私的図書館

本好き人の365日

アーシュラ・K.ル=グウィンさん追悼

2018-02-05 18:20:52 | ゲド戦記

私の大好きな作家、アーシュラ・K.ル=グウィンさんが、2018年1月22日、オレゴン州ポートランドの自宅で亡くなりました。88歳。

あ〜、残念。

ル=グウィンさんは1929年生まれ。

代表作に『闇の左手』や『所有せざる人々』、そして日本で映画化もされた『ゲド戦記』などがあります。

『ゲド戦記』は1968年から2001年にかけて出版され、16の言語に翻訳されました。

日本では岩波書店から清水真砂子さん翻訳で全5巻が出版されています。


一巻 『影との戦い』

二巻 『こわれた腕環』

三巻 『さいはての島へ』

四巻 『帰還』

五巻 『アースシーの風』

 

私が大好きなファンタジー小説を三つ上げろといわれたら、『指輪物語』、『ナルニア国物語』と、この『ゲド戦記』を選びますね。

そのくらい私の人生になくてはならなかった物語なんです!!

良心を育ててくれたというか、人生を照らす灯台になってくれたというか、ル=グウィンさんの描く物語好きだった〜

 

昨年の末には、これまた好きだった作家、『蜩(ひぐらし)ノ記』で第146回直木賞を受賞された葉室麟(はむろりん)さんが、66歳で亡くなられたし、もう悲しい。


・・・・・・・・・・・・・・・・。


謹んでご冥福をお祈り申し上げます。


ありがとうございました。



『洟をたらした神』と『ゲド戦記』

2012-12-01 23:31:09 | ゲド戦記

吉野せいさんの『洟をたらした神』(中央公論新社)を買いました。

一度読んだ作品なので、気に入っている箇所を拾い読みしたり、ちょっとした時間にパラパラとめくったり。

中央公論新社版の解説は、『ゲド戦記』などの翻訳で知られる清水真砂子さんが書いてみえて、これが、私にとっては嬉しいサプライズでした。

アーシュラ・K.ル=グウィンの『ゲド戦記』、大好きなんです♪

 

清水さんが、『ゲド戦記』の重要な登場人物、テナーが物語が進んで歳をとり、セリフまわしをどうしようかと考えた時、吉野せいさんのことが頭に浮かんだそうなんです。

『ゲド戦記』はスタジオジブリで映画化されたので、ご存知の方も多いかと思いますが、テナーは主人公ゲドが愛する女性で、顔に火傷を負った少女、テルーと共に暮らしていた女性。

原作では幼い時にゲドによって暗い地下から救い出されるのですが、その時はゲドと結ばれることはなく、田舎の村でひっそりと暮らすことを選びます。やがて成長したテナーは村の女たちと同じようにごく自然に村の男と結婚し、子供を産んで育てます。

月日が流れ、未亡人になったテナーのもとに、魔法の力を失ったゲドが運ばれて来ると、そこでやっとお互いの気持ちを確かめ合い、ようやく夫婦になるのです。

清水さんが迷っていたのは、この子供を育て上げ、未亡人となり、かつて愛した男を迎え入れる中年を過ぎた年代のテナー。

まさかここでル=グウィンと吉野せいがつながるとは思っていませんでした!!

そうか、だからどっちの作品も大好きなんだ!

と一人で納得。

 

他人にはあまり共感してもらえないだろうなぁ(苦笑)

 

でも私の中では嬉しい驚きでした。

解説を読みながら、一人でウキウキしてしまいました☆

誰にもわかってもらえなくてかまわない。

他人にはまったく意味のないことでも、私にとってはとっても意味のあることなんです。

 

あー楽しい!

 

 

 

 


『ゲド戦記』公開記念スペシャル!

2006-07-29 12:55:00 | ゲド戦記

いよいよジブリ映画『ゲド戦記』が公開されましたね♪

絶対観に行きます!

ジブリ作品ってこともありますが、『ゲド戦記』のファンだから☆

映画化で原作の『ゲド戦記』が注目されることが嬉しい♪

テレビでは『ゲド戦記』のことを『指輪物語』や『ナルニア国ものがたり』に並ぶ三大ファンタジー、なんて紹介していますが、そんなこと初めて聞いたなぁ(笑)

だったらもっと早く取り上げてくれれば良かったのに☆

原作『ゲド戦記』は美辞麗句をそぎ落としたシンプルな文章が魅力!

