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本好き人の365日

新井素子 『銀婚式物語』文庫版 (中公文庫)

2014-11-29 19:29:53 | 新井素子

3年待ちました。

ようやく文庫化された、新井素子さんの『銀婚式物語』を買いました。

「読みました」じゃなくて「買いました」なのは、すでに単行本で読んだから。

それなのになぜ文庫本を買ったかというと、新井素子ファンなら定番の「文庫本あとがき」を読むため。

新井素子さんは一部から「あとがき作家」と言われるほど、判型が変わるだけできっちり「あとがき」を新しく書いてくれる希有な作家さんなんです。

しかも、その「あとがき」が面白い!

あとファンとしてはこのシリーズはぜひ文庫本で揃えたかった。

 

 

この『銀婚式物語』は『結婚物語』『新婚物語』の続編。

作者と主人公は別人という設定ですが、作者ご本人が「結婚」「新婚生活」そして「銀婚式」を迎えるのと同時期に書かれています。

つまり、「銀婚式」の物語を書けるまでに、25年がかかってしまう、困ったシリーズ。

そう、ファンは25年待ちました。

さらに『結婚物語』『新婚物語』が文庫本で発表されたのに、『銀婚式物語』は単行本での発売(出版社も変わりました)。

同じシリーズを本棚に並べるなら、同じサイズがいいじゃないですか。

それで文庫化までさらに3年待ったというわけです。

 

本編はタイトル通り、結婚25年の「銀婚式」を迎えた夫婦の物語。

会社員の夫と小説家の妻。

仕事の事、夫の家事能力、家を建てたり父親を看取ったり、病気もあったりなんやかとありますが、何とか乗り越えてきた25年。

物語といっても、SF小説のように特別なことがおこるわけじゃなくて、日常生活の延長です。延長ですが、これがとってもおもしろい。

 

そして思った通り「文庫本あとがき」もとっても面白かった。

 

次はぜひ『定年物語』『介護物語』をお願いします!

 


新井素子 『イン・ザ・ヘブン』(新潮社)

2013-11-11 01:29:31 | 新井素子

11月になってめっきり寒くなりましたね。

コタツを出すタイミングがつかめないまま、11月も11日になってしまいました。

最近買った本は、久しぶりの新刊、

 

新井素子さんの

『イン・ザ・ヘブン』(新潮社)

 

著者 : 新井素子
新潮社
発売日 : 2013-10-31

 

高校生の頃からずっと追いかけている作家さんなので、新刊が出て嬉しい♪

忙しくてまだ読めていませんが、読むのが楽しみです☆

 

 


中公文庫版 新井素子『くますけと一緒に』

2012-08-31 15:00:39 | 新井素子

同じ作品が出版社を替えて再販されることはよくありますが、今回は中央公論新社から発売されました。

 

新井素子 著

『くますけと一緒に』(中公文庫)

  

中央公論新社
発売日:2012-08-23
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「あとがき作家」と呼ばれるだけあって、今回も新たに「中公文庫版 あとがき」が書き下ろしで載っています♪

この本、最初は1991年に大陸書房より単行本として発売され、その後1993年に新潮文庫、2001年に徳間デュアル文庫で二度に渡り文庫化されました。

今回は三度目の文庫化。

異様にぬいぐるみ好き、で一部SFファンには有名な新井素子さん。

当時の「あとがき」には、四百匹のぬい(ぬいぐるみの略語)が家に居ると書いていましたが、月日がたって、現在は桁が一つ違うんだとか(苦笑)

『銀婚式物語』などの作品で、作者の近況についてはある程度知ることができていたのですが、『結婚物語』、『新婚物語』でいいキャラを演じていた元編集者のお母様を、つい最近看取ったということも今回の「あとがき」には書かれていました。

十代で小説家としてデビューしていますからね。

それから数十年。

折に触れて家族のことも書いてみえたから、ずっと読み続けてきたファンとしては感慨深いです。

 

さて、その『くますけと一緒に』ですが、内容はちょっと怖いサイコホラー。

両親を交通事故で失った小学生の女の子。

母親の親友に引き取られた女の子は、かたときもクマのぬいぐるみ「くますけ」を放そうとはしません。

親と子。

愛されることと愛すること。

それは束縛と期待。

自分の中でこの不条理な世界にどうにか理由を見つけようとする小さな心。

…子供は親を嫌う権利がある。

 

人間の心ってやつはやっかいですからね。

タイトルのほのぼのさとは違い、ちょっとグサッとくる内容です。

 

最近、新井素子さんの作品を次々と復刊している中央公論新社。

これはいよいよ待ちに待った『銀婚式物語』の文庫化も近いかな?

