私的図書館

本好き人の365日

「長くつ下のピッピの世界展」

2019-06-12 10:10:28 | 児童文学

名古屋の松坂屋美術館で開催されていた

 

日本・スウェーデン外交関係樹立150周年記念

「長くつ下のピッピの世界展

~リンドグレーンが描く北欧の暮らしと子どもたち~」


を見て来ました。



スウェーデンの国民的作家、アストリッド・リンドグレーンが描く、世界一つよい女の子「ピッピ」の話は、日本でも大人気ですよね!

リンドグレーンの作品はたくさんの国の言葉に翻訳され、書籍だけでなく、ドラマや映画、アニメやミュージカルなどにもなっています。

日本では1964年、岩波書店より大塚勇三さんの翻訳で『長くつ下のピッピ』として出版されました。

 

ピッピは力持ちというだけではなく、大人が勝手に決めたルールに縛られない、自由で心根の優しい女の子。

それはリンドグレーンの後年の活躍を見てもわかります。

子どもや動物の権利を守るために戦い、あらゆる虐待に対して反対の立場を貫き、不正に対して声をあげる。

1978年にドイツ書店協会平和賞授賞式で行ったスピーチ「暴力は絶対だめ!」は、翌年のスウェーデンにおける子どもへの体罰禁止の法制化へとつながりました。

 

今回の展示では、「長くつ下のピッピ」をはじめ、「小さいロッタちゃん」や「やかまし村」シリーズなどの貴重な原画や、オリジナル原稿など約200 点に加え、ピッピの住む『ごたごた荘』を精巧に再現した大型模型、リンドグレーンの貴重な映像、その愛用品などを見ることができます。

 

 

 

 

原画が思っていたより小さいことに驚いたり、修正の跡が見て取れたり、私たちが見ている「完成品」を作るために、作家たちがいかに苦労しているのかを知ることができて、とっても興味深かったです!

また2014年に宮崎吾朗監督によってアニメ化され、NHKBSプレミアムで放送されたリンドグレーン原作の「山賊の娘ローニャ」の資料も、ちょびっとだけですが展示されていました。

かつて宮崎駿監督と高畑勲さんが若かりし頃「長くつ下のピッピ」のアニメ化を企画し、原作者の同意が得られず挫折したのは有名なお話。

宮崎駿版「長くつ下のピッピ」も観てみたいなぁ〜

 

 

“子どもたちに愛を、もっと愛を、もっともっと愛を注いでください。
そうすれば思慮分別がひとりでに生じてきますから“

 

“もし誰かの悲しい幼年時代を明るくすることができたなら私は満足です”

 

                  ーアストリッド・リンドグレーンー

 

 


『村岡花子童話集 たんぽぽの目 』(河出書房新社)

2014-09-10 00:22:51 | 児童文学

NHKの朝ドラ「花子とアン」のおかげで、村岡花子さんを特集した本や、昔の作品が本屋さんにたくさん並ぶようになりました。

その中の一冊。河出書房新社から出た『村岡花子童話集 たんぽぽの目 』を読みました。

ドラマにも登場した「たんぽぽの目」と「みみずの女王」も収録されています。

 

著者 : 村岡花子
河出書房新社
発売日 : 2014-07-19

 

 

わぁ、「みみずの女王」ってこんなお話だったんですね!

たいそう太く、長い立派な体を持つことから、ちょっとお高くとまったみみずのフト子さん。

他のみみず達はいばっているフト子さんには近づかないようにしています。

それでもフト子さんはへっちゃら。

自分の体を見てはうっとりする毎日。

 

ドラマの影響か、このお高くとまったフト子さんが、花子を見かける度に「みみずの女王」を持ち出す、宇田川先生に思えてしまう(苦笑)

自信過剰でいばりんぼ(笑)

 

物語自体は短いのですが、この後意外な展開を見せて、しかもけっこう「想像の余地」のある終り方なのでちょっと驚きました。

子供向けだからって夢や希望をまぶした甘いお菓子じゃない、かみごたえのある物語。

勝手な想像ですが、アンデルセンなどの影響があるのかもしれません。

 

さて、朝ドラの方ですが、ようやく『グリーンゲイブルズのアン』の原書と出会い、翻訳に取り組むところまできました。

9月27日(全156回)が最終回の予定なので、戦争が終り、なんとか原書を守り抜いた花子が翻訳し終ったところで大団円。タイトルを決める際のエピソードを描いて美輪さんのナレーションが入り、テーマ曲が流れる中エンディングで出版された『赤毛のアン』がチラッとうつって終りというパターンかな?(勝手な妄想です)

実はモンゴメリの作品の中で村岡花子さんが訳した「エミリーシリーズ」が大好きなので、そこまでやって欲しい(このシリーズの最後の巻が村岡花子さんの最後の仕事になりました)

村岡花子さんの功績って、何といっても「アン」や「エミリー」「パット」たちに影響された、多くの人たちを後の世に輩出したことにあると思うんですよね。

あと、道雄文庫の話とか、ヘレン・ケラーが来日した際に通訳をした話はどうするのかな?

蓮子さまと仲直りしたり、醍醐さんを幸せにしたり、山梨の方も放っとくわけにはいかないし、終戦後の兄やんの身の振り方も考えなきゃいけないし、本当に今月中に終るのだろうか?

