私的図書館

本好き人の365日

『日本人の知らない日本語4 海外編』

2013-08-08 23:43:57 | 日本人作家

「親切」という漢字はなぜ「親」を「切」るのか?(笑)

日本語学校を舞台に、日本人でさえ知らない日本語の不思議と魅力、日本語を学ぶ海外の学生の疑問などを取り上げ、シリーズ累計200万部を突破したベストセラーの最新刊。

蛇蔵&海野凪子の

『日本人の知らない日本語4 海外編』(メディアファクトリー)

を読みました!

 

日本人の知らない日本語4  海外編 日本人の知らない日本語4 海外編
価格:¥ 998(税込)
発売日:2013-08-02



そう、今回は「海外編」
日本を飛び出し、世界各国(今回は主にヨーロッパ)での日本語学習の現状を紹介、そしていつも以上の切り口の面白さで、日本人でもビックリの海外での日本語事情をマンガで紹介しています♪

もう、全部紹介したいぐらい、海外の学生さんも先生も面白い!!



「津軽海峡冬景色」を口ずさむパリの学生(笑)

貝原益軒の『養生訓』をテキストに使っているベルギーの大学(!)

洗った食器についた洗剤の泡をふき取らないイギリス人!(もう日本語学習関係ない!)

ちなみに「イギリス」って呼び方は日本でしか通用しません。

英国の正式名称は「グレートブリテン及び北アイルランド連合王国」

「U.K.」という表記が一般的でしょう。

車に「GB」(Great Britain)という国籍を表すシールを貼ったりもするそうです。

これと同じで「オランダ」も日本独特な呼び方。

正式には「ネーデルランド」です。

 

ヨーロッパで見かける日本文化。
マンガ、アイドル、寿司、ファッション。

意外に人気なのが「漢字」

現代に残る数少ない象形文字(物の形が文字になっている)である漢字は、見ただけで何となく意味がわかるものの、カタカナやひらがなは学生さんにとっては難しいらしく、フランスの学生さんが発音より綴りを優先するあまり、カタカナにカタカナでふり仮名をふっていたのには、驚くやら可笑しいやら☆(綴り的な読み方に発音的な読み方をふり仮名ふってる!)

イギリスの先生が初級クラスで日本語の数の数え方をジェスチャーで教えるシーンが好き♪

 

朝起きて、かゆい!(イッチー)、ひざが!(ニー)、窓には太陽!(サン)、あくび!(ヨーン)

 

って語呂合わせかい!!(笑)

 

本当に、世界って、言葉って面白いですね!

 

最初にあげた「親切」という漢字。

「親」は「近しい人」という意味で、「切」は「ぴたりと合う(「適切」の「切」もこの意味)」という意味からきているので、決して「親を切る」なんて由来ではありません(苦笑)

海外の学生さんが思いつく疑問もとってもユニーク。

 

海外では国境が決して言葉の境目ではなくて、たくさんの言葉が使われていることも島国の日本人にとっては新鮮。

スイスの公用語はドイツ語、フランス語、イタリア語、ロマンシュ語の4つ。

ベルギーの公用語はオランダ語、フランス語、ドイツ語の3つです。

水戸光圀の「圀」って漢字が、中国の女帝則天武后が作った「則天文字」だなんてこともこの本で初めて知りました!

この漢字は則天武后の時代に作られた漢字で、結局定着しなかったのですが、博識だった光圀が使用し、今に残っているんだとか(苦笑)

どうりで他に使い道がないわけだ!

 

こんな例もあります。

世界的に有名な川端康成の小説『雪国』の冒頭シーン。

 

「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」

 

この文を英訳する時困るのが、英語には欠かせない「主語」はどれかという問題。

トンネル? 雪国? 誰?

英語と日本語の関係を取り上げる際によく出てくる例題のようなので、答えは本を読んでのお楽しみということで♪

 

日本語なのに日本人の知らないことってたくさんありますね。

 

言葉だけじゃなくて、文化や習慣の違いがわかるのもこの本の魅力。

ショートケーキが日本生まれで海外では見かけないとか(スポンジにクリームってやつね!)、時計で有名なスイスは15分置きに教会の時計が鳴るので腕時計にはあまりこだわらないとか(日本人はお金持ちのステータスみたいに思っているけど)、東欧の国であるチェコと日本の意外なつながりとか(原爆ドームとして有名な建物はチェコの建築家ヤン・レッツェルの設計)、興味はつきません。

 

あぁ、面白かった。

 

 


堀辰雄 『風立ちぬ』

2013-07-21 23:09:05 | 日本人作家

堀辰雄『風立ちぬ』(新潮社)を読みました。

現在公開中の映画、スタジオジブリの新作「風立ちぬ」は、この物語とゼロ戦の設計者、堀越二郎の物語がもとになっています。

 

小説『風立ちぬ』が、作家堀辰雄の体験をもとにした私小説であると知って読むと、すごく切ない。

小説家の青年と許婚の女性。

カンバスを立てて絵を描く女性を見つめる青年のまなざし。

 

著者 : 堀辰雄
新潮社
発売日 : 1951-01-29

 

しかし女性は胸を病んでおり、高原のサナトリウムでの療養を必要とします。

かいがいしく看病する青年。

当時の男女のことです。歯の浮くようなセリフもドラマチックなラブロマンスもありません。

それなのに、この二人の周りに流れる空気のなんと濃厚なこと!

そして、内に秘めた意思のなんと強いこと!

 

流れ去る時間、迫り来る運命の足音、二人の中に流れるお互いを思うおもい。そして忍び寄る死という黒い影。

この物語を読んだあと、ぜひとも堀辰雄の年表も見て欲しい。

そしてこの物語を書かざるをえなかった一人の作家の気持ちに想いをはせて欲しい。

 

もう、最近の何とか文学賞の選考委員の連中に爪の垢でも飲ませてやりたい!

何でも赤裸々に書けばいいってもんじゃないんだよ!

私はこういう小説が好きなんだ!!

