「魔法瓶」は魔法の瓶ではありません。
保温性のある容器のことで、現在は電気ポットの形で、広く世間に知られています。
同じく
「マジック・ペン」は魔法のペンではありません。
どんなものにでも書くことができ、しかも消えにくい筆記用具の一種です。
ただし、一部の商品をのぞいては…
さて今回は、イギリスが誇るファンタジーの女王、ダイアナ・ウィン・ジョーンズの心躍る短編の数々が収録された一冊。
その名も『魔法! 魔法! 魔法!』という本をご紹介したいと思います☆
猫が語る、魔法使いの男の子と、お姫様の恋のお話♪
親が再婚して、兄妹になったエルグとエミリー。
それぞれにおばあちゃんは二人づつ。
ある時4人のおばあちゃんが一度にやってきて!?
とっても嫌なアンガス・フリント。
お父さんの友達だっていうけれど、いつまでも家に居座り、ぜんぜん出ていこうとしない。
旅行に出かけたコーラ姉さんの部屋を占領し、残された妹と弟たちに横暴の限りをつくす!
でもさすがに大の大人にかみつくわけにはいかない。
では、いったい誰がアンガス・フリントを追い出すことに成功するのか☆
SF、ホラー、ファンタジーに冒険物、作者の自伝的なエッセイと、そしてもちろん、魔法がいっぱい!!
18編の物語を詰め込んだ、とってもお得な一冊になっています♪
特に、作者が小さい頃の思い出をもとに書いた『ジョーンズって娘』というお話では、作者の性格が垣間見れて面白いです。
自分の妹が二人もいるのに、さらに次から次へと同級生の女の子たちがやってきて、妹やら弟やらを預かることになるジョーンズ(彼女は引越してきたばかりで同級生の頼みを断れなかったのです☆)
そのうちとうとう庭じゅうが小さな子どもたちであふれてしまいます。
そこで彼女はしかたなく、子ども達を連れて象を見に行くことにするのですが、どろんこになったり、行く手に川があったりと、子ども達の服はすっかり汚れてしまい…
ジョーンズは、他の作品『わたしが幽霊だった時』のあとがきで、疎開先でピーター・ラビットの作者であるヴィクトリア・ポターの家の前で騒いで怒られたことを書いています。
ピータラビットの作者との意外なつながりがとっても興味深いところですが、もしかすると、この頃のことかも、と読んでいて思いました。
ミス・ポターが怒りたくなるほど、ジョーンズたちは静かな村にひと騒動巻き起こします♪
彼女の作品の魅力は、もちろんそのストーリー、物語の奇抜さ、ファンタジー色の強さもありますが、なんといっても子ども達がとっても悪い子(笑)というところ☆
天使みたいな子どもなんて一人も出てきません!
みんなうるさくって、走りまわっていて、物を壊したり、すぐに汚したり☆
等身大の子ども達の描写がとっても楽しい♪
さすがは、3人のお子さんを育てたお母さん作家です!
その中でも特にお気に入りなのが、『二インチの勇者たち』と言うお話の主人公アン・スミス☆
おたふく風邪にかかってしまったアンはベットの上でふくれています。(おたふく風邪のせいもあるけど、機嫌も悪いのです♪)
ポテトも食べられない、何かしゃべろうと口を開けると痛いし、笑っても痛い。
熱もあるし、とにかく死ぬほど退屈!
アンはベットの上で自分の脚にかかったシーツの形を見ているうちに、それがだんだん丘や谷に見え始めます。
自分の体が小ちゃかったら、シーツの丘や谷や密林の中を探検するのに、そう、だいたい、背の高さは二インチくらい…
その時、アンの頭の中にエンナ・ヒッティムズが生まれました。
「彼女は〈左爪先山〉のふもとの農場で生まれた勇敢な少女だ。
日に焼けていて、健康で、もちろんおたふく風邪になんてかかっていない。」
身長は二インチくらい。
冒険と探検に憧れ、魔法の剣を持って冒険の旅に出る!!
アンは自分の空想を夢中になって絵に描きます。
マジックペンで、思いっきり!
