2020/11/20
ヤマザキマリさんはほんとうにおもしろい。
テレビで時々拝見するが、お話もおもしろいし、書くものもおもしろい。だからテレビに出るのが前もってわかれば見てしまうし、本が出れば読む。そして、いつも裏切られることがない。
今回読んだのは『パスタぎらい』。
食文化に関するエッセイで、海外の食べ物、海外にいたら自分が食べたくなる日本食などが肩の凝らない文章で綴られている。
「イタリアに暮らし始めて三十五年。断言しよう。パスタよりもっと美味しいものが世界にはある! フィレンツェの絶品「貧乏料理」、シチリア島で頬張った餃子、死ぬ間際に食べたいポルチーニ茸、狂うほど愛しい日本食、忘れ難いおにぎりの温もり、北海道やリスボンの名物料理……。
いわゆるグルメじゃないけれど、食への渇望と味覚の記憶こそが、私の創造の原点――。胃袋で世界とつながった経験を美味しく綴る食文化エッセイ。」
この紹介文を見ただけで読みたくなる。
確かにマリさんはいわゆるグルメではないらしい。三ツ星レストランで、なにを食べたとか、そういうことは書いていない。その土地に暮らす人々が日常好んで食べているものが題材だ。
イタリア人と結婚してさまざまな国で暮らし、世界中を旅しているマリさんならではの経験の豊かさが話題の豊富さにつながる。
海外で食べたくなるものとして、ラーメンと書いてあれば、私もラーメンが食べたくなり、寿司と書いてあれば、寿司が食べたくなり、おにぎりとあればおにぎりが食べたくなる。
書いてる食べ物がおいしそうに思えて、欲しくなってしまうのだ。私の共感力が高いのか、いや、単なる食いしん坊なのか…
実際に私は昼ごはんはラーメンにしようと思って、スーパーに生ラーメンを買いに行った。マリさんが貧乏時代に食べ過ぎたせいであまり好きではないというペペロンチーノも、おいしそうに思われて作ってしまった。
興味をひいたものをひとつ紹介すれば、それはイタリア人のオリーブオイルへのこだわり。イタリアではどんな料理にも、サラダにも、煮込みにも、パスタにもオリーブオイルを使う。
使う品物が決まっていて、マリさんの夫の実家では、2世代前からお世話になっている農家で分けてもらっているそうだ。
「どんな高級で高いオリーブオイルを買っていっても、それで喜んでくれるわけではないのである。」「もし、普段使っているものが入手できない場合は、せめていつも使っているのと同じ生産地域のもの、それは厳しければせめてイタリア国内のもの、という優先順位になるだろう。」P.86
これはわかる。日本人なら味噌、醤油というところだろうか。私は味噌、醤油は特にどこのものというこだわりはないが、こだわっているのは日本茶。
「あとがき」に「古今東西の食文化の比較や考察をイメージしながら書き始めたエッセイ、もしあなたの口の中に涎があふれ出てくるような効果があれば、それはあなたの想像力を経由して、私の伝えたかった思いが届いたという証である」と書いてあるが、まさしく、伝えたかった思いが届いていると思う。