パキスタン北部のスワート県で、パシュトゥーン人の両親のもとに生まれた少女マララ・ユスフザイ。
2012年10月9日。学校から帰宅するためスクールバスに乗っていた彼女は、複数の男たちに銃撃され、頭部と首に計2発の銃弾を受け、一緒にいた2人の女子生徒と共に負傷しました。
彼女を襲った男たち "パキスタン・ターリバーン運動(TTP)" はこう主張しました。
「若いが、パシュトゥーン族が住む地域で欧米の文化を推進していた」
彼女は学校経営者の父親の影響もあり、以前からBBCなどのインタビューを受けていました。
しかし彼女がインタビューや投稿した記事で主張していたのはたったこれだけのことです。
「子どもたち、特に女の子にも学校で教育を受ける権利がある」
銃撃事件の後、世界中から非難の声が上がりますが、TTPはこう主張します。
「女が教育を受ける事は許し難い罪であり、死に値する」
2014年。奇跡的に一命を取りとめたマララ・ユスフザイは、史上最年少17歳でノーベル平和賞を受賞しました。
そんなマララ・ユスフザイさんの手記。
『マララ 教育のために立ち上がり、世界を変えた少女 』(岩崎書店)
を読みました。
二人の弟たちと、じゃれあいながら駆け回っていた幼少期から、大人の男たちが政治の話をしているのをこっそり聞いた少女時代。
学校に通い始め、勉強が大好きになりクラスで一番を目指したり、友達と仲違いしたり、弟たちとTVのチャンネルを奪い合ったり。
そんな平和だった生活に、しだいにタリバンの影が忍び寄って来ます。
手記を読んで、初めてマララさんが過ごしてきた過酷な社会環境がわかりました。
ニュースでタリバンやアフガニスタンの様子がレポートされますが、マララさんのような年代の意見、特に女性の意見にはなかなか触れることができません。
朝のお祈りを眠いからやりすごすとか、隣家の女の子と内緒の話をするとか、時にうっとうしく感じる弟たちのこと、学校での勉強、友達と仲違いしては落ち込んだりする様子は、世界共通の10代の女の子という感じで、とっても共感できました。
勉強が好きで、世界を知ることが好きで、それなのにどうして学校で学ぶことを女の子だからという理由で諦めなければならないのか・・・
・・・イスラム教が悪なのではないと私は思います。
マララさんもイスラム教徒です。
国連での演説で、マララさんもいっています。
「彼らは、神はちっぽけで取るに足りない、保守的な存在で、ただ学校に行っているというだけで女の子たちを地獄に送っているのだと考えています」
国際政治だとか、宗教だとか、言葉の解釈だとか、人間は様々な言い訳を考え出しますが、私が思うのは自分の頭で考えることを放棄してしまってはいけないってこと。
タリバンはラジオを使って人々の不安を煽り、自分たちの主張を、指導者の言葉を人々に聞かせます。
それはやがてタリバンを批判する者はすなわちイスラム教に背く者だとして、個人を名指しし始め、人々を恐怖と疑心暗鬼に駆り立てていきます。
町では公開裁判が始まり、見せしめのムチ打ちが行われ、処刑された人々がさらされる。
これは実際にマララさんの身の回りで起きた現実。
イスラム国の例を出すまでもなく、これが今まさにこの地球上で行われているんですよね。
2001年アメリカで起こった同時多発テロ、いわゆる9.11の時、マララさんは4歳。
2011年パキスタンの陸軍士官学校の目と鼻の先で潜伏中のウサマ・ビン・ラディンがアメリカ軍によって殺害された時は13歳でした。
やがて学校にも脅迫状が届くようになり、女の子が学校に通うことが禁止されてしまいます。
襲撃が頻繁になり、タリバン兵の姿が町にも。
タリバンが首都にまで迫ろうとすると、ようやく政府も重い腰を上げ、タリバン掃討に乗り出し、町は戦場に。
日常の中に響く銃声に爆音。
タリバンは学校を次々と爆破し、マララさんたち家族も避難をよぎなくされます。
政府軍は一度はタリバンを退けますが、彼らは遠くに去ったわけではありませんでした。
ようやく再び学校に通えるようになったと思った時、その事件は起きるのです。
頭部と首に銃弾を受けた彼女は軍の病院に運ばれますが、意識不明で危ない状態。
さらなるタリバンの襲撃も考えられる中、治療と身の安全を確保するために、彼女はイギリス、バーミンガムの病院に移送されることになります。
一週間後、意識を取り戻した彼女が、家族の心配をするのと同時に、病院の治療費を心配するところがあって、読んでいて泣きたいような可笑しいような気持ちになってしまいました(苦笑)
読んでいて我慢できずに二度程感極まってしまったシーンも。
襲撃された場面ではありません。
パキスタンで不安と危険のせまる中で暮らしながら、イギリスで皆に囲まれて暮らしている治療中、何気なく学校に早く行きたいなぁとマララさんが思う場面。
学校に行かせてあげたい!
こんなに学校に行きたがっている女の子を学校に行かせてあげることもできないなんて、人間ってなんて愚かなの!!
空から光に包まれた神様が降りて来て「これこれ仲良く暮らしなさい」というまで争いを続けるつもり?
・・・極端に走るのはよくないですね。
一本のペン、一冊の本、そこからでも世界は変えられる。
「無学、貧困、そしてテロリズムと闘いましょう。本を手に取り、ペンを握りましょう。
それが私たちにとってもっとも強力な武器なのです。
1人の子ども、1人の教師、1冊の本、そして1本のペン、それで世界を変えられます。
教育こそがただ一つの解決策です。
エデュケーション・ファースト(教育を第一に)。ありがとうございました」
(2013年7月12日マララ・ユスフザイ、国連本部での演説より)