詩誌『馴鹿』の新年会があった。
1時間弱、「詩人と宇宙」という茫漠なテーマで卓話したが
新会員も参加してくれて愉快な半日を過ごした。
夜、N響アワーで楽劇「トリスタンとイゾルデ」を聴く。
ワーグナーの指揮では第一人者のイルジー・コウト。
前奏曲は重苦しく
禁断の愛の鬱屈した様子がいらいらするほどつづくが
第二幕になると
ああ、私のトリスタン!
おお、ぼくのイゾルデ!
歓喜と恍惚の愛の二重唱が華麗に炸裂する。
嫉妬深く意地悪な偽りの昼よ
消え去れ!
聖なる夜は唯一つ
愛のよろこびが微笑みかける
聖なる夜よ
私たちをこの世から解き放っておくれ
永遠に一つになり
目覚めることなく愛に包まれ
ただ愛にのみ生きるため!
遙かのむかし
こんな風に不安とよろこびの日々に包まれていた自分が
あったような、なかったような・・・・・・
冬の夜のひととき、
青春の残像に小さく炎が燃え上がるのを覚える。
それにしても、リンダ・ワトソンの熱唱がすばらしかった!
木々の間を夢紡ぎゐる冬の月
春が来たか、と思うほどの陽気。
陽だまりではカゲロウが飛び交い
ベンチや石の上では猫たちが身体を伸ばしている。
暖房を消し窓を開け、
久しぶりに家中の空気を入れ替えると
気のせいだろうか、体の隅々まで酸素が満ちてくる。
-----------しかしそれも今日一日だけで
明日からは再び強い寒気が押しよせてくるという。
大相撲初場所を観て来たという人から
つきぢ松露の玉子焼きを土産に戴く。
そのすれ違いにもうひとりの方から
同じ松露の玉子焼きを戴く。
国技館に近いこともあって
大相撲見物の土産として広く人気がある。
二つの玉子焼きを前にして暫し思案-------------
賞味期限もあることだし
もったいないので知り合いにおすそ分けとなる。
ところで日本の国技大相撲も
あと20年もしたら幕内はほとんど
外国人力士で占められてしまうかもしれない。
今や柔道も寿司も国籍を失くし
そうしていづれ世界は一つになる。
ダンディズム暫し返上着ぶくるる
友人の歯科院で奥歯をいっぽん抜いてもらう。
虫歯ではない。
アサリの殻をうっかり噛んだため根がぐらぐらしてしまった。
この年齢になってもぼくには一本の虫歯もなく
歯医者がおどろくほどである、
これはぼくの唯一誇れることであって
小学5年生のとき
歯のコンクール郡大会で入賞し
一年分の歯磨き粉を賞品に頂いた。
母親がなかなか贅沢〈グルメ〉なひとで
ぼくを身ごもっているときも
トンカツを食べに度々隣町まで出かけていったそうだ。
昭和16・7年のころ
そのような勝手は許されない社会情勢の中でも
世間知らずの母は食べたいものを自由に食べていたようだ。
そのお蔭もあって丈夫な歯が作られたのだと思う。
「抜いた歯はねんごろに処分させて戴きます」 と
笑いながら歯医者がジョークを飛ばしたが
思えば、この奥歯は母から譲りうけたもの・・・・・・
粗末に放り棄てられては確かに申し訳ないような気がする。
従弟が今日、フランスに帰っていったが
さよならはいつだって寂しいものだ。
いのちとは丸きものなり寒卵
病院からの帰り道、警察官に停止させられた。
いつも通るところで、いつものとおり走っていたので
停められた理由がしばらく判らなかった。
21kmのスピード・オーバー、
その場で違反書に署名させられて
15000円の反則金となる。
腰痛治療の効果に浮かれていたらしく
もし、停止されずにそのまま走っていたら
大きな事故に遭っていたかもしれない。
ここでも誰かに守られたような気がしている。
第44代米国大統領の就任式が迫っている。
200万の人々がワシントンの米国連邦議会前に集まってくるという。
これほど大きな注目と期待を浴びる大統領は
米国史上でも稀な方ではないだろうか。
善きにつけ悪しきにつけアメリカの問題は世界の問題であり
オバマ新大統領は果たして世界の救世主になりえるだろうか。
まさしくChange・・・・・
今、この地上の人類に偉大な変化のときが到来している。
これまでの価値観や常識では人類の生存が成り立たないような
全く新しい『第4の波』がやってくるだろう。
大寒の山一市二町をふところに
人ごとにご馳走し、
更に継ぎ足していくうちに
おでんの汁が一流店をしのぐほどの深い味わいになってきた。
料理には足すことで深まる味わいと
引くことで高まる味わいがある。
----------思えば人生も然り
なにもかも貪欲に吸収して深まっていく時代と
そぎ落とし、そぎ落として高まっていく時代。
さても人生の第四楽章をどう演奏しようか
おでんのような煮込みの人生は
もはや沢山のような気もする。
シンプル イズ ビューティフル
-------引くことの人生。
わずらわしい下世話の事柄には関わりを持たないように
静謐で孤高の世界。
若葉を吹いてくる風の囁きに耳を傾け
落葉の辛夷の幹を滴る雨の祈りに心を寄せ
ひたすら流れ消え行く雲の行方に人の生涯を重ね見て
大根という存在そのものの醍醐味を知りたいと思う。
駄菓子まころんを齧りながらラフマニノフを聴いていると
一編の穏やかな詩が生まれそうな気がしてくる。
大根やあかぎれの母夢のごとし