活版印刷紀行

いまはほとんど姿を消した「活版印刷」ゆかりの地をゆっくり探訪したり、印刷がらみの話題を提供します。

ルリユールサロンで藤田嗣二の挿絵本

2013-12-05 10:16:44 | 活版印刷のふるさと紀行
 ルリュールについてはご存知の方が多い筈ですが、フランス語で手仕事の工芸的な製本を指します。本場フランスでルリユールを学んだ3人の製本作家と一人の箔押し作家、女性4人の
メンバーからなるレ・フラグマン・ドウ・エムが日本で1点ものの工芸製本で活躍するようになってもう何年にもなりますが、このフラグマンが開催するルリユールサロンは毎回、大変勉強になります。

 その2013年冬のサロンが11月28日から4日間日本橋丸善のワールド・アンティーク・ブゥク・プラザで開催されました。数多くのインキュナブラや現代の豪華本、さまざまな挿絵本をわくわくしながら見て回りましたが、ここでは最終日にあった京都造形芸術大学の林洋子先生のサロンレクチャーが興味深かったのでみなさんに紹介しましょう。

 題して「藤田嗣二の挿絵本と1920年代のパリの出版文化」。私は嗣二装丁の横光利一の『旅愁』を所蔵していたことがありますが、彼が「本のしごと」をこれほどたくさん手がけていたとは知りませんでした。林先生はレクチュャー冒頭で「装幀というものは難しい芸術である。一口で尽くせば、女に衣裳といったぐあいなものである」という嗣二自身の装幀観を披露されましたが、パリでジャポニズムが巻き起こった1920年代に彼が手がけた挿絵本に本を愛し、美術品としての本づくりを目指したパッシオンを感じるといちいち作品例を挙げながら熱っぽく語られました。

 とくに私は、乳白色の下地を活かした裸婦像が評判になっている最中にアベイユ・ドール社から出た「日本昔噺」のこと、駐日フランス大使ポール・クローデルの挿絵本の話を興味深く聞きました。
 
 林洋子先生の藤田嗣二のレクチャーのあと、私が考えたことは、このところデジタル本の登場などで紙の本の劣勢、出版不況が騒がれていますが、銅版画や木版画などの挿絵の入った活版印刷物の豪華限定本などの企画を実現できないものだろうかということでした。
 書店の平台に山のように積んである本づくりから、もう一度、美術品としての本づくりを狙ってもいいのではないでしょうか。


1922年パリのグラン・パレの日本美術展覧会カタログ
        クローデルの著作の「朝日の中の黒鳥」
コメント
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