賛否両論あったドラマでしたが、終るとなるとまだまだ見ていたい気がします。

ぜひ、余韻を持ったラストにして欲しいなぁ。

 

 


柏葉幸子 『つづきの図書館』

2014-05-15 22:46:28 | 児童文学

柏葉幸子さんの『つづきの図書館』を読みました。

主人公の女性は勤めていた会社が倒産。パートの仕事も四十をすぎていては探すことさえ難しく、家賃の支払いも心配なくらい。

そこに舞い込んだ生まれ故郷からの手紙。

市役所の福祉課が、顔も憶えていないような伯母の世話を頼めないかと問い合わせてくる。

独り暮らしで親しい者のいない主人公は、断るくらいのつもりでその町を訪れるのだが・・・

 

著者 : 柏葉幸子
講談社
発売日 : 2010-01-15

 

 

入院しているのに皮肉屋で口のへらない伯母さんがなかなかイイ♪

主人公が四十過ぎてるからって、「若い娘でもあるまいし」とか、「額のシワ」とか言われすぎなのはどうなんだろう?(苦笑)

なんだかんだあって、伯母さんの家、自分が幼い時に過ごした家で寝泊まりしながら病院に通うことになる主人公。伯母さんの人徳なのか、不思議な縁があったのか、昔とっておいた資格のおかげで、町の図書館の小さな別館で、何とか見習い司書として雇ってもらえることにもなります。

ここまででもけっこう魅力的な設定なんですが、ここからがこのお話の真骨頂!

 

ある日、めったに人の上がっていかない図書館の二階で女性が出くわしたのは、上半身裸の、小太りの、白いパンツをはいただけの、八の字ひげをはやしたおじさん。それもどうも外国人みたいで、頭の上には王冠をかぶっていて、その、なんていうか・・・・・「裸の王様」!!!

そして王様はいうのです「青田早苗ちゃんのつづきが知りたいのじゃ」「おお、司書どの、さがしてくれるか?」

 

!!!!!!!!!!!!!!!

 


物語のつづきじゃなくって、図書館で自分たちの物語を借りてくれた子供のつづき、その後が気になってしかたがない物語の登場人物たち!!

物語の世界に入ってしまうというのは、『はてしない物語』や『ナルニア国物語』などの例がありますが、物語の登場人物が現実の世界に出て来てしまうなんて珍しい!(新井素子の『絶句!』とか探せばあるかも知れませんけど♪)

四十すぎた(しつこい?笑)主人公が、物語の登場人物たちをかくまいながら、かつてその本を読んでくれていた子供たちの「つづき」を探し求めます!

笑えて、ドキドキして、ちょっと泣けるストーリー展開はさすが柏葉幸子さん。

不思議なことがたくさんおこっているのに、図書館が舞台だと不思議と納得できてしまうのもなんだか不思議。

とてもワクワクしながら「つづき」が知りたくて、ページをめくるのももどかしいくらいにどんどん読みすすめることができました。

「裸の王様」だけじゃなくって、次から次といろいろなお話の登場人物、いや、人物以外も飛び出してくるのだから大変なことになります(笑)

楽しいひと時でした☆


竹下文子 『旅のはじまり 黒ねこサンゴロウ1』

2014-02-17 17:09:49 | 児童文学

オリンピックに大雪に確定申告と、気になることの多い2月ですが、まだお正月に読んだ本の紹介をしています(苦笑)

ただし、この本はまだ読みかけ。

というか、シリーズ物で合計10冊もあるので、まだすべて読み終わっていないんですよね。

 

竹下文子 『黒ねこサンゴロウ』シリーズ(偕成社)

 

著者 : 竹下文子
偕成社
発売日 : 1994-07

 

児童文学作家の竹下文子さんと、画家の鈴木まもるさんによる作品。

「黒ねこサンゴロウシリーズ」全5巻。「黒ねこサンゴロウ旅のつづきシリーズ」全5巻があります(他に同じ世界観の姉妹作品あり)

 

2本の足で歩き、電車にも乗り、うみねこ族の船「マリン号」をあやつる黒ねこ、サンゴロウ。

第1巻で、一人旅の好きな人間の少年ケンは、隣の席に座った人物にビックリします。それはねこ。車掌さんが来て「猫は電車に乗ってはいけません」といわれるんじゃないかとドキドキ。しかしその猫は、むっつりしたままポケットから切符を取り出して車掌さんに渡したのでした・・・

 

淡いタッチで描く鈴木まもるさんのイラストがいい!

日常の生活に根付いた「生きること」をテーマにしながら、ファンタジーの世界と現実の世界をすぐ隣にある世界として描く竹下文子さんのストーリーがいい!

漁師であるサンゴロウが命よりも大切に思う船、「マリン号」がさらにいい!

 

うみねこ族にやまねこ族。

様々な顔を見せる海。

海賊に灯台守。

 

活動的なムーミンの世界?

スナフキンと気が合いそうな世界です♪

あ、でもサンゴロウは漁師としてしっかり働いているし、ずっと旅をしていたので生活力はすごくあります。

電車にも乗れますしね(笑)

 

猫に旅って似合います!

この作品、途中までは夢中で読んでいたのですが、全巻揃えることができなくて、おわりまで読むことができていませんでした。

本屋さんでなかなか見つけられなかったので、しかたなく注文(児童書のコーナーってあまり大きくないんですよね)

この間ようやく全10冊が揃いました。

待ち遠しかった!

