ベンベエの詩的つぶやき

世の中をちょっと斜めに見て・・・

それからだ

2005-07-20 22:43:09 | 
 柿の実をみあげて

 あれこれ

 ことばを並べ立てるのは

 やめよ

 先ずは

 手にとって

 食べてみるがいい

 それからだ

 かたいとか

 しぶいとか

 批判するのは


ホエールウオッチング

2005-07-11 18:49:21 | 
          海原をつきやぶり

          天にたちあがる

          黒いいのち

          日輪の顔へ

          潮を吹き

          尾びれが

          水惑星の頬をうつ

          昨日の涙も

          明日の不安も
      
          甲板ではしゃぐ

          カモメもヒトも

          実は

          くじらの腹の中

          かなしいとか

          うれしいとか

          さびしいとか

          心に現われるものは

          みんな

          くじらの想い

          そうして

          その想いは

          そのまま

          この海の

          この星の

          この銀河の

          バイブレーション


赤い風

2005-07-07 11:55:24 | 
          みどりの草原を跳ね
          風に舞う
          赤い服の少女*

          ほの暗さの中
          そこばかりが明るく
          やわらかなひかりを集めている

          彼女であったか
          帰りしなのぼくを引き止めたのは

          永い間ずっと探していたような気がして
          赤い風
          いまこのとき
          ぼくに吹いている
          吹かれながら軽やかに
          赤い服とならんでいる
          見詰め合っては
          笑いあっては
          少年のようにお喋り

          こんなにも無抵抗で純粋な時間が
          まだぼくの中に残っていたなんて
          初夏の日の幻影だろうか
          それとも
          キャンバスの中に
          迷い込んでしまったのだろうか

          それにしても
          あの烈しいにわか雨
          新しい瞬間が
          ぼくの内部で破裂したようだ

              * ドイツ表現派の画家エミール・ノルデの作品


その声はるか

2005-07-07 11:17:16 | 
          息子よ
          おまえが憎いのではない
 
          夜尿症のおまえが不憫で
          おちんちんを抓まんで寝た日
          初めての修学旅行に
          こっそりついて行った日
          潮に流されるおまえを呼びながら
          浜で地団駄踏んだ日
          耳の中で虫があばれていると
          深夜の医院に駆け込んだ日

          息子よ
          おまえを憎いはずがない
          わたしから離れ
          男になっていくおまえが怖いのだ
          わたしの総てが否定されるような
          その鋭い視線が怖いのだ
          おまえにとっては関心の無い
          この勲章もこの蔵も
          血を吐きながら生きてきた
          わたしの証し

          映画がこわいと
          肩車のうえで泣きじゃくった息子よ
          モーリス・ミニの助手席で
          はしゃいでいた息子よ
          どこに行ってしまった
          わたしの七十年を壊さないでくれ

          ひとつまたひとつ
          辛夷の花を散らしながら
          風がぼくに呼びかけている


     十三夜

2005-07-04 09:13:13 | 
           しもの方から

           地べたを打つ音が

           ちかづいてくる
   
           つられて犬が吼える

           暗くさびしい町

           婆ちゃん家からの帰り道

           闇よりも月の色がこわかった

           棺の中の顔のように

           蒼い月

           ひゅううと

           首筋をヨタカがかすめ

           口のとがった蒼い顔が

           鎮守の森から

           抜け出してくるころ

           持ってけと

           わたされた提灯だが

           闇がゆらめいて

           よけい気味悪い

           石ころに足をとられ

           なにも見ないようにして

           やっと逃げかえると

           流しで母が

           鯉をさばいていた

           くらい軒先

           ぼおじぼを打つ

           子供らの後ろ

           口のとがった蒼い顔が

           覗いている