エンナが二人の男女の旅人を助け出し、いよいよ3人の冒険が始まるかと思った時、ちょうどマジックペンが切れてしまってガッカリするアン。
ところが、アンがちょっと目を離したすきに、エンナたちが勝手に動き始めたからさあ大変!!
しかも、その舞台は、現実のアンのベットの上!!!
アンを巨人と思い込み、そのノドを切ろうとシーツの丘を登ってくる!
慌てて逃げ出すアン。
勇者たちはいきなり地形が変わって大慌て。
でも勇者たるもの、何でもやっつけないではいられない。
グラタンの皿をひっくり返し、アンの大切なセーターを切り刻み、レコードには大きな引っかき傷!!
大活躍の勇者たちに飛びかかろうとした、飼い猫のティビーを助け出し、台所に立てこもったアンは、必死で考えます。
どうして頭の中の勇者が出てきてしまったのだろう?
とにかくこのままじゃ家がメチャクチャにされてしまう…
そして、ここからアンの逆襲が始まるのです☆
子供の頃、山の形を見ては、その中に恐竜が眠っているのではないかと空想していました。
でも、実際に目の前に現われたら、プチッって簡単に踏み潰されていたかも知れません★
ちょっと残酷なようで、ユーモアにあふれ、勇気もあるけど失敗もある、そんなとっても共感し、楽しめる物語。
やっぱりダイアナ・ウィン・ジョーンズはすごい!
長編やシリーズ物も好きだけれど、この短編集もオススメです☆
それにしても、よくこう次から次へと思いつくものだなぁ~
これからマジックペンは買う時はご注意を。
もしかしたら、本物の「魔法(マジック)のペン」が紛れ込んでいるかも知れませんから☆
ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 著
野口 絵美 訳
徳間書店
カレーうどんを食べて、ビタミンCを摂って、アイスノンと冷えピタシートで頭冷やして、あとはただただ眠るのがいつもの風邪撃退法。
大人しく寝ていればいいものを、目が覚めて、ちょっと調子がいいと、ついついTVを観たり、パソコンや読書をしてしまいます。
その中で夢中で読んだのが、今回ご紹介する、英国のファンタジー作家の作品。
ダイアナ・ウィン・ジョーンズの『花の魔法、白のドラゴン』です☆
舞台は魔法の国<ブレスト>♪
国を統治する王様は一箇所に留まらず、リムジンに乗り込み、宮廷の人々を乗せたたくさんの車やバス、食料や家財道具などを載せたトラックやトレーラーなんかを連ねて、国中を旅して回っているという変な国。ロンドンやウィンチェスターなんて、聞いたことのある都市も出てくる<ブレスト>は、イギリスそっくりな国ではあるけれど、スコットランドもウェールズもそれぞれが独立していて、鉄道も飛行機も存在しない国。(二階建てバスはあるみたい♪)
かと思えばコンピューターで財務計算していたりするので、科学もある程度は進歩しているはず。
でも天候を管理する「天気魔法使い」なんて便利な存在がいるのは、やっぱりうらやましいかも☆
そう、この国は、私たちの暮らす世界のイギリスと、違う次元で平行進化したパラレルワールド!
しかもこの国の人々は、多次元世界の存在を知っていて、私たちの世界や、その他の世界を行き来する、「マジド」と呼ばれる選ばれた人々も存在している!
この、「たくさんの別世界」が同時に存在する世界観は、ダイアナ・ウィン・ジョーンズ作品にはよく使われています♪
今回も、<ブレスト>で王様と一緒に旅をしている廷臣の娘、ロディと、私たちの世界の<イギリス>で、ホラー小説家の息子として暮らしている少年、ニックが主人公☆
<ブレスト>で国中の魔法を司る役職、”マーリン”が新しく選ばれたことにより、ロディとニック、そしてたくさんの「他の世界」に様々な事件が起こり始めます。
いろんな世界の切れ端をつなげて作った島に住む魔法使い。
甘えん坊で怖がりな女の子のようなゾウ。
なんでも食べたがるヤギに、自分だけのトーテム獣。
古の魔女から「花の魔法」を受け継いだロディと、ブレストの大地に眠る白いドラゴンと出会うことになるニック。そして、”小さき民”が告げた不思議な言葉「国を起こせ」とは?