オリンピックや見たいドラマがあって寝不足ですが、これは読まないと。

楽しみです☆

 

 

 


高楼方子 『時計坂の家』

2013-04-17 14:47:13 | 児童文学

作者の高楼方子さんと、挿絵を描いている千葉史子さんは共に函館出身。

『時計坂の家』の舞台となる異国情緒あふれた港町「汀館(みぎわたて)」は、きっと函館をモデルにしていると思います。

海の見える高台に、坂の途中にある時計塔。

窓からは船の行き来が見え、教会の屋根がのぞいている風景。

街には市電が走り、修道院に洋風建築の並ぶ町並み。

 

主人公のフー子は十二歳。

何年も会っていなかったイトコのマリカから手紙をもらい、少女らしい想像力で舞い上がってしまいます。

汀館の祖父の家で夏休みを過ごす・・・

兄しかいないフー子にとって、マリカと過ごす夏休みはとっても魅力的に思えました。

一緒に遊び、一緒にご飯を食べ、一緒に散歩をする・・・

もしかしたら、マリカとは何でも話すことのできる親友になれるかもしれない・・・

キレイで、オシャレで、スタイルが良くて、勉強もできるマリカと過ごす夏。

二人にとって、きっと特別の夏になるに違いない!

ところが、実際の汀館での生活は、そんなフー子の夢に描いた生活とはずいぶん違うものに。

 

勝手に想像して、勝手に期待して、でも実際はそんな思い通りにはならなくて、失望と悲しさと勝手に期待した自分への恥ずかしさが押し寄せてきて、キューと胸をしめつける。

そんな体験、誰でも経験があると思います。

高楼方子さんは、表面的な子供のための物語じゃなくて、ちゃんと子供の目線で、そんなせつない、小さな胸を痛めるような感情までしっかり入れて、それでいてワクワクするような物語を書いてくれる作家さん。

十四歳の少女が大人達の住む下宿に住み込む『十一月の扉』も、私の好きな高楼方子作品です♪

 

階段の途中にある、どこにも通じていない扉。

ロシアの民芸品、マトリョーシカにそっくりの少女達。

さび付いた時計に、咲き誇るジャスミンの花。

庭の主に、物干し台から落ちて亡くなったと聞かされていた祖母の身に起こった出来事。

 

子供時代のせつなさと、知らない世界に足を踏み入れる時の好奇心。

夏休みに読むにはピッタリの一冊!

すべてを子供たちの価値観で塗りつぶしてしまう一部の児童書とは違い、この本ではその対極にあるような、年を経た人間にしかわからない感情、大人の価値観というものもしっかり描かれていて、そこがピリッと辛味になっていて、とってもいいなぁと思いました。

甘いだけの物語とは一味違う!

大人の鑑賞にも十分堪え得る作品です。

あぁ、読めてよかった☆

 

高楼方子 著

『時計坂の家』(リブリオ出版)

リブリオ出版
発売日:1992-10

柏葉幸子『魔女モティ』

2013-03-22 22:33:16 | 児童文学

う~ん、なかなか落ち着いてブログが書けない。

コメントのお返しもままならない状態で、本当に申し訳ありません。

 

書けるのはやっぱり本についてくらい(苦笑)

最近読んだ本は、

 

あずまきよひこ

『よつばと!⑫』 (アスキー・メディアワークス)

 

アスキー・メディアワークス
発売日:2013-03-09

 

 

 

 

 

 

 

柏葉幸子

『魔女モティ』 (講談社)

 

講談社
発売日:2004-07-13

 

 

 

 

 

 

 

柏葉幸子さんは『霧のむこうのふしぎな町』からのファン♪

『魔女モティ』は、お母さんにしかられて、公園のブランコに座っていた小学生の女の子が、黒猫にスカウトされて、「家族ごっこ」をすることになるお話。

お父さんはリストラされたサーカスのピエロ。

お母さんは魔女学校を追い出だされた落第魔女のモティ。

魔女のモティは家族と一緒に住むことを条件に、独立してお屋敷をもらえることになったのですが、本当の家族には相手にされず、そこで黒猫がさがしてきた行くところのない人間と家族を演じることになるのです。

巻き込まれた人間の女の子にとって、魔女との生活は驚くことばかり!

お姉ちゃんと弟ばかりひいきして、きっとお母さんは私のことが嫌いなんだ…

三人姉弟のまん中で、母親を困らせるために家出をする女の子の気持ちは、兄弟のいる者ならきっと共感できるはず♪

だけどやっと念願の一人っ子になれたのに、新しいお母さんが魔女だったために、どんどんとんでもない問題に巻き込まれてしまいます(笑)

挿絵は佐竹美保さん。

この物語には続編もあって、『魔女モティ とねりこ屋のコラル』 (講談社) というタイトルで発売されています。

久しぶりの柏葉幸子さんの作品、面白かった~☆

 

 

 


『雨ふる本屋の雨ふらし』

2013-01-26 00:17:37 | 児童文学

日向理恵子さんの『雨ふる本屋の雨ふらし』(童心社)を読んでいます。

その中の一節に、笑いながらすっごく共感してしまいました。

不思議な本屋、「雨ふる本屋」の主人、ドードー鳥のフルホンさんが言います。

 

「いいかね、聞きたまえ。古きよき時代、われわれは、朝から晩までどころか、朝からつぎの日の朝まで、本を読んだものだ。月食があろうと、日食があろうと、ヒカリゴケを集め、夜目がきくかわりに錯乱状態になるキノコまで食して、本を読んだものだ…」

