ベンベエの詩的つぶやき

世の中をちょっと斜めに見て・・・

大恩人

2020-05-04 19:50:22 | 日記・エッセイ・コラム
もう随分と昔のことですが、
ぼくが大学一年生の時 新宿御苑で子犬を拾った。
拾ったというよりも飼主から水をかけっられたりして邪険に扱われていたものを貰い受けたのである。
赤毛がふさふさの雑種。ゴンと名付けて田舎の両親に預けた。イタリアの有名なスピッツだという触れ込みが
犬嫌いの両親も大切に育ててくれた。

バリバリバリバリ、騒々しい音をたてながらバイクがわが家の前を通り過ぎる。
小さなバイクに巨漢の農夫。ゴンは狂ったようにバイクを追いかける。
「こんちくしょう!」汚れた長靴でゴンを蹴とばす。ゴンはさらに激しく吠えながらバイクを追いかける。

ある日、あるをその農夫が通りがかったとき
見覚えのある犬が柿の木に縛られているではないか。
近寄って首輪の裏を見ると「山一」という文字が微かににじんでいる。
大鍋には湯がたぎり、いよいよ酒盛りの準備が整っている。
「おい おい、お前らこの犬を食ったら大変なことになるぞ。これは山一の犬だぞ」
男たちは慌てて縄をほどきゴンを解放した。
山一とはわが家の屋号であり小さな町なので知らないものはいない。
当時、犬はどこでも放し飼いで
一里半先の祖母の家を往還するのがゴンの日課であった。
その工程の途中でかなりの種をまき散らしたようで
しばらくはゴン似た犬をあちこちで見かける。

次の日からバリバリバリバリ例のバイクがやってくると
ゴンは千切れんばかりに尻尾をふってバイクの後を追いかけた。
以来15年の天寿を全うした。