はぐくみ幸房@山いこら♪

「森を育み、人を育み、幸せ育む」がコンセプト。株式会社はぐくみ幸房のブログです。色々な森の楽しさ共有してます♪

架線集材 エンドレスタイラー 操作

2017年04月26日 | 現場技術・安全管理・道具のお話

 前回、架線集材(エンドレスタイラー)の仕組みについて説明しましたので、それに関連し、今回は、架線集材(エンドレスタイラー)の操作について説明したいと思います。(前回の記事はこちら→架線集材 エンドレスタイラー 仕組み

 僕自身、集材機を操作した経験はないので、説明できる立場ではありませんが、架線集材や集材機の操作等について、全くご存知ない方にも分かっていただければと思います。

 あくまで、「どのように操作しているの?」についての説明ですので、「この方法が安全で1番」ということを言っているわけではありませんので、ご理解ください。

 

 説明にあたってのイメージ図の状況です。

 赤い線は主索。

 青い線はエンドレスライン(以下ELL)。

 黄色い線はリフティングライン(以下LFL)。

 紫の線はホールバックライン(以下HBL)。

 四角い灰色の図に3つの丸い物がついている図が「集材機」。

 3つの赤い丸いものが連結している図が「搬器」。

 台形の下にぶら下がっている輪っかみたいな図が「荷掛滑車」。

 

 イメージ図の設定は、「土場から荷掛場所へ移動し、集材した後、再び、土場へ」というものです。

 実際の現地では、必ずしも集材機の運転手が荷掛場所などの現場を確認できるわけではありません。

 つまり、荷掛場所などの現場が一切見えない状況の中荷掛場所で待機している作業員からの無線による指示のみで、集材機を運転しないといけないので、集材機の運転・操作は駆け出しの人間が、簡単に操作できるようなものではありません。 

 まして、「現場で何かあった時」、パニックにならず、冷静に正しい操作を行える技術が求められます。

 目隠しした状態で、助手席の指示で、車を運転するような感じです。

 「もう少し進んだら、右。」

 「はい、ストップ。そこを右。」

 「少し左に切り替えして。」

 「OK。そのまま右にハンドルを思いっきり回して」みたいに・・・。

 そして、何かあっても、目隠しした状態で、その「何か」を、運転テクニックで、解決しないといけません。

 

 では、機械の操作説明を。 

 

1.搬器を土場から荷掛場所へ移動する

 ・LFLはブレーキをかける。(荷掛滑車は降ろさない)

 ・HBLを巻く。(搬器を動かす)

 ・ELLはフリーの状態にする。(搬器が動く)

  

 HBLを巻くことで、フリー状態のELLに沿って、そのまま搬器が移動します。

 LFLはブレーキをかけておかないと、荷掛滑車が降りてきてしまいます。

 荷掛場所の作業員(以下、荷掛手)は、

 「HBLを巻いて。」、搬器が荷掛場所に近づくと、「ストップ」。と指示していると思います。

 

2.荷掛場所に荷掛滑車を引き込む

 ・荷掛手はHBLの内側に入らない。(鉄則!)

 ・ELLはフリーの状態のまま。(搬器動く)

 ・LFLは操作しながら緩める。(荷掛滑車が降りてくる)

 ・HBLを巻く。(降ろした荷掛滑車を荷掛場所付近へ近づける)

 

 LFLを緩めることで、荷掛滑車が降りてきます。

 HBLを巻くことで、降ろした荷掛滑車を荷掛場所へ少しずつ近づけます。

 荷掛手は「LFL緩めて、HBLを巻いて・・・(荷掛滑車が降りてきたら)、ストップ」と指示していると思います。

 

 荷掛場所に荷掛滑車が近づいたら、搬器を止めます、

 ・ELLにブレーキをかける。(搬器を止める)

 ・HBLを巻いた後、ブレーキをかける。(荷掛滑車を荷掛場所に降ろした後、止める)

 ・LFLを操作する。(荷掛滑車の位置を調整しながら、荷掛場所に降ろす)

 ・荷掛手はHBLの内側に入らない。(鉄則!)