本屋さんで珍しく『銀婚式物語』の初版本を置いているお店があったのですが、文庫本で買いたかったので、ものすごく悩んだ末に本棚に戻してきました。

だからお願いします。

一日も早い文庫化を!(苦笑)

 


新井素子 『銀婚式物語』

2012-05-02 18:00:00 | 新井素子

中央公論新社さん、文庫化はまだですか?

以前図書館で読んだ新井素子さんの単行本。

もう一度ゆっくり読み返したくて、今回はちゃんと借りて来ました。

新井素子 著

 

『銀婚式物語』(中央公論新社)

 

新井 素子
中央公論新社
発売日:2011-10-22

 

 

 

 

 

 

1986年に文庫本が発売された『結婚物語』、その2年後1988年に文庫本が発売された『新婚物語』の続編。

結婚から25年後、「銀婚式」を迎えた主人公夫婦を描いています♪

だから続編が出るのに25年もかかったのか~

作者の新井素子さんも、まったく同じ時期に結婚されているので、まさに実体験がもとになっている小説。(脚色はされています☆)

新井素子ファンはもうあきらめていますが、他の小説だったら続編が25年後に出るなんて考えられないよね(苦笑)

 

実生活が反映されているので、これまで発表されてきたエッセイとダブるところもあります。

小説というよりも、長いエッセイに近いかも。

結婚する時は「この二人で大丈夫?」という夫婦でしたが(笑)、25年間、時には意見が衝突したり、夫の家事能力の無さに驚いたり、妻が小説家で昼夜逆転の生活だったり、家を建てたり親を看取ったり、病気や仕事のあれやこれやがあって、それなりに人生の上り坂も下り坂も経験してきた二人の物語は、とっても読み応えがあって、エッセイにはない魅力も満載!

どんな夫婦にも、物語ってありますよね~

父親がパーキンソン病と診断され、当時病院には3ヶ月しか入院できないと言われて、母親と共に次の入院先を必死で探した日々。

不妊治療のために基礎体温をつけたり、さまざまな努力をしてみたけれど、ついに自分の中でその夢を「夢」としてしまいこむことに決めた時…

25年という歳月は、ドタバタしていた新婚夫婦に様々な変化をもたらしたのと同時に、周りの人々の人生にも変化をもたらします。

月日が経つなかで、去っていってしまった人々。

バブルが崩壊し、痴呆症という言葉が認知されるようになり、どんどん変化していく世間。

そんな社会の荒波の中、ずっと隣にいてくれて、一緒に乗り越えてきたパートナー。

人生って、本当にいろいろですね。

 

本棚の上に家を建てる?

小説家ってローンが組めない?

一年に二十回階段から落ちる主婦?

梨の皮むきもできない旦那?

やってもやっても終わらない庭掃除?

 

もちろん25年経っても新井素子の軽妙な文体は健在!!

 

独自の価値観と常識的な経済観念、ちょっと尋常じゃない趣味と(ぬいぐるみ数千匹! 蔵書はなんと3万冊以上!?)、旦那への愛であふれた一冊♪

早々と太陽光発電を導入した話とか、掃除と料理について、作家の氷室冴子さんと言い合ったエピソードとかもあって面白かったです!(作中では氷室さんの名前は出てきません)

装身具だとか、服装にまったく頓着しない新井素子さん、じゃなかった物語の主人公。

それにしても、エンゲージ・リング…わたしどこやったっけ? はヒドイなぁ(苦笑)

 

作中で作者も触れていますが、この二人ってとっても運がいい二人だと思う。

17歳から作家として活躍している作者。

経済的には恵まれているとはいえ、作家ならではの苦労もあって、執筆中の異様な集中のしかたは、同じ家に住む家族の協力なしでは成り立たないほど。

そんな中で、25年間、それなりに続いてきたっていうのは、これはもう運がいいというか、幸せなことなんじゃないのかな~

もちろん、お互い欠点もあって、最高の男女じゃないことは確実だけれど。

作者も書いています。

お互いにとっては、という限定条件付きで。

多分、最高の男女(あいて)♪♪

 

前作の『結婚物語』や『新婚物語』も笑わせてもらいましたが、今回も相変わらず楽しませてくれます。

前作は文庫本で持っているので、この本も早く文庫化してくれないかなぁ~

本棚にサイズを合わせて並べたいんですよね。

お願いしますよ、中央公論新社さん!