          ―日向理恵子「雨ふる本屋の雨ふらし」(童心社)より―

 

錯乱状態になるキノコって何?(笑)

でもわかるなぁ~

私も朝方まで本を読んでしまってフラフラの状態で登校したり、途中で寝てしまって蛍光灯の明りで腫れぼったくなってしまった目をこすりながら学校に行きましたからね。

食事をしながら本が読めたらどんなにいいかとか、寝ている間に本の内容が頭に入っていたらどんなにいいかとか、本気で思っていましたから♪

読みたい本の数に比べて、起きていられる時間が少なすぎたんです。

 

 

 

 

 

 

 

 

『雨ふる本屋の雨ふらし』は続編にあたり、前作は『雨ふる本屋』といいます。

以前書いた『雨ふる本屋』のレビューはこちら。

http://blog.goo.ne.jp/-hawk-/s/%B1%AB%A4%D5%A4%EB%CB%DC%B2%B0

(「私的図書館」2009年02月19日)

 

気が付くと自分もいつの間にか「最近の若者は…」とフルホンさんみたいにつぶやいている年齢になりました(苦笑)

街角で見かけた若い女性。

赤ちゃんの抱き方がなってない!

最初は荷物でも持っているのかと思いましたよ。

まったく、最近の若者は……

 

郵便局の駐車場。

堂々と車椅子マークの描かれているところに車を停める若い男性。

サングラスをかけ、開けた窓から太い腕をだらりと下げて、どうみても健康そのもの。

まったく、最近の若者は……

 

コンビニの店員。

最近のコンビニはカフェのようにコーヒーをいれてくれるので、その日もタンブラー持参でコーヒーを注文したら、そのタンブラーがちょっと汚れていたようで。

「あ、ちょっと洗いますね」

といってわざわざ洗ってくれた。

まだ若い男の子で、髪の毛なんて今風にセットしていて見た目はチャラチャラしているのに、こっちが恥ずかしくなってしまった。

まったく、最近の若者もけっこうやるな(苦笑)

 

やっぱり年齢じゃありませんね。

恥ずかしい大人もいっぱいいるし、頼もしい若者もまだまだたくさんいる。

私も恥ずかしくない大人にならなくちゃ。

「人の話はちゃんと最後まで聞く」

「ウソをつかない」

「友達を大切にする」

「他人には親切にする」

大人って子供たちにそう教えてきたんじゃなかったかな?

あぁ、恥ずかしい恥ずかしい。


『アーサー・ランサムのロシア昔話』

2012-04-26 17:15:04 | 児童文学

気温の変化が激しいですね。

今日はしとしとと雨が降り続けていて、ちょっと肌寒かったです。

最近反省したこと。

先日、路線バスにも慣れておこうと初めて利用してみたのですが(引っ越したばかりなので)、路線がいくつもあって行きたい場所に行くバスを探すだけで大変でした。しかも田舎と違って同じバス停から何本も行き先の違うバスが出ている。

路線図と首っぴきで料金なども確認しながら…そんな余裕のないのがいけなかったんでしょうね。

目星を付けたバスが到着して昇降口が開いた時、お年寄りがその前に立っていました。

ところが彼女はもぞもぞ体を動かすだけで、すぐに乗ろうとしません。

そのバスが到着する前にも、バスの運転手さんに行き先を訊ねて、結局自分の乗りたいバスじゃなかったというお年寄りがいたので、私はてっきり彼女も自分の乗りたいバスかどうか確認しているのだと思ってしまいました。

それで彼女の横をすり抜けてバスに乗り込むと、すれ違った瞬間、彼女が「あっ」と声を上げたんです。

そう、彼女がもぞもぞ体を動かしていたように見えたのは、体のバランスを取りながら片足を昇降口に乗せようとしていた準備段階の動きだったんです!

あぁ、しまった! と思った時にはすでに遅くて、流れのままうしろの席に座ってしまっていました。

あやまるタイミングも逃してしまった…

すごく反省。

別に急いでいたわけじゃないのに、どうして待てなかったんだオレ!?

バスに乗るという当たり前のことがすごく大変な人もいるんですよね。それがわかっていながら、その時は頭からスッポリ抜け落ちてしまっていました。身についていないってことか…

悪いことをしてしまいました。

 

最近読んだのは、白水社の 『アーサー・ランサムのロシア昔話』

 

高柳佐知子さんの本で紹介されてから、アーサー・ランサムの作品にも興味がわいてきて、図書館で借りて来ました。

代表作『ツバメ号とアマゾン号』もいま読んでいます♪

私の好きな作家、梨木香歩さんも、アーサー・ランサムに影響されて水遊びの楽しさを知ったと、どこかで書いてみえました。

この本は、ロシアの民話に引かれたアーサー・ランサムが、ロシアに滞在してロシア語を覚え(!)、集めた昔話を元に書いたお話を集めたもの。

巨人にさらわれた妹を取り返す三人の兄の話とか、ケモノの王の熊と、鳥の王の火の鳥がケンカした時の話、よい行いをしたごほうびに、天国で神様の椅子に座ることを望んだ鍛冶屋の話などが載っています。

妹を探すために次々と独身の老婆と結婚していく三兄弟のお話が面白かった♪(しかもそのうち二人は年寄りの母親付き)