 

**追記**

 上記のイメージ図では、荷掛場所の真横で搬器を止めていますが、図のような操作を行うと、実際は、HBLに主索が引っ張られます。

 なので、荷掛手は、HBLの外側に立って、主索が引っ張られないよう搬器を止める位置を、運転手に指示を出します。

 イメージ的には、こんな感じになるかと思います。

 

**  **

 

 また、荷掛滑車は、立木など障害物を回避するように動かす必要があるので、荷掛手の指示に従いながらLFLを操作します。

 このイメージ図では分かりにくいですが、

  斜面上側なら、荷掛滑車を上げながらHBLを巻く。荷掛滑車を上げないと地面に当たる。

  斜面下側なら、荷掛滑車を降ろしながらHBLを巻く。荷掛滑車を降ろさないと地面からほど遠い。

 みたいな感じです・・・。

 

 荷掛滑車の止める位置は、平地か斜面、傾斜の角度によって、調整する必要があります。

 例えば、平地なら荷掛場所の真上に、斜面なら荷掛場所より前(傾斜で荷掛滑車が滑るから)に荷掛滑車を止める・・といった具合に。

 こういう調整も、運転手は見えないので、荷掛手の指示で行います。

 

3.荷掛作業を行う。

 ・ELL、LFL、HBLにブレーキをかける。(全ての機械を停止する)

 ・荷掛手が荷掛作業を行う。(機械に近づくので、ブレーキは必須)

 

 荷掛滑車が停止して、安定してから荷掛滑車を行います。

 もちろん、運転手には、この作業の様子は見えていません。

 なので、もし、ブレーキをかけ忘れ、搬器が動き、荷掛手がケガしても、すぐに察知することはできません。

 

4.荷掛をした後、横取りを行う

 ・荷掛手は安全な場所へ退避する。(退避後、運転手に指示を出す。)

 ・ELLは、そのままブレーキをかける(搬器を停止)

 ・HBLを操作しながら、LFLを巻く(荷掛滑車が吊り上がる)

 

 荷掛作業が終わったら、荷掛手は安全な場所へ退避し、運転手にLFLを巻くように指示します。

 このとき、例えば、HBLにブレーキをかけたままLFLを巻くと、当然ですが、危険なので、誤操作に注意する必要があります。

 子ども(HBL)が、お母さん(LFL)の服の袖を引っ張ったまま、そこから一切動かないのに、お母さん(LFL)が無理矢理、服の袖ごと子ども(HBL)を引っ張ると、袖が破れる・・・みたいな感じ・・・でしょうか。

 

 荷掛滑車が主索の真下まで引き寄せられると、

 ・ELLは引き続きブレーキ(搬器を止める)

 ・LFLにブレーキをかける(荷掛滑車を止める)

 ・HBLは緩めておく

 LFLのブレーキも荷掛手が指示します。

 運転手には、LFLがどの位置まで吊り上げられているのか、全くわからないので。

 

5.搬器を土場まで移動させる

 ・ELLはブレーキを解除し、動かす。(搬器を動かす)

 ・LFLはブレーキをかける。(荷掛滑車を止める)

 ・HBLは操作しながら緩める。

 

 

 さらっと、まとめると・・・

 空搬器を土場から荷掛場所へ送る場合は、「ELLはフリー、LFLはブレーキ、HBLは巻き」ます。

 荷掛滑車を荷掛場所へ引き込む場合は、「ELLはフリー、LFLは緩め、HBLは巻き」、その後、搬器を停止させるため、「ELLはブレーキ」、調整しながら荷掛滑車を荷掛場所に引き込むため、「LFLは緩め、HBLは巻いた後、停止」して、荷掛滑車を安定させます。

 荷掛作業を行う場合は、「ELLとLFLとHBLにブレーキをかける」。

 荷掛後の横取りは、「ELLはブレーキ、LFLは巻く、HBLは緩め」、荷掛滑車が主索の真下まで引き寄せられると「ELL、LFLはブレーキ、HBLは緩め」ておきます。