あとがきで作者は「次は二十五年後『金婚式物語』で…」なんて書いています。

すっごく楽しみだけれど、すっごく楽しみなんだけれど、そんなに待てるかな(苦笑)

 


十月の本棚 3 『グリーン・レクイエム』

2006-10-28 12:01:00 | 新井素子

今回は新井素子さんの1980年の作品。
『グリーン・レクイエム』をご紹介します☆

内容はズバリ!

人間と植物の恋。

はてさて、どんな物語だと思います?

新井素子さんの本を読み始めたのは高校生の時から。
最初に立ち読みした『二分割幽霊綺譚』という作品が面白くて、それまでに書かれた作品をさかのぼって探し、それ以降は作品が発表されるたびに買い求めてきました♪

今でも本屋さんに行くと、新しい作品が出ていないか、真っ先に探しています☆

…人間なんてたいしたことない。
…他の生き物を食べなくちゃ、生きていけない生物のくせして。

「自然を守ろう」「地球を大切にしよう」なんて言う人がいるけれど、確かにそれは大事なことなのかもしれない、だけどそれはあくまで自分達人間の立場を確保した上での話し。
ほんとなら、人間が地球からいなくなってくれた方がどれだけ地球に優しいか。
だけど誰も、「自然を守るために自殺しましょう」とは言わない。
それは生き物として言ってはいけないことだから。

だからほんとうなら、「自然を守ろう」なんて上から物を言わないで、「生きていくためには生き物も殺すし、木も切ったり燃やしたりもする。でもそれだとそのうち我々も困ることになるからこれからは考えて自然破壊をしましょう」と言えばいい。

「人間なんて、地球の上にたくさん生きている生物のひとつじゃない!なによ、えらそうに~」

新井素子さんの作品に、こんなことが書いてあるわけじゃありませんが、ところどころで感じるのは、この「人間だからって何をえらそうに~ もっと生物としての自分を自覚しなさい!」という立場。

好きです、こういう考え方☆

だからって、人間が「悪」と言っているわけじゃありません。
では、ナンだというのか?

それは生き物としてしょうがない。

生きるために他の生物を殺し、食べることはしょうがない。
そこに善も悪もなくて、人間ってそういう生き物だから。
ただ、他の生物を食べたり、水や空気を毎日消費していることを忘れて、自分たちが生きていることを当たり前だなんて思って欲しくない。

ようはスーパーで売っている、魚や肉のパック、あの姿を世界だなんて思って欲しくない。

泣き叫ぶ牛を殺し、皮や骨をとり、赤い血をたくさん流して、肉を切り刻んでパックにする。

それは残酷かもしれないけれど、それが生きるってこと、それがこの世界。

心の痛みを知らない人は、他人に優しくなんてなれません。

もし、スーパーに並んだ魚や肉、野菜なんかが、言葉をしゃべったらどうします?

「私を食べるの? そう、しかたないわね。それが私たち生き物のさだめですものね」

なんてさめざめと泣かれたら?

少しは食べるということ、生きていることを実感しやすくはないですか?

もっとも、うるさくてしかたないかも知れませんが。

何度も言いますが、こんなことは新井素子さんの作品には書かれていませんよ(笑)
ただ、そういった意味じゃないかと思うだけ。

多くの作品は特徴でもある彼女独特の文体で、時にシリアスに、時に面白くストーリーが進みます♪
SF、異世界、宇宙旅行に超能力、吸血鬼にぬいぐるみまで☆

もし、植物に意思があったとしたら?
森の木々や、草花にそれぞれ意思があり、その思いを我々人間に伝えてきたとしたら、その内容はどんなものでしょう?