 

宮崎駿監督の「風立ちぬ」も近く観に行くつもりです。

映画をきっかけにして、この本に出会えたことを感謝します。

とってもいい本が読めました♪

 


重松清『きみの町で』、白石一文『快挙』

2013-07-13 19:00:00 | 日本人作家

涼を求めて入った本屋さんで読みたかった本に出会えました。

重松清 『きみの町で』 (朝日出版社)

 

著者 : 重松清
朝日出版社
発売日 : 2013-05-31

 

これはもともと『こども哲学』という絵本シリーズの付録として書かれた文章を、単行本にまとめたものです。

フランスの哲学の授業で(子どもの頃からこんな授業があるんですね!)交わされた会話を絵本にした、考える絵本『こども哲学』シリーズ。

今回、東日本大震災についての「きみの町で」を追加して出版されました。

電車でお年寄りに席をゆずる、その時の小学生の心の葛藤。

いつもイジメられている同級生。

人間って、自分って、心って何だろう?

 

哲学ってちょっと難しいイメージがありますが、あつかっているのは誰でも一度は考えたことのあることばかり。

その中でも「きみの町で」は、震災に見舞われた町を舞台に、子どもたちに焦点をあてて、震災前と震災後の子どもたちを描いています。

心をギュッとつかまれました。

涙がこみ上げてきたけれど、それは悲しみの涙なのか、嬉しさの涙なのか、感動の涙なのか、私にはわかりませんでした。世界はわからないことばかりです。

もともとが絵本のシリーズなので(この本は文章が主です)、児童書のコーナーに置いてあるかも知れません。

ちょっと手に取って欲しい本です。

 

もう一冊は、白石一文さんの小説『快挙』(新潮社)

 

著者 : 白石一文
新潮社
発売日 : 2013-04-26

 

白石さんは官能的な描写もあって、こちらは大人向け。

売れない小説家の男と、小料理屋を営む年上の女。

現在50代の作者が、自分の両親の出会いをモデルにしたということで(白石一文さんの父親は小説家の白石一郎です)、高度成長、バブル崩壊、阪神淡路大震災と、時代は移り変わっていきます。

そんな時代を生きる一組の男女の物語。

まあ、現代の人からみたら勝手な男と尽くす女という構図なんですが、夫婦って他人にはわからない歴史があるんですよね。同じ時間を生きてきて、ケンカしたり、愛し合ったり、親戚や親兄弟のことでやきもきしたり、仕事やお金や子供のことで悩んだり苦しんだり。

男がグダグダ悩んでいる間にも、さっさと働き口をみつけてきて生活費を捻出する女。

「たくましい~」なんて思っちゃいけないんしょうね(苦笑)

だってどうやって食べていくのよ? と怒られそう。

白石一文さんの作品は、これまでちょっと読みにくくて敬遠していたのですが、これは読みやすかった。

個人的には「快挙」という題名と、ラストのオチの付け方(主に男の仕事に対して)には疑問を抱きましたが、これは主人公と同じ小説家である作者の思いなんでしょうね。

酸いも甘いも噛み分けてきた男女ならでは物語。

本当に共感できるまでには、もう少し人生経験が必要かな?(笑)

ともかく、面白い本でした。

 


『世界から猫が消えたなら』

2013-06-30 20:45:13 | 日本人作家

川村元気 著


『世界から猫が消えたなら』 (マガジンハウス)

 

著者 : 川村元気
マガジンハウス
発売日 : 2012-10-25




「電車男」「告白」「悪人」などの映画プロデューサーとして活躍する川村元気さんの書いた小説。

文章には散らばった印象があって編集前のフィルムを見るみたい。

名作映画のセリフや、名著の文章などが引用されていて、そこはちょっとズルイかな?(苦笑)

それでも引き付けられてしまうのは、主人公をわざと凡庸に描き、誰もが共感できる弱さとやさしさとグッとくる決断を書いたから、だと思いました。

まあ、猫が好きならとりあえず読んでみてもいいかな♪

 

悪魔はいいます。

一日寿命を延ばすかわりに、何かを一つ世界から消さなくてはならない

明日をも知れぬ命であることを告げられた30歳の郵便配達員。

猫と二人暮らしの彼は、明日を生きのびるために、世界から消してしまうものを選ぶのですが―

 

「ナウシカとデートしたい」とか、「フォースを信じろ」とか、もう映画好き、本好きにはたまらない!

しかも、主人公と一緒に暮らす猫のエピソードがさ、これまたズルイんだよなぁ~

NHKでラジオドラマ化も決まっていて、7月に放送されるんだとか。

主演は妻夫木聡。

 

もし、あなたが最後にもう一度だけ映画が観れるとしたら、どんな映画を選びますか?

私は、う~ん。

 

 


『夜明けの図書館(2)』と『タンポポ娘』

2013-05-27 19:11:13 | 日本人作家

全国の司書さん、司書を目指す学生さん、図書館利用者さん、本好きさんに読んで欲しいマンガ。

埜納タオさんの『夜明けの図書館(2)』(ジュールコミックス)を読みました。

 

 

 

 

 

 

 

これ、1巻も面白かったんですよね。

主人公は新人司書(2年目♪)の女性。

図書館に持ち込まれる、様々な「こんな本を探して!」という、レファレンス・サービスを題材にしています。

思い出の絵本とか(…雰囲気はすっごく覚えてるんだけど~)

思い出もあやしい小唄の題名とか(「こんな感じ。♪~」←実際に歌ってる)

もう、「雰囲気」しか覚えていないとか、ありえない(苦笑)

 

それぞれのエピソードに、心温まる人間ドラマが隠されていて、不覚にも涙が出そうになりました(感涙)

もう、1話目のホステスのお姉さんと主婦の妹の幼い頃の思い出の絵本の話なんて、ズルすぎる~

結婚披露宴の新婦から両親への手紙並の破壊力があります!!

「ありがとうのおと」って、あの絵本ほしい!

本っていいなぁ~

図書館っていいなぁ~

人間って、いいなぁ~♪

 

もう一冊読んだのは、復刊が嬉しい、ロバート・F・ヤングの短編集『たんぽぽ娘』(奇想コレクション)

 

 

 

 

 

 

 

ドラマ「ビブリア古書堂の事件手帖」で取り上げられて、ほんの一時期話題になった本ですが、多分忘れられているんだろうなぁ(苦笑)

SFの名作なのに!