 木材を吊り上げた搬器を土場へ移動する場合は、「ELLのブレーキを解除して動かす、LFLはブレーキ、HBLは緩め」ます。

 このほか、ドラムのワイヤーが乱巻きしないように操作もしないといけませんし、誤動作があっても、安全装置がないので、自動でブレーキがかかるわけでもありません。

 

 操作について、一応、文書化したものの、ここに挙げた操作方法は、マニュアル通りではないと思います。

 僕も現場での機械の動きを見たり、運転手に操作方法を聞いたり、本を読んだりしたものをまとめてみただけですので、現場の方から見ると「ん?」と思う部分があると思いますので、ここに記載した方法が一般的というわけではありませんので、ご容赦下さい。

 

 こうした一連の作業を無線の指示で、集材機を操作しています。

 しかも、操作レバーは、ELL・LFL・HBLとそれぞれ3本に分かれています。

 一応、イメージ図で分かりやすく説明をしたかったのですが、やはり集材機の操作そのものが複雑なので・・・。

 そして、安全装置もないので、これら一連の作業の中で、1つでも操作を誤ると事故に繋がります。

 運転手は荷掛手の状況を目視で把握することはできません。

 荷掛手も運転手の状況を目視で把握することができません。

 お互いに無線を使って、それぞれの状況をやりとりしているので、そのやりとりが途絶えたとき、何かがあったと気づくことになると思います。

 

 様々な分野でICT技術が開発されるこの時代において、集材機の技術は「時代遅れ」と言わざるを得ません・・・。

 

 そうした中で、くどいようですが、油圧式集材機の開発は画期的です。

 3本レバーによる複雑な操作も、2本レバーで操作も容易になり、インターロックも搭載され、安全性も向上。

 さらに遠隔操作も可能に。

 液晶付きで、これで乱巻きの有無が確認できます。

 荷掛手が搬器・荷掛滑車を操作することで、作業の安全性も向上します。

 運転手も不要になり、グラップルに乗りながら集材機を操作できるので、作業の向上性も向上します。

 それぞれが、状況を目視しながら操作できるという利点もあります。

 

 集材機の操作は本当に煩雑であり、複雑であり、安全性が担保されていません。

 何より操作できる人材の育成期間が5年以上とも10年以上とも言われており、集材機を扱う人材は、簡単に育成することはできません。

 

 今回、集材機の操作をについて説明しましたが、これがオーソドックスではないと思います。

 抜け落ちている説明もあったり、不要な説明もあろうかと思います。

 一応、全く存知ない方に分かっていただければと思い、文書化してみました。

 連続で、集材機に関する記事を書きましたが、少しでも架線集材や集材機に関する知識を身につけていただけたり、興味をもっていただければ、幸いです。

 僕の中では、架線集材は林業で最も難しい技術なので、林業技術の花形だと思っています。

 

 以下、関連記事です。

架線集材 エンドレスタイラー 仕組み

油圧式集材機

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架線集材 エンドレスタイラー 仕組み

2017年04月23日 | 現場技術・安全管理・道具のお話

 前回、油圧式集材機についてご紹介しました。

 そもそも、架線集材が分からない方やどういう動きなのか理解できていない方もおられるかと思いますので、今回は、架線集材の中でも、一般的な「エンドレスタイラー」について、簡単にご説明を。

 前置きで「どういう動きなのか理解できていない方」と言いつつも、正直、僕も、自信をもって、理解しているわけではありませんが、少なくとも間違ってはいないと思っていますので、ご容赦下さい。プロの方々から見て、修正等ございましたら、是非、ご指摘ください。)

 それと、今回は、エンドレスタイラーの仕組みを説明することが目的ですので、架線の張り方などの技術面や安全面についての話は省略していますので、この点もご容赦下さいm(_ _)m。

 