老婆とその母親の知恵でなんとか巨人を出し抜くのですが、終始口ケンカをしたりののしりあって、決してハッピーエンドじゃないところが新鮮です(苦笑)

老婆の正体が美しい娘じゃないのもかえってよかった♪

ロシア民話らしく、熊やキツネ、カワカマスや空飛ぶ暖炉などが登場します。

怠け者が王女様と結婚したり、白鳥を女房にもらうお話、貧しい身なりの老人に自分の食べる分のパンまでわけてやったら、不思議な袋をくれた、なんていう笠地蔵みたいなお話まで。

ロシアの昔話もなかなか面白いです。

…私は自分の行いが恥ずかしい。

次にバスに乗る時は、周りの状況をしっかり確かめてから乗りたいと思います。

自分勝手が一番いけないですよね。

反省反省。

 


富安陽子『シノダ! チビ竜と魔法の実』

2012-02-02 21:21:11 | 児童文学

小さい頃の刷り込みってなかなか抜けないですね。

夜中に口笛を吹くと蛇が出るよってよく親に言われていたので、未だに何かのはずみで、夜中つい口笛が出てしまった時なんか、「まさか」と頭ではわかっていても体がビクッとしてしまいます。

田舎なのでヘビがしょっちゅう出るんですよ。

子供時代を過ごした家は山奥のオンボロ木造平屋建てだったので、天井をネズミが走るなんてしょっちゅう。
たまに寝ている時に天井が運動会みたいに騒がしくなる時があったのですが、私と妹が興味しんしんで目を輝かせている隣で「ヘビでも入りこんだんだろう」と両親は関心なさげに布団をかぶっていました。

家の周りにいたのがマムシ。
祖母がこれを素手で捕まえてよくマムシ焼酎を作っていました。
切り傷、虫刺されに効くとかいって、ガーゼにしめらせて傷口にあてるのですが、これが強烈な臭いがするんです。

タヌキやキツネもよく出たし、雪が降ればウサギの足跡がよく残っていました。
父親の山仕事について行くと、カモシカのかじったあとを教えてもらったり、イノシシの解体を見せてもらったり。

幼い頃から山はどこか近寄りがたく、たくさんの命がいる神聖な場所でした。

「ユイにとって、じぶんのママが本当はキツネだということは、それほど大きな問題ではなかった。」

富安陽子さんの「シノダ!」シリーズ。
その文庫本第1弾。

『チビ竜と魔法の実』(新潮文庫)

を読みました☆

現代のマンションに暮らす、ごく普通の小学校5年生、信田結(ユイ)。
小学校3年生の弟と、まだ3才の妹、そして両親の5人家族だが、ちょっと普通と違うのは、ママが本当はキツネだってこと。
でも、そんなことは全然気にならない。そんなことより大変なのは、いつも信田家に問題を持ち込む親戚の方!!

突然キツネの姿でソファーの上に現れる、時代劇が大好きな鬼丸おじいちゃん。
変身が得意なママの妹、スーちゃん。
そしてキツネ一族の問題児、ママのお兄さんの夜叉丸おじさん。
その他にも、不吉な予言を告げるのが趣味のおばさんがいたりして、信田家はいつもおかしな事件に巻き込まれます!

小学校低学年から読める内容で、カラスの森や、ヘビの宝物、不思議な木の実など、ワクワクする小道具も満載♪

シリーズはすでに6巻まで出ているみたいですが、大人が読んでも面白かったです!

キツネのママと、人間のパパの間に生まれた子供たちは、キツネ一族の不思議な力も受け継いでいて…

このお話は「信田妻」という伝説から生まれました。
歌舞伎や文楽の演目にもなっていますね。
その昔、人間と結婚したキツネが正体がバレて森に帰っていく。
その時生まれた男の子が、かの陰陽師、安倍晴明だといわれています。

ドタバタだけれど、明るく面白い。
続きも読んでみたくなりました☆

 

 


七月の本棚 2 『十五少年漂流記』

2006-07-28 13:14:00 | 児童文学

今回は、夏休みにピッタリ!

十五人の少年が流れついた無人島で、知恵と勇気によって生き抜いていく冒険小説!!

ジュール・ヴェルヌの『十五少年漂流記』をご紹介します☆

あなたは最近、知恵と勇気使ってますか?

ヴェルヌといえば、ネモ船長の出てくる『海底二万里』や、『八十日間世界一周』などが有名ですよね♪

中でも子供のために書かれた、この『十五少年漂流記』は、日本では明治時代にすでに日本語に翻訳され、それ以来、たくさんの少年少女、大人たちに受け入れられてきました。

100年以上前に書かれた小説ですが、今読んでも全然退屈じゃありません。
それどころか、大人になって読むと、また新鮮なワクワク感を感じることが出来て、しばし少年の心に戻れました(笑)

秘密基地で遊んだことあります?
あの時のワクワク感に似てます(^^)

「あとがき」によると、ヴェルヌは若い時、自分の書いた原稿をすげなく出版社に突き返され(その時はまだ小説ではなく、飛行船旅行の可能性について真面目に書いたものでした)、怒ってその原稿をストーブの中に投げ込んでしまったのだそうです。

それを火傷の危険をおかして慌てて火の中から拾い出したのが、当時新婚ホヤホヤだったヴェルヌの奥さんで、その原稿を彼女のすすめで他の出版社に送ったところ、何社目かで、「小説に書きなおしてみないか」と言われ、それがきっかけで小説を書くようになったんだとか。

