スギノアカネトラカミキリ(以下、アカネ)について第5章「被害材」について。
アカネの被害を受けた木材は、「トビクサレ」、「アリクイ」、「アカネ材」などと呼ばれています。
トビクサレは「被害の部分が板目上に飛び飛びに起こる」、アリクイは「被害部分の空洞にアリが入っている」ところが名の由来だそうです。
この被害が、アカネによるものだと分かったのは、昭和30年代に入ってからだと言われているので、被害自体は昔から存在していたことになります。
アカネの被害は、腐朽さえなければ、強度上、特に問題なく、このことは、公的な試験研究機関においても証明されています。
https://www.pref.wakayama.lg.jp/bcms/prefg/070109/gaiyou/006/news/mokuzai/arikui_merikomi.pdf
これはOUTな事例。
それでも「見た目」が原因で、価格が下がり、半値以下になることもあります。
柱材では表面に出ないよう採材の工夫が必要だったり、板材ではほぼ利用することが困難だったり、製材する側も手間が増える、扱いにくいという点からも嫌がられます。
実際には、アカネ材を構造材として使用した施設や内装材として使用された施設もあります。
しかし、結果的にアカネ材が使用されたとしても、原材料として扱った製材所、工務店、大工さんがどう感じたかは分かりません。
次も扱いたいと思ったのか、勘弁してくれって思っているのか、この程度なら・・・と思っているのか、気になるところです。
ちなみに、我が家では、書斎のフローリングにアカネ材を指定して施工しました。
僕自身も理解しているので、製材所と話はスムーズに進んだものの、被害に対する「双方の許容範囲」が明確に出来ないので、アカネ材をあまり理解されていない方への利用は思った以上にハードルが高いなと感じました。
製材所からも、「後で苦情を言うなよ」と冗談混じりで釘をさされました。
製材所や工務店側が「良し!」としても、施主が良しとするかは別の話・・・と言うことを身をもって体験できたので、これは大きな収穫でした。
アカネ材のフローリングは、壁に比べると被害部が目に入らないので、意外と気になりません。
ただし、被害部分がささくれる場合があるので、結構、危険です。
書斎は、もともとカーペットを引く予定だったので、ささくれ部分は気になりませんが、直接肌に触れる場合は、アカネ材のフローリングは・・・正直、あまりオススメできません。
でも、木材で一番の問題は腐朽や白蟻など、木材の強度に直接的な影響に与えるものだと思います。
アカネ被害も木材の欠点ですが、これ以外にも枯れ枝がらみの欠点があります。
死節(しにふし)。
腐れ節(くされふし)。
抜け節(ぬけふし)。
(右上の節)
これらも、アカネ材同様、枯れ枝が原因で発生した木材の欠点です。
(乾燥における反りや曲がりといった欠点は、今回、省略してます。)
山の状況、手入れの状況でいえば、同じ状況だと思います。
そこにアカネがいるか、いないかの違い。
アカネ材の問題は、被害のある地域で、利用上における様々な対策や普及が行われていますが、価格低下という根幹的な問題解決までには至っていません。
似たような状況と似たような施業を行ってきたにも関わらず、アカネの存在有無1つで、ここまでの差が生まれる・・・でも利用上、問題ない。
営業を知らない素人の戯れ言として、聞き流していただきたいのですが・・・
木材は消費者の手に渡るまで、色んなルートを通るので、農産物などと違い遠い距離感を感じます・・・なんか、一般の方に対して、色んなことが伝わりにくいですし、分かりにくいし、そもそも立木から柱になるまでの工程も、イメージがわきにくいと思います。
安さを優先し、材質を指定せず、木材を注文した場合、死節、腐れ節、抜け節、アカネ材が含まれるリスクがあることを伝える。
抜け節や腐れ節が嫌な場合、埋め木で処理するがその分、価格は上がる。