語り手がロディとニックでコロコロ変わるので、ちょっと読みにくいですが、ページの上にロディの「R」とニックの「N」の飾り文字が描かれていて(デザインは佐竹美保さん♪)、少しは助けになります。
なかなか出会えない二人が、出会ってからの物語の展開は急加速!
大人に信じてもらえず、当てにしていた「マジド」のハイドおじいちゃんにも会えなくなったロディは、ニックと力を合わせて(?)、幼友達で頼りない少年グランドと、年下でいとこのトビー、そしてこれまたいとこで、とってもうるさくて問題児の双子、イザドラとイルザビル(二人まとめてイジーたちと呼んでる♪)を連れて、一路、強力な魔法の使い手ロマノフの住む島へ…
はたして、新たなマーリンの陰謀を、ロディとニックは防ぐことができるのか?
神話と精霊が実在する世界ならではの描写が多くて、ケルトや向こうの地域信仰にうとい日本人にはちょっと難しい内容もありましたが、奇想天外な展開と、子供たちや動物を巻き込んでの冒険は充分に楽しめます♪
欲を言えば、もっとマーリンの陰謀の内容をわかりやすくして欲しかったかも…
ともかく、ニックの友達、女子学生みたいなゾウの「ミニ」(笑)だけでも、一読の価値はありますよ☆
ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 著
田中 薫子 訳
徳間書店
夢の続きを見ることができますか?
一度目覚めて、でもどうしても夢の続きが気になって、もう一回布団にもぐり込む。
そういう時、私はけっこうな確率で、さっきの続きの場面に戻ることが出来るんです。
これって当たり前なんですかね?
今見ているのが夢だと分かっている時もあれば、なんの疑いもなく現実として体験している時もあります。
「学校行かなきゃ!」と飛び起きたことも何度あることか。
その度に「な~んだ夢か…」とちょっと損した気分になったりして。
今回のお話の主人公、クリストファーも、幼い時からとっても不思議な夢を見ていました。
岩場を抜けて谷に下りて行くと、谷ごとに違う世界があって、様々な人々、かわった動物、不思議な生き物達が暮らしているのです。
そしてさらに不可解なことに、目覚めると、なぜか夢の世界でもらった玩具がベットの上に乗っていて、あたりは泥や砂だらけ、パジャマも破けていたりして、まるで本当に夢の世界で冒険をしてきたみたい。
仲の悪い両親にかまってもらえず、メイドと家庭教師しか話し相手のいないクリストファーは、やがて夢の世界の谷間を「あいだんとこ」、無数の谷間の先にある世界を「どこかな世界」と名付け、夜ごと訪れるようになります。
それが自分の持つ魔法の力だとも気付かずに。
さあ、ダイアナ・ウィン・ジョーンズの「大魔法使いクレストマンシー」シリーズもいよいよ四冊目♪
今回はクレストマンシーことクリストファー・チャントの若き日の冒険と、彼がクレストマンシーになるきっかけを描いた、
『クリストファーの魔法の旅』をご紹介します☆
このシリーズの特徴ともいえるのがパラレルワールドの存在です。
可能性の数だけ枝分かれした世界が存在し、自分そっくりの人物が、やっぱり可能性の数だけ存在する。
そんな世界を自由に行き来できるとしたら?
しかも、本当はどの世界でも魔法は当たり前で、たまたまわたし達の住んでいるこの世界だけが魔法が発展しなかった世界にすぎないとしたら?