この奥さんがいなかったら、ヴェルヌの名作の数々は、世に出ることも、書かれることさえなかったんです。

そう考えると、つくづく偉大な女性ですよね♪

さてさて、肝心のストーリーです。

この物語に登場する少年たちは、ほとんどがニュージーランドの寄宿学校に通う生徒たち。

上は14才から下は8才まで。
しかも、アメリカ、イギリス、フランスと、出身も様々。

この年齢のわずかな差や、出身の違いが、のちに大きな障害になるのですが、それはもっとあとのお話。

地球の南半球にあるニュージーランドでは、季節が日本とは逆さまなので、夏休みは二月から始まります。

学校に通う生徒のお父さんが、自分の所有する船で、少年たちを夏の船旅に招待したまでは良かったのですが、大人がみんな船を降りているちょっとしたすきに、天の采配か誰かのイタズラか、船を港につないでいたロープがスルスルとほどけてしまい、なんと14人の生徒と、船の使用人である黒人の少年1人を乗せて、船は大きくひろがる太平洋へ!

ここから、十五人の少年の家に帰るまでの長い長い冒険が始まります。

嵐の海で船をあやつる4人の年長の少年たち。
船の中の年下の少年たちをなんとか安心させながら、なんとか船を進ませようとするのですが、子供の力では波に逆らって舵を動かすこともできず、風に流されるまま。

奮戦もむなしく、船は方角もわからない見知らぬ海へと流されてしまいます。

やがて霧の向こうに陸を見つける少年たち。

しかしそこは、誰も住んでいない無人島だったのです。

マストが折れ、傷ついた船から使えるものだけ降ろした少年たちは、この島での生活を余儀なくされます。

洞穴の岩をけずって住まいを作り、鳥やアザラシを捕まえる。

たとえ漂流者になっても、ここでの時間を無駄に過ごさないために、小さい子にはちゃんと勉強を教え、日々の出来事を日記に記録し、選挙によってリーダー、彼らが言うところの大統領を選出する子供たちがとっても真面目☆

大きい子が小さい子を教え、小さい子も自分で出来ることを手伝う。

島や湖に名前を付け、地図を作り、仕事を割り当て、一週間の時間割を決める。
もちろん、遊びや読書、みんなで楽しむ時間も忘れません!

島の生活は確かに厳しいけれど、こうして子供たちによる子供たちだけの共和国が誕生します♪

ところが、どこの集団にも自分が注目されないと我慢できないって子はいるもの。

学校では勉強家の優等生で、父親が地元の有力者ということもあっていばっていたイギリス人のドノバンは、フランス人で同い年のブリアンが何かと活躍したり、アメリカ人のゴードンが年上だからって大統領に選ばれたのが気に入らず、なにかと二人と衝突してばかり。

このドノバンとブリアンの対決、そして少年たちの間で芽生えていく友情も、この物語の大きな読みどころです!

やがて夏の終わりと共につらい冬が訪れ…

様々な困難にさらされ、それでも負けずにじっと春を待つ少年たち。

いつか温かくなつかしい我が家に帰れることを願って…

この冒険が始まってからずっと元気のないブリアンの弟、ジャックが抱える誰にも言えない秘密。

ついに自分の仲間と一緒に、ブリアンたちのもとを出て行ってしまうドノバン。

流れ着いた新たな”大人”の漂流者。

前半は無人島で悪戦苦闘しながら、知恵とと工夫で食べ物や住むところを確保する少年たちの活躍が読んでいて実に楽しいです♪

それなのに後半は一転、少年たちの島に悪い大人たちが流れ着き、なんと少年たちに襲い掛かってくる!

武器を持った大人たちに対し、今度は知恵と勇気で立ち向かっていく少年たち!

手に汗握る攻防が続き、少年たちも頑張るのですが、非情な刃が一人の子供を…

その場面ではありませんが、自分たちの力のおよばないことを口惜しがるブリアンの言葉が印象的です。

「なぜ、僕たちは子供なんだろう。大人でなければならない時に」

そして最後は怒涛の展開!!
果たして少年たちは無事、両親の待つニュージーランドに帰れるのか?

でもいったいどうやって?

改めて読み返してみて、こんなに面白いのかとビックリしました*(びっくり2)*

有名な作品だからってあなどれません。
いま読んでも現代の小説にまったく引けを取りません。
久しぶりに一気に読みました♪

夏休みにも入ったから、子供たちにも読んでもらいたいところですが、あえて、お父さん達に読んでもらいたい!

少年時代の胸躍るあの瞬間に立ち戻らせてくれる、そんな一冊ですよ☆











ジュール・ヴェルヌ  著
波多野 完治  訳
新潮文庫






十二月の本棚 2 『それからのハイジ』

2004-12-12 23:55:00 | 児童文学

あのお話の続きってどうなるんだろう?