 

「おとといは兎を見たは。きのうは鹿。今日はあなた」

 

ロバート・F・ヤングはロマンチックSFの巨匠と呼ばれているストーリーテラー。

SFなんて難解で苦手、という方には入門書としては最適な作家さんです。

物語は、男が森に囲まれた避暑地で、丘の上の立つたんぽぽ色の髪をした若い女性を見かけたところから始まります。

この場所が好きで、未来から見に来ているの、と不思議なことを口にする若い女性。

「おとといは兎を見たは。きのうは鹿。今日はあなた」

男はそんな女性の口から次々とびだす空想話に話をあわせ、楽しく会話し、二人で楽しいひと時を過ごします。

そして男は、親子ほども年の離れたその女性と恋に落ちるのです。

男は40代、もう20年も一緒に暮らしている妻を心から愛していました。

避暑地の女性を忘れられない男に、そんな夫の態度に何かを感じる妻。

過去と未来。

果たして、時をこえた恋の行方は……

 

絶版でながらく手に入りづらかった表題作「たんぽぽ娘」を含め、本邦初翻訳の7編を含む全13編。

ただし、ハードカバーとはいえ、定価が少々お高いです。

文庫でいいじゃん、文庫で!

これもやはり「ビブリア効果」か!?

財布に余裕のある方、昼食を抜いても大丈夫な方(苦笑)

オススメです♪♪

 


伊坂幸太郎 『バイバイ、ブラックバード』

2013-05-03 23:56:56 | 日本人作家

実写映画化が話題の角野栄子さんの『魔女の宅急便』が、版元を変えて角川書店で文庫化されましたね。

 

角川書店
発売日:2013-04-25

 

 

 

 

 

 

パラパラっと読みましたが、文庫版特典というか、あとがきも解説もなくて、ちょっとガッカリしました。
これだと単行本で買った人は買わないって!
なぜそれがわからない角川文庫!
そしてなぜわからないハリポタ文庫化、静山社!!

 

同じくこの3月に文庫化された、伊坂幸太郎『バイバイ、ブラックバード』(双葉文庫)を読みました。

 

 

 

 

 

 

 

タイトルが楽曲のタイトルに由来するのは伊坂作品の定番。
軽妙な文体と飛び出た感性による比喩の数々♪
私はドカベンの不知火も、レオタードを着た美人三姉妹も知ってますよ!

しかし、主人公が五股をかけてて、その5人に別れを告げに行くって(苦笑)

いや、確かにそういう話っていえばそういう話なんだけれど、それだけで終わっていないのが伊坂幸太郎!

とっても面白いお話になっています。

この作品のそもそもの始まりは、太宰治の未完の小説『グッド・バイ』の続編か完結編を書かないか、という企画だったそうです。

ちなみに太宰治の『グッド・バイ』は、過去の愛人たちと別れるため、絶世の美人を自分の奥さんに仕立て上げ、「こんなにキレイな奥さんにはかなわないわ」と愛人たちに思わせて手を切るというお話(苦笑)

しかもこの絶世の美人、実は大食いで怪力、声もガラガラ声で普段は男か女かわからない、部屋もゴチャゴチャという、超がさつ女なのですが、化粧をして趣味のいい着物を着てだまっていると、誰もが振り向く超美人に変身するという設定なんです(笑)

「グッド・バイ」に登場する「絶世の美人」も強力なキャラですが、「バイバイ、ブラックバード」では、この「絶世の美人」が「グッド・バイ」に輪をかけたかなり強烈なキャラに変わっています!

主人公が会いに行く5人の彼女もそれぞれ事情を抱えていて・・・・・・

笑ったり、泣いたり、しんみりしたり、クスッと笑ったり。

すべてがすべてスッキリ解決するわけじゃないし、(あれって結局どうなったの?)と思わせる、いわゆる「読者の想像力にまかせる」ところもあって、でもそんな放っぽり方も伊坂作品らしくて、まるで音楽を聴き終わって、その余韻にひたっているような読書感でした。

あー、面かった♪


出久根達郎 『佃島ふたり書房』

2013-04-13 23:49:45 | 日本人作家

古本屋の女主人が様々な謎を解く、三上延さんの『ビブリア古書堂の事件手帖』(メディアワークス)が少し前まで話題になっていましたが(もうブームは去ったの?)、古本屋を舞台にした小説で、こんな名作がすでにあったんですね~

1993年の直木賞受賞作品ですから、単に私が無知だったってだけなんですが(苦笑)

 

出久根達郎 著

『佃島ふたり書房』(講談社)

 

舞台は東京佃島の小さな古本屋「ふたり書房」

小雪の舞う昭和三十九年の一月のこと、隅田川を横切る渡船に乗る一人の男の目線から、物語は始まります。

病弱な母親とその年高校を卒業する娘二人が営む「ふたり書房」

亡くなった先代の店の主、その親子の父親と親友だった男は、ここ数年、母娘を陰日向になり助けてきました。

店番はもちろん、本の仕入れ、値付け、(古本業者の営む)市場の付き合い・・・

物語はこの男と「ふたり書房」の母娘を中心に、亡くなった親友と男が過ごした青春時代へ時代をさかのぼって進んでいきます。

時代がまだ明治と呼ばれていた頃。

本の町、神保町。

日露戦争の勝利で町には清国(当時の中国)からの留学生があふれ、遊郭も健在で、社会主義や共産主義をあつかった本が禁制本となっていた時代、十五歳だった男は古本屋の小僧として住み込みで働くことになります。

いわゆる丁稚奉公。

そこで男は、親友となる男と、その男の妻となる若き日の「ふたり書房」の女主人に出会うのです。

遊女にチョコレート。

謎めいた女に「大逆事件」

神保町を襲った大火に、関東大震災。

発禁本に満州という新天地。

 

作者が実際に古本屋を営んでいる方なので、古本屋の内情についてはとっても詳しく書かれていてすごく面白い♪

また相当な本好きなのが文章の端々に垣間見えて、それを読んでいるだけで幸せな気分になれます!

