点に基づく下刈り適期などのお話はコチラ → 下刈り

 こうした動きの中で、毎年行う通常の「下刈り」、2年に1回行う「隔年下刈り」、下刈りを行わない「無下刈り」に関する研究も進められています。

 なお、隔年下刈りは1年目と3年目に行うパターン、2年目と4年目に行うパターンなど、1回目の下刈りを1年目 or 2年目に行うかによる違いもあります。

 

 伐採後直ちに植栽する一貫作業でなく、これまで通りの方法で行う通常の下刈りに対し、隔年下刈りや無下刈りの違いを簡単に(^_^;)。・・・その前に、言い訳します。全ての論文を読んでいるわけでもないし(恥)、西日本の人間なので西日本の成果に偏っていますので、この点、ご容赦下さいm(_ _)m

 ・下刈り回数が減少すると、植栽木の生存率が低下、植栽木の曲がりが多くなる、植栽木の樹高と根元直径の成長が悪くなる、雑草木が高くなることで植栽木が視認しがたくなる。

 ・隔年下刈りは、雑草木の量が増加し、作業効率が悪くなる

 ・無下刈りにより下刈りコストを縮減しても、その後の除伐コストが上がる。

 

 こんな中で作業するわけですから・・・・

 現場で働く方にとっては、想像とおりというか、当たり前だろうと思う結果では無いかと思います。

 だけど、現場では当たり前の事を科学的に立証されることは、とても大事です。

 というのは、現場を知らない方が大半だから(^_^;)。

 異業種の方や林業を始められた方は、当然、現場を知らないわけですから、現場の経験だけでなく、それを裏付ける根拠があると言うことは、とても大切です。

 

 

 さて、個人的に下刈りは遷移をコントロールする作業という風に解釈しています。

 植栽後も遷移は進行するので、この遷移を抑制し、植栽木を育てるという風に考えています。

 そして、そこに生えている植物が、草本が中心、木本が中心、草本&木本が中心、草本と藤本が中心なのかによって、遷移の進行や植栽木への影響も異なります。

 

 例えば、ススキなど草本が中心の場合。

 

 一度、刈り払うことで、草本類の成長がリセットされます。

 

 リセットされたことで、草本類の成長に遅れが生じ、その間、植栽木はすくすくと成長できます。

 

 一方、草本類を刈らなければ、リセットされず、そのまま成長します。

 この時、植栽木の成長に影響がなければ、下刈りを省略してもいいかも。

 

 草本にアカメガシワやカラスザンショウなどのパイオニア(先駆性樹種)など木本が加わった植栽地の場合・・・

 

 下刈りによって、成長がリセットされ、植栽木はすくすくと成長します。

 

 刈られた草やパイオニアが復活するけど、植栽木との成長に差が生まれます。

 

 もし、下刈りをしなかったら・・・・

 特にパイオニアは、伐採跡地などに真っ先に生え、成長が早いという特徴があるので、1年放置すると、あっという間に大きく成長するし、再生能力も高いです。

 

 ただし、パイオニアは、光がガンガンあたる環境を好むので、植栽木が早く成長し、日陰が出来るとパイオニアの勢いも低下するので、その時を迎えたら、下刈り回数を減らしたり、下刈りをやめるという選択肢も出てくるかもしれません。

 だけど、植栽木の成長に影響がないからと言って、パイオニアやそれ以外の樹種を残してしまうと、除伐のコストがかかる、という事になるかも(^_^;)。

 シイノキとか残すと、後々、やっかいになると思うな・・・。

 

 遷移の進行が遅い場所では、下刈り回数が減少しても影響は小さいだろうし、遷移の進行が早い場所では下刈り回数が減少すると影響は大きいと思います。

 あくまで、下刈りに限った話であって、その後の除伐や保育間伐への影響が出ることがあるかもしれない・・・。

 