 エンドレスタラーは簡単に言うと、集材機を操作して、林内に張り巡らせたワーヤーロープを循環的に回しながら、木材を集める方法です。

Kasensyuzai05(←集材機)

 図にするとこんなイメージ。

 ただし、実際はこんなにシンプルではありません。

 仕組みを分かりやすくするため、あくまでイメージ図をシンプルに表現しているだけですので、実物はもっと複雑ですよ。


 このイメージ図を基に、それぞれの役割を。

 

 まず、木材を搬出するための搬器を乗せる「主索」。「スカイライン」とも言います。

 主索は、両端とも木に固定しているので、集材機と直接は繋がっていません。

 この状態は、「主索の上に搬器が乗っているだけ」で、当然、動かすことが出来ません。

 今回、主索の張り方は省略します。また、本来は、主索を固定した樹木の倒木などを防ぐ処置もしますが、今回はイメージ図からも省略しています。

 

 搬器を動かすために必要なのが「エンドレスライン」。

 

 エンドレスラインは、集材機-搬器-先柱を通じて、グルッと1周しているイメージ。(大抵は、ワイヤーを搬器のところで繋げています。)

 集材機にあるエンドレスライン用のドラム(糸巻きみたいな物)を操作して、搬出したい木材の場所まで、搬器を送ります。

 搬器は主索に乗っているだけですので、エンドレスラインの操作1つで、搬器を山に送ったり、林道に引き戻したりすることができます。

 エンドレスラインを単純に考えると・・・

 (←ちいさい円は集材機のドラム。)

 このようにグルグルと循環しているので、集材機のドラムを操作して、搬器を移動させます。

 下の写真で言うと、エンドレスドラムは右側の小さいヤツです。

 

 ただし、搬器を木の真上に動かしてきても、搬器そのものは、空高くぶら下がっています。

 そこで、荷掛滑車を吊り上げる・吊り下げるための「リフティングライン」を設けます。

 リフティングラインは、片方は集材機のドラムに繋がっており、もう片方は木に固定されています。

 

 集材機のドラムを操作して、リフティングラインを張ったり、緩めたりすることで、木を吊り上げたり、下ろしたりすることができます。

 これに、もう1つ重要なものが「ロージングブロック」。

 このロージングブロックにリフティングラインを通します。

 加えて、このロージングブロックを狙ったところに下ろすための重りをつけます。

 上の写真は、専用に作った鉄製の物ですが、木の丸太を利用する場合もいます。

Kasensyuzai09(←ロージングブロックに木をつけた事例。)

 その重りに荷掛滑車が取り付けられています。

 

 しかし、搬器やロージングブロックは、あくまで主索の線下でしか、木材を上げ下げすることしかできません。

  

 そこで、主索の線下から離れたところの木を集めて、搬出するために、「ホールバックライン」というものを設けます。(アウトラインとかアウト線とも言います。)

 ホールバックラインは、ロージングブロックの重りに固定し、集材機のドラムと繋がっています。

 集材機のドラムを操作して、ホールバックラインを引いたり、緩めたりすることで、荷掛滑車を木材のある場所へと動かすことができます。

 

 子供に袖を引っ張られて、おもちゃ売り場に連れていかれる・・・そんな感じです。

 この場合、「子供」がホールバックラインですね・・・。

 

 まとめます。

 ①搬器を乗せる主索(スカイライン)。

 ②搬器を動かすエンドレスライン。

 ③荷掛滑車を下ろしたり、上げたりするリフティングライン。

 ④荷掛滑車を主索から離れた場所へ移動させるホールバックライン。

  で、こうなります。

 集材機が関係するのは、②~④の操作です。

 

 集材機を正面から見ると、

 3つのドラムがあります。

 それぞれのドラムを操作することで、搬器や荷掛滑車を動かすことができます。

 要は、ワイヤーロープを緩める・張るという動きが、吊り下げる・吊り上げるという働きになると考えてください。

 

