ベンベエの詩的つぶやき

世の中をちょっと斜めに見て・・・

ショートショート

2014-03-25 18:18:43 | 

           境内

     こどもが泣いている
     おんなの子だ
     ハトをとってくれろと泣いている
     一つとってやると
     そのままむしゃむしゃ食べてしまった
     よく見ると
     こどもと思っていたら
     ちいさな老婆であった

          流れ星

     星がひとつ
     西の山に流れていった
     そのあとを赤い星が追いかけていった
     山は黒々と村を抱き
     追いかけていったのは
     だれかの魂である

          中華料理店

     甘酸っぱい海老チリは
     へその緒を伝わってくる原初の匂い
     だから皆が注文する

          春二題

     退屈な相づち 延髄に白い月ぽかあん
            キリンも寂しいか たんぽぽ飛んで

 

 


     


ポエムの窓

2007-03-03 10:58:18 | 

        ナミダサマ

       干し柿の芯に

       西日を拝むホトケサマが

       透けてみえる

       ちょうちんの芯で

       ホトケサマが温かく揺らめいている

       欅の幹に耳を当てると

       微かに祈りがきこえてくる

         
(ホトケサマを彫り出す為に仏師は木を削る)

       
この世のことの善いとか悪いとか

       そういうことはどうでもいいこと

       ホトケサマはどこにでも在して

       いつでも柔らかく微笑んでいる

       
両の瞳はホトケサマの通われるところ

       昨夜も夢まくらに

       ナミダサマを遣わして

       散々ひとを憎んだその心を

       洗い清めてくれた

       
出会いのときも

       別離のときも

       ホトケサマの化身

       ナミダサマが現われて

       雨上がりの五月のように

       すべてを耀きに変えてくれる


ポエムの窓

2007-03-02 22:39:21 | 

         牛肉

 

     カウボーイの焼くぶ厚いステーキに

     生唾をこらえながら

     粗末な一室で白黒テレビを抱えていた

     ある日 どうにも我慢できず

     「スエヒロ」に飛びこんだ

     初めて目にするビフテキ

     血の滴るミデアムレアーに醤油をかけると

     大学一年生のひと月分の小遣いが飛び

     四ッ谷や九段の方角から微かに

     シュプレヒコールが聞こえていた*

     あの牛肉はどこへ行ってしまった

     噛むほどに味が染み出してきて

     のみ込んでしまうのが惜しまれる存在感

     「やわらかーい とろけそう」

     口に入れたとたん感嘆の声があがる

     「サシがこんなに入ってますから」

     店主が自慢する

     霜降りの特選黒毛和牛だという

     いったい脂なのか肉なのか

     これでは牛も自力で立ってはいられまい

     咀嚼を忘れてしまったホモサピエンス

     軟らかいことは即ち美味いことなのか

     馬を降りたカウボーイたちが

     日本向けの走らない牛を育てている

     へなへなした軟弱な牛

  * 六十年安保闘争


ポエムの窓

2007-03-01 16:42:18 | 

         はじまりの渦

       ゴッホの空に

       ターナーの海に

       ルノアールの女に

       激しく音を立てている

       ひかりの渦

       渦に魅せられて

       絵の前は人だかりが絶えない

       そうだ、床屋にいこう!

       六月のひかりが

       鏡の中で渦まき

       神妙な顔がひとつ

       鏡に向かうといつだって

       ぼくではない誰かの顔が写る

       リーゼント・・・

       一度やってみたかったなあ

       細いマンボズボンで・・

       こそばゆい手のひらで

       渦巻を撫でられていると

       時間がやわらかく溶けて
       
静かの海から

       押し出された日の

       仮死状態に還っていく

        女将さんしっかり洗ってくれ

       てっ辺の渦

       むずむずして堪らない


ポエムの窓

2007-02-28 12:20:00 | 

         琥珀

     おんなの胸の上で

     いちおくねん昔の吐息が

     静止している

     ほつ と

     ひとつぶの気泡

     だれが吐いた

     交尾を終えたオハグロトンボの哀しみか

     白雲を慕うアラウカリアの憂愁か

     それとも夢が精霊のつぶやきか

     [夜明けの空] を愛で

     賢治は

     黄褐色の雫の中にジュラ紀の恐竜を見た

     おんなは胸の肌で知っている

     ときの彼方に消えていった幾つもの風の音を

     なにひとつ閉じ込めてはおけないことを

     ようやくおんなが眠りについた明け方には

     琥珀の中でかすかに風が巻いて

     薄明の空を渡っていくものがある

     あれはカササギだろうか

       気泡がゆらめいている

                 *南洋スギ