私的図書館

本好き人の365日

荻原規子 『RDG レッドデータガール 学園の一番長い日』

2013-05-31 21:57:44 | 荻原規子

東海地方も梅雨入りしました。

しばらくはジメジメした日が続きそうですが、雨の日はとくに嫌いじゃありません。

晴耕雨読。

シリーズ物の第5巻をようやく読み終わりました。

 

荻原規子 著

『RDG レッドデータガール 学園の一番長い日』(角川文庫)

角川書店(角川グループパブリッシング)
発売日:2013-03-23

 

 

 

 

 

 



全6巻シリーズの文庫化第5弾。

現在アニメも放送中。

もう!

主人公の泉水子(いずみこ)が、すごく頼りなくて、すぐにだまされて、すごいお荷物なのがイライラする!(苦笑)

私は自分の足で立つ主人公が好きなので、泉水子みたいなキャラが苦手なんですよね~

泉水子の周りにいる脇役たちも、泉水子の能力に気がついていないという設定なので、全体的に読者を放ったらかして空回りなストーリーが展開している感じ。

無意識に自分からトラブルを起こす、赤ちゃんのようなお姫様のお目付け役、深行(みゆき)くんがかわいそすぎる(笑)

ちゃんと最後にカタストロフィーが起こってすっきりするのかな?

荻原規子さんの昔からのファンとしては、カラスの和宮くんの活躍が少ないのも不満の一つ。

文庫版は次回が最終巻。

期待して待ちたいと思います。

 

その他に読んでいるのは

吉野弘 著 『贈るうた』(花神社)

吉野せい 著 『暮鳥と混沌』(彌生書房)

お二人とも姓が同じなのはまったくの偶然。

現在放送中のテレビアニメ、「ヤマト2199」で登場するため注目されている、中原中也の詩も読み返しています。

 

「山羊の歌」

汚れっちまった悲しみに

今日も小雪の降りかかる

 

 

吉野弘さんにも、こんな詩があります。

「雪の日に」

雪は今日も降っている。

雪の上に雪が

その上から雪が

たとえようのない重さで

ひたひたと かさねられてゆく。

かさなってゆく。

 

さあ、日々ひたひたと重なっていく「日常」という時の重さを感じながら、明日も頑張ろうかな。

 


荻原規子 『RDG レッドデータガール 3 夏休みの過ごし方』

2012-07-28 22:57:22 | 荻原規子

うちの田舎では夏祭りは8月の中旬ですが、地域によってはもう行われているところもあるみたいですね。

小さい頃は浴衣を着て出かけた記憶がありますが、最近は夏祭り自体めっきり行かなくなりました。

子供の頃は食紅で染めたリンゴ飴が欲しくて欲しくて、そのくせ一度も食べきったことがありません(苦笑)

綿菓子も楽しいのは最初のうちだけで、最後はベトベト。

それなのに、今でも楽しかったイメージしか浮かばないのだから不思議です。

クリスマスともお誕生日会とも全然違う。

「お祭り」ってやっぱり特別なんでしょうね♪

 

荻原規子さんの小説、「RDG レッドデータガール」シリーズの文庫版。

その第3巻。

 

『RDG レッドデータガール 3 夏休みの過ごし方』(角川文庫)

 

が発売されたので、さっそく買ってきてすぐさま読みました☆

おぉ! 和宮さとる再登場か!?

物語を読んでいない人には何のことやらわからないでしょうが、ちょっと4巻への伏線みたいな物が見えてきたんですよね!

