不思議な物語を読みました。
梨木香歩 著
『ピスタチオ』(筑摩書房)
フリーライターの女性が主人公なのですが、飼っている犬の病気からはじまって、いつしかアフリカの奥地で人々から厚い信頼を集めている呪術医の話になっていきます。
死者には物語が必要なんだ…(本文より)
アフリカの観光名所を紹介するという仕事の依頼があり、一時期暮らしたことのあるアフリカの大地に再び立つ主人公。
彼女のもうひとつの目的は、不思議な亡くなり方をした、知人でアフリカの部族を回ってフィールド・リサーチをしていた日本人社会学者の足跡をたどること。
アフリカの荘厳な大地。
感情豊かでダイレクトに生命の力強さを感じさせるアフリカの人々。
内戦の傷跡や、連れ去られた子供たちによって組織された「子ども兵」の存在。
木になったと伝えられる伝説の女性ナカイマ。
症状であり、状態である「ダバ」
人々に語りかけ、時に導く精霊「ジンナジュ」
論理の飛躍があろうと、どれだけ非効率に見えようと、受け入れるべきものを受け入れ、自分の力のおよぶすべきことをする。
何回も念を押したのに、あっけなくひっくり返る約束。水しか出ないシャワー。ガタゴトとゆれる道。いつ来るのかわからないバスに、売り子なのかお客なのかわからない屋台の人々。
TVでよくハエが子供たちの目や鼻にたかっている映像を見ますが、あれが水分を求めているのだということを初めて知りました。
ハエがいるのは、そのハエを追い払う体力のない者…
ナイルの源流。
溶け出す氷河。
踏み固められた赤茶けた大地の上で、人々は踊り、精霊と交感しあう。
作者の描き出すアフリカの人々や現地の様子。ホテルのアメニティーや食事の内容もとっても興味深いのですが、なんといってもそこで暮らす人々の、そしてそれは現代の日本人にとって遠くなってしまった、大地と人間という原始からの関係が、作者も本文中で語っていますが、初めてなのに懐かしい感慨を読者に与えてくれます。少なくとも、私にはそう思えました。
内戦で荒れた山野にピスタチオを植える…
それは大地の回復と地元の人々に現金収入をもたらすはずでしたが、気候の問題もありうまくいきません。
しかし、その種が物語を意外な方向へ…
毎回、人間を描きながら、たえずそのかたらわに草花や木々など、自然の現象をよりそわせる梨木香歩さんが描くアフリカの自然は、それまでの日本のつる草や草木染め、英国の湖水地方などを描いてきた作品とはまた違った荒々しさがあって、とっても魅力的でした。
主人公は決して「精霊」や「呪術」を信じているわけではなくて、日本にいても神社に行けばあらたまった気持ちになるように、「人々が必要としている」ものとして敬意を払い、暴き立てるようなことはしません。
それは人間関係にもいえることで、いかに自分と違う考えを後生大事にしている人に出会っても、必要もなく踏み込まない気遣いを見せます。
そんな距離感も好感が持てました。
もっとも、時にはチクリと刺すこともありますが(苦笑)
人々の思いをくみ取り、それを治療する呪術医。
主人公は物を書くことで、依頼主の思いをくみ取り、それを形にする。
いつか自分の思い描く国を物語にしてみたい…
巻末に、主人公の書く「ピスタチオの物語」が載っています。
とても不思議な物語でした☆