蚊のような人だった
気がついたときは血を吸われていた
萌(もえぎ)さんの話は奇妙だった
普段見慣れた風景も
萌さんが 話すと輝いてくる
川の中の小魚 道端の小さな虫
家に当る光 風 聞こえてくる音
そんな日常の何気ないものまで輝いてしまう
世間話を淡々としているのだが
まるで絵の中に吸い込まれていくようだった
萌さんの生活は自然そのものだ 携帯電話も無い ファックスも無い
電話はあるが受話器はとらない テレビも無い ラジオはあるが好きな音楽を聞くだけ
人との連絡は手紙でことをなす 駅のポストまで投函にいく
相手に届く頃は相手のことを考え返事を待つ楽しみを味わう
引き戸が好きでサッシはだめ 窓は外してオープンにする
そこでコーヒーを点て パンを焼き ゆったりと音楽を聴き朝食をとる
クーラーも無い西日対策は 竹を植えて日陰を作る
そこにあたる木漏れ日を見るのが好き そこを通る風が好き
小さな虫の命も大事にする 通り道のくもの巣も払わず丁寧に横に移動した
やぶ蚊までしっかり見る やぶ蚊が血を吸う時は 祈る姿をしているといった すごい人だった
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