山陰から松葉蟹の大きいのが送られてきたので
高原山に住んでいる知人宅(猫たちの移住先)へおすそ分け。
辺りがうす暗くなりかけた日暮れどき
山道から小径へ入ったところで
巨大な塊りがフロントガラスを横切った。
鹿だ!
みごとな角をした牡鹿である。
あっと叫んだまま驚きが固まってしまったぼくを
林の中からじっと見つめている。
夕闇に、すっくと立つその姿の神々しさに
忽ち村野四郎の詩の一編が脳裏をよぎった。
鹿
鹿は 森のはずれの
夕日の中に じっと立っていた
彼は知っていた
小さい額が狙われていることを
けれども 彼に
どうすることが出来ただろう
彼は すんなり立って
村の方を見ていた
生きる時間が黄金のように光る
彼の棲家である
大きい森の夜を背景にして
なんと! 時間帯もロケーションも
村野のこの作品とそっくりではないか。
違いは、ぼくが銃で狙っていないことだけであって
こんな風に同じ体験に出会えるなんて感動ものである。
興奮気味のぼくに、山の住人は
一昨日、上の方に雪が降りつもったので
餌を求めて中腹まで下りて来たのだろうと 穏やかに笑っていた。
帰りがけ、軒に吊るしてある干し大根を2本所望する。
---------ピクルスにしようと思う。
燃ゆるものの終り馨し夕焚き火