そうそう、わかってたよ、”彼”は荻原さんの作品によく登場する欠かせないキャラだからね☆

「レッドデータガール」というのは、絶滅の危険のある稀少な少女(この場合は稀少な血、能力を受け継いだ少女)という意味。

神霊や神様、山伏や陰陽師という、日本の神話や古事記なんかを下敷きに、現代に生きる高校生(3巻現在)たちが活躍する物語なんですが、単なる悪者退治とか、不思議な力を使った戦いじゃなくて、登場人物それぞれの心情や感情が繊細に描かれたり、日本古来の風習や神々との付き合い方なんかもサラリと織り込まれていたりして、神話好き、歴史好き、成長する主人公好きな人にとってはたまらない小説♪

もっとも、主人公の泉水子(いずみこ)はかなり天然キャラ(笑)

どうみたって最強キャラで、今いる学園だって彼女のために作られたようなものだし(あくまで推測です)、自分を中心に物語が、というか世界が回っているのにそれに全然気が付いていない感じ。

ま、そこが作者の狙いなんでしょうけどね。

今回は長野県が舞台。

善光寺とか、戸隠れとかが出てきます。

善光寺には行ったことはありませんが、お蕎麦を食べによく長野県には行くんですよね♪

日本を舞台にファンタジーを書かせたら、やっぱり荻野規子さんはうまい!

安心して読めます。

今回も面白かった☆

 

降誕祭だとかハロウィンと聞いても、正直いまいちイメージがわかないのに、「天照大御神」や「天の岩戸」なんて言葉が物語の中に登場すれば、くどくど説明されなくても、少しはイメージできるのは、小さい頃からその物語にいろんな所で触れて来たから。

家の神棚。

近所の神社。

ニュース映像。

マンガやアニメ。

父親のつまらないギャグの中に、日常会話にだって出てきたことがあったかも知れません。

きっと「神様」って言葉に対しても同じ。

日本人の持つ八百万の神々のイメージ。

それぞれの人に違う「神様」がいるのかも知れないけれど、小説を読んでいる分にはくどくど説明されなくても、作者のいわんとしている「神様」のイメージにすんなり入り込める。

それは畏怖するもの。

人間の力のおよばないもの。

こういう説明の必要のいらない共通の認識って考えてみると不思議ですね。

昔からなじんでいるものだから体にしみついているのかな?

みそ汁だってあんな茶色の液体、考えてみたらよく飲めると思いますが、日本人なら平気でしょ?

でも最近、年配の方が2周りは年下の同僚と話しているのを聞いていたのですが、「清水の次郎長」も「森の石松」も通じないと嘆いていたのが面白かった♪

「江戸の生まれだってねぇ、寿司食いねぇ」

なんてセリフも当然わかんない。

ガッツ石松さんの「石松」って名前も意味不明になっちゃう。

わかるわけないよ~(笑)

これは日本人だからわかるわからないじゃなくて、単なる世代間ギャップかな?

ヘタすると「忠臣蔵」のストーリーもわからない。

戸隠れ=忍者 というイメージも無いかも知れない…

「LDって何ですか?」って聞かれた時は、自分が絶滅危惧種になったような気がしましたからね(苦笑)

ま、私だって自分の生まれる前の芸能界や歌謡曲のことは知らないわけですから、これはどの世代にもいえることなんでしょうね。

情報量が多すぎて、共通の認識ってのが持ちづらくなっているのかも。

ルビコン川も、天王山も、その言葉の背景がわからなければ何のことだかわからない。

今や平成生まれが社会人ですからね。

昭和は遠くになりました(苦笑)


『RDG 2 はじめてのお化粧』読みました♪

2012-01-14 23:02:20 | 荻原規子
1巻を読んでから続編の文庫化が待ち遠しかった、荻原規子さんの本をようやく読むことができました!!

『RDG 2 はじめてのお化粧』(角川文庫)

「RDG」とは「レッドデータガール」の略。
絶滅の恐れのある、まるで世界遺産のような血筋を持った女の子のお話。

舞台はいよいよ紀伊山地の「お山」から、東京は高尾山のふもと「鳳城学園」へと移ります!

初めての学校に、初めての寮生活。
高校生になった主人公”泉水子”(いずみこ)に、果たしてどんな運命が待ちかまえているのか!?