Kasensyuzai04

 この架線集材ができる職人・技術者が高齢化・減少しています。

 林業全体にも言えることですが、特に架線集材は後継者がいないんです。

 

 特に、集材距離1,000mを超える架線の設置ができる技術者は、さらに限られています。

 主に高知県で行われている「H型架線」という架線集材が注目されて以降、再び、架線集材も注目されるようになり、前回ご紹介した油圧式集材機も、架線集材を必要とする地域では期待される機械だと思います。

 林業はその地域地域によって、作業システムや技術が異なり、全国一律・全国統一というわけにはいきません。

 車輌系機械だけでなく、やはり架線系機械の技術向上や後継者の育成も大切です。

 もし、ここで、架線集材の技術が途絶えたら、再び、その技術を取り戻すことは、本当に困難です。

 特に、今ある技術は先人たちの知恵や経験、そして、犠牲の上に積み上がってきたもの。

 先人たちの犠牲があったからこそ、何が危険なのか、今を働く人たちに伝わっていると思っています。

 この技術が途絶えたら、先人たちの犠牲が無駄になってしまい、これは、大変無礼なことだと思います。

 誰かが犠牲になってきた経験から、二の舞にならないよう、引き継いできた方々が安全に努め、今に至ったはず。

 「こういう事故が多いから、気を付けよう。」

 「これは絶対にしてはいけない。」

 「ここには絶対に入ってはいけない。」

 誰かの犠牲が、今、技術として活きていると思います。

 地域や現場、地形、伐採量などによって、最良な作業方法が異なる林業。

 

 新たな技術が注目されがちですが、これまで積み上げてきた技術・機械も改めて注目して頂きたい。

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油圧式集材機

2017年04月14日 | 現場技術・安全管理・道具のお話

 以前にもご紹介させていただきましたが、油圧式集材機が和歌山県で開発されました。

 

 この開発に成功した背景には、集材機に詳しく、かつ架線集材の技術・危険性・安全性に長けた方がおられたから。

 この方がいなくては、短期間の間で、これほど完成度の高い機械は出来なかった。

 僕は、集材機による架線集材が大好きですが、正直、あまり詳しくありません。

 ただ、個人的には林業の中でも、高度な技術を要するので、「林業施業の花形」だと思っています。

 下の写真が従来の集材機で、写真左側に運転席があります。

 そこに4本のレバーがあり、それを使って、集材機を操作します。

 運転席から現場が一望できる位置に集材機が設置できれば、状況を見ながら操作できますが、一望できない場合は、無線の指示に従って、運転手は集材機を操作することになります。

 自動車の運転で例えるなら、運転手が目隠しをして、助手席の指示で運転する・・・みたいな感じです。

 架線集材の仕組みに関する説明は省きます(仕組みについては架線集材 エンドレスタイラーにて。)

 

 集材機の操作について、雑な説明になりますが、一例としてお読みください・・・

 

 荷掛滑車を、木材を吊り上げる場所に誘導し、到着したら、エンドレスラインとホールバックライン(引戻索)にブレーキをかけ、リフティングラインを操作します。

 ホールバックラインをきちんと止めておかないと、荷掛滑車が動く恐れがあります。

 荷掛滑車を下まで降ろすと、リフティングラインにブレーキをかけます。

 エンドレス、ホールバックライン、リフテングラインのいずれかのブレーキをかけ忘れたり、かけ間違いをすると、荷掛滑車に近づく作業員が危険な目に合いかねません。

 木材を荷掛けた作業員(荷掛手)は退避し、運転手に無線で、リフティングラインを巻くように合図します。

 運転手はホールバックラインをコントロールしながら、リフティングラインを巻き、エンドレスラインはブレーキをかけたままです。

 荷掛手は、リフティングラインの停止を指示し、運転手はリフティンラインにブレーキをかけます。

 荷掛手は、荷掛滑車を走らせるよう指示し、運転手はエンドレスラインのブレーキを解除し、動かします。

 ホールバックラインはコントロールしながら、リフティングラインはブレーキをかけたまま、木材を降ろす場所まで荷掛滑車を動かします。

 