抜け節、腐れ節、アカネ材など欠点が嫌な場合、そうした木材が含まれるリスクを回避したい場合、枝打ちという施業を行った山から木材を調達するが、その分価格は上がる。
という風な、単に木材を使いましょうとか、木材の良さをPRするだけでなく、デメリットもあること、望む木材を手に入れるには、価格にも影響することを、一般の方々に向けて、情報の発信や説明を行う必要があるのではないか、と思います。
そんな簡単に欠点の少ない木材は市場に流れていないんだよ・・・と。
木材利用を普及すると、どうしても良い面、メリット、長所を並べ立てますが、やはり、同時にデメリットや欠点も明確に伝えないといけなくて、そして、その欠点を伝える役割を、現場の方々に押しつけてはいけないなと思います。
かなり話がズレてしまいましたが、アカネ材が生まれる山は特別な山ではなく、枝打ちという施業を行っていない山で、アカネがいれば発生します。
アカネがいても枝打ちをしていれば、基本、アカネ材は出来ません。
枝打ちをしていなくても、アカネがいなければアカネ材はできませんが、抜け節など他の欠点は残ります。
アカネがいるかいないかの違いだけで、施業という投資に差はありません。
(枝打ちをした節のない木材)
個人的には、アカネ材という言葉を使わず、普通の木材に含まれた1つの欠点として扱うべきかなと。
アカネ材と言ってしまうと、別の木材みたいな印象になって、他の木材よりも安価・・・みたいな雰囲気になっても、どうなのかなと思います。
枝打ちが一般的にされていない昨今の林況では、アカネの被害リスクが上がる可能性も考えられます。
必要な施業を行わず、被害を受けてしまい、結果、安くなるなら分かりますが、一般的に行われなくなった枝打ち、その枝打ちをしていない山から生まれたアカネ材は、並材と同等扱いではないかと。
でも、製材所側の手間が増えたり、施主さんの苦情を受けたりなど苦労する一面があることは理解しないといけません。
川上とか川下とか線引きせず、林業・木材産業の業界が一緒になって、被害リスクを回避するために枝打ちの実施時期や方法を見直したり、被害がひどいアカネ材は避けたり、一般的に流通できるアカネ材を標準化したり・・・みたい、一体的な取り組みが必要なのかな・・・と思います。
現状の木材価格では、そこまでの投資は厳しいですが、アカネ材が問題であるならば、どこかで、打破しないといけないなと思う次第です。
再び、論点がズレてしまいましたが、今回お伝えしたかったことは、
1)アカネ材は、被害部が腐朽していなければ、強度の問題はない。(そもそもアカネの被害と関係なく、腐朽した木材は強度が下がる。)
2)アカネ材が発生する山は、特別な山ではなく、枝打ちという施業が行われておらず、かつアカネが生息している山(ただし、アカネが好む生息環境の差はある。)。
3)現在は、「枝打ちをしない」が一般的なので、山側が必要な施業を放棄した結果、アカネ材が生まれているわけではない。
4)アカネ材は、死節、抜け節、腐れ節と同じ木材の欠点の1つ。でも、利用上、深刻な欠点ではないが、採材や施工の時に工夫が必要になる。
アカネ材は一般的な木材(並材)で、その中に紛れているものだと、まずは、理解していただくことが重要かなと思います。
昔の住宅では、被害部を見えにくいところで施行するなど工夫をされて、使われていました。
また、ログハウスのように丸太で施工すれば、さらに被害部は見えにくくなります。
これも使い方として、1つの工夫だなと思いました。
アカネ材は、価格が下がる山側だけの問題ではなく、それを製材品・商品として、加工し、販売する中で、色々な苦労が発生する製材所や工務店など側の問題でもあります。
アカネ材という問題は、こうした双方の問題に目を向けて、取り組む必要があるのではないかなと思います。
これは、自分自身でアカネ材を指定して、住宅の一部に取り入れ、生活の中で触れた経験から感じたことです。
強度は問題ない・・・それだけを武器に、これからを戦えるものではないなと思います。