『空色勾玉』などの作品で、太古の日本を舞台にした物語を書いてきた荻原規子さんが、現代の日本に生きる少年少女を主人公に描く物語。
日本古来の神々や信仰、能や歌舞伎といった芸事、はては忍者や陰陽師などという言葉も出て来ます。

正直、「陰陽師」とかは最近メジャーになりすぎていて、ちょっと新鮮味がないのですが、そこは荻原規子さん、「神楽」や「舞」といったものの持つ、本来の力や意味を深く掘り下げていて、今回もワクワクさせられました♪

読んでいて、舞や踊り、身振りというものが、「人に伝えたい気持ちがあふれて体の表現が生まれてくる」ものだといわれて、つい言葉や論理に重きを置いてしまっている自分に気づかされました。
私は恥ずかしくて踊れない口です。まだまだ自分を守る殻をまとっているなぁ~

出雲を旅した時に訪れた、「出雲阿国」のお墓をちょっと思い出しました。
歌舞伎の創始者といわれている女性です。

主人公、泉水子を守る宿命を勝手に運命付けられた少年、山伏見習いの深行(みゆき)くんが今回もカッコイイ!!
ほとんど活躍しないのに不思議だなぁ(苦笑)

それにしても泉水子ちゃん、何でそんなに警戒心がないの!?
いや、あるんだけれど、学習能力はないは、スキは多いわで、深行くんがどれだけ振り回されることか…
エ~! 同じようなこと前にもやって大変な目にあったでしょ!?
一人でそんな所に行っちゃ危ないよ~
と読んでいる方はハラハラしてしまいます。

ちょっと今までの荻原作品にはいないヒロイン像で、これから彼女の成長が見どころなのかも!?
1巻に登場した「彼」を、2巻の最後に登場させてくれたのは嬉しかった♪♪(読んでのお楽しみです)

でも相変わらず名前が呼びづらい(苦笑)
あと表紙の酒井駒子さんが描く泉水子ちゃん、ちょっと幼すぎ。

アニメ「夏目友人帳」と似た雰囲気があって、私の好みなので、このまま学園闘争とかには発展して欲しくないなぁ。

とても面白くて買ってすぐに読破しました!
続きが楽しみです☆

六月の本棚 4 『風神秘抄』

2005-06-27 23:42:00 | 荻原規子

今回は、荻原規子さんの最新作!
『風神秘抄』(ふうじんひしょう)のご紹介です☆

荻原規子さんの作品では、「西の善き魔女」シリーズや、今月ご紹介した「勾玉シリーズ三部作」などが有名ですね♪

私は特に、古代の日本を舞台にした「勾玉シリーズ」の中の一冊、『空色勾玉』という本が大のお気に入りで、影響されて日本の神さまについてあれこれと調べたりしていました☆

富士山に祭られている、木花之佐久夜毘売(このはなのさくやびめ)なんて、名前だけでいいなぁ~と感動してしまったりして。

「勾玉シリーズ」が三部作で完結。
日本を舞台にしたファンタジーも、もうこれで読めないのかと思いきや、今回のこの『風神秘抄』、勾玉こそ登場しませんが、なんと純然たる勾玉シリーズの直系!

そう、勾玉シリーズがまた読める♪

時代は平安時代の末期。
いま大河ドラマで話題の源義経が、幼くして鞍馬寺に預けられるきっかけとなった、「平治の乱」の真っ最中!!

源氏方として、兄と共に戦いに身を投じた十六歳の草十郎は、身が軽く、腕は立つものの、人目をさけた場所で、母の形見の笛を吹く、どこか孤独な少年。

自分がどこか他人と違うことを感じつつも、初めて自分を認めてくれた源氏の武将、源義平のために、自らの命を投げ出して戦います。
しかし…

笛を吹いている時だけ、自分のありのままでいられる草十郎。
彼の笛の音は、鳥や獣たちを呼び集め、自然の木々や草花たちのリズムを感じ取り、風に乗って流れていく。
そして、ついには、天の門が開き、天界の華が舞い落ちる~♪

泣くことを学ぶためにやってきたという、言葉を話すカラス、鳥彦王☆

草十郎が出会うことになる運命の少女、糸世御前。

その糸世を菩薩だと慕い、行動を共にする法師、日満。

そして、この国のすべての上に君臨する、上皇、のちの後白河法皇。

様々な登場人物が、混乱の平安末期を駆け抜ける!

