住職のひとりごと

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本堂の両部曼荼羅について

2018年09月09日 13時39分57秒 | 仏教に関する様々なお話
この度、写真にあるように、大覚寺所蔵の両部曼荼羅(複製)を國分寺本堂にお祀りしました。今年七月六日に搬入され、八月十三日に本堂正面左右奥の壁上部に取り付けられました。約百六十㎝四方の額装仕立で、壁の上から下まで覆っています。

この両部曼荼羅は、この十月に京都大覚寺で嵯峨天皇御宸筆の勅封般若心経写経が御開封され法会が行われますのを記念して、特別限定にて複製されたものです。大覚寺で伝法灌頂など大切な儀式に際して荘厳として設えられる曼荼羅であり、仏様の衣などの特徴から江戸時代の製作ではないかと推定されています。明るい色使いで、一尊一尊の仏様も大きく、名前がすべてに標示されています。

そもそも、曼荼羅・マンダラとは、インドの言葉で、円、球形、輪、軌道、壇、集団、本質などを意味します。神さまをモチーフに円や線を用いて描いた幾何学的な図像をインドではマンダラと称してヒンドゥー教などで広く用いられてきました。

仏教徒にとっての究極の目的は悟りですが、悟り、ないし悟った人を言葉や図像で表現することは出来ないとされてきました。しかし時代を経て、仏像が現れ、お釈迦様以外にたくさんの仏様を発生させる教えが生まれていきます。その仏様方を教えに基づき規則的に配置することにより集合的な仏様の世界観ができていき、さらに仏様の悟りの世界を具象化して表わす曼荼羅が誕生しました。それは実際に修行者が前に置いて観想し瞑想修行する対象としても用いられるものでした。

弘法大師が唐から持ち帰られた曼荼羅に、胎蔵曼荼羅、金剛界曼荼羅があります。これを両部曼荼羅といって、真言宗寺院では一対として御堂に祀ることになっています。この度本堂に祀られた曼荼羅も大覚寺所蔵の金胎一対の両部曼荼羅であります。

胎蔵曼荼羅は、その名の如く母胎が胎児を守り育み、月満ちて元気な子を生み出すように、如来が大慈悲により生きとし生けるものを産み育て、さらに仏心をその子の心に育成していく如来の大慈悲の本質を表しています。 

そこで曼荼羅の中央に、大慈悲を表す蓮を描き、その中心に大日如来、八葉の蓮華の上に四仏(宝幢仏・開敷花王仏・無量寿仏・天鼓雷音仏)と四菩薩(普賢菩薩・文殊菩薩・観音菩薩・弥勒菩薩)を配しています。これを中台八葉院と言い、その周りを持明院、遍知院、釈迦院などと名付けられたグループ分けされた二百尊を超える仏様方が縦横に四重に取り囲む構造になっています。

大慈悲を智慧と慈悲に分けて展開し、教えをこの世に実証されたお釈迦様とその弟子たちの集まりや、その智慧の目を開くための仏様方、自我の執着を取り除く仏様方、またいかなる苦難をも耐える仏様方、宇宙大の福智を身につけた仏様方など内から外へと大慈悲の仏心が展開されていく様子が描かれています。

次に、金剛界曼荼羅は、金剛石の如くに堅く、何ものにも砕かれることのない、大日如来の永恒に不滅の宇宙大生命そのものを表しています。そのいのちは白色の円、白浄の満月輪によって表現されており、そこにはすべてを包み込む永遠なる命と、生きとし生けるものに平等に価値あるものを与え、それぞれに適切な慈愛を以て育み、それぞれに応じた働き行動を起こす四つの智慧がそなわるとされます。

金剛界曼荼羅は、普通縦横三つずつに分け全体で九つの区画に分けられた九会になっていますが、この度の大覚寺所蔵の金剛界曼荼羅は、九会の中心をなす成身会という区画のみを大きく拡大させた一会の金剛界曼荼羅です。大きな白い円・月輪の中に、中心と上下左右に五つの月輪があり、それぞれの中にさらに五つの月輪が描かれています。