 ちょっと雑な説明で申し訳ございませんが、研究成果の中にも、

・植栽後、1年目と2年目の下刈りは重要である。

 →ただし、皆伐直後か否かなど条件や地域性によって、1年目を省略出来るという成果もある。

・植栽後3年間、下刈りを省略することは、成長を阻害し、形質にも影響を与えた。

 → 植栽直後の植栽木は小さいので、雑草木の被圧を受けやすいから。

 とあるように、下刈りによって、雑草木の成長を一度リセットすることで、植栽木を遷移の中で有利な立場にさせられることだと思います。

 ただし、皆伐から年数が経過すればするほど、遷移が進行していることになるので、その時点で下刈りの省略が可能か否かの境目になると思います。

 

 という風に考えると、毎年下刈り or 隔年下刈り or 無下刈りという選択ではなく、植栽地における雑草木の繁茂状況を観察しながら、今年は下刈りをする or しないという選択であるべきではないかと思います。

 そのように指摘する研究報告もありますし、江戸時代に書かれた書物の中にも、植栽地の状況を見ながら下刈りを行うという旨が書かれているので、現場を見て判断することは、当たり前のことだと思います。

 現場を見た結果「今年は下刈り、いらないな」という選択が5年続いた、その結果が無下刈りであって、最初から無下刈りという選択肢はあり得ないと、個人的には思うんですが・・・

 そうした観察もなく、単に保育コストを縮減するために「隔年下刈り」を机上で採用・推進するのもどうなのかな?と疑問を感じます。

 

 そして、保育コストを縮減することを目的とした隔年下刈りは、労働安全上にも影響を与えます。

 先述した中で「隔年下刈りは、雑草木の量が増加し、作業効率が悪くなる。」とあります。

 作業効率が悪いと言うことは、通常の下刈りと比較する「作業環境の悪化」と「危険因子の増加」という可能性が潜んでいます。

 「作業環境が良くなり、危険因子も少なくなったけど、作業効率が悪くなった。」なんてことは、一般的には考えられません。

 作業効率の悪化という結果の裏には、実際に作業した者にしか分からない、作業環境の悪化と危険因子が潜んでいるかもしれません。

 植栽木が見えにくい環境で、植栽木を探しながら下刈りしないといけない。

 それだけではなく、昔の切株が見えにくい浮石や残置木が見えにくいキックバックの要因になるかもしれない岩石が見えにくい・・・ということは、危険因子の発見が遅れるということなります。

 というか、2年間下刈りしていない雑草木が繁茂した場所で下刈りなんて、一般的には、したいと思わないでしょう・・・良好な作業環境ではないのですから・・・

 

 保育コスト縮減のため、下刈り回数を減少する場合は、植栽地に繁茂する雑草木の状況や種類から遷移の進行を予測し、下刈りしないことによる影響の有無を検討することが重要だと思います。

 そして、当年は下刈りしないことで、翌年の下刈りで作業員の負担や安全上のリスクが増えないかの検討も重要だと思います。

 「コスト縮減のため、下刈り回数を減らそう」と安易に進めるべきでは無いと思います。

 

 ちなみに、刈払機で灌木を切る場合、切断部分の直径が8cm(チップソーの場合は6cm)程度までです。

 もし、根元直径8cmの以上の灌木を刈払機で切って、ケガしたら、労基署に指摘されるでしょう。

 万が一、隔年下刈りをしようとする場所に、8cm以上の灌木が生えていたら、安全指導上、その灌木はチェーンソーや手鋸で切らないといけないことになります。

 意地悪なことを言えば、国有林や行政が発注する事業で、隔年下刈りが発注されたら、事前に調査しているのか、明記されているのか、設計にチェーンソー使用が含まれているのか、確認したいところです(^_^;)。

 

 森林整備は、森林の中で働く人たちの環境整備であると考えています。

 コスト縮減も大切ですが、山の中で働く人の方が大切です。

 

 3年間、下刈りしなかったら、こうなった・・・

 やっぱり、今年から下刈りしよう!