糸世の舞う舞は、草十郎の笛の音と調和し、重なり、互いに一つになって天にとどく…

孤独な中でも、笛を友として生きてきた少年と、遊君として売られながらも、舞を舞うために生まれてきたような少女。
この二人に襲いかかる運命という過酷な試練。

「わたしを見つけて…」

もう、なんて切ないラブストーリーなんだ~

天の門に消えた糸世を追い、豊葦原を旅する草十郎と鳥彦王に、権力者の魔の手が伸びる!

はたして草十郎は糸世を見つけ出すことができるのか?
そして執拗に二人を狙う上皇の思惑とは?

糸世の足取りをたどり、様々な人と出会うことで、草十郎はそれまでの自分というもの、糸世という生き方、そして、二人の未来を見つけていきます☆

ところで、ことばを話すカラスって何者?

そうです、このカラスの鳥彦王がイイんです♪
自分を豊葦原の真の支配者だと名乗り、配下のカラスを従え、全国に鳥ネットワークを持つ頼もしい草十郎の相棒。おしゃべりなのと、鳥目なのが玉にキズだけど、物語全編で大活躍☆

また、「虎のヒゲをひっぱることでも、平気でする」と形容される、糸世の性格もイイ♪
彼女が出てくると、場面がパッと明るくなる感じ☆
さすがは遊君の間で育ってきただけあって、年上の草十郎もタジタジの口達者。
しかも、自分や草十郎の持つ力の意味を感じ取っていて、自分ひとりでそれを背負おうとするとっても健気な一面も!

荻原さんの描くキャラクターは、ほんといつも魅力的でまいってしまいます。

「勾玉シリーズ」と同じ時間軸のお話ですが、物語自体は、前のシリーズを知らなくても全然平気です。

草十郎の笛の音や、糸世の舞う時の空気みたいな、目に見えない描写がすごく新鮮で、読んでいて新しい感動をおぼえました♪

荻原ファンの方はもちろん、新しいファンタジーに興味のある方、歴史ドラマに興味のある方、そしてしゃべるカラスにとっても興味のある方(笑)

オススメです☆





荻原 規子  著
徳間書店









六月の本棚 2 『薄紅天女』

2005-06-19 10:29:00 | 荻原規子

ヒロインは主人公の添え物?

悪者に連れ去られ、勇者が助けに来てくれるのをひたすら待つ、か弱くも美しい存在?

しずしずと廊下を歩き、やさしく微笑むだけですべてが解決してしまう。

むかしから、どうもそういう物語は苦手でした。

同じような理由で、主人公がやたら強くて、勇敢で、いつも正義を行う勧善懲悪も、ちょっと苦手。

まぁ、「水戸黄門」みたいに、あそこまでパターン化されると、それが楽しいということもありますが☆

「白雪姫」や、「眠れる森の美女」も、だからいま一つ気乗りしない。
「寝てる場合じゃないわ!」と飛び起き、魔女に一言いいに行くぐらいじゃないと(笑)
まぁ、夢があってあこがれる気持ちはわかりますがね。

それに比べ、日本の古典には可笑しな物語がたくさんあります。

「源氏物語」に代表される恋愛物語。
継母にいじめられている落窪の君(女性)が、ついには左近少将の正妻になって、継母に復習をするという「落窪物語」。
男女それぞれが姿をかえて育てられた姉弟が、紆余曲折の後、もとの性に戻って幸せになるという「とりかえばや物語」、などなど☆

菅原孝標女が書いた「更級日記」には、みずから進んで衛士(皇居を守る兵士)に盗み出され、当時ド田舎の武蔵の国(現在の埼玉、東京のあたり)で、幸せに暮らしたお姫様の話が出てくるそうです。