『グリーン・レクイエム』は恋愛物語です。

腰まで伸びた長い髪の少女と、彼女を守ろうとする青年の物語。

公園のベンチ。
木々のこずえから木漏れ日が少女の髪に落ちる。
その、長く美しく輝く「緑色」の髪に…

十数年前、山奥の洋館から聞こえてきたピアノの音。
そこでまだ少年だった頃の青年が出会った緑の髪の幼い少女。
たくさんの植物に囲まれて、その少女は立っていた。
響くピアノの音。
あれは幻影?
それとも幻?

光合成に宇宙船。
狩る者と狩られる者。
赤く燃える炎と崩れさる建物。
全編を包むショパンのノクターン。
美しく奏でられる感情という旋律。

ファンタジーとSFの要素を盛り込んで、ありえないけれど、だからこそ面白く、悲しいストーリー。

続編となる『緑幻想~グリーン・レクイエムⅡ~』という作品もあるので、気に入った方、もしくは「こんなラストじゃあんまりだ」と気に入らなかった方、どうぞ探してみて下さい♪

ただそばにいたかった。
しかし、それさえかなわない…

果たして二人を待つ運命は?

作者の初期の作品ですが、いつまでも心に残る不思議な作品です。

密かに代表作だと思っています☆












新井 素子  著
講談社文庫





十月の本棚 2 『星へ行く船』

2004-10-18 01:23:00 | 新井素子

今回は、コバルト文庫からの紹介です☆

(以下、個人的なイメージによる文章が続きますが、実際のコバルト文庫とは一致しないかも知れませんのであしからず)

コバルト文庫!
なかなか30代の男には読む機会がない世界ですよ、あれは。

高校生の時には何冊か読んでいたのですが、それ以来あまり近づいていません。
好きな作家さんが、たまにコバルト文庫で作品を発表するので、そのチェックのために一応のぞいては見るのですが、毎回どんどん派手になっていく。

まるで小説版少女マンガの世界☆

表紙の絵はともかく、あっちでもこっちでも男の子と女の子が花盛り。
ひっついたり離れたり、邪魔されたり騙されたり、そのついでに世界を救ったり事件を解決したり。

うわ~なんだ、この面はゆいじれったさは!?

そんなに都合よくいくもんか!
大人の恋愛ってのは夢見てるだけじゃ済まないんだぞ~
もう、カン違いとすれ違い、汗と涙とお金と感情でグズグズのドロドロの…(なんの話だ?)

と、とにかく、そんなコバルト文庫ですが、一度敷居をまたいでしまうと、これがけっこう面白い。
いや、けっこうどころか、その面はゆい感じが懐かしくて、逆に新鮮に読めてしまう。
久しぶりに昔の本を読んだのですが、高校生の時とはまた違ったパワーが襲い掛かってきて圧倒されてしまいました♪

と、いうわけで、はなはだ前置きが長くなりましたが、今回ご紹介する本は、

新井素子の『星へ行く船』です☆

主人公の女の子あゆみちゃんは、地球から”家出”するために宇宙船に乗り込みます。
そこで出会ったのはちょっと自信過剰な一人の男。

なぜかその男と同室になることになったあゆみちゃんは、これまたなぜか殺し屋に狙われることになり、さらにどういうわけか身分を隠しているハンサムな王様と知り合いになって、惑星規模のお家騒動に巻き込まれてしまうのだから、単なる家出が大変なことに。

しかも、この自信過剰な男との出会いが、彼女の運命を変える出会いになるなんて…

ほ~らやっぱりこんな展開☆

二十年も前の作品で、作者が19歳の時に書いたものなので、荒削りなところは否めませんが、このシリーズ好きなんですよ。

特に『雨の降る星 遠い夢』というお話に出てくる「きりん草」がお気に入り☆

二メートルはあるでっかい花で、きりんのような黄色い長い茎をしている。
しかも”性格”が軟弱で、困ったことが起こっても「どうしよう、どうしよう」って仲間と頭を抱えているだけだっていうところがなんだか可笑しい☆

結局、全五冊のシリーズと三冊からなる番外編が刊行されたのですが、本編にかかった時間は七年間。

さらにその五年後に番外編が出るという気の長~い作品です。(他に全四話のシリーズ物で、完結までに十九年かかった、という作品もあります。二話と三話、三話と四話の間がそれぞれ九年間あいています…読む方も大変)