派手な戦いも、悪の魔王も、勇者や正義の味方も登場しないけれど、だからこそ、登場人物たちがすごく身近に感じられます。

すべてのものに”真の名”が存在する『ゲド戦記』の世界。

木々や草花、物言わぬ石ころから、羊やヤギといった動物たち、そしてもちろん人間にも、普段呼び合っている名前とは別に、そのもの本来の”本当の名前”というものがあるのです。

『ゲド戦記』では、その”真の名”を知る者が魔法使いとして登場しますが、それは不思議な力を操る者、というよりも、私たちを包んでいる皮膚や血肉を通り抜け、魂そのものとなったその存在に優しく語りかけて協力を求めるようなもの。

そこには一種の精神の一体感のようなものがあります。

もっとも、そんな魔法使いばかりではなく、強制的に相手を支配しようとする者もいて、それが様々なゆがみを生じさせるわけですが、それは視点を変えれば、自分自身についても言えること。

自分自身の心の声に耳を傾けず、自分を偽り偽者の名前を名乗る者は、やがて自分自身のせいでゆがんでしまうのではないでしょうか。

この”真の名”に代表される世界観に加え、『ゲド戦記』に登場する人物は、これまたみんな魅力的♪

主人公のゲドが救い出す異国の少女も、役柄からいって当然ヒロインになるべきところなのに、浮世離れした人物にはせず、ちゃんと結婚させて子供も産ませ、主婦として生きたのちに、年老いたゲドとようやくいっしょにさせたりする☆

ゲド自身にしたって、数々の冒険をこなし、大賢人にまでなるのに、生まれ故郷で畑や家畜の世話をしながら愛する人と静かに暮らす生活を選ぶあたり、とても一般的なファンタジーの主人公とは思えない。
(しかも物語のクライマックス、家で待ってるだけ!)

でも、これが『ゲド戦記』らしいところ。

みんなちゃんと大地にしっかり足がついている☆

この年とってからのゲドがまたシブくてイイんです♪

映画は映画で楽しみだけれど、この機会にぜひ原作の『ゲド戦記』にも触れて欲しい。

そして一人でもファンが増えたら嬉しいな(^^)





五月の本棚 3 『ゲド戦記外伝』

2005-05-29 21:44:00 | ゲド戦記

名前って、不思議だと思いません?

大勢の中から、あなただけを振り向かせることのできる言葉。
たくさんある言葉の中でも、あなただけに意味のある組み合わせ。

名字で呼ばれるよりも、名前で呼ばれたほうがドキッとしませんか?
それが好きな人ならなおさら☆
ちょっと嫌な人なら「なんであなたが名前で呼ぶ!?」と激怒!

それは、体みたいに、もう自分自身の一部。

もし、そんな名前の力を利用して、その人自身を操れるとしたら?
あなたを振り向かせる「言葉」を、「魔法」と言い替えてみたら?

実際、昔から呪詛や呪いのたぐいには、名前が重要な役割を果たしてきました。
そのために、西洋では王侯貴族が長ったらしい名前を付けるようになったとか。
日本でも呪いのワラ人形なんかがいい例ですね。

何年か前には、うちの近所の神社でもワラ人形が見つかったし。
(近所のおじさんの名前が書いてあった!)

さて、今回は、そんな名前の力を扱ったファンタジー小説。

アーシュラ・K・ル=グウィンの『ゲド戦記外伝』をご紹介します☆

この世界に存在するあらゆる物には、隠された「真の名」がある。
それを知っていれば、その本質を正しく知ることができ、その気になればそれを操ることができる。

航海では風を操り、農場では羊を集め、時に人の心さえも自在に操る。
これがこのアースシー世界の魔術の基本☆

人々も、ある年齢に達すると、魔女や魔法使いに頼んで、自分の「真の名」を教えてもらいます。

それはその人の胸の奥にしまい込まれ、本当に信頼する人にしか明かされません。
中には、妻の本当の名前を知らないなんてことも♪

本編の「ゲド戦記」は、

一巻 『影との戦い』
二巻 『こわれた腕環』
三巻 『さいはての島へ』
四巻 『帰還』
五巻 『アースシーの風』

という構成になっています。

主人公ハイタカ(真の名を「ゲド」)が、ローク島の魔術学院で学ぶうち、傲慢ゆえに呼び出してしまう名を持たぬ自分の分身「影」。

長い間、ふたつに分かれたままだった平和の象徴「エレス・アクベの腕環」をひとつにすべく、名なき者たちの支配する墓所に入り込んだゲドが出会う少女、アルハことアチュアンの巫女テナー。