昔読んだ本の続きが気になる時ってありませんか?
本だけに限らず、お気に入りのTVドラマや映画があると、その続きが気になってしかたがない。
フィクションなんだから、”つづき”なんてあるはずもないのに、自分だけでその後の物語を想像してみたり、新たな冒険の場面を考えてみたり。

「そして二人は、いつまでもいつまでも幸せに暮らしました…」

…でもいいけれど、やっぱり成長した主人公の姿も見てみたい☆

そんな思いはやっぱり世界中にあるらしくって、今回紹介するのも、そんな一冊。

1939年に出版されて以来、多くの原作ファンに支持されてきた、シャルル・トリッテンの『それからのハイジ』を、ご紹介します☆

原作はご存知「アルプスのハイジ」♪

原作者のヨハンナ・スピリが1901年に亡くなった後、どうしてもその続きが読みたかったんでしょうね、フランス版の翻訳者だったシャルル・トリッテンが書いてしまったんです。
”その後”のハイジを☆

十四歳になったハイジ!
足が良くなって、美しく成長したクララ!
背は高くなったけれど、相変わらずのペーター!

おじいさんに、モミの木に、ヤギにチーズにアルムの山々!!

物語は、ハイジが駅に降り立つところから始まります。
クララの卒業した都会の寮制の学校に入ることになったハイジですが、今回もやっぱりホームシックにかかってしまい、湖や山を見つめて寂しさを紛らわす日々。

幾つになっても変わらない山に対する愛情はやっぱりハイジ☆

だけど今度は友達もできて、バイオリンという慰めもあるので、なんとか乗り切れそうな雰囲気。

原作でおじいさんとして登場したおじいさんは、さらに歳をとってますますおじいさんになっています。(あたりまえか☆)

体力の衰えはどうしようもなく、ペーターも心配するほど沈み込むことが増えたおじいさん。

自分がいなくなったら、ハイジがまた一人ぼっちになってしまう。
そんなことを考えながらも、学校を卒業したハイジと暮らすひと時の幸せ。

今回は学校を卒業したハイジが先生になって、子供たちに裁縫や勉強を教えようと奮戦する姿が見どころなんですが、このおじいさんのハイジに対する思いと、ハイジの(そしてペーターの)、おじいさんに対する愛情がゆっくりと伝わってくるところがいい感じ♪

愛されないということは、食事をしてもしなくても、だれにも気づかってもらえないことだ。
目が赤いかどうか、気分が悪いかどうか、だれにもみてもらえないということだ。
         ~本文より~

子供たちへの愛情。
おじいさんや、ペーターへの愛情。
そして、山々や動物たち、自然界への愛情。

ハイジはいつも、まるで自分自身が子供たちであり、おじいさんであり、ペーターであり、山々であるかのように愛し、一緒に悲しみ、共に喜びます。

そんなハイジだからこそ、かたくなだったおじいさんの心を動かし、子供たちを惹きつけ、村人の気持ちさえ変えることができたのでしょう。

多くの原作ファンを納得させ、今もその魅力で読者の心をつかんで離さない”その後”のハイジ。

読み終わっても、まだまだ先が読みたい! と、思わず思ってしまいました。

なに? 続編がちゃんとある?
その後の”その後”の物語、題名も「ハイジのこどもたち」?
さすがはシャルル・トリッテン、誰よりもファンの心理がわかっていらっしゃる♪

でも、「ハイジのこどもたち」ってことはハイジが結婚してるってことに…

そのお話も、今回の『それからのハイジ』で語られます☆
その顛末も、読んでからのお楽しみ♪

ぜひ、ご自身の目で、確かめて下さい☆





シャルル・トリッテン  著
各務 三郎  訳
ブッキング


十二月の本棚 『アルプスのハイジ』

2004-12-05 22:59:00 | 児童文学

今回は名作の登場です♪

美しくも厳しいアルプスの山々と、主人公ハイジの天真爛漫さが心に響く、ヨハンナ・スピリの代表作。

『アルプスのハイジ』(上・下)をご紹介します☆

小さなハイジに感動したり、おじいさんの告白に涙したり、ペーターに同情しながらも、このお話を読み終わって、まずワタシがしたことがあります。
それは…

チーズを買ってきたのさ♪

ハムと一緒にフライパンで焼いて、ハムにのっけて食べる。
おじいさんの作るチーズにはおよばないものの、とろっと溶けたチーズの美味しいこと☆

それくらい、ハイジとおじいさんの食事シーンは魅力的なんです♪

両親をはやくに亡くし、叔母のデーテに引き取られたハイジでしたが、フランクフルトで新しい仕事を見つけたデーテは、ハイジをあずけようと、アルムの山で一人で暮らすおじいさんを訪ねます。

ヤギを飼い、家具やチーズを作って暮らすおじいさん。
過去のできごとが原因で、他人を遠ざけて暮らすおじいさんは、村人に恐れられる存在。

でも、ハイジはちっとも気にしません☆

干し草のベットに、モミの木にミルクにチーズ!
ヤギ飼いのペーターと登った山で見た、燃えるようなアルプスの山に、咲き誇る花畑。

ヨーゼフ(アニメ版に出てくるふわふわの犬です☆)は出てこないものの、おじいさんとの暮らしはハイジの心を解き放ち、自然の中で生き生きと芽吹く生命の力強さが物語全体を包んでいます♪

