2021/05/21
ブレイディみかこさんの『ブロークン・ブリテンに聞け』のなかに、デヴィット・グレーバーの興味深い本が紹介されていました。
『ブルシット・ジョブ ークソどうでもいい仕事の理論』デヴィット・グレーバー著(岩波書店 2020年7月刊)です。
読んでみたいと思って地元の図書館で検索してみると、なんと既に85件も予約が入っていました。私は知りませんでしたが、注目されている本だったのですね。
一応予約を入れておきましたが、手元に届くまで1年くらいかかりそうです。
ここでは『ブロークン・ブリテン~』から、この本の内容について書かれた部分を引用させていただきます。
〈引用〉
デヴィット・グレーバーは、世の中からなくなっても誰も困らない仕事のことを「ブルシット・ジョブ(どうでもいい仕事)」と呼んだ(彼によればそれはホワイトカラーの事務・管理職だ)。ということは、外出禁止令の最中でも出勤を求められているキー・ワーカーたちは、「ブルシット・ジョブ」ではない仕事をしていることになる。(p.192)
デヴィット・グレーバーが新しい階級の概念を政治思想の議論に持ち込んでいる。彼が持ち込んでいる階級のコンセプトは、使い古された「上」と「下」ではない。「ブルシット・ジョブ」と「ケア階級」の構図だ。(p.196)
現代社会は存在しなくとも誰も困らない仕事で溢れていると書いた。管理、人事、広報、情報管理などの20世紀に増えた雇用の殆どは、やっている本人たちにもやる意味がわからない仕事で、一定の時間を埋める(時には上司の目を気にして残業する)ために無意味な仕事を作り続けているという。
それに対し、世の中にはダイレクトに他者の役に立つ仕事もある。ロックダウン中に英国では「キー・ワーカー」、米国では「エッセンシャル・ワーカー」と呼ばれてコロナ禍のヒーローとして称賛された人々の仕事だ。医療関係者、介護士、教員、保育士、ゴミ収集員、スーパー店員、バス運転手、消防士、警察官などの職業がこれにあたる。(p.196)
一般に、医師などの少数の例外を除けば、これらの仕事は英国では「シット・ジョブ」と呼ばれてきた。シット(=クソ)である。体を使う大変きつい仕事なのに最低金金ギリギリの低い賃金しかもらえないからだ。最も報われない仕事として、正真正銘のクソ仕事と呼ばれてきたのだ。オンライン化することのできない仕事だ。
今回のコロナ禍で、社会において尊敬されるべきなのは、報われない本物のクソ仕事をしてきた「ケア階級」だという価値観の転換が起きた。これまでの、労働者階級が資本家階級に向かって拳を突き上げるという階級闘争ではなく、「誰が意味ある仕事をしているのか」という価値観に基づいた階級の逆転である。
数か月前まではあり得ないはずだったこの概念の転換は、ある意味で、すで革命だ。
英国でテレビを見ていると、セレブリティや一般の人たちが、キー・ワーカーたちに「ありがとう」を言う動画が何度も流れる。(2020年7月号) (p.197)
・・・・・
日本でも、コロナ禍で「エッセンシャル・ワーカー」という新しい言葉を耳にするようになりました。そういう概念があるということを、私はコロナによって知りました。
みんな感染の危険がある職場で働いていることは、大変にありがたいと思ってきました。こういう仕事のひとつでもなくなると、私たちの生活はとても困ります。
本の紹介文には、
【なぜ社会の役に立つ仕事ほど低賃金なのか。私たちの世界をむしばむブルシット・ジョブ(クソどうでもいい仕事)の実態と弊害とメカニズムを、証言・人文知等を駆使しながら解明、理論化。仕事のほんとうの「価値」を再考する。】と、あります。
なぜ社会の役に立つ仕事ほど低賃金なのか、という言葉は胸に刺さりますね。