やがてロークの大賢人となるゲド。
アースシーに忍びよる災いの兆しに、若き王子アレンと共に、竜の道にむかう彼が出会う、人間の欲望と、偉大な竜。
そして、生と死をへだてる石垣…

アースシーを治めるハブナーの玉座に、八百年ぶりに新しい王が坐り、故郷のゴント島に力を使い果たしてたどり着いたゲドを迎えてくれた、いまや主婦となり、母となったかつてのアチュアンの巫女、テナー。
そして、火の中に投げ入れられた哀れな子供テハヌー。

しだいに変貌する世界で、竜が再び内海に現れ、魔術の根源、人間と竜の関係がひも解かれ、テハヌーの前に新たな世界が開け、古き時代が終わりを告げる。
死さえへだてることのできない愛。
信頼と、長い年月が育む成熟した愛。
そして、新しく芽生える若々しくもかたくなな愛。

様々な冒険の末、ゲドの物語は、第五巻『アースシーの風』で幕を閉じます

人間の欲望と希望。
死への恐怖や心の弱さ、それに立ち向かう人の強さ。
荒れ狂う多島海(アーキペラゴ)の波のように、ファンタジーの世界を借りて展開する、波乱と冒険の物語は、各巻ごとに様々な魅力を見せてくれて、ついつい引き込まれてしまう☆

今回の『ゲド戦記外伝』は、四巻と五巻の間に出版され(日本では五巻の後)、ローク島の魔術学院がどうやって作られたか、ゲドの師匠オジオンがゴント島を地震からいかに救ったか、そして四巻と五巻をつなぐ重要な物語、女人禁制の魔術学院に入り込んだ不思議な力を持つ女性の話など、本編を補って余りあるほどの物語の数々が収録されています♪

ル=グウィンの魅力は、ゲドのしぶさもさることながら、登場する女性達の生き方!

魔法の力を持ちながら、正式な魔法使いになれない魔女と呼ばれる女達。

神に仕える巫女として、人格さえも認められず、生き方さえ選べない少女。

もちろん「真の名」に代表される、この世界独特の魔法や、かつて人間と同じ種族だったと言われる竜の存在。美しい海と、語りかけてくるローク島のまぼろしの森など、自然や生活に根付いた描写もこの物語の魅力♪

大きな戦乱や、派手な戦いはないものの、読み終わったあとで、何かが心の中で燃えているような気がする、そんな物語☆

私達も、知らず知らずのうちに、力のある言葉を使っている時があります。

それは、時に人を傷つけたり、自分自身をさいなむ時もあるけれど、人の心に明りを灯し、温かい感情で満たしてくれる時もあるはず。

大切な人を名前で呼ぶ時、そこにどんな思いを込めますか?

その言葉は、相手の心に届いていますか?

自分の心から出た言葉でないと、相手の心には通じません。
それは、「真の名」が、教わるのではなく、自然に口をついて出てくるのと同じ。

もし、相手の心と触れ合えたのなら、そんな時、あなたは魔法を使っているのかも知れませんよ☆






アーシュラ・K・ル=グウィン  著
清水 真砂子  訳
岩波書店




 ゲド戦記 補足

2003-06-14 08:13:00 | ゲド戦記
前回、アーシュラ・K・ル=グウィンの「ゲド戦記」をご紹介しましたが、二日後、本屋でとんでもないものを発見してしまいました。

「アースシーの風 ゲド戦記Ⅴ」

帯には「待望の最新作」の文字。
奥付を見ると、今年の3月に第一版が刊行されている。

し、知らんかった。
だって、第四巻に「最後の書」って書いてあったんだもん。

イヤ、嬉しいですよ。店頭でその本を見つけた時、驚愕と共に、(また読める!)という歓喜の感動で、立ち尽くしてしまいましたから。

第三巻での戦いで、魔法の力を失ったゲドは、第二巻で救い出された闇の主の巫女、テナーと共に、故郷ゴント島で普通の人間として生きていくことを決意します。そこにいたるまでのゲドと、テナーの等身大の女性としての葛藤を軸に、竜と人間の関わりを描いた第四巻。確かに、すべての謎が説明されたわけじゃなかったけれど、誰もがこれで完結だと思ったはず。

今、第五巻のページをめくっています。

…お、おもしろい。

第四巻から十一年もたってからの刊行とはとても思えない。
さらに、来年(2004年)にはゲド戦記の外伝ともいうべき短編集「TALES FROM EARTHSEA」が読める予定だとか。

どうしたんだル=グウィン?
こんなに嬉しいニュースが続いていいの?