クリストファーの暮らす第十二系列の世界Aでは魔法が便利に発達しています。(ちなみにわたし達の暮らす”この”世界は同じ系列の世界B、ということになっていて、ひとつの系列にはたいてい九つの世界があります☆)
お父さんもお母さんも魔法使いらしいのですが(クリストファーはめったに会えないので確かめようがないのです)、起きている時のクリストファーは魔法が使えません。
そのために今回も数々の危険や困難にさらされるのですが、なぜ使えないかはシリーズの『魔女と暮らせば』を読んだ読者には理由が分かっているので、読んでいて思わずニヤリとさせられます☆
ふとしたことで、クリストファーが「どこかな世界」に行けることを知った、これまた大魔法使い(ほんと、魔法使いだらけの家系なんです)の伯父が、クリストファーの能力を利用しようと考えたことから、クリストファーの身の上に次々と災難が降りかかります。
そしてその騒動は、いろいろな系列の世界を巻き込んみ、ついにはクレストマンシー城を悪の軍隊が取り囲む事態に。
老クレストマンシー、ド・ウィットの魂は「どこかな世界」に追いやられ、ほとんどの魔法使いの力が奪われた絶体絶命の中、新たなクレストマンシーに指名されるクリストファー。
たよりになるのは、違う世界からやって来た少女小説大好きの女神様と、二重スパイの犯罪者。
それと七つの足と三つの頭を持つ赤毛のネコ。
知恵をしぼって、いたずらごころ全開で、靴みがきの少年から、コックに庭師という顔ぶれで、敵を迎え撃つ覚悟のクリストファー。
はたしてクリストファーはこの危機をどうやって乗り切るつもりなのか?
枝分かれ世界の壮大さと、魔法のコミカルな描写。
物語全体を駆け回る猫に人魚にドラゴンと、見どころいっぱい、読みどころ満載♪
シリーズものを読む楽しさも、もちろん押さえてあって、クリストファーの通う寄宿学校の同級生や、友達になる違う世界の女神様など、「そうか、こういうことなんだ~☆」と妙に嬉しく、楽しくさせてくれる仕掛けがどっさり。
この本だけでも楽しめますが、シリーズを通して読むのがやっぱりおすすめです♪
今回は紹介しきれませんでしたが、この他にも、外伝『魔法がいっぱい』が出版されています。
続編もまだまだ発表されるとのことなので、これからがまだ目が離せないこのシリーズ。
魔法でお困りの方、どうぞ一言唱えて下さい。
いかなる場所、いかなる世界に居ようと、きっと彼は現れることでしょう。
そう、「クレストマンシー」と☆
ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 著
田中 薫子 訳
徳間書店
わたし達の世界とソックリだけれど、魔法に満ちた別の世界。
今月は、そこで巻き起こる、魔法にまつわる様々な事件を描く「大魔法使いクレストマンシー」シリーズを紹介してきましたが、いよいよ今回で三冊目♪
映画「ハウルの動く城」も好評みたいですし、ますますこの作者からは目が離せません。
では、英国が誇るファンタジー物語の紡ぎ手。
ダイアナ・ウィン・ジョーンズの『魔法使いはだれだ』を、ご紹介しましょう☆
今回の舞台は寄宿学校!
わたし達の世界とソックリだけれど、やっぱり違うこっちの世界では、魔法使いがたくさんいるにもかかわらず、魔法が法律で厳しく禁じられています。
「このクラスに魔法使いがいる」
そんな中、捕まったり、火あぶり(!)にされた魔法使いの遺児たちが学ぶラーウッド寄宿学校の二年Y組で、魔法使いを告発するメモが見つかって、大騒ぎ!
いったい誰がメモを書いたのか?
そして、メモの内容が本当なら、魔法使いはいったい誰?
登場する学校の生徒たちの描写がいきいきとしていて、読んでいて楽しい、楽しい♪
男子と女子の間に見えない壁があって普段は口もきかなかったり、男子は男子で暗黙の力関係が、女子は女子でいくつかの派閥がある、といったところなんか、どこの国でも共通らしいですね。
この作者の学園物って大好きなんですよ☆
いじめっ子や気取り屋、いわゆる「いい子」なんて一人もいなくて、ズルくて、目立ちたがり屋で、あこがれや嫉妬を抱く子供たちばっかり!
「そう、そう、こんな奴絶対クラスに一人はいたよね」と思わずうなずいてしまうほど☆
魔法使いと疑われ、みんなにからかわれる女の子のナン。
幼い時の魔女との出会い、火あぶりにされる魔法使いの姿が忘れられない男の子チャールズ。
そんな時、魔法としか考えられないような事件が次々と起こって、みんなの疑いの目は哀れなナンに…
やがて副校長の息子で嫌われ者のブライアントが、「魔法使いにさらわれる」と書き残して失踪してしまい、警察もやって来て騒ぎは大きくなるいっぽう。
ついには魔法使いを捕まえる査問官がやってくるというので、逃げ出したナンと仲間たちは、古くから伝わる助けを呼ぶといわれる呪文を唱えてみることに…
いい意味で期待を裏切ってくれる作者の”引っかけ”にはワクワクさせられっぱなし!