 

「古本屋さんという商いは、よその物売りの数倍、商品に愛情をもたなくてはいけませんよ。店主の本への思い入れの深さが、客を呼ぶんです。客は本の身内ですからね。本を邪けんに扱う店には寄りつかない・・・」

         -出久根達郎 「佃島ふたり書房」-

 

不勉強にも、「大逆事件」について、物語にも登場する「菅野スガ」について、これまでは概要をなんとなく見聞きしていただけで、詳しい内容は知りませんでした。

今回調べてみて、すごく勉強になりました。

あと細かい事を書くと、佃島と徳川家康とのこと、新しい橋の渡り初めにつきものだという「三代夫婦」による渡り初め、お神輿の担ぎ方や、江戸っ子の「ワッショイ」という掛け声に対する思いなど、明治から昭和にかけての風俗を知ることができたのも楽しかった。

こういう本、これまで読んでこなかったんですよね。

本好き大人向け「ALWAYS 三丁目の夕日」みたい♪

 

私がこの出久根達郎の『佃島ふたり書房』を読んでみようと思ったのは、BSフジプレミアムで放送された「名作を旅してみれば~佃島ふたり書房~」という番組を見たから。

俳優のイッセー尾形さんが、実際に物語の舞台である佃島を歩いたり、古書会館での古本業者による「振り市」を体験されたり、神保町の古本屋さんを訪れたりしていました。

そしてところどころに入る近藤サトさんの朗読。

いわゆる「スイチャブ」と呼ばれる社会主義の本(かつての禁制本)を今でも扱っている古本屋として、早稲田の虹書店さんも紹介されていました。

こんな番組を見たら、どうしても『佃島ふたり書房』が読んでみたくなったんです!

それと同時に思ったのが。

いいなぁ、東京。

佃島や神保町、早稲田の古本屋さんにも行ってみたい!!

ということ!

 

物語の中で、かなりのページを使って言及されている、様々な古本屋の知識も魅力的なのですが、何と言っても引き付けられるのはその登場人物です。

男と女の物語はいろいろありますが、こういう古典的というか、夏目漱石や森鷗外のような男女関係の物語を、久しぶりに読みました。

懐古趣味ではありませんが、若い頃は敬遠していたこうしたいわゆるちょっと古臭い物語を、この頃なんか味わい深いと感じるようになってきたんですよね~

しっくりくる、という感じ?

私が年をとったってこと?(苦笑)

いや、今だからこそ、こうした物語が逆に新しいかも!(笑)

 

「女は子供の時から大人だよ。死ぬまで子供っぽい男とは違う」

          -出久根達郎 「佃島ふたり書房」-

 

あぁ、中学生の頃にこの境地がわかっていたらなぁ~

・・・いや、それはそれで問題あるか(苦笑)

先日読んだ村上春樹さんの『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(文藝春秋)じゃありませんが、大人の世界って、ネットで無責任な書き込みをしているぼうやたちが考えているほど単純なものじゃなくって、すこしばかり複雑にできているんですよね。

白か黒か、正義か悪か。簡単に割り切ることで不安な状態から早く抜け出したいのは分かるけれど(それが楽でもあるし)、割り切れないものを背負って歩み続けていくことで、初めて見えてくるものがある。

歩み続けなきゃ、たどりつけないものってあると思うんです。

しかもそこに行くには、地図もなければガイドもいない、ただ、先人の残した無数の足跡が残っているだけで、どれが自分の行きたい道なのかもわからない。

それはひどく面倒でつらいことかも知れないけれど、そもそもたどり着けるかどうかさえわからないのだけれど、でも唯一つ確実にいえることは、途中であきらめてしまったら、絶対にたどり着けないってこと。

人生っていうのは、面倒くさいものなんですよ。

こればっかりは、他人まかせにできないですからね。

ま、これはある人の受け売りなんですけど(苦笑)

好き嫌いで判断しているうちは、自分が本当に何が好きで何が好きじゃないかなんてわかりっこありません。

いろんな物を食べて、比べて、経験して、初めて自分の好きな物嫌いな物、じぶんの体に合うもの必要なものがわかってくるんですから。

私はポテトチップスが好きですが、こればっかり食べていたら健康に悪いと知っているから、野菜も食べるわけです。

塩分や油をひかえてうす味にしたら、かえって野菜そのものの味がわかるようになってきて、今では新鮮な野菜の方が私にとっては贅沢な食事になりました。

これも、野菜を食べることを最初から拒否していたら、わからなかったことです。

世の中には、時間がかかることがあるんですよね。

時間をかけなきゃ、わからないことが。

もちろん、時間の使い方も人それぞれでしょうけれど。

 

とにかく、この小説にも「割り切れないもの」がたくさん書かれています。

最後まで読んで、「何がいいたいのかわからない」と思う人もいるでしょうし(せめて若い人であって欲しい)、桜が散るのをただの自然現象ではなく別の物の象徴として受け止めるように「こういうのもいいね」と思う人もいると思います。

私は「風情のある小説」として読み終えました。

その風景から何を感じるのかは、その人の経験しだい♪

本当、読めてよかった☆

 

 


村上春樹 『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』

2013-04-12 20:10:43 | 日本人作家

村上春樹さんの3年ぶりの長編小説を読みました。

 

『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(文藝春秋)

 

 

 

 

 

 

 

 

これ、『1Q84』より好き。

個人的には彼の小説は、長編より短編の方が好きなのですが、これはなかなかよかった(なぜかエラそう)

きっと、今の自分に必要な文章がどこかにあったんでしょうね。

世の中は単純じゃない。

誰もが何かをひきずって生きている。

新しいことを始めようとしても、ひきずっている物が邪魔でうまくいかないこともある。

それもひっくるめて自分自身。

それと正直に向かい合うか、一生隠してひきずって行くかは本人しだい。

 

タイトルの「多崎つくる」というのは主人公の名前です。

鉄道の駅を作る仕事をしていて三十を過ぎても独身。

彼は高校生の時から仲の良かった4人の友人(男2人女2人)に、大学二年生の時、急に関係を断たれてしまいます。何の身に憶えもなく、突然に。

そのことが彼の人生にどう影響を与えたのか…

16年後、彼はあるきっかけでその友人たちを訪ねることになります。

彼も変わってしまったけれど、友人たちにもそれぞれの人生がありました。

変わってしまったもの。

そして、変らないもの。

「色彩を持たない」とか、「巡礼の旅」という言葉の意味は本文を読めばすぐにわかります。

あぁ、なるほど、こういうことね!