 なんて、安易な発想は、ここで働く人たちにリスクを背負わすことになる・・・。

 

 そういう意味で、一貫作業は重要なポイントになります。

 ということは、皆伐を行う業者との連携が重要になるし、植栽を前提とした伐採と搬出を行う技術の確立も必要・・・だと思います。

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つる切り

2020年07月01日 | 森林管理・森林空間・森林整備のお話

 林業における保育施業の1つ「つる切り」。

 その名の通り、植えた木に絡むつるを切って、除去する作業です。

 つる切りをしないと、植えた木が、かわいそうな姿になってしまいます・・・。

 

 つるに激しく巻きつかれた無残なヒノキ。

 

 つるに巻き付かれた箇所が膨れたスギ。

 

 膨れた部分から腐朽菌が蔓延し、そこから幹がポキッと折れてしまいます。

 伐採作業中に、ポキッて折れて、頭に落ちてくる可能性も十分にありますよね・・・・。

 

 つる切りの目的は、

 ①植栽木を健全に成長させる。

 ②植栽木の幹折れや幹曲がりを防ぐ。

 ③植栽木への巻きつきや被圧を防ぐ。

 つる類は、樹冠を伝って広がるため、放置すれば辺り一面、被害を受けてしまいます。

 クズなんて、放置したら、えげつないことになりますよね・・・・(>_<)

※耕作放棄地に繁茂したクズ・・・

 

 つるは、木に巻き付くので、自立に必要な幹は不要です。

 そのため、幹を維持するエネルギーが不要になる分を成長に使うことが出来るため、1年間で数m~20mという、とんでもない早さで成長することができます。

 さらに、根茎に貯蔵養分を持ち、再生力も強いから、タチが悪い・・・(^_^;)

 

 つるは、その生態によって、3つのタイプに分かれます。

 その1幹に張り付くタイプのツル。

 テイカカズラ、ツタウルシ、イワガラミなどがこのタイプ。

 幹の表面に根を吸着させるため、幹に絡みつかないので、材質に大きな影響を与えることは少ないです。

 40年生、50年生と大きく成長した木の幹に張り付き、明るい場所を好むので、林縁部や森林の開けた隙間などに発生しやすいです。

 

 その2は、巻きひげで木に絡みつくタイプ。

 このタイプは、サルトリイバラ、サンカクヅル、ヤマブドウなど。

 ピロ~ンって、伸びているのが巻きひげ。

 この巻きひげが届く高さに枝があれば、絡みつきます。

 基本的に、下刈りで処理できますが、このタイプのつるが多い造林地では、6~8年生まで下刈りをした方がいい場合もあります。

 放置しておくと、枝に絡んで、こんなになってしまうおそれも・・・

 

 その3幹に絡みつくタイプのつる。

 これがつる切りの対象となるつるです。

 フジ、アケビ、クズなどがこのタイプ。

 さっきお見せしたコレです・・・

 このタイプのツルは、木の幹が細くないと巻き付けません。

 なので、下刈りが不要になっても、つるが巻き付けるサイズの幹だったら、つる切りを続ける必要があります

 下刈りが終わっても、つる切りが必要になる理由はここにあります。

 30年生以上の人工林の林縁部で、林床を這う様につるを伸ばすフジなどを見たことがありませんか?

 これは、巻き付けるサイズの幹が無いので、木に巻き付くことが出来ず、地面の上を這っているんです。

 なので、「つるかご」を編む材料のつるを探すときは、30年生以上の人工林で、林床まで光が差し込む林縁部を探索すると、クセの無い、編みやすいつるを手に入れることが出来ます。

 

 つる切りを行う時期は6~7月で、この時期が、根茎に蓄積された養分が少ない時期となります。

 そもそも、つるは根茎に貯蔵養分を持つため再生力が強く、根絶が難しい・・・

 だけど、つるに養分を貯蓄させない、もたせない、切り崩すためには、蓄積された養分が少ない夏(6~7月)につる切りを行い、大きなダメージを与えてやる必要があります。

 

 ちなみに、

 主伐で伐採する前につるを切って、薬剤を散布し、根茎ごと駆除するという方法。

 地拵えの時に根茎に薬剤を散布し、根絶するという方法。もあります。

 

 これは書いていいのか、悩ましいんですが・・・・(>_<)

 僕が駆け出しの頃、クズが多い造林地だったので、現場の方と一緒につる切りに行きました。

 手鎌でクズを刈って、根茎を掘り出し、そこに冬に残った灯油をかけて、根茎を枯らしました。。。

 あの頃は、何も考えず、廃油の有効利用だな~・・・なんて、お気楽なこと考えてましたが、今思うと、ダメじゃん(-_-;)。

 