アレ、この人がこうだとすると、あれは誰がやったの?
あっちがこうだと、え? そんなのってアリ!?
疑問符と感嘆符。
交互に頭に浮かんで物語の後半はスピードアップして読んでしまいました。
この世界ではクレストマンシーのことはほとんど知られていないらしく、子供たちにうさんくさく見られてしまうのが可笑しい☆
魔法のほうきの友人って誰?
わがままな空飛ぶ絨毯?
黄金の手にスパイクシューズのチョコレートケーキ?
魔法がたっぷり、ユーモアどっさりの痛快ファンタジー小説☆
戦いばかりのファンタジーに、もううんざりのあなた。
普通の魔法ではあきたらないというあなた。
ぜひ、このシリーズを手に取ってみてはいかがでしょうか。
きっと面白いことが始まりますよ♪
どうです、魔法使いを捕まえに、あなたも物語の世界に出かけてみませんか?
ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 著
野口 絵美 訳
徳間書店
いよいよ映画「ハウルの動く城」が公開されますね♪
キムタクの声優としての評判や、ストーリー展開についての声が、早くもネットのあちこちから聞こえてきていますが、原作がとっても面白かったので、どんな映画に仕上がっているのかが今から楽しみです☆
待ちどうしいな~♪
この「ハウルの動く城」の原作者。
イギリス人の女性なのですが、彼女の他の作品もとっても面白いんです。
ひとりでも多くの人にぜひおすすめしたい!
今回はその中でもお気に入りの作品。
大魔法使いクレストマンシーが登場する一連のシリーズの中の一冊。
魔法使いに魔女に妖術師、呪術師に黒魔術師に猫に虎に火を吹くドラゴンまでが登場するドタバタ魔法大合戦。
ダイアナ・ウィン・ジョーンズの『魔女と暮らせば』をご紹介します☆
あなたは魔法が使えるとしたらどうします?
この本に登場する魔女の少女、グウェンドリンはツバを吐くみたいに気に入らないことがあるとすぐ魔法を使います。(ちょっとお行儀がわるいんです。おまけに口も)
そのくせ、自分は他の連中とは違うんだ、もっと大切にされて尊敬されなければならないんだ、だってこんなに魔法が使えるんだから。と、たいへんな上昇志向を持ったお嬢さん。
いつも弟のキャットを、従僕のように従えて、まるで小さな女王様みたい。
そんな姉弟が、事故で両親を亡くしたことをきっかけに、クレストマンシーと名乗る紳士のもとに引き取られることになります。
それまでアパートの二階を借りていた生活から、本物のお城で暮らすことになる二人。
広大な屋敷に執事にメイド、何人もの庭師にコックに大きなベット。
そんなあこがれていた豪華な生活が始まったというのに、当のグウェンドリンはご機嫌ななめ。
クレストマンシーに魔法を禁じられ、自分の能力を無視された彼女は、キャットの不安をよそに、自分の力を示すため、魔法で様々な嫌がらせを試みます。
スカートを蛇に変えたり、キレイな芝生をもぐらに掘り返させたり。
最初のうちは、子供らしい、いたずら程度のものなので、笑って読んでいられるのですが、グウェンドリンの野心のスケールの大きさがしだいに明らかになるにつれ、笑ってもいられない事態に…
魔法が当たり前に存在し、魔女や妖術師が普通に暮らしている世界は、作者の得意とするところ。
さらにいくつもの少しずつ違った世界がつながって存在し、その世界を行き来できるという設定も楽しい☆
背が高くてハンサムなのに、いつもボーとしているクレストマンシーに、その子供でオレンジマーマレードが大好きな太り気味のロジャーにジャネット。(もちろんみんな魔法が使える!)