という感じ。

全体に漂う不安と悩み、病的なまでの生真面目さとつきまとう死の影は、これまでの長編村上作品にはよくあるモチーフですが、今の村上春樹が書くとこうなるのか、と自分の中でこれまでの作品と対比できて面白かった。

フェイスブック、東日本大震災、イスラエル問題、ノーベル賞

様々なキーワードが、この3年間報道やエッセイなどで知った村上春樹さんに重なり、自分としてはすごく納得できました。

そうか、今の時代に村上春樹が小説を書くと、こんな感じになるだ・・・と。

 

それにしても、名古屋は大都市でも東京と比べると文化的には大きな地方都市にすぎないとか、経済界も割りと狭く地縁がものをいうとか、村上さんは名古屋に偏見でもあるのかな(苦笑)

有名作家の3年ぶりの新作。

しかもすべてが謎に包まれたまま発売、ということで、一部書店では深夜からカウントダウンまでして「村上春樹フェア」で盛り上げたみたいですね。

書店に列を作る人もいて、ニュースで見ました。

田舎の本屋では、普通に山積みになっていましたけどね(苦笑)

しばらく見ていましたが、手に取る人は多いものの、買っていったのは一人だけでした。

いきなり50万部の発行?

大丈夫かな?

ま、出版業界は盛り上がるのは、本好きとしては嬉しいことですが☆

 

村上春樹さん、全部が好きというわけじゃないけれど、夢中になって読めた一冊でした。

あー、面白かった。


『ぼおるぺん 古事記』

2013-01-24 23:55:43 | 日本人作家

本屋さんで立ち読みしてきました。

『ぼおるぺん古事記一 天の巻』、『ぼおるぺん古事記二 地の巻』(平凡社)

 

平凡社
発売日:2012-05-27

 

 

 

 

 

 

作者は『夕凪の街 桜の国』などの作品で知られる、こうの史代さん。

ボールペンで描かれた絵はどこか親しみを感じることができて、まんまる顔のアマテラスとか、キャラクターもユニークです♪

原文の言葉をわかりやすく解説するコーナーはとっても親切。

正直、知っているようで知らない「古事記」の内容を、まんがのキャラクターを使って再現。

天地創造から神産み、スサノオの高天原追放からヤマタノオロチ退治。

天孫降臨に、出雲の国譲り。

神々の名前に込められた意味や、一人神と二人神、それぞれの役割などもわかりやすく描かれていて、すごく想像力を刺激されました。

あー面白かった。

 


百田尚樹 『永遠の0(ゼロ)』

2012-10-29 22:44:27 | 日本人作家

百田尚樹さんの小説、『永遠の0(ゼロ)』(講談社)を読みました。

 

講談社
発売日:2009-07-15

 

 

 

 

 

 

 

「0(ゼロ)」とは太平洋戦争で日本軍が使った戦闘機「零戦」、正式名称「三菱零式艦上戦闘機」のこと。

祖母の死後、彼女の最初の夫の存在が明らかになり、孫である姉弟はその”知られざる祖父”の生涯をたどることになります。

自分たちと血のつながった人間が、アメリカと戦い、最後は零戦で特攻して亡くなった…

太平洋戦争は1941年12月8日の日本軍による真珠湾攻撃で始まりました。

当時の日本はその4年前、1937年に始まった日中戦争の真っ最中。

1939年にはナチスドイツがポーランドに侵攻。

翌年1940年には日本はドイツ、イタリアと日独伊三国同盟を結んでいます。

今からわずか70数年前の事実。

 

小説の語り手は司法試験浪人といいながら、いまや熱意も失い漠然と日々を送っている青年。

そんな彼が、フリーのライターとして働いている姉の依頼で、自分たちの祖父を知る人を捜し出し、インタビューすることになります。

かつての日本軍の兵士たち。

老人たちの戦争の記憶は様々で、祖父のイメージも姉弟の中で二転三転します。

海軍のパイロットとして零戦に乗り、真珠湾攻撃に参加。

その後ラバウルを拠点に戦ったこと。

一部では臆病者と呼ばれるほど生き残ることに固執していたという話。

それを可能にした、抜群の操縦技術。

階級や年齢の違いを鼻にかけることなく、誰にでも丁寧に接していたという祖父。

そこには、戦争という異常事態の中でも「人間として大切なこと」を決して失わない一人の男の姿がありました。

自分の命を大切にすること、生き残ることが「悪」とされ、お国のために命を捧げるのが当たり前という空気の中、愛する妻のため、子供の顔を見るために必死に生き残ろうとすることは罪なのだろうか…

パイロットが主人公なため、飢餓や過酷な行軍を強いられた陸軍の物語と違い、泥と血にまみれた辛いだけの読書という印象ではありませんでした。

もちろん戦争の悲惨さに変わりはないのですが、大空という戦場と、コックピットの中ではたった一人で戦わなければならないという状況がそうさせるのか、戦争を一歩引いた立場で、見ることができたような気がします。

妄信的に言いなりになるのではなく、自分の目と頭で状況を把握し、どんな時でも冷静さを失わない努力。

パイロットに求められる能力は、軍や政府、新聞など報道機関、そして敵として戦う相手に対しても、鋭い洞察力となって向けられます。

 

カミカゼアタック

 

一部の人たちが、9.11アメリカ同時多発テロとカミカゼアタックを、同じ「テロ」という言葉で並べて呼んでいたなんて知りませんでした。

イスラム系の過激なテロ活動について、たいした知識があるわけじゃありませんが、自分の中でこの二つが同じだといわれたら、やっぱり違和感があるんです。

ただ私にいえるのは、戦争なんて大嫌いだということ。

普段こうした戦争関係の本は読まないのですが、よく聴いているラジオ番組の中で紹介されていたので、今回読んでみようという気になったんです。

読みやすいというと内容が内容なだけに語弊があるかも知れませんが、しだいに明らかになっていく姉弟の祖父という人物がとても魅力のある人に書かれているので、つい夜更かしして読んでしまいました。

