持ち上げる時は、首の後ろの皮をつかみ、おしりに手をそえて、そっと抱き上げて下さい。お願いします。
さて、今回ご紹介する本は、小さなウサギの王子さまが、お嫁さんを探して高い壁にさえぎられた冷戦時代の東西ベルリンを訪れるという、
イレーネ・ディーシェ、
ハンス・マグヌス・エンツェンスベルガー作。
ミャエル・ゾーヴァの美しい絵が印象的な、
『エスターハージ王子の冒険』です☆
オーストリアでは有名なウサギの一族エスターハージ家。
その当主、エスターハージ伯爵は悩んでいました。
先祖代々子沢山で知られ、二百年前にすでに国一番の大家族であり、王様により貴族に任じられたエスターハージ家。
繁栄を誇るこのエスターハージ家の子ども達が、年々新しく生まれてくる度に、だんだん小さくなっているのです。
先日などは、一番年少の孫、エスターハージがくずかごに落ちたまま、出て来られなかったという事件が起きたほど。
このままでは、由緒正しいエスターハージ一族が、ミニチュアウサギの一族になってしまう…
自分達一族の未来を危惧したエスターハージ伯爵は、孫たちにこう告げます。
「みんな、よその土地で、大きなお嫁さんをみつけるのだ」
大きなお嫁さんと一緒になれば、大きなひ孫が生まれるに違いない。
「相手は大きければ大きいほどよろしい。わかったね?」
おいおい伯爵。そんな乱暴な(笑)
というわけで、エスターハージ一族の繁栄をその小さな体に担い、孫たちは世界中に旅立つことになります。
大きなウサギのお嫁さんを求めて☆
東西ベルリンをわける壁。実はその近辺は、小動物たちの天国だったなんて知っていました?
人間を寄せ付けない厳重な警備。
そのためそこは人間の手が入らず、自然が守られ、動物たちにとっては豊かで安全な緑の王国となっていたらしいです。
なんだか皮肉な話ですよね。
さて、主人公の小さなエスターハージ王子は、くずかごに落ちて出て来れなかったという、あのエスターハージ♪
キチンと服を着て、ベルリン行きの特急列車、そのファーストクラスのコンパートメントにちょこんと座り、初めての旅に胸をふくらませるエスターハージ。
このエスターハージの挿絵がいい♪
ところどころに描かれたミャエル・ゾーヴァの絵。
暗い色調の中に、ちょこんとウサギのいる風景が、何とも言えず魅力的です☆
お気に入りは、人間のトランクスをはいた姿のエスターハージ♪♪
ウィーンの街から出るのも初めてなら、もちろん一人旅も初めての王子さま。
必ずかわいいお嫁さんを(しかも大きいな!)見つけてみせると意気揚々とベルリンの駅に降り立ちます。
しかし、冷戦下のベルリンはどこか冷たい雰囲気。
人間に捕まったり、食べるために働いたり、新聞を読んだり、パン屋の車に忍び込んだり、エスターハージは様々な苦労を重ねながら、ベルリンで出会ったたった一人(一匹?一羽?)のウサギ、ミミのことを想います。
また会いたい…
そして、たくさんのウサギたちが住むという、「壁」を探すエスターハージ。
ウサギのエスターハージにとって、人間たちのやることはわからないことばかり。
ウサギを檻に閉じ込めたり、逆立ちをしてみせるだけで「カワイイ」と喜んだり。新聞に寒そうな服も何も着ていない女の人の写真を載せてみたり。恐ろしいことにウサギの料理なんてものまであるレストランがあったり。とっても高い壁を作ってみたり…
現代のベルリンで、ウサギの王子さまが体験する冒険の数々。
とにかくエスターハージ王子がかわいいです♪
知らない街でたった一人で生きていかなければならない心細さや、危うさ。
それでも夢(お嫁さんを見つける!)をあきらめないエスターハージ。
絶対幸せになって欲しい、と読んでいくうちに思ってしまうその魅力☆
果たしてエスターハージはかわいい(そして大きい)お嫁さんを見つけることはできるんでしょうか?
そして、ベルリンの街を東西に分けていた「壁」は…
ベルリンの壁が崩壊してから18年の歳月が経ちました。
私が子供の頃は当たり前だったその壁の存在も、今やあまり話題に上らなくなりつつあります。
あの壁はいったい何だったのか?
ウサギじゃなくても、聞いてみたくなります。
この大地の上で、いったい人間は何をやっているんでしょね?
そんな人間のことはほっといても、この物語はエスターハージのおかげで楽しく読むことができます。
何よりやっぱりゾーヴァさんの絵がいい♪
では、エスターハージ王子のお嫁さん探しの旅、どうぞお楽しみ下さい☆
そして、どうかくれぐれもお願いです。
もしあなたが、これからの人生でウサギを抱いてあげる機会がありましたら、先の約束をぜひお守り下さい。
ウサギの耳は持たないように。
イレーネ・ディーシェ、
ハンス・マグヌス・エンツェンスベルガー 著
ミヒャエル・ゾーヴァ 絵
那須田 淳 木本 栄 共訳
評論社