 そして、最も重要なこと。

 つる切りのもう1つの目的があります。

 それは、「保育間伐を行う作業員の作業環境を整える」ことです。

 僕は、つる切りの1番の目的は、コレだと思っています。

 つる切りをしないと、安全に伐倒できない「つる絡み」という危険因子を生み出します。

 林業の死亡災害の6割が伐倒・伐採に関する作業で、この中に掛かり木処理も含まれます。

 そして、掛かり木同様、危険なものが「つる絡み」。

 伐った後の木の動きが読みにくい。

 そのまま宙づりになるのか、それとも落ちてくるのか、またはブランコの様に戻ってくるのか。

 戻ってくる途中で木が飛んでくるかもしれないし、ブランコの様に向こうへ行った瞬間に先端が自分に向かって落ちてくるかもしれないなど、様々なパターンが想定されます。

 つる絡みの木を伐ろうとした結果、木の下敷きになって亡くなった方もいるし、大けがになった方もいます。

 

 僕が国有林に勤めていた頃、間伐の計画エリアを踏査する際、可能な限り、つるを除去しました。

 国有林だと、事業着手まで1年、もしくは2年の期間ができる場合があるので、踏査の時点で、つるの根元を切っておけば、事業着手の頃には、枯れて、つる絡みが起こりにくくなるからです。

 必ずしも安全とは言えませんが、つるが生きたままの状態よりは安全です。

 枯れていれば、伐倒する前に、枯れたつるを引っ張って、つる絡みを解消できる可能性もあるので。

 ちなみに、そこからつるが再生し、再び、木に巻き付くことはありません。

 仮に再生したとしても、保育間伐が必要な林分なら、林内が暗いので光り不足で、やがてつるは枯れるし、木自体も巻き付けるサイズではありません。

 

 保育間伐で人工林に入ったとき、つるが絡んでいる木を見たら、間伐したくなる気持ちになると思います。

 だけど、自分の身を危険にさらしてまで、伐採しないとダメなんですか?

 そこまで、大事な仕事ですか?

 僕は、現場で働く人の命や体の方が大切だと思います。

 だから、保育間伐でつる絡みの木があっても、無理をせず、つるだけ切って、次の間伐に回してもイイと思います。

 下刈りでハチの巣があったら、その周囲の下刈りは避けると同じ理由です。

 

 だから、つる切りの一番の目的は「保育間伐を行う作業員の作業環境を整える」こと。

 その次に、植栽木の健全な成長などなどです。

 造林コスト、保育コストの縮減は大切です。

 しかし、その結果、現場で働く作業員達の安全面が低下し、大きな事故になっては、コスト縮減の意味がありません。

 木を育てること、森を育てることは大切ですが、それ以上に、そこで働く作業員の命の方が大切です。

 そう考えると、つる切りという施業の意味が大きいなーと僕は思います。

 

 以上、つる切りのお話でした。

 つる切りに関しては、動画「森の知識はぐくMOVIE」でも解説しているので、よろしければ、こちらもどうぞ!

森の知識はぐくMOVIE「つる切り」

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間伐と森林の水流出量

2020年06月29日 | 森林管理・森林空間・森林整備のお話

 一般的に、森林に降り注いだ雨は、樹冠を通過したり、樹幹を流れて、地面に辿り着き、ゆっくりと土壌に浸透し、やがて河川や地下水となって、森林から流出していきます。

 森林に降った雨は、河川や地下水として流出する以外に、樹木の葉や枝(樹冠)に付着した雨水の蒸発や樹木の蒸散によって、気体として大気に流出する水もあります。

 ザックリですが、これが森林における水循環です。

 樹冠を通過した降雨量を「樹冠通過降雨量」、樹幹を流れた降雨量を「樹幹流下量」といい、この2つを合わせて「林内雨量」と言います。

 そして、降雨量(林外雨量)から林内雨量を差し引いたものが、「樹冠遮断量」(樹冠が遮断した降雨量)です。

 樹冠遮断量が多いほど、森林から流出する水量の減少を意味し、河川水量の減少にも繋がると言われています。

 