物語は戦争をあつかっていますが、現代にも重なる場面や言葉がたくさんあって、自分の生活を振り返ってしまいました。

読んでよかったです。

 

 


宮部みゆき 『ソロモンの偽証 第一部 事件』

2012-09-27 20:54:15 | 日本人作家

2軒の本屋さんをはしごして、4時間で読み終えました。 

本屋さんを替えたのは、さすがに2時間も立ち読みしていると居づらくなって(苦笑)

宮部みゆきさんのミステリー小説三部作、その第一部。

 

『ソロモンの偽証 第一部 事件』(新潮社)

 

 

新潮社
発売日:2012-08-23

 

 

 

 

 

 

 

741ページもあってやたら分厚いんです。

それなのに、次の展開が気になって、飽きさせないどころか、どんどん先が読みたくなる!

クリスマスの朝、校舎の片隅で発見された男子生徒の死体。

警察は現場検証と解剖所見から、生徒が校舎の屋上から転落したため死亡したと判断、目撃者もなく、状況から自殺と断定します。

なぜ14歳の少年は死んだのか…

 

すごくよくできています。

すごく読ませてくれる小説なんですが、私は個人的に途中から、「もういいよ~」と悲鳴を上げてしまいました。(ほめてます)

なんていうか、人間関係が占める割合が多すぎて窒息しそう…

宮部みゆきさんの作品は、『ブレイブストーリー』を読んだ時も感じたのですが、人間の内面の描写が多くて、どの登場人物も結局ひとつの世界のルールに縛られている。

誰も彼も世間の価値観、宮部みゆきの価値観から抜け出せていない。

今回の『ソロモンの偽証』でいえば、みんな「学校」というルールに縛られた中でお話が進行します。

子供たちも、大人も、警官も、親やマスコミも、立場や主張は違いますが、それは鏡に写した姿だったりするだけで、みんなが同じ基準を指針に舵を取っている。

ある者はそれに愚直に従い、ある者はそれに反発し、ある者は上手に利用し、ある者は翻弄されながら。

それは確かに本人たちにしてみれば大問題なんでしょう。

子供たちにとって学校という世界がある意味絶対であるかのように。

しかし、他人の顔色をうかがい、仲間同士さぐりあい、権力争いをしていられるのは、衣食住がとりあえず保障されているから。

飢餓や戦争や宗教闘争や人種差別といった、価値観自体の争いが入ってきたとたん、この小説の「甘さ」が露見してしまう気がするのです。

思春期の子供たちの葛藤、心の闇、教師の保身に身勝手な親、それはとても大切なテーマだけれど、もういいよ、かんべんしてくれ、3行で済むことを延々700ページ、しかも三部作で書いちゃうあなたの力量はたいしたもんだよ、それは認める、すごいよ、だから早く読者を楽にしてくれ…

それが私の本音(苦笑)

いや、ほめてるんですよ、これ。

 

でも、もう少し人間関係と離れた価値観、例えば虫の好きな少年とか、将来バイオリン職人を目指している生徒とか、休日には海でサーフィンに夢中の女の子とか、息抜きがあっても面白かったかな。

 

主人公っぽい女子生徒が学校から徒歩2、3分のところに住んでいて、お父さんが警視庁の刑事というのはちょっと都合よすぎるし、優等生で理想的な生徒、家庭でも父親と信頼し合っているというのは気持ち悪いけれど、それはまぁ許容範囲内。

唯一気になったのが、ちょっと太っている松子ちゃんがこのままだと可哀想すぎる…

不良少年にも少し理解を示すところも納得いかない。

まさか「子供はみんな善人で、家庭環境の犠牲者」なんて結論じゃないでしょうね?

それじゃああんまりだ…

 

小説の世界にどっぷりつかる本の読み方というのも良くないんでしょうね。

読んでいて、しだいに中学生の心の闇に自分が捕らわれてしまった錯覚に陥って、すごく落ち込んでしまいました。

亡くなった男の子の考え方にすごく惹かれるものがあって、同調してしまったのも原因かも。

それくらい魅力のある作品なんです!

でも、「この世界はそんなに捨てたもんじゃないよ」と叫びたくなってしまう(笑)

 

これはこのままではマズイ、と思って、慌てて心の応急処置。

同じく中学生を主人公にしながら、こちらは胸がキュとしめつけられるような男の子と女の子の初々しい交際を描いたマンガ、水谷フーカさんの『14歳の恋』(白泉社)を買って読みました♪

 

白泉社
発売日:2011-06-30

 

 

 

 

 

 

 

白泉社
発売日:2012-06-30

 

 

 

 

 

 

 

クラスメイトの目を気にして、学校ではそ知らぬ態度で接する二人。

アイコンタクトで会話したり、誰もいない理科室で密会したり☆

彼女の体に偶然触れてしまい、そのやわらかさにドギマギしたり、彼の目立ってきたのどぼとけに思わず見入ってしまったり。

そうそう、14歳はこうでなくちゃ!!

という、照れくささ爆発の描写が多数♪

文学少女でノートに小説風の日記を書いている志木さんとか、職権乱用で年下生徒に手を出す(笑)美人の日野原先生とか、サブキャラも魅力的!

授業中に目が合っただけで何となく心が騒ぐ、そんな時期がありましたなぁ(苦笑)

 

ちなみに宮部みゆきさんの『ソロモンの偽証』、私にはまだタイトルの意味がわかっていません。

ソロモンといえば、大岡裁きで有名な、一人の子供に母親を名乗る女性が二人現われ、子供の両腕を引っ張らせて勝った者が母親の権利を得られるとなったのに、痛がる子供を見て実の母親は思わず手を離してしまう、という逸話が有名ですが、そのことなのかな?

もし、証拠がない状態で、まったく別のことを主張する証人が二人現われたら、どうやって真実を突き止めるのか?