 と、架線集材を見たことがない方や集材機の操作を見たことがない方は、何を言っているのか、わからないと思います。

 よくご存知の方が読むと、間違いがあるかもしれませんので、その時はご指摘ください。

 正直、僕も書きながら、正しいのか、一抹の不安はあります。

 

 要は、荷掛滑車(搬器)を動かすエンドレスライン、荷掛滑車を上げたり、下したりするリフティングライン、荷掛滑車を特定の場所へ移動させるホールバックラインをそれぞれのレバーを使って、作業毎にブレーキ、コントロール(微調整を含む)、稼働という、それぞれの操作を行わないといけないので、集材機の操作はとても煩雑です。

 間近で見ていても、何がどうなっているか、全く分かりません。

 でも、ベテランの操縦者は、その難しい操作を難なくこなしますが、その技術習得に5~7年以上かかるとか、10年以上もかかるとも言われ、人材育成にとてつもない時間を要します。

 架線集材は、運転手は荷掛手の無線指示で慎重に操作し、荷掛主は自分の安全を確保しながら運転手に指示しないといけません。

 それだけ、集材という作業は危険が伴います。

 

 油圧式集材機の運転席は、

 なんと、レバーが2本。

 この2本で、上記で記した「訳の分からない操作」が簡単に行えるようになりました。

 集材機をそれほど扱ったことがないビギナー作業員でもベテラン並みに操作できるよう、操作性が確実に向上しました。

 

 さらに、遠隔操作も可能となり、これまで、木材を荷掛ける「荷掛手」、木材を荷降ろす「荷降手」、集材機を操作する「運転手」の最低3名の作業員が必要でした。

 遠隔操作が可能になったことで、荷掛手と荷降手が遠隔操作することで、運転手が不要となり、最低2名による作業が可能となりました。

 さらに、荷掛手が機械を操作することで、確実に退避してから、安全な位置で作業できるため、ここでも作業の安全性が向上しています。

 これで遠隔操作します。

 ゲーム機みたいで、操作も容易。

 これは液晶付き。

 この液晶で、ドラムの乱巻きを確認することができます。

 これが、カメラ。

 

 動いている所の動画です。

 運転席に誰もいないのに、ドラムが動く。

 こんな時代が来るとは・・・個人的には、とても感動してます。

 

 僕もそれほど、この機械を熟知しているわけではないので、詳しい説明を省きますが、僕なりに「油圧式集材機」のメリットをまとめたいと思います。

1.安全性の向上

 従来の集材機には安全装置がなく、操作を誤れば、そのまま事故に繋がりました。

 そのため、油圧式集材機には自動ブレーキ等の安全装置が組み込まれています。

2.コスト縮減

 遠隔操作が可能になったことで、必要な作業員の数が減り、コスト縮減に繋がります。

 ただし、生産性等については、これからの調査に期待。

3.人材育成期間の大幅な縮減

 集材機の操作技術習得に、これまで5~7年以上、10年以上も要すると言われていました。

 これが・・・たぶんですが、1~2年程度まで縮減できたのではないかと思います。

 

 まだまだ課題もあるようですが、それは改善に向けて動いているようなので、今後に期待!

 

 林業において、コスト縮減はとても重要です。

 ですが、作業安全の向上人材育成期間の縮減も、同様に重要なことです。

 近年の林業技術開発は、コスト縮減に重きをおかれているように思いますが、これからは安全人材育成も視野に入れた評価も必要ではないでしょうか。

 機械などの設備投資を、単にコスト縮減と比較するだけでなく、安全と人材育成という部分、いわゆる「プライスレス」的な部分も含めた評価も重要になってくると思います。

 油圧式集材機の開発を目の当たりにして、このような一面を考えるようになりました。 

 