 簡単かつ短絡的に言えば、「間伐が遅れて、樹冠が閉鎖された森林では、樹冠遮断量が多くなって、森林から流出する水量が減少するよ。」ということです。

 と言うことは、「間伐によって樹冠が開く(疎開する)と、林内に雨が降り注ぎやすくなって、土壌に浸透する水量が増えるから、森林から流出する水量も増えるよ。」となります。

 

 中央にポッカリ空いた穴の左側が間伐林分、右側が無間伐林分。

 林冠の空き具合の違い、お分かりいただけるでしょうか・・・(>_<)。

 

 さらに、間伐によって、成立本数が減少すれば、樹木の蒸散によって大気に放出される水量も抑制されるので、森林全体の蒸散量も減少します。

※木の数だけ蒸散する

※減った分、蒸散も減る。

 間伐を行うことで立木の数が減少した結果、森林全体から発生する樹木の蒸散量が抑えられることによって、森林から流出する水量の損失が抑えられます。

 

 しかし、実際のところ、そんな単純な話ではありません(^_^;)

 

 間伐をしないと林内が暗くなり、下層植生(林床植生)が減少し、やがて無くなってしまいます。

 すると、スギやヒノキが生えるだけの森林になり、落ち葉の種類もスギやヒノキだけになってしまいます。

 下層植生がなくなると地表面(表層土壌)における根系が欠如し、土壌の保水力や緊縛力の低下に繋がります。

 さらに、スギとヒノキを比較すると、ヒノキは落ち葉が細片化しやすい・・・

 スギ人工林の過密林分とヒノキ人工林の過密林分におけるリター(落葉枝)と土壌の流亡を比較すると、スギ林はヒノキ林の1/2~1/10と言われており、スギ林よりも「ヒノキ林の方が崩壊しやすいんじゃない?」と想像できるかと思います。

 

 実際、現場を見ても、スギの過密林よりもヒノキ過密林の方が、むき出し土壌になっている事が多いですよね。

 ヒノキ林は、落ち葉が細かくなるし、枯れ枝も落ちにくいので、地表面むき出しのヒノキ林を良く見かけます。

 一方、スギの落ち葉は細かくならないし、枯れ枝も落ちるので、地表面が流出したスギ林はヒノキ林よりも少ないと思います。

 

 木材価格が良かった頃は、材質向上など森林所有者の利益になるので、間伐を進めていました。

 しかし、現在の間伐は、材価低迷を受け、森林所有者の利益に繋がりにくくなり、むしろ、間伐をしないことで生じる不利益とその不利益を受けてしまう人々への影響を抑えるために、間伐が進められていると思います。

 こうした背景から、間伐による下層植生の変化や土砂流出などに関する研究成果や論文はホントに多い!

 読んでみると、面白いんだけど、検索するとキリが無く、検索地獄に陥ります。(T_T)

 

 こうした成果を超々簡単にまとまると、(全然、読み足りていないんですが(恥)・・・・。)

 例えば、間伐林と無間伐林を比較した場合、

 下層植生の種数や植被率は間伐林が多い

 そして、間伐直後から下層植生に変化がある間伐率が高いと下層植生の繁茂量が増加するといった報告があります。

 次に、土砂流出量を比較した場合、無間伐林の方が多い

 だけど、林床植生と落葉枝を除去した間伐林と無間伐林の土砂流出量は同じ間伐林も無間伐林も同じ間伐林の方が土砂流出量が少ない原因は伐倒木による抑制効果ではないか、などといった報告や考察があります。

 土砂流出量は間伐の有無よりも、下層植生の有無や伐倒木処理の影響の方があると言えそうです。

 

 伐倒木処理の影響もありますが、ここでは、土砂流出量を抑えるポイントは「下層植生」として考えたいと思います。

 下層植生が存在することで、林内に降った雨が、直接、土壌を叩きつけることが防げます。

 つまり、下層植生の存在が、雨滴によって土壌が硬くなることを防いでくれるということです。

 さらに、下層植生の根系が表層土壌に広がることで、表層土壌が堅く結びつけられ、表面を流れる水から表層土壌を守ってくれます。

 これは、伐採跡地でも言えることですが、林地残材や下層植生の存在が雨滴から土壌を守ってくれるので、土壌の硬化防止に繋がります。

 雨が直接、土壌を叩きつけると、土壌が硬くなって隙間がなくなり、土壌に浸透しない水の量が増えてしまいます。 

 

