弁当業 石本 潤次 (宮崎市日向市 61) 朝日新聞2011年10月21日 声
お昼のバラエティー番組を見ていたら、沖縄出身のタレントが「沖縄では雪が降らないから、東京に出てきて初めて雪を見た。雪にシロップをかけて食べた」と話しているのを聞いて、4年前に亡くなった母を思い出した。
私が小学校2年生の時のことだ。朝、目が覚めると表がやけに明るい。窓を開けると雪が積もっていた。初めて見る美しい光景だった。器に雪を盛り、台所で朝食の準備をしている母に白砂糖をかけてくれるように頼んだら、大根おろしをイメージしたのか、しょうゆをかけてくれた。真っ白い雪に、濃い口しょうゆの真っ黒い筋が三重に輪を描いた。混ぜると泥水のようになった。
雪にしょうゆをかけて食べたのは私ぐらいだろう。間もなく母の命日が来る。墓参りの時に報告しよう。「楽しい思い出をありがとう」と。
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還暦クラス会で「感恩」の復習
鍼灸師 牧 了慈 (鹿児島県日置市 59)
47年前、小学校の卒業を間近に控えた授業中に、今は亡き担任の宮内五子先生がクラス全員に向かって、ある問いかけをされた。それは、校庭に建立されていた学校創立80周年記念碑に刻まれている文字についてだった。
その問いかけに答えられたのは、クラス40人の中で一人の女子だけだった。他の39人は、その場で校庭に確認に走った。そこには「感恩」と記されていた。感じの苦手な私に、読み方や意味など分かるはずもなかった。
母校を卒業し、社会人となり、級友と会うと必ずと言っていいほどあのときの「感恩」の話題がでた。そのうちに不思議なことに自身の中に「感恩」の文字が宿り、心の遺伝子として生き続けるようになった。
その後、学校は改築され、石碑の所在も定かではなくなったが、先日母校を訪れ、当時の話をしていたら、校長先生から校舎の裏にそれらしきものがあると伺い、早速確認に走った。それはまさに47年前の「感恩」そのものだった。その瞬間、全身が硬直するほどの強い感動を覚えた。
11月に行われる還暦クラス会で再開する仲間たちと、当時に帰って恩師の教えを復習できる喜びに、心から感謝したい。
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