人間はウソをつく。

では、本当の智恵とは、そのウソを見破ることなのか?

それとも…

というテーマ?

わたしが「3行で済む」と思ったこの小説のテーマは、「人は信じるに足る存在なんだよ、子供たち」ってことなんですが(あくまで私の個人的な感想です)

これはやっぱり、第二部、第三部を読まないとスッキリしないかな?

困ったなぁ(←嬉しい悲鳴)

 


中脇初枝 『きみはいい子』

2012-08-02 20:57:45 | 日本人作家

とにかく読んで欲しい!

中脇初枝さんの小説、

 

『きみはいい子』(ポプラ社)

 

 

ポプラ社
発売日:2012-05-17

 

 

 

 

 

  

 ぼくが悪い子だから、家にサンタさんがこないんだ

小学校4年生の少年は、そういいながら養父の暴力に声も出さずに耐え続けます。

いつも給食のおかわりをするので、同級生にからかわれる少年。

「給食費も払ってないくせに…」

いつも給食をおかわりし、着ている物はいつも同じ。

給食費を払ったことがなく、やせて、休み時間も同級生を遠巻きにながめているだけ。

 休みの日も、ずっと学校に来ていましたよ。

 5時までは家に帰って来るなってお父さんがいうから。

 本当のパパは東京にいるの。

 朝と昼はご飯はないんだ。でも夕飯は作ってくれるよ。

 昨日は何を食べたの?

 パン。

給食だけが、この子の命をつないでいた。

教師のおごったしょうゆラーメンを汁も残さず食べ干す少年。

 しょうゆラーメン好き?

 わかんない。

教師2年目の先生は自分の失言に気が付きます。

そうだ、この少年は出された物なら今と同じように何でも残さず食べるだろう。好き嫌いの選択をする余裕なんてこの子には許されていない。

そこまで追い詰められている…

いや、この子の親が子供をそこまで追い詰めている。

男女同権をうたい、男でも女でも「さん」づけで先生が子供を呼ぶ、今の教育現場。

トイレに行きたい子のために後ろのドアは開けておく。

いつも笑顔で、子供をほめる。

授業参観では、「保護者の皆さん」という言葉を使い、決して「お父さんお母さん」「父兄の皆さん」という言葉は使わないこと。

プライバシー保護の名目で、連絡網も作れない。

孤立していく子供たち。孤立していく家庭。孤立していく教師。

 

新人教師の目線で描いた「サンタさんのこない家」の他、実の娘に暴力をふるうネグレクトを、母親の目線から描いた「べっぴんさん」

小学生の息子の父親の目線で、その息子の友達をみつめた「うそつき」

齢八十を過ぎた女性が小学生とのふとした触れ合いから自分を見つめなおす「春がくるみたいに」

そして、かつて自分に厳しくあたった母親が認知症になり、3日間だけ預かることになった女性を描いた「うばすて山」

この本には5編の短編が収められています。

後半の3編も、重い問題を扱いながら、人間に光を当てた作品ですが、私は前半の2編に衝撃を受けました!

この2編をそれぞれ1冊の本として物語を書いて欲しい!!

もっと読みたい!

そう切実に思うほど、力のある内容だったんです!!

特に最初の「サンタのこない家」

教師一年目に小学校1年生の担任になり、学級崩壊という現象をただ見ていることしかできなかった青年。

子供たちの心に響く言葉が言えない。

見つからない。

叱り続け、注意し続け、声が枯れるまで言葉を尽くしても、子供たちにはとどかない。

疲れ果てた彼は、自分の子供時代の教師を思い出します。

どうしてあんなに怒鳴るのか、なぜあんなに嫌な先生ばかりだったのか、今ならわかる気がする…

2年目に、4年生の担任になった彼は、そこでは冷めて、陰湿になった子供たちに振り回されます。

グループ同士の争い、イジメ、不登校。

子供たちには子供たちの理由があって、この学校という世界で、限りなくギリギリまで踏み止まって懸命に生きているのだ…

そんな彼が子供たちに出した難しい宿題。

それは算数でも、国語でもなくて、家で誰かに抱きしめてもらってくること…

 

この小説を読んで、ジワッとこみあげてくるものがありました。

先生の、子供たちのセリフに思わず涙がこみあげてきたんです。

自分も含めてですが、人間ってなんて他人の痛みに鈍感なんでしょうね。

そのことを、あらためて思い知りました。

「べっぴんさん」の中で、自分の子供を虐待する母親が、自分を虐待していた時の母親の手の平もこんなに赤かったのかしら、と思い出すシーンには、思わず背筋が凍りました。

母親から虐待されながらも、その手を握りたい、優しく微笑んで欲しいと願う子供の心理。

しかし母親が腕をちょっと動かしただけで、体が勝手に反応して身を守る体勢になってしまう。

悲しい、悲しすぎる。

この小説はフィクションですが、内容は現実です。

でもやっぱり、前半の2作品と後半の3作品は、同じ本にしちゃうには「重み」が違うような気がしました。

そこは読み手の受け取り方しだいですけどね。

とにかく、前半2編だけでも読んで欲しい。

誰かに伝えたい。

そう思わせるものがこの本の中にはあります。

人間は失敗から学ぶ生き物です。

行動を改めることができる生き物です。

そこのところがちゃんと描かれていて、重いテーマばかりなのに、読み終わってからどこか明るい光を感じました。

あぁ、読んでよかった、って☆

 

いつの時代も社会は問題を抱えています。

今の世界が理想とは決していえない。

だから、私たちは考える。

数年後、この小説がもはや「時代遅れ」であり、参考にならないと誰も読まなくなっていることを切に願います。

そんな世界がくるといいなぁ。

 


原田マハ 『キネマの神様』

2012-07-29 20:47:54 | 日本人作家

前からさがしていた、原田マハさんの小説、

 

『キネマの神様』(文藝春秋)

 

をようやく読むことができました♪

シネマ好きにはたまらない小説!