 さて、間伐をすることで、下層植生が増えることもあれば、変化しないこともあります。

 というのは、間伐によって増加した下層植生は、埋土種子(地下で休眠している種子)よりも、外部から供給された種子の方が多いという報告があります。(そもそも、下層植生が生えるって事は、種がないといけないので、その種は、元々土の中にあるのか、他所から運ばれてきたのかに限られると思います。)

 これを基本において考えると、下層植生の種子の供給源が近くにないと、間伐後の変化は期待できない可能性があります。

 森林一帯がスギ・ヒノキの人工林が密集している様な環境では、間伐だけで下層植生を増やすことは難しいと考えるべきで、間伐すれば、下層植生が増えると容易に考えるべきではないと思います。

 

 実際にそういう現場があります。

 間伐後、2~3年経過し、林床に光が届く様な環境でも、下層植生が生えた形跡がありません。(もちろん、獣害の影響も無視できませんが。)

 そして、ここの現場は、林内に水が流れる道が出来ており、崩壊リスクを抱えています。

 

 水が流れる道が、もし、間伐前にあったなら・・・・

 間伐後、林内雨量が増加し、この道を拡大してしまった可能性があります。

 

 もし、間伐前になかったなら・・・・

 間伐後、林内雨量が増加し、この道を作ってしまった可能性があります。

 あくまで、可能性の話ですが、無視できることではないと、個人的に思います。

 

 このことを踏まえた上で、前述した「間伐をしないことで生じる不利益とその不利益を受けてしまう人々への影響を抑えるために間伐を進める。」のであれば・・・

 このような現場は、マイナスになっているとも考えられます。

 じゃあ、どうすればいいのか。と言うことも考えないといけない。

 間伐前に水の流れる道があったなら、伐倒木の処理や置き方を工夫できたかもしれない。

 間伐後に水の流れる道が出来たなら、表土移動を抑える工法や植栽を導入できたかもしれない。

 いずれにしろ、森林の公益的機能を発揮する目的で間伐するのであれば、間伐後の変化、特に下層植生の変化を追跡調査する必要があるのではないのかなと、思います。

 

 木材価格が良かった時代の間伐は、木を太らせ、森林所有者の利益になる品質向上が目的だったと思います。

 木材価格が下がった今の時代の間伐は、崩壊などの不利益を防ぎ、地域住民への悪影響を抑制することが目的になっていると思います。

 同じ間伐でも、昔と今で、間伐をする目的や間伐を進める目的が変わったのであれば、間伐の方法や評価も変えないといけないし、それを検討・検証するための情報や根拠が、試験研究の成果です。

 我々の血税で試験研究された成果を生かさないといけません。

 

 話が大きく逸れてしまいましたが、今回、お伝えしたかったことは・・・

1.間伐によって森林から流出する水量が増えるので、河川の水量が増える。

 ・樹冠が遮断する雨水が減ることで、林内の降雨量が増え、地面に辿り着く水の量が増えるから。

 ・樹木の本数が減少した分、森林全体から出る樹木の蒸散量が減少するから。

2.間伐によって下層植生は増加する。

 ・下層植生が生え、これらの根系が広がることで、流れる雨水から表層土壌を守ってくれる。

 ・間伐によって生えた下層植生は、外部から供給された種子が多いので、供給源の存在が重要。

 

 間伐って、思っている以上に奥深く、科学的な話が盛り沢山です!

 僕の知識量もまだまだなので、上手くお伝えできなかった点も多々ありますが、これを機に、間伐による様々な効果を、面白いので、是非、調べてみて下さい。

 

 入門としてオススメする成果はこちら!

  →「森林と水の謎を解く(2) 間伐と水流出

 

 長ったらしい文章を最後までお読みいただき、誠にありがとうございますm(_ _)m。。。感謝です。

コメント (1)
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