中心には、四人の波羅蜜菩薩に取り囲まれた大日如来が位置し、この曼荼羅では東にあたる下部には阿閦如来、南にあたる左側には宝生如来、西にあたる上部には無量寿如来、北にあたる右側には不空成就如来が位置しており、これら四仏の上下左右にそれぞれ四菩薩が配され、つごう十六の菩薩たちが取り囲み、それぞれの如来の徳を成就する役割を与えられています。

中心の大日如来の悟りの智慧が四仏に展開し、その四仏がそれぞれ四菩薩を生み、さらに大日如来と四仏とが供養し合い、大日如来の大生命が限りなく開き広がっていく様子を七十尊余りの仏様方によって表しています。そして、それはすなわち万物が相助け合い尊重し合い繁栄するという宇宙全体の理想的な姿を示すものでもあります。

曼荼羅の中に描かれた仏様は様々で、よく存じ上げている仏様もありますが、聞いたこともない難しい名前を持つ方も大勢おられます。

國分寺のご本尊お薬師様は、釈迦如来と同体とのことで、残念ながらこの両部曼荼羅の中にはおられません。釈迦如来は、胎蔵曼荼羅の中台八葉院の上二段目に釈迦院があり、その中央に四尊の侍者に囲まれ、説法の印を結び蓮華にお座りになっています。

お薬師様の脇侍の日光菩薩は、胎蔵曼荼羅地蔵院の一番下、月光菩薩は、胎蔵曼荼羅文殊院の左中央に描かれています。

各家の仏壇の本尊様である大日如来は、胎蔵曼荼羅では、中台八葉院の中心に位置して五仏の冠を戴き髪を垂れ、条帛という布をまとう菩薩形で、臍の前に右の掌を左の掌の上に置き両親指を軽く着ける法界定印に住しています。

金剛界曼荼羅では、中央の月輪の中心に位置し、五仏の冠を戴き結髪を肩に垂れ天衣を肩から腰にめぐらし、胸の前で上に伸ばした左手の人差し指を右手の五指でまとう智拳印を結んでいます。

また、阿弥陀如来は、無量寿如来との名で、胎蔵曼荼羅では中台八葉院の西にあたる下の八葉に描かれ、金剛界曼荼羅では中央大日如来の月輪の西にあたる上の月輪の中心に描かれています。両手の親指人差し指を着けて臍の前で左右を合わせる弥陀の定印を結んでいます。

不動明王は、胎蔵曼荼羅の中台八葉院のすぐ下の持明院の一番右に大きな火焰に取り巻かれたお姿で描かれ、観音菩薩は、胎蔵曼荼羅中台八葉院の八葉の中の北西にあたる左斜め下に描かれています。

観音菩薩はこの他、釈迦院、文殊院にもそれぞれ主尊の脇侍として描かれている他、中台八葉院のすぐ北にあたる左の蓮華部院には、聖観音、如意輪観音、不空羂索観音、馬頭観音、白身観音など変化観音二十一尊が描かれています。

個々に見ていっても誠に興味深い曼荼羅ではありますが、それぞれ迫力ある曼荼羅全体から発せられるメッセージ、あるいは力を受け取っていただくことも一つの鑑賞の仕方ではないかと思います。美術作品ではありませんが、どちらが好ましく思われるか、でもよいかと思います。

胎蔵曼荼羅は仏様の慈悲の温もりを表現しています。大きな曼荼羅の前に立ち、あたたかい母胎から生まれ出るようなやさしい慈悲の息吹を感じてみてください。悩み事があったり、心ふさがれ落ち込んでいるようなとき、この曼荼羅を眺めているだけで、ふと心晴れやかに穏やかになっていることに気づかれることでしょう。

金剛界曼荼羅は仏様の智慧の輝きを表現しています。大きな月輪の仏様方を前にすると、自然とそれらが立体的に躍動する様子が立ち現れてまいります。日々の生活に疲れ、力失っているようなとき、またこれからどうしたらよいか展望を見失っているようなとき、この曼荼羅を心に思い描くだけで、心の中に確たる力がみなぎってくることを実感されることでしょう。

私たちはみんな、ひとり一人いずれは仏になるために尊いいのちを授かっています。未来の自分がそこにあると思い、しばし目を閉じ、曼荼羅の中にいる自分を思い巡らしてみるのも面白いと思います。是非お参り下さい。
 