なんてかわいいんだろう♪

さて、今回ご紹介するのは荻原規子の勾玉シリーズの三作目。

この「更級日記」のお姫さまから着想を得たという『薄紅天女』をご紹介します☆

時は奈良の平城京から、長岡に遷都したばかりの頃。
平安時代にさしかかるほんの少し前。

舞台は坂東(関東地方)。

馬たちに囲まれ、牧場を駆け回る、少年と呼ばれる年頃からは少し抜け出しつつある二人の若者が今回の主人公☆

”すべての”女の子に優しく接するため、村の娘たちから人気がある反面、浮気も絶えない女泣かせの若衆、藤太(とうた)と、女の子はすべからく無視して歩き、そのストイックさからこれまた人気の高い猫っ毛の阿高(あたか)。

優しい笑顔と、涼やかな横顔
幼い頃から兄弟のように共に育ってきたこの二人は、”二連”と呼ばれて、いつでもどこでもほとんど一緒。

二人の絆の深さには、見つめる女の子たちがおもわず嫉妬するほど!

その姿かたちに加え、二人は土地の有力者の血縁のため、村の若い娘たちの注目は、いやおうなく、この双子のような同い年の叔父と甥に集まってしまうのです。

まさに二つでひとつの魂を分け合っているみたいなこの二人がとってもいい♪

なにもかもが未開拓で、人間が他の生き物たちと共存している世界。
馬が走り、野山が広がり、若者達が恋人を求めて祭りに興じる。
古代の生活って、質素で原始的だけど、人間も野性的で純粋で、ほんとに生き物って気がします☆

そんなある日、仲の悪い隣の日下部一族の娘で、箱入り娘の千種(ちぐさ)に目を付けた藤太は、春祭りの相手に選んでもらおうと、もめごとになるのもかまわず、阿高と二人で、こっそりと日下部の土地に忍び込みます。

大胆でケンカをおそれないのも二人の特徴☆

でも、実は藤太には、阿高に言えない阿高自身の持つ秘密があったりします。
やがてその小さなヒビは、二人の間に入ってきた千種の存在で、より大きなすれ違いへと…

阿高の父であり、藤太の兄でもある勝総(かつふさ)が、蝦夷の地(現在の東北地方)で死んだということ。
そして阿高の母が誰なのか、家の者がクチにしないこと。

そして、一族に代々伝わる勾玉の存在。

自分はいったい誰なのか?

そんな疑問が心の中に生まれた時、阿高の前に、自分を女神の生まれ変わりだと告げる、見知らぬ男達が現れるのでした。

舞台は坂東、蝦夷、そして大津、伊勢、最後には長岡の都へと移っていきます。
途中、まだ大将軍になる前の、坂上田村麻呂と出会ったり、蝦夷の頭領アテルイと馬を並べたり、オオカミになったり(!)、馬になったり(!!)と大忙し☆

「ここへ帰ってきて、わたしたちの武蔵に帰ってきて」

千種に見送られ、いなくなってしまった阿高を見つける旅に出る藤太。

はたして、藤太は阿高を取り戻すことができるのか?

そして、やがてこの二人が出会うことになる、男の子の衣装に身を包んだ女の子、苑上(そのえ)…

怨霊のばっこするようになってしまった都で、物の怪のために祖母と母を失った彼女は、皇(すめらぎ)の血を引く高貴な生まれ。

しかし、姫皇子として、奥の殿でみんなに守られ、ひっそりと暮らすことに息苦しさを感じていた彼女は、いままた危険にさらされている兄弟たちを救おうと、おしとやかな女性の着物を脱ぎ捨て、勇敢に立ち上がります。生きている証を手に入れるために。

この苑上も魅力的なキャラクターです♪

勢い込んで飛び出したとはいえ、やっぱりそこはお姫様育ち。
口をひらいて出る言葉は「おなかが空いた。足が痛い」「疲れた。のどが渇いた」
と、こればっかり(笑)

慣れない山歩きに、野外での生活。
悲鳴をあげる体をひきずり、時にひとに利用され、傷つきながらも、彼女がたどり着いた驚愕の真実。

輝の血を受け継ぐ皇(すめらぎ)の一族がもたらした物の怪の闇の正体とは?

