お酒を飲む習慣のない私ですが、常に日本酒は買い続けています。
料理に使ったり、風邪を引いた時に飲んだりもしますが、主な目的は献杯のため。
限りあるものに対して、敬意を表するため。
今月、2014年の1月15日。
詩人の吉野弘さんが亡くなりました。
「祝婚歌」や「夕焼け」など、日常のどこにでもある風景にとけ込んだその言葉の数々は、心にとてもしみわたり、近代抒情詩の中でも私の好きな作家さんでした。
「祝婚歌」をドイツで披露したら大変喜ばれたという記事もどこかで読んだことがあります。
正しいことを言うときは
少しひかえめにするほうがいい
正しいことを言うときは
相手を傷つけやすいものだと
気づいているほうがいい
-「祝婚歌」より-
1926年(大正15年)、山形県に生まれた吉野弘さんは終戦後、茨木のり子さんらの「櫂」に同人として参加、その後詩作活動を続け、晩年は静岡県で暮らしていたそうです。
電車の中でお年寄りに席を譲る姿を見つめた「夕焼け」は、私も大好きな詩。
いつもの通り、電車では若者が席に座り、老人が立っている。
その中で、お年寄りに席を譲る女性。
一人に譲り、二人目にも譲り、しかし三人目が自分の前に立った時、彼女はうつむいて席を立とうとはしませんでした。
固くなってうつむいて
娘はどこまで行ったろう。
やさしい心の持ち主は
いつでもどこでも
われにもあらず受難者となる。
-「夕焼け」よりー
こんなやさしい視線で人々の日々の暮らしを見つめ続けた吉野弘。
15日夜、富士市の自宅で肺炎のため亡くなりました。
87歳でした。
命についてとやかくいえるほど生きてもいないし、人様に何かいえるほどの経験も積んでいないけれど、吉野弘さん、ありがとうございました。
いちファンでは何もできないけれど、ご冥福を祈り、人知れず献杯させていただきました。
不謹慎かも知れませんが、悲しみで献杯するのではありません。
敬意を表するためです。
ありがとうございました。