アニメ版の「アルプスの少女ハイジ」の印象が強くて、原作はどうかな~と、思っていたのですが、原作のイメージが大切にされていたことに驚き。

むしろ原作の良さがあって、初めてあのアニメが名作になったんだと、今回この本を読んでみて思いました。

でもやっぱり、とろけるチーズは映像でなくっちゃね☆

クララじゃないけど、いくらでもおかわりできそう♪

足の悪いフランクフルトに住むお嬢様の遊び友達として、はんば強引にアルムの山から大都会へと連れられて行くハイジ。

クララお嬢様の相手は辛くはなくても、お屋敷から外に出られないことが、なによりあの優しい山々を眺めることができないことが、ハイジの幼い心を痛めます。

アルムの山々と、大都会フランクフルトの暮らしが対照的で、作者ヨハンナの伝えようとしている、「大切なもの」がこちらに痛切に響いてきます。
一八八〇年に上巻が出版されて以来、多くの国の人に支持されてきたのも、この普遍的なテーマが、わたし達の心を打つからではないでしょうか。

「一度あやまちをおかしたら、もうあとへはもどれないんだ。神さまを忘れた人間は、ずっと神さまから忘れられたままなのさ」

「ううん、ちがうわ、おじいさん。またもどれるのよ。おばあさまはそういってたわ」

時に、身に覚えの無い不幸によって、人生が狂ってしまうこともあります。
生きることは不条理なことなのかも知れません。
でも、あきらめないで、投げやりにならないで、どんな人生でも愛することができるってことを学ぶために、わたし達は生きているのかも知れない。

健康でいるために、チーズやミルクといった食事が必要なように、生きるためには勇気と希望を知ることが必要…
そのヒントになるものが、この物語には確かにある。

後半、アルムの山にやって来た車椅子のクララのために、ハイジもおじいさんも献身的に尽くします。
ペーターだけは、面白くないようですが(そのひねくれかたも良くわかる☆)、そのかいあって、一つの奇跡が訪れます。

いえ、もしかしたら、奇跡はこの本を読んだすべての人に訪れているのかも。

もし、少しでも、この本を読んで自分の心が健康になったと感じられたら、それってスゴイ奇跡だとは思いません?

すぐには何も起こらなくても、時間をかけてあなたの中で花開くものがあるかも知れませんよ☆

アニメもいいですが、原作も楽しんで下さい。
ハイジの笑顔を、ぜひ、あなたに☆






ヨハンナ・スピリ  著
各務 三郎  訳
ブッキング


十月の本棚

2003-10-11 21:36:00 | 児童文学

今回ご紹介する本は、アメリカの文豪、
マーク・トウェインの傑作。
『ハックルベリイ・フィンの冒険』です。

マーク・トウェイン(本名サミュエル・クレメンズ)といえば、日本では『トム・ソーヤの冒険』が有名ですね。
ペンキ塗りの仕事を、口八丁手八丁で子供達に押し付けるシーンは秀逸! 


『トム・ソーヤの冒険』の最後でトムと共に大金を手に入れた浮浪児ハック・フィン。
自然児の彼がダグラス未亡人に引き取られ、様々な規律と窮屈な服に閉口しながら、”普通”の生活を送っているところから、物語は始まります。

時に抜け出して森で眠ることもあるけれど、未亡人とその妹ワトソン嬢の犠牲的精神により、学校にも何とか通うようになったハック・フィン。

そんなところに、飲んだくれのハックの父親が、息子が金持ちになったことを知って現われます。

まるで社会の矛盾と人間の赤裸々な真実を体現したかのようなこの父親。

未亡人の所から無理矢理さらわれ、棒で殴られる毎日に、ハックは独自の生活の知恵を駆使して、まんまと父親を出し抜くのですが、勉強は出来なくてもハックの生き抜くことにかけての才能は天才的☆

特にその口のうまさったらマーク・トウェインの筆の走ること走ること♪

こうして身を隠したハックと、逃げ出して来たワトソン嬢の所の黒人奴隷ジムが偶然再会し、ジムを自由州(奴隷制度を禁止した州)に送りとどけるための二人の旅が始まります。

ハックとジム。
このコンビがミシシッピー川を筏で下りながら出会うことになる様々な人々がとってもユニーク。
スウィフトの『ガリバー旅行記』にも似た、風刺の効いた人物描写がなされています。

難破船の沈み行く船上で、自分達の運命にも気ずかずに、分捕品を奪い合う盗賊達。

誰が始めたのかわからない理由で、何世代にも渡って争いを続ける二つの”家柄のよい”一族。

公爵と王様を名乗る下品な詐欺師達。

それぞれが、人間の持つ真実の姿(欲望や憎悪や権力欲)の代弁者として登場し、ハックやジムの”無知なる力”に挑んでくるのです。
その内容は作者が「大人の読み物」と考えていたのもうなずけるものですが、マーク・トウェインの人柄と性格故か、ちっとも堅苦しくなく、ユーモアと機知に富んでいて、子供でも楽しめる物語に仕上がっています。

かつてヘミングウェイは
「アメリカ近代文学の散文スタイルは、ハックルベリイ・フィンという一冊の書に源を発した」
とまでこの作品を激賞しました。

そこまで、アメリカ文学史に与えた影響は大きかったのでしょう。

後半には、再びトム・ソーヤが登場し、読者を圧倒する”悪戯”が巻き起こります。
トムこそは、「まったく男の子って!」
・・・と、思わず苦笑してしまう魅力を体現した少年。

圧倒されすぎて、大人の読者はついてこれるかな?

どうぞ、少年達の胸踊り、波乱に満ちた冒険物語を体験して下さい。
ただし、これがただの冒険譚でないことだけは、お約束しましょう☆

「冒険はどんなところにでも転がっている。」



マーク・トウェイン  著
村岡 花子  訳
新潮文庫