成長する主人公を書くためには、作者も成長しなければならない、ということで、成長するのを待っていたら、こんなことになってしまったんだそうです…ヤレヤレ。

今なら一度に全部読めるので、そんな苦労もなくてお得ですよ。

いつもの本屋さんで、たまには自分の守備範囲と違う本棚を眺めてみるのも面白いものです。
もしかしたら、思わぬ出会いが待っているかも知れませからね☆





新井 素子  著
コバルト文庫*(キラキラ)*


十月の本棚 『結婚物語』

2004-10-07 23:38:00 | 新井素子
今回は、ちょっと古い本で申し訳ないのですが(というかいつも古い本ばっかりですみません*(汗)*)、学生時代に友達と電車の中で笑って読んでいた本。

新井素子の『結婚物語』をご紹介します☆

主人公の陽子さんは東京近郊に住む二十三歳。
大学を卒業して現在は実家で家族と暮らしながら物書き業をやっている。
もう一人の主人公正彦くんは大学を卒業後、東京で就職して現在はごく普通のサラリーマン。岡山に両親を残しての東京での一人暮し。

大学時代から付き合っていたこの二人が、お互いの意思を確かめあってついに結婚! と、いう話になったのだけれど、これがなかなか難問続出。

プロポーズの言葉は聞き逃すは(というか気付かなかった)、お父さんは娘可愛さのあまり意味のない引き伸ばし作戦を決行するは、お互いの家への挨拶、結婚式場の予約、新婚旅行に新居に引越し。役所の手続きに新しい生活と二人の前には問題が山積み。

結婚って、夢見てる時はいいけれど、実際やるとなったら結構うっとおしいんだよお~! と、作者が作中叫んでおります。

そう、このお話は、作者新井素子が実際に結婚するにあたり(本人は自分が結婚できるとは思っていなかったらしい)、遭遇した困難や経験した心労、気疲れ、そんなこんなの苦労話を、「結婚ってこんなに大変なんだぞ~」と世の未婚女性に思い知らせてやりたいがために書かれた、すご~くうっぷん晴らし的な小説なのです。

もちろん小説なので、大袈裟な箇所や極端な人物設定がされていたりはするのですが、文章のそこかしこに、作者の本音が垣間見れたりして可笑しかったり共感したり☆

初めて岡山の御両親に挨拶に行く時、緊張して眠れなかった陽子さん。岡山の家で出された大量のご馳走にすっかり満腹になってしまい(残すと悪いし)、ぐっすり眠り込んでしまった陽子さんは、とんでもない寝坊をしてしまい…(笑)

あちらの両親に気に入られようとする姿がいじましいんだか、ユーモラスなんだか。

誰も知らない八月の誕生石。

指輪を買いに来たはずが、買うべき誕生石を知らない二人。
結局売り場のおねえさんに教えてもらうのですが、八月の誕生石ってそんなにマイナーなの?

認知するしないでもめてる原因が子供でなくって数学で取り扱うところの「虚数」だったりするところはさすがに新井素子。

関東ローム層のことで喧嘩になり、結婚してもいないのにもう離婚の危機だったり。

あげくに「お嬢さんを僕に下さい」と言う一世一代の晴れ舞台のはずが、なぜか「お墓は僕が守らせていただきます」宣言になっちゃったりと、読みどころはいっぱい♪

それでもなんとかたどり着き、最後は感動の結婚式といくはずが、やっぱり最後の最後まで…☆

「誰がほんとのことなんて書くものか、フッフッフッ」と作者はあとがきで言ってますが、関東ローム層のことで喧嘩したのはほんとのことらしいです。

…いったいどんな夫婦なんだ?

この『結婚物語』。
実は上中下と三冊に分かれておりまして、それぞれ、「眠たい瞳のお嬢さん」結婚物語 上「正彦くんのお引越し」結婚物語 中「大忙しの二日間」結婚物語 下となっております。

古い本ですが、たまに本屋さんで見かけるので、まだ手に入ると思いますよ。

結婚している人、これから結婚する人、まだ予定もない人、興味もない人。全然参考にはならないとは思いますが、一服の清涼剤に、または、電車の中での息抜きに、こんなドタバタ結婚コメディーはいかがですか☆










