図書館で借りた本を読まなくちゃいけないのに、生来の移り気が頭をもたげて、またまた他の本を先に読んでしまいました。
『蜩ノ記』で第146回直木賞を受賞された葉室麟さんの作品。
『秋月記』(角川文庫)
です。
九州の小藩「秋月藩」を舞台にした時代小説。
秋月藩は豊臣秀吉の家臣として有名な黒田長政の子孫が治める藩ですが、本家である福岡藩というのが別にあって、支藩と呼ばれるいわば分家のあつかい。
その福岡藩が何かにつけてちょっかいを出してきて、主人公である秋月藩の家臣たちは、本家から秋月藩を守り抜こうとそれぞれのやり方で侍(さむらい)としての生き様を読者に見せてくれます。
力なき者が、いかにして力ある者に立ち向かうのか…
理不尽な要求。力にまかせた妨害。金と流言が飛び交う中、命を落とす者も現れ、ついに秋月藩は本家の支配下に置かれてしまいます。
前半から中盤までのあらすじはざっとこんなものですが、確かに直木賞を受賞した『蜩ノ記』に比べ、強引なところがないわけではありません(十七人対一人の対決とか、いきなり大風が吹くとか♪)、ラストも静かな中にドラマチックなものがあった『蜩ノ記』に比べると、スッキリしない感じ。
でもでも、選考委員はちょっと突き抜けた感じの仙人みたいな『蜩ノ記』が好みかも知れませんが、私は個人的に泥くさいこの『秋月記』もとっても面白かった!!
ちょっと生意気なことを書くと、忍者みたいなのが出てきたり、戦いのシーンがけっこう細かく描写されていて、葉室麟さんの筆が「時代小説の売り」に突っ走っているのはよくわかるのですが、葉室麟さんの「売り」は薄幸の女性「いと」や彼女を助ける久助、主人公を慕う男装の女性漢詩人、猷(みち)といった、人々の”想い”を表現した描写なんですよね。
『蜩ノ記』ではそこがちゃんとメインになっていました☆
でも、作者のそんな気負いも嫌いじゃない!
今回、運命に翻弄されながらも健気に生きた「いと」には一番泣かされました。
ちょっと強引な「十七人対一人」の対決シーンだって、男の友情に熱いものがこみあげてきて思わずジーンときましたし♪
悪人をあまり描写しないのは葉室麟さんの作風なのかな?
老かいな古狸、家老の宮崎織部とか、柔術の達人とか、魅力的なキャラクターもたくさん出てきます。
己を捨てて他者のために生きる…
「正しいことだけをすればいいというのは怠け心だ」
というセリフが印象的。
これはあくまで小説の話ですが、自分が悪役になってまで守るべきものを守るために、静かに身を引くことのできる大人がどれだけいることか…
残念ながら、小説の設定を現代にもってくると、とたんにウソくさくなってしまうのでは、と思ってしまいました。
自分が損をしたくない。自分が傷つきたくない。自分の身を第一に考えるのが当たり前でしょ、と何の臆面もなく口に出してしまう。そんな薄っぺらな考えが「常識」になりつつあるような…
テレビで言い訳しかしない政治家や役人、企業のお偉いさんたちをみているとそう思ってしまうんです。
ちょっと飛躍しすぎですね(苦笑)
誰も見ていなくとも、誰一人評価してくれなくとも、自分だけがわかっていればいい。
本人が望むと望まざるとに関わらず、美しく咲いた花の匂いは風に運ばれそれとわかるもの。
そんな言葉がピッタリの本でした。
フゥ。
いい読書ができました☆