…それもなんで紹介した二日後に?
一週間前だったら、もう少し書き様があったのに。

と言うわけで、番外的に補足を付けるしだいとなりました。
さらに今月(六月)発売の白泉社の雑誌、月刊「MOE(モエ)」七月号の紙上に、完結記念「偉大な魔法使いゲドの世界」と題した「ゲド戦記」の特集記事が載っています。作者のル=グウィン氏からのメッセージもありますので、興味のある方はこちらも読んでみてはいかがでしょう。そう、第五巻で「ゲド戦記」は完結してしまうらしいのです。しかし、もう私は信じません。たとえどんな結末を迎えるにしても、アースシーの世界は、姿を変え、別の物語となって、私達の前に現れることでしょう。

私達が竜と魔法の物語を待ち望む限り。

では、「MOE」の魔法図書館で取り上げられていた、有名なファンタジーの一節を借りて、今回はお別れです。

「あなたの最後の望みが、あなたを導いてくれます。それをなくしてはだめよ!」









アーシュラ・K・ル=グウィン  著
清水 真砂子  訳
岩波書店

六月の本棚2

2003-06-07 00:38:00 | ゲド戦記
ある音の組み合わせに、不思議な力があると言ったら、皆さんどう思います?

例えば名前。
自分の名前を呼ばれた気がして、つい振り返ってしまったなんて経験は誰にでもあるはず。悪口や誉め言葉だって、自分の名前がはいると、はいらないとでは大違い。人を傷つける音の組み合わせや、癒す組み合わせ。様々な組み合わせが人に影響を与え、そして人を操れるとしたら。
私達が『言葉』と呼んでいる体系を『魔法』と言い換えてみれば、その力にあらためて気が付くはず。大勢の人の中から、あなただけを振り向かせることのできる呪文だなんて、素敵だと思いませんか。

今日ご紹介する本は、そんな『名前』の持つ、特別な力をあつかったファンタジー、

アーシュラ・K・ル=グウィンの「ゲド戦記」です。

ダニーと呼ばれる少年は、大魔法使いオジオンにより、十三才で名前を取り上げられ『真の名』を告げられます。それが彼の名、「ゲド」です。
ものには、他のものと区別するために私達が勝手につけた「通り名」と、そのものが本来持っている「真の名」があり、その真の名を知っていると、そのものの本質を正しく知っていることになり、それを操ることができる。
これが、この世界の魔法です。ですから、万一敵にでも知られたら一大事。

ゲドは、魔術の才能を見込まれ、魔術の学院で学ぶことになりますが、ゲドの負けん気の強さが災いして、彼は『影』を呼び出してしまいます。『影』は闇に属する「名なき者」。しかも『影』はゲドの「真の名」を知っている。さあ、名前を持たぬ者とゲドはどうやって戦うのか?

ゲドのアースシー世界での冒険は、彼を魔法使いとして、そして人間として大きく成長させていきます。
手に汗握る展開だけではなく、冒険の道中の描写や街の様子が、独特の異世界の雰囲気を醸し出していて、この物語に美しい奥ゆきを与えているのも魅力のひとつ。

第一巻の「影との戦い」、第二巻「こわれた腕輪」。第三巻「さいはての島へ」。そして、最後の書「帰還」と物語は進んでいきます。

名前は昔から重要視され、今でも、その力は衰えていないと思うのですが、いかがですか?

それは言葉にも言えること。
言葉には意味があります。
その人に触れることなく、傷つけることのできる「力」のある言葉の使用にはご注意を。
どこかであなたの『影』が目を光らせているはず。
そして逆に言えば、どんなに美辞麗句を並べてみても、あなたの胸の奥から出た言葉でないと、相手には通用しないということでは?

小学生高学年から読める丁寧な作りになっています。もちろん、大人の方でも十分楽しめます。

さあ、あなたもアースシーの世界で胸躍る冒険に出かけてみませんか?








アーシュラ・K・ル=グウィン  著
清水 真砂子  訳
岩波書店