様々な登場人物がいる中、グウェンドリンにいつも翻弄されている弟のキャットが一番のお気に入り☆
自分では魔法が使えないので、いつもグウェンドリンに頼っていたキャットが、ある日グウェンドリンが姿を消し、かわりにグウェンドリンにそっくりだけど、別の世界から来たと主張するジャネットという少女が現れ、城のみんなに別人だとバレないように苦戦する姿がとっても可笑しいんです☆
子ども達がみんないい子でお行儀のいいどこぞやの物語と違って、このお話に出てくる子ども達は口は悪いしけっこう意地悪、服は破くし、すぐに土やジャムでなにもかもドロドロにしてしまうのです。
いつもケンカばっかりしているそんな子ども達の姿は、現実にそこらにいる子ども達そのままで、妙に説得力があって納得できてしまいます。
それもそのはず、三人の子持ちである作者が「あんたたちがけんかばかりしてるから、お母さん、ぐあいが悪くて死んでしまうかも知れないわよ、そうなってから泣いても知らないから」と言ってベットに横になった時にこの物語が頭に浮かんできたんだとか(笑)
なんて素敵な物語を思い浮かべてくれたんでしょう。
「ハウルの動く城」も面白そうですが、ぜひ他の作品も紐解いて頂きたい!
知らずに通りすぎるには、あまりにも、もったいない気がするものですから☆
ほんとは魔法が使えるんじゃないかと疑わしいくらい、色々な物語を紡ぎ出してくれるダイアナ・ウィン・ジョーンズ。
あなたも、その魔法の扉を開けてみませんか?
ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 著
田中 薫子 訳
徳間書店
クレストマンシーとは、あらゆる世界の魔法の使われ方を監督する、大魔法使いの称号。
魔法をめぐる事件あるところ、つねにクレストマンシーは現れる!
さあ、「大魔法使いクレストマンシー」の活躍する今回のお話は、イタリアを舞台に、二つの呪文作りの名家に巻き起こった騒動を描く、まるでオペラのような意欲作♪
ダイアナ・ウィン・ジョーンズの『トニーノの歌う魔法』をご紹介します☆
まず、登場人物のほとんどが、今回は歌いまくります。
なんてったって魔法をかける方法が、「歌うこと」だっていうのだからにぎやかなこと、にぎやかなこと☆
モンターナ家とペトロッキ家という反目しあう二つの名家が、一族総出で街中でケンカする場面があるのですが、どちらも強力な魔法の呪文を唱えるために、声を合わせての大合唱。
伯父さん達のバスの低い歌声に伯母さんや若いイトコたちのソプラノが加わり、さらにテノールの高らかな歌声が力強く響き渡る。
そのだびにガラスが割れ、卵が飛び交い、炎に水にくさったキャベツなんかがあらわれる!
こんな魔法の戦い聞いたことありません☆
主人公のトニーノはモンターナ家の人間なんですが、まだ小さいのでたいした呪文は使えません。
できるといえば、家の主みたいなオス猫ベンヴェヌートの言葉が理解できることぐらい。
そんな時、二つの名家の強力な呪文のおかげで独立を保ってきたトニーノ達の暮らす小国カプローナに、不穏な空気が流れます。
なぜか呪文の力が弱まり、他国に侵略される危機が迫っていたのです。
それを防ぐには、かつて天使より送られたという〈カプローナの天使〉の歌の歌詞を見つけるしかない。
互いに呪文の力が弱まったことを相手の家のせいにする大人達にかわり、歌詞を見つけようとするトニーノの前に、大魔法使いのしかけた罠が口を開く…
天使に悪魔、鉄のグリフォンに人形劇「パンチ・アンド・ジュディ」。
おまけでロミオとジュリエットばりの恋愛模様もひっさげて、ダイアナ・ウィン・ジョーンズのあらたな世界は歌劇のような楽しい物語になっています。
「クレストマンシー!」
呼ぶとどこからでも、何をしていても現れるクレストマンシーのファッションにもご注目☆
登場人物も今回かなりの数になるのですが、みんな個性的で魅力たっぷり♪
舞台がイタリアだからなのか、全体に流れる明るい雰囲気と、リズミカルな文体でスラスラと読めてしまいました。