そして、阿高との出会いがもたらすものとは?

阿高がいい!
藤太がいい!
苑上もいい!

でも、お気に入りは千種なのさ♪

どうして荻原さんの描く登場人物はこんなにも魅力的なんでしょう?

勾玉シリーズとなっていますが、作者も書いているように、これだけでひとつの物語になっています。

過去でもなく、未来でもなく、たった一度きりの人生を精一杯生きている主人公たちが魅力的なんです☆

物語を読んで、興味を持たれた方には、謀反の疑いをかけられ、飲食を断って36歳で死去した早良親王(さわらのしんのう)のタタリの話や、藤原仲成らによって服毒自殺に追い込まれた伊予親王(いよしんのう)の悲劇。
神野親王(かみのしんのう)から即位して名前を改めた嵯峨天皇の話など、物語に登場する実際の人物たちの物語を、調べてみるのも面白いですよ♪

もっとも、こんなこと全然知らなくても、充分に楽しめることはもちろん請け合い!

どうぞ、楽しい時間をお過ごし下さい☆

やっぱり人生は、自分の力で切り開かなきゃね♪







荻原 規子  著
徳間書店






六月の本棚 『白鳥異伝』

2005-06-08 00:23:00 | 荻原規子

日本のファンタジーで、まず思い浮かべるものは何ですか?

銀河鉄道の夜…となりのトトロ…ドラゴン・クエスト!?(笑)

最近は日本産のファンタジーもたくさん出てきましたが、私が好きなのは、断然「竹取物語」です♪

花婿候補に無理難題をふっかけるところがいいんですよね~

あと、忘れてはならないのが、古典中の古典、「古事記」

高校生の頃、よくわからずに読んでいましたが、ファンタジーの要素は盛りだくさん!

黄泉の国まで奥さんを追いかけて行ったり、大蛇の体の中から剣が出てきたり、顔を洗えば神様が生まれ、姿を隠せば世界が暗闇に閉ざされる。

人間の想像力ってすごいもんだと感心します。

もっとも編纂した当時の人たちは、めーいっぱい大真面目だったんでしょうけど☆

さて、今回ご紹介するのは、そんな日本古来の神話をベースにしながらも、みずみずしい文章と、生き生きとした登場人物が魅力のジャパニーズファンタジー!

荻原規子の『白鳥異伝』です☆

舞台は古代の日本。豊葦原と呼ばれていた時代。

土着の八百万の神々と共に生き、死しても生まれ変わる「闇」(くら)の人々と、不死の体を持ち、死ぬことのない高天原の神の一族「輝」(かぐ)の人々が覇権を争った時代が過ぎ、不死の体に「死」を受け入れることで、二つの血は混ざり合い、しばしの平和が豊葦原の国の訪れたかにみえた…

