詩を一編。
貝殻虫
おんなが寝たあと
卓上に小さな貝殻虫がふたつ
常夜灯の淡い光の下で
こそっと動いたような・・・・
かつておんなの眼と耳は
砂漠の民ベドウィンのようにするどく
見えないものまで見えて
その頃の誓約書が今も大事にしてあるという
鉛筆の先で小突いてみると
幽かにちちちと鳴いたような・・・・
日中 虫はおんなの内耳に棲み付いて
あることないこと囁いては
電池が切れるまで
おとこの呟きも聞き洩らさない
悪友が昔話をしにやってくる
・・・・しいっ! 人差し指をそっと唇に当てる
*介殻虫(カイガラムシ)というカメムシ科の害虫がいるが、
それとは全くの別物であり貝殻虫はわたしの造語である。