順番からいうと、今回のお話は、前作『魔女と暮らせば』から六ヶ月後に起こったことになっています。
主人公トニーノと、前回の主人公キャットは外伝『魔法がいっぱい』の中で共演していますので、二人の活躍がまだまだ読みたい方はそちらもおすすめです☆
ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 著
野田 絵美 訳
徳間書店
この季節になると、世界中の魔法使いや魔女達は大忙し。
五月一日の前夜に行われるという〈ワルプルギスの夜〉に向けて、準備に余念がないのです。
〈永遠に消えない大たき火〉
〈髄骨と臭化カリウムの夕食会〉
〈七つのクモの巣ダンス〉
年に一度の魔女達の集まりは、夜を徹しての大騒ぎ。
今からワクワクそわそわ、ほうきに磨きをかけている頃でしょう☆
最近めっきり有名になった魔法使いといえば、ハリー・ポッター。
六月に公開の映画最新作「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」も話題になっていますね。
ところで、イギリスにはハリー・ポッターの原作者J・K・ローリングと同じように根強い人気を持つ女性作家がいます。
「ハリーに夢中? ダイアナを試してごらんなさい」
今回は、宮崎駿監督、スタジオジブリの最新作、「ハウルの動く城」の原作となった、今もっとも魅力的な物語作家。
ダイアナ・ウィン・ジョーンズの『魔法使いハウルと火の悪魔』をご紹介しましょう☆
主人公は、魔法が本当に存在する国インガリーで、帽子屋の三人姉妹の長女に生まれたソフィー・ハッター。
まず、ソフィーの紹介が笑えます♪
「せめて貧しいきこりの子なら、少しは出世の望みもあったでしょうが、あいにくそうではありません」
『長女は何をやってもうまくいかない』という昔話のパターンを”自覚”しているソフィーが可笑しい♪
(作者自身も三人姉妹の長女ってのが笑えます☆)
運だめしに出る運命(と、ソフィーが思っている)末っ子マーサは魔法使いの弟子に、とびきり美人の次女のレティーはパン屋の売り子にと、それぞれに落ち着いた時も、ソフィーは家業の帽子屋を継ぐために毎日作業場で帽子の仕上げをすることになります。
さらにさらに、まさに長女の宿命のように「荒地の魔女」の呪いをかけられ、九十歳の老婆に変身させられてしまうソフィー。
「年寄りがこんなことを我慢しているとは、ちっとも知らなかった!」
まさに踏んだり蹴ったり。
痛む手足。
きしむ関節。
しわだらけで静脈の浮き出た手。
家にはいられないと、杖を頼りによろよろと歩きだしたソフィー。
その彼女の眼前に、悪名高い魔法使いハウルの動く城が浮かんでいるのでした…
おばあちゃんになったソフィーの豪気なこと♪
振り回されるハウルの弟子のマイケルや、小さな暖炉に契約で縛られている火の悪魔のカルシファーがかわいそうなくらい。
この、いい子なんだけど頼りにならないマイケルや、愚痴の多い悪魔のカルシファーも魅力的なんだけれど、主人のハウルはそれに輪をかけて神秘的でわけわかんなくて魅力いっぱいなんです!
ソフィーも負けていなくて、ハウルに内緒で火の悪魔と取引したり、マイケルと”七リーグ靴”を持ち出したりと大騒ぎ。
謎のかかしや、犬人間も現れ、「荒地の魔女」の城にソフィーが乗り込んで騒ぎは最高潮に達します☆
はたしてソフィーは魔女の呪いを解くことが出来るのか?
ハウルとカルシファーの契約とは?
動く城の秘密に二人のレティー?
おまけでマイケルの恋愛模様もひっくるめて、謎がいっぱい、魔法がいっぱい!
作者が書きながら笑い転げてイスからころげ落ちそうになったという、読み出したら止まらない、極上のファンタジー。
映画公開の前に、ぜひ原作の魅力をお楽しみ下さい♪
続編の『アブダラと空飛ぶ絨毯』も楽しいですよ。
まるで違う世界のお話のようで、ちゃっかりソフィーとハウルも登場しています。
表紙も二冊共、佐竹美保さんですしね☆
ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 著
西村 醇子 訳
徳間書店