 「架線集材は時代遅れ。」

 「これからは作業道と機械集材。」

と、言う方もおられるでしょう。

 「道の付けられない場所では林業はしないこと。」

 「道のない場所は経済性が低い。」

と、言う方もおられるでしょう。

 でも、やはり、林業は山村地域の基幹産業です。

 道が付けられなくても、良い木材が生産できる場所があるなら、林業してもいいと思います。

 道が付けられない場所でも、林業をしたいという人がいる限り、「道がないから、林業ダメ」って、言わず、それをできる方法を一緒に考えていくべきだと思います。

 

 僕が一番危惧しているのは、架線集材の技術が途絶えたら、これまで積み上げてきた先人たちの知恵・技術が無駄になります。

 また、事故などで犠牲になった先人達の経験が、今日の作業の安全性が高まってきたことも事実です。

 ここで、架線集材がなくなれば、犠牲になった先人たちに申し訳が立たないと思います。

 

 油圧式集材機は、林業に限らず、土木工事でも活躍できます!

 また、行政機関等が油圧式集材機を災害などの緊急時用に所有することで、道路が寸断された時の資材や機材の運搬にも使えます。

 そんな時、容易に操作できる油圧式集材機があると心強いと、僕は思います。

 

 この油圧式集材機は、林業現場に留まらず、土木工事や災害時でも活躍できる画期的な開発だと思います。

 というわけで、早くこの機械が、全国に広まることを強く望みます。

 

 以下、関連記事です。

架線集材 エンドレスタイラー

二段集材

架線集材 備長炭の皆伐地にて

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ブナ科樹木 花

2017年04月12日 | 樹木・草花のお話

 季節的にサクラの花が目立っていますが、その陰で、ひっそりと開花している樹木たちもいます。

 イロハモミジ、エノキ、ムクノキなどなど

 

 今回は、もう少しすると開花するコナラやアラカシなどブナ科樹木の花について。

 (すでに開花しているコナラやクヌギもありますが・・・)

 下の写真は、コナラの花で、このような花を普段、何気なく見ているかと思います。

 でも、この花は、雄花で、これが受粉して、秋になるとドングリになる・・・というわけではありません

 雌花は、

 新しく出た葉の付け根(葉柄の付け根)などに開花しています。

 目立つような咲き方をしないので、じっくり観察しないと、見つけにくいと思います。

 

 まず、雄花が咲いた後、雌花が開花します。

 自家受粉を避けるため、雄花と雌花が、同時に開花することはありません。

 なので、コナラの雌花を観察したい場合は、雄花が終わった後に・・・となります。

 

 コナラ以外のブナ科樹木も同様です。

 

 というわけで、少しブナ科樹木の雄花と雌花をご紹介。

 

 クヌギ(左:雄花、右:雌花)

 

 ブナ(左:雄花、右:雌花)

Buna_f04 Buna_f03

 ウバメガシ(左:雄花、右:雌花)

 

 アラカシ(左:雄花、右:雌花)

 

 

 ブナ科樹木の中でも、コナラとクヌギは早めに開花するので、サクラに目を奪われていると、見逃すかもしれません。

 サクラの花が終わり、毎日が暖かいと感じるようになるくらいにアラカシやウバメガシが開花していると思います。

 コナラやアラカシなどは普段からよく目につく樹木なので、花の観察はたやすいですが、和歌山県の場合、ブナは、標高が高い場所に限られるので、開花のタイミングを見計らって、花を見に行くというのが難しい・・・。

 開花していると思って登ると、まだだったり、その逆で終わっていたりと・・・(と、何気なく、ブナの花の写真を撮るのに苦労したと言いたいだけです)。

 

 サクラの花ような美しくさや派手さはありませんが、「これがドングリになるのか~」という視点で、こうしたブナ科樹木の雌花を楽しむのも春の一興ではないでしょうか。

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ミツマタ

2017年04月08日 | 樹木・草花のお話

 ミツマタは中国原産の落葉低木で、樹高は2m程度です。

 スギ人工林の林床に群生しているところを良く見かけるので、肥沃な土壌を好むと思われます。

 ミツマタという名の由来は、実にシンプルで、枝が3つの又に分かれる・・・そのままの姿からきています。

(少し見にくい写真ですが・・・)

