息子よ
おまえが憎いのではない
夜尿症のおまえが不憫で
おちんちんを抓まんで寝た日
初めての修学旅行に
こっそりついて行った日
潮に流されるおまえを呼びながら
浜で地団駄踏んだ日
耳の中で虫があばれていると
深夜の医院に駆け込んだ日
息子よ
おまえを憎いはずがない
わたしから離れ
男になっていくおまえが怖いのだ
わたしの総てが否定されるような
その鋭い視線が怖いのだ
おまえにとっては関心の無い
この勲章もこの蔵も
血を吐きながら生きてきた
わたしの証し
映画がこわいと
肩車のうえで泣きじゃくった息子よ
モーリス・ミニの助手席で
はしゃいでいた息子よ
どこに行ってしまった
わたしの七十年を壊さないでくれ
ひとつまたひとつ
辛夷の花を散らしながら
風がぼくに呼びかけている