新井 素子  著
角川文庫

八月の本棚 5

2003-08-25 00:24:00 | 新井素子
え―、ぬいぐるみというのは、一見、「無生物」のように見えますが、実は、生き物なのです。

えっと、(のっけからとんでもない文章でゴメンナサイ)というわけで、今回ご紹介する本は、新井素子の『わにわに物語』です。

ぬいぐるみの、ぬいぐるみによる、ぬいぐるみのための物語。

これだけ書かれても、何のことだかわかりませんよね?
この本を読むには、ちょっとした前知識が必要なんです。
まず、上の紹介自体、実は正確ではありません。作者が新井素子だと思われたでしょう?
そうではない…というかなんというか。

厳密に言うと、この本は、”わにわに”という、実在するぬいぐるみがしゃべった内容を、同居人である新井素子が、口述筆記というかたちで書いた物語、というのが本当のところです。

…何を言ってるのかって? 今から説明しましょう。(私も自信がないけど…)

新井素子はぬいぐるみを「生き物だ!」 と主張しています。
確かに、肉体的な成長はしないし、新陳代謝もしない、自力で動くことさえできないけれど、だけど、それでも、「生物」なんだって。持ち主である人間の愛情を食べ、愛情によって支えられ、そのかわりに愛情と目に見えないパワーを提供してくれる、極めて精神的な生き物。

え―、本人もこうした意見が、ぬいぐるみを知らない人には奇異に聞こえるだろうことは、重々承知しているようです。

確かに、ぬいぐるみに話しかける子供はいますよね。
少年時代、よく近所の女の子におままごとに付き合わされたんですけど、その子は立派なドールハウスを持っていて、人形もたくさん持っていました。無生物に愛情を持つ気持ちはわかります。本当のところ、相手が「生物」だろうが、「無生物」だろうが関係ないですよね。大切なのは、同じ時間を共有しているということ。

念のために言っておきますが、この「ぬいぐるみ生物説」は小説の中だけのお話しではありません。こうした主張は他の著作の中でもくりかえされています。
あまつさえ、毎回その「ぬいぐるみは生き物だ」っていう『説明』をすることに、本人もそろそろ嫌気がさしている気配さえする。
曰く、「未だにぬいぐるみが『無生物』だっていうのが、常識だからしかたないけどね~☆」

未だにって、あんた、普通はそうなの!

新井さん家のぬいぐるみは、やたら個性的で、よくしゃべります。(…もしかして他の家でも?)、中には無口な奴や(普通そうだろ)、簡単な言葉しかしゃべれない知性の低いぬい(注:ぬいぐるみの短縮形)もいるみたいですけど。

ぬいぐるみなりに、夢や野望(!)もあるみたいです。
結婚するぬいがいたり、親バカのラッコ(名前は『男の気持ち』。娘の名前は『娘の気持ち』)のぬいがいたり。人間の食べ物を口に押し込まれた「武勇伝」を持つぬいがいたり…

どうか、世間一般の常識をお持ちの方は、「あとがき」からお読みになって下さい。この「ぬいぐるみは生き物だ!」という主張を読んでから本編に入ると、より理解が深まります。(…何の理解だか)

アレ? 本編の紹介まだしてませんよね?

ま、たまにはこんな回があってもいいでしょう。
実は、調子に乗って、続編『わにわに物語Ⅱ』という本も出版されていたりします。

お気に召しましたら、どうか探してやって下さい。

















新井 素子  著(?)
講談社

六月の本棚3

2003-06-22 13:54:00 | 新井素子
自分で買った初めての本って憶えてます?

親が選んだり、買ってもらったんじゃなくて、自分のお小遣いで買った、欲しくて欲しくてたまらなかった本。

私の場合、それが今回ご紹介する本。
新井素子の「二分割幽霊綺譚」なんです☆

当時(消費税はまだない時代)880円を使うのには勇気(!)が必要でした。
本屋で何時間も立ち読みし、それでも自分の物にしたくて、とうとう手に入れた自分の本。
小さな文庫本じゃなくて、ズッシリと重い初めてのハードカバー。
今見ると、本の裏側に購入年月日と自分の名前が書いてある(笑)。

この本を手にすると、そんなワクワクドキドキしながら本を読んでいた気持ちが甦ってきて、変なところが痒くなります。
今も私を読書に駆り立てているのは、このワクワクドキドキなんですね。