 ミツマタの葉は互生、葉身は長さ5〜20cm、葉の形は長楕円形または披針形。

 葉の縁は全縁で、両面に絹毛があり、裏面の方が毛が多いです。

 花は両性花で、葉が展開する前に開花し、地域によりますが、3月~4月頃に開花します。

 果実は核果で、6〜7月に熟し、緑色で有毛です。

 (中央が実。まだ未熟です。)

 

 ミツマタは、コウゾやガンピ同様、紙の原料として有名な特用林産物です。

 昔から日本に導入され、江戸時代から製紙に使われていたそうです。

 特にミツマタは、紙幣用の原料としても有名で、当時の大蔵省(現・財務省)に紙幣の原材料として納められています。

 国内で最初に栽培されたのは静岡県や山梨県だそうですが、次第に岡山県、高知県、徳島県などの中国・四国地方にも栽培が広がり、現代も、ミツマタの生産は、中国・四国地方が盛んな状況にあります。

 

 ミツマタの紙幣原料という需要と供給、流通について、詳しく知りませんが、個人的には、特用林産物として「ミツマタ」は魅力的な森林資源の1つだと考えています。

 

 まず、需要面。

 安易な考えですが、紙幣用の原材料なので、ある意味「安定的な需要」が保証されている・・・と考えられます。

 生産者にとって、保証された需要はとても魅力的だと思います。

 

 次に、獣害対策。

 ミツマタは、シカなどの獣害を受けない(受けにくい?)。

 シカの生息頭数増加と分布拡大が問題視される中、植林してもシカの食害が受けない。

 これもとても魅力的だと思います。

 

 最後に、収穫期が早い。

 ミツマタは植栽後、3年程度で収穫できます。

 1サイクル3年という回転の速さも魅力的だと思います。

 

 「安定的な需要」、「獣害を受けない」、「生産サイクルが早い」といった魅力をもつミツマタ。

 とは言え、四国・中国地方以外の他県が、これからマネをしても、この流通に乗り込むのは難しい・・かなと思っています。

 例えば、最近はIターンなどで、和紙を作られる方もおられます。

 そういう方達とタイアップする形で、地域需要を起こしていくことはとても大切だと思います。

 すでに天然に生えているミツマタの量をベースにどの程度の需要を起こせるのか。

 どの程度の利益が見込めるのか。

 収穫後の植栽を含め、循環的な経営が可能なのか。

 初期投資がほとんどかけない方法で、ミツマタで収益確保が可能か否か・・・それを検討していくことも重要なように思えます。

 また、同じく和紙の原料であるコウゾは、シカ被害を受けやすく、その資源枯渇が問題になっています。

 生産者がOKなら、ミツマタを代用するというのも1つの手だと思います。

 もちろん、コウゾやガンピにこだわる場合は、シカ対策をしっかりと行った上で、そうした資源を提供するのもありだと思います。

 

 

 なお、徳島県が「みつまたの栽培の手引き」を作成しています。

 岡山県や高知県など他県の栽培方法も載せています。

 インターネットからダウンロードが可能なので、ご参考までに。

 → www.pref.tokushima.jp/_files/00099264/mitumatariyotebiki.pdf

 

 「木材価格の低迷」は30年以上続いています。

 こうした特用林産物に目を向け、生産者に販売する(スギやヒノキでいうと立木販売)商売を取り入れた林業経営が必要だと思います。

 何より、人が山に入ると、山がきれいになります。

 もちろん、山に入る人が、一時の収穫を目的とした乱獲をしないことは絶対条件であり、何より継続的に山主さんと取引できる山の知識と技術を持っている人・・という条件がありますが・・・。

 

 それと、ミツマタは観賞用にも栽培されています。

 林内で見られるミツマタは黄色い花ですが、赤色の花も。 

 需要があるなら、黄色いミツマタを花木用に出荷するのも、アリだと思います。

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