しかし、長い年月は、人の心の欲を動かし、かつての「不死の力」を再び求めて、あやしく動き出そうとする…

とどまることを知らず、豊葦原の各地に支配を伸ばそうとする「輝」(かぐ)の血に、それを押さえようとする「闇」(くら)の血。

そんな時代に生を受けた二人の子供。

代々「輝」(かぐ)の血を見守り鎮めることを宿命とする巫女の家系、橘の家に生まれてきた主人公、遠子(とおこ)。

一方、もう一人の主人公、小倶那(おぐな)は、幼い時に川で拾われ、遠子といっしょに姉弟のように育てられてきた、自分の両親さえ知らない男の子。

物語は、この少女と少年の二人を中心に、生と死、愛することと愛されること、人間の欲望とそれに立ち向かう人々の強さを、原始の自然の姿と共に、見事に描いています☆

まず、子供時代の二人の描写が微笑ましい♪

駆け回ったり、イタズラしたり、時には拗ねたりケンカしたりするけれど、それでもお互いのことを誰よりも理解している二人☆

この出だしでハートをわしづかみにされました♪

母親と子供の関係も考えさせられます。

自分の子供のように小倶那を育ててきた遠子の母。
一方、自分だけが息子を独占しようとする小倶那の実の母。

遠子は小倶那を取り戻そうと、この母親と対峙しなければなりません。(なにせ成人してからも、夜ごと小倶那は母親に呼び出されるのです、遠子を寝所に残して。

自分以外の女が息子の心に住まうことを許さないゆがんだ愛も、捨て子として遠慮して生きてきた小倶那には、むげに切り捨てることもできない。
この人だけが、自分のために全存在をかけて愛してくれる。たとえ命を失おうとも…

やがて起きた戦乱は、二人の運命を翻弄し、別々の道へといざないます。

この物語の魅力は何だろう、と読み終わってから考えました。

雷を呼び、全てを焼き尽くす「大蛇(オロチ)の剣」。
すべて集めると、死者さえ甦らせることのできるという伝説の勾玉の首飾り。
火の山の麓、クマソ遠征。
東のはてのエミシ討伐。

魅力的で物語を興味深くしてくれるこれらの小道具。

でもそれよりも、やっぱり一番心引かれるのは、誰もがみんな、自分に正直に一生懸命に生きているってこと☆

ほんと、主人公の遠子にしても、けんめいに愛して、追いかけて、戦って、生きるために、自分であるために行動している。

愛する人や、村を守るために戦う人々。
子供を助けるために、自分の身を死地に置く母親。

誰もが打算でも計算でもなく、生きるため、子供たちを守るために、畑を耕し、笑い、川をせき止め、食べて、飲んで、戦って死んでいく。

自分の欲や、他人を利用しようとする人たちが、なんと醜く、苦痛に満ちた生を生きていることか。

そこのところの描写が、読むものに荒々しいけれど、力強い人間の生きる光みたいなものを感じさせてくれるのです☆

山に、森にあって、時に人の命さえ情け容赦なく奪う日本の古代の神々。
人に神の考えを推し量ることはできない。
敬い、畏れ、祈りを捧げるしかないのだ。
それは、人の人生そのものであって、死とは、本来そうしたものなのだ。

「輝」の末裔として「大蛇(オロチ)の剣」を振るう小倶那。

「闇」の末裔として、「勾玉」を手に小倶那の命を狙うことになる遠子。

この二人の運命はいったいどうなるのか?

愛し合いながらも、その人の父親の妃とならなければならない明姫と、それを止められない大碓(おおうす)皇子。

四つの勾玉を連ねた御統(みすまる)の力によって、東の果てから西の果てまでを一瞬で旅する伊達男、管流(すがる)。

何度も何度も生まれ変わり、次の世代に古の知識を語り伝える語り部、岩姫。

まだまだ魅力的な人物がたくさん登場します♪ (明姫がイイ!!)

この『白鳥異伝』は、「輝」の一族がまだ不死だった頃のお話「空色勾玉」と、後世
、最後の勾玉のお語「薄紅天女」とで、”勾玉三部作”と呼ばれています。

日本を舞台にした清々しい古代ファンタジー。

もし、あなたの心に何か響くものを感じたら、一度手に取ってご覧下さい。

遠子たちの駆け回る、原始の日本の風景が、目の前に見えてきますよ☆







荻原 規子  著
徳間書店






七月の本棚3

2003-07-22 19:42:00 | 荻原規子
勾玉って知っていますか?