さて、内容はというと・・・

主人公は「仮性半陰陽」という病気により、中学三年生の時に、それまで男だと思っていた自分が、実は女だったことを知らされます。ショック状態の家族。手術に転校。恋人(もちろん女性)との別れ。昨日までの男子中学生が女子中学生として送る学生生活。ところが、ストーリーは彼女が大学生になり、女性に幻滅し(理由は想像して下さい)、かといって今更男性に夢も抱けず(う、想像したくない)生きているのか死んでいるのかわからないような生活をしているところから始まります。

ある日、そんな彼女のところに自称16才の少女が転がり込みます。
男と見れば誘惑する彼女の正体は齢300才を超える吸血鬼。主人公の生い立ちに興味を持った彼女はしばらく同居することに…
さらに二人の住むアパート「第13あかねマンション」は、どうやらパラレルワールド(別世界)と繋がっているらしく、しょっちゅう人が消えたりしている。そんなところに現れた謎の美女、東くらこ。

もはや謎とかそういう問題ではないような気もするんだけれど、彼女はモグラに育てられ、別世界にモグラの楽園を作ろうと、モグラとヒミズ(日見ずモグラ。日本特産のモグラ科の生き物。小型。)の移民計画を進めている。

そんな東くらこに見つかった主人公は、彼女とその部下の言葉をしゃべる巨大モグラ(?)により、催眠術をかけられそうになりますが、不幸な事故により自分が死んだと思い込みます。
さらに死体の処理に困った東嬢が、それをシチュー(!)にして、アパートの住人で砂姫(例の吸血鬼)に血を吸われた山科と、その後輩で主人公のかつての親友で、しかもかつての恋人の兄でもある真弓(…男です)の二人に食べさせたもんだから、主人公は左右に分割された世にも奇妙な幽霊として二人の前に現れることになり・・・


????????


・・・これで物語が成立しているのかって?
大丈夫、ちゃんと300ページくらいで納まります。

新井素子のスゴイ所は、普通の作家なら飛び付きそうな設定を用意しても、決してそれに惑わされる(?)ことなく、物語を進めて行く力があるということです。いや本当。

隕石があと一週間で地球に衝突するという「ひとめあなたに」という作品でも、主人公は地球を救うでもなく、ただ恋人に会いに行きます。
地球も救われません。

・・・面白いです。

物語はモグラとヒミズのモグラ大戦争に発展し、二組の恋愛事情も絡まって、まさにハラハラドキドキの展開。
これほど先の読めない作家も珍しい。

ただ、新井素子の作品の底辺に流れる生命観が大好きなんです。
「ひとめあなたに」のあとがきに、こんなことを書いています。

「小学生の頃。命は大切なものだって教わってきて、で…そういう教育、受けといて、知るの。(中略)もと、にわとりであったものを、殺して、食べて、あまつさえ、殺したのに、そのにわとりさんの肉、残したりする。」「だから。私、自分の御飯をおいしくしておく為にも、いきものを殺して喰う罪悪感をなんとかしなきゃいけなかったんです。そこで。私、思ったんです。仮にここがジャングルだとして。私、雑食性の動物だから、野菜も肉も食べる。故に私、生きてる限り、あっちゃこっちゃの動物を殺すだろう。でも。動物界の第一法則が弱肉強食である以上、私より弱いいきものが私に殺され、食べられるのは当然の宿命でしょう?残酷なことでも極悪非道なことでも何でもないよね。大体、自分の体内で合成できないアミノ酸を複数もってる生物が、他の生物のアミノ酸を食べるといった形で体内にとりこむことに罪悪感抱いてたら、そんなもん、生物じゃないわい。だから。逆に。私、人間を特別なものだとはまったく思わないことにしたんです。人間だって、動物である以上、ライオンだとか、虎だとか、人間より強い、人間を食べる生物に出くわしたら、食べられてしかるべきだって思うようにしたんです。」

人間なんて、他の生物の犠牲なしには、びた一秒だって生きていけないくせに。

作者21才の時のこの感性が、15才の私にはとても嬉しかったんです。そして、それは今も、続いています。

なかなか、手に入り難いとは思いますが、他の作品でも、このテーマは垣間見れて、独特の生死観が面白い雰囲気を作ってますよ。
しかもコメディーだったりします。

それでは、今回は新井素子風に終わりたいと思います。

読んで下さって、どうもありがとうございました。気にいっていただけると、とても嬉しいのですが。そして、もし。気にいっていただけたとしたら。もしも御縁がありましたら、いつの日か、また、お目にかかりましょう―。






新井 素子  著
講談社