追記 十三仏の曼陀羅上の位置について

 初七日忌の本尊・不動明王は、胎蔵曼荼羅の中台八葉院のすぐ下の持明院の一番右に大きな火焰に取り巻かれたお姿で描かれています。
 二七日忌の本尊・釈迦如来は、やはり胎蔵曼荼羅の中台八葉院の上二段目に釈迦院があり、その中央に四尊の侍者に囲まれ、説法の印をした釈迦如来が蓮華にお座りになっています。
 三七日忌の本尊・文殊菩薩は、胎蔵曼荼羅の中台八葉院の八葉の西南にあたる右斜め下と釈迦院の上にある文殊院の中央二ヶ所に大きく描かれています。金剛杵を乗せた蓮を左手に持ち右手に経巻を持つ姿で、大きな蓮花の上に座られています。
 四七日忌の本尊・普賢菩薩は、文殊菩薩同様に、中台八葉院の八葉の中の南東にあたる右斜め上と文殊院の文殊菩薩の右上の二ヶ所に描かれています。左手には剣を乗せた蓮を持っています。
 五七日忌の本尊・地蔵菩薩は、胎蔵曼荼羅の中台八葉院の左二段目の縦長の地蔵院の中央に描かれています。右手に宝珠を持ち、左手には宝珠のついた憧旛を立てた蓮華を持っています。
 六七日忌の本尊・弥勒菩薩は、胎蔵曼荼羅中台八葉院の八葉の中の北東にあたる左斜め上に描かれ、右手に瓶をのせた蓮華を持ち左手は施無畏の印、宝冠に宝塔を戴いています。
 七七日忌の本尊・薬師如来は、釈迦如来と同体とのことで、残念ながら両部曼荼羅上にはお姿を見ることは出来ません。
 百か日忌の本尊・観音菩薩は、胎蔵曼荼羅中台八葉院の八葉の中の北西にあたる左斜め下に描かれています。右手に蓮華を持ち左手は施無畏の印、宝冠には無量寿如来が戴いています。観音菩薩はこの他、釈迦院、文殊院にもそれぞれ主尊の脇侍として描かれている他、中台八葉院のすぐ北にあたる左の蓮華部院には、聖観音、如意輪観音、不空羂索観音、馬頭観音、白身観音など変化観音二十一尊が描かれています。
 一周忌の本尊・勢至菩薩は、胎蔵曼荼羅の蓮華部院の右上から二つ目に描かれています。右手は親指以外の指を屈して胸に当て、左手は半開の蓮華を持っています。
 三回忌の本尊・阿弥陀如来は、無量寿如来との名で、胎蔵曼荼羅では中台八葉院の西にあたる下の八葉に描かれ、金剛界曼荼羅では中央大日如来の月輪の西にあたる上の月輪の中心に描かれています。袈裟を身につけ、両手の親指人差し指を着けて臍の前で左右を合わせる弥陀の定印に住しています。
 七回忌の本尊・阿閦如来は、金剛界曼荼羅の中央大日如来の月輪の東にあたる下の月輪の中心に描かれています。袈裟をまとう如来形で、肌は青色、右手は膝にかぶせ地に着け、左手は拳にして臍の前に置いています。
 十三回忌の本尊・大日如来は、胎蔵曼荼羅では、中台八葉院の中心に位置して五仏の冠を戴き髪を垂れ、条帛という布をまとう菩薩形で、臍の前に右の掌を左の掌の上に置き両親指を軽く着ける法界定印に住しています。金剛界曼荼羅では、中央の月輪の中心に位置し、五仏の冠を戴き結髪を肩に垂れ天衣を肩から腰にめぐらし、胸の前で上に伸ばした左手の人差し指を右手の五指でまとう智拳印を結んでいます。
 最期に三十三回忌の本尊・虚空蔵菩薩は、胎蔵曼荼羅の中台八葉院の西にあたる下二段目の虚空蔵院の主尊として、頭には五仏の冠を戴き、右手は剣を持ち左手は上に宝珠を置く蓮華を持ち、また釈迦院の主尊釈迦如来の脇侍として描かれています。以上


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