珠のように丸くはなく、ややつぶれて、耳のように曲がった形をしている。主に瑪瑙や翡翠などで作られた古代の装身具。

三種の神器の一つにも八尺瓊曲玉(やさかにのまがたま)がありますね。

光あるところには、かならず闇がある。
今回ご紹介する本は、そんな光と闇に彩られた物語。
荻原規子の

『空色勾玉』

です。

この本を紹介できることがどんなに嬉しいことか♪

神代の上代、神秘と荒々しさが混在する古代の日本は、私の憧れの世界なんです。

主人公の狭也(サヤ)は、幼い時に村が焼かれ、両親を殺された過去を持つ十五歳の少女。時折その時の悪夢に悩まされるものの、今では拾われた羽柴の村で闊達な少女に育ち、友達と”かがい”(男女が互いに思う人に歌を送り合う、ま、集団告白タイムみたいなもの)の話題で盛り上がる。しかし、その”かがい”の夜、サヤの運命は大きく動き出します。

「闇(くら)の一族」の「水の乙女」である証、空色に輝く勾玉を渡されるサヤ。

闇の気配を追って現れた「輝(かぐ)の一族」の御子、月代王との出会い。

高光輝の大御神を父神とし、天より降り下った神の御子、照日王と月代王。
不死の一族であるこの姉弟神と敵対し、八百万の神を拝し、闇御津波の大御神に仕える「闇の一族」。

その一族で「大蛇(おろち)の剣」の巫女である、狭由良姫のよみがえりだと言われるサヤ。二つの一族は豊葦原をめぐり、熾烈な戦いを続けている。

『古事記』の神話をベースにして作者が創り出すこのファンタジー世界の魅力は数知れず。

情緒豊かに語られる日本の四季の移り変わり。
身の回りに溢れる鮮やかな色彩。獣達の声さえ聞こえてきそうな緊張感。
そしてなにより、主人公サヤの・・・考えのない行動。

・・・おいおい(笑)

だけど、この、思い立ったら即、行動。自分に正直に生きていくその姿勢に好感が持てる♪

確かに、人に利用され、危険を招き、後悔することも多いんだけど、その力が運命を切り開いていくのもまた事実。

美形の月代王に惹かれて、輝の宮にふらふらついて行くサヤ。(ちょっと顔がいいからって・・・by鳥彦)

輝の宮にある池に、夜中でばれないからって、裸で飛び込むサヤ。(夏の夜に魚になりたくなるのは、私ばかりではなかったのか・・・by稚羽矢)

残酷な運命も彼女を襲います。

神は激しく、不死ゆえに、冷酷です。
人は弱く、過ちを犯します。

物語だからって、そこを避けて通らないのが、このお話しのいいところ。

サヤは思います。
(この世に、美しくないものなど一つもないわ・・・)

それは、大切なものを失い、もう一度探しだそうとして、ついに見つけた時の思い。

死して生まれる人としての運命。

変わることのない、不死の神々の孤独と哀しさ。

(変われるということは・・・ありがたいことだわ)胸元に深々と穿たれた矢傷に死ぬこともできず苦しむ稚羽矢(ちはや)を見かねて、「闇の一族」の一人、科戸王が呟きます。

「あれが不死身ということなのか。苦痛は変わらないのに、断末魔を人の何回分も味わうことが」

このシーンは何度読んでも背筋が凍ります。

国家統一を目指す「光」と、土着の「闇」が烈しく争う、神と人が共に生きた乱世を舞台に、人の持つ葛藤と生きることの大切さを描いたこの作品。
勾玉三部作として、他に『白鳥異伝』『薄紅天女』の作品があります。

最初、この『空色勾玉』は福武書店で出されましたが、今は徳間書店で三冊とも手に入れることができますよ。

「そして二人はいつまでも、幸せに暮らしましたとさ」で終る海外の物語もいいですけど、この物語は、サヤのこんな言葉で終ります。

「祝言には、羽柴の両親を呼ぶわ。そして、いやほどたくさん孫の顔を見せてあげると言うの」

いや~たくましい!

元始女性は太陽だったという言葉が納得できる。
自信を持ってお薦めできる日本のファンタジー。

初夏の涼しげな風の中で、あなたも古代の世界に思いを馳せてみませんか?











荻原 規子  著
福武書店