 

文藝春秋
発売日:2008-12

 

 

 

 

 

 

何度も観ているのに、「ニュー・シネマ・パラダイス」(監督ジュゼッペ・トルナトーレ)や、「フィールド・オブ・ドリームス」(監督フィル・アルデン・ロビンソン)を、もう一度観たくなってしまいました!

映画を愛する人々が登場します。

ちょっと偏屈だったり、オタクだったり、ギャンブル好きだったり、人がよすぎたり。

みんな人生に迷ったり、うまくいかなかったり、挫折だって経験してきているけれど、いつも映画に救われてきた…

シネコンなども手がける大手の開発会社を、半ば追われるように辞めてしまった主人公。

ちょっとしたことがきっかけで、老舗の映画雑誌のライターとして採用されますが、その会社は長年赤字続きで半分傾きかけています。

主人公の父親は、賭け事が好きでいつも借金まみれ。

知り合い中にお金を借りているくせに、どこか憎めない性格で、賭け事と同じくらい好きなのが映画を観ること。

映画雑誌、映画好きな老人、ネット、書き込み、世間が注目。

ネットでの映画評論が話題になり、雑誌の売り上げにも貢献する主人公の父親ですが、その文章が翻訳され、全世界に公開されると、思わぬライバルが現れます。

顔の見えないネットの世界で繰り広げられる映画をめぐる舌戦。

どちらも自分の主張を展開するものの、映画を愛していることには変わりがない。

やがて二人のやりとりはそれは読んでいる人々の共感を呼び、映画ファンは二人のやりとりを待ち望むようになります。

加熱するネットの世界!!

 

自分の好きな作品について語ること、映画ファンとしてこれほど楽しいことはありません!

私もこうして本の感想を書いていますが、気持ちは同じ。

たくさんの名作と呼ばれる映画から、誰も知らないようなマニアックな映画まで、物語の中に登場する映画すべてが観たくなっちゃう♪

小説の中ではまったく個性の違う二人が、それぞれの切口で映画を批評し、そのかけあいが楽しいのですが、実際はそのどちらもを作者である原田マハさんが考えて書いているわけですからね。

すごい才能だなぁ~

後半、顔の見えない、したがって正体もわからなかった謎のライバルの正体が明らかになります。

すごく夢中になって読みました。

あぁ、楽しかった☆

 

映画だけでなく、この本は父親と娘の物語でもあります。

親子で同じ趣味なんて……ケンカが増えそう(苦笑)

 

家で借りてきたDVDを見る映画鑑賞もいいですが、やっぱり映画館で、大勢の見知らぬ人たちと一緒に、暗闇の中に映し出される映画を観る。

あの感覚には何ともいえないものがありますね♪

同じ時間と感情を共有する、みたいな感じ☆

久しぶりに淀川長治さんの「サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ」という映画解説が聞きたくなってしまいました(笑)

これがわかる人って歳がバレそう♪

 

そういえば、以前こんなことがありましたね。

とある女性から、昨日のことについて問い詰められた時のこと、私はついこんなセリフをいってしまったのです。

「昨日? そんな昔のことは忘れたな」

「昨日のどこが昔なのよ!」

…ちがう、ちがう!

「カサブランカ」って映画があって、ハンフリー・ボガード演じるボギーの名セリフじゃないか!

その後、ボギーはこう続けるのさ。

「明日? そんな先のことはわからない」

「………。」

もちろん、その後空気がすっごく険悪になったのは言うまでもありません(苦笑)

ボギー。

人生って時にしょっぱいよね。

 


原田マハ 『楽園のカンヴァス』

2012-07-20 18:00:00 | 日本人作家

原田マハさんの『楽園のカンヴァス』(新潮社)を読みました。

 

新潮社
発売日:2012-01-20

 

 

 

 

 

 

表紙に使われているのは、フランスの画家アンリ・ルソーの作品「夢」です。

どこかのジャングルに置かれた長いす。

その上に横たわり、左手を何かを指し示すかのように伸ばした裸婦。

木々の影に隠れるようにして描かれた笛を携えた人物。

どこかとぼけた表情の肉食獣たち…

パリの税関で働きながら絵を描いていたため、日曜画家などと呼ばれ、カンヴァスや絵の具代にも事欠く生活だったルソー。

妻と幼い子供を早くに亡くし、二番目の妻にも先立たれ、生前は数少ない理解者にしか評価されなかった「税関史」、ルソー。

今や彼の作品は世界中の有名な美術館に飾られ、日本でも大原美術館や、東京国立近代美術館などに所蔵されています。

この物語は、そんなルソーの研究者として、かつて注目された日本人女性を主人公に、画家と作品、その情熱と支援者たちの思い、そしてそれを時をへだてて眺める栄誉にあずかった人々、人間の美に対する渇望と羨望を描いた作品。

絵画を見て思わずもらしてしまう、

「うわぁ、スゲー!」

という思いが描かれています♪

 

中心となるのは、ある収集家が手に入れたルソーのある作品について、主人公の日本人女性と、ニューヨーク近代美術館の学芸員との真贋を見極める7日間の対決なのですが、その真贋を見極める作業も魅力的ならば、なにより、芸術作品に対した時のそれぞれの人間の”気持ち”が様々で、主人公とライバル学芸員の作品を、そして画家を愛する気持ちが読んでいるこちらの胸に響きます。

美しさとは、人の胸をうつものなんですね!

かつてルソーの作品の真贋について、貴重な7日間を過ごした女性はいま、実家のある岡山に戻り、未婚のまま娘を産んで、母親と三人で暮らしています。

美術館の監視員として働きながら。

うまくいかない娘との関係。

田舎の人間関係。

籠の中の鳥。

飛び立とうとするペガサス。

監視員の仕事は、人を監視することではありません。

美術品を監視し、その環境を保つ。

あくまで、美術品が最優先。

 

 もっとも美術品と対峙し、見つめる時間が長いのは、美術館の監視員かも知れない…

 

名作に隠された謎を解くミステリーでありながら、美術館やそれに伴う仕事に携わる人々の描写も魅力的で、長年キュレイター(学芸員)として活躍されている原田マハさんらしい渾身の一作。

史実を基にしたフィクションではありますが、沢山の実在する絵画や画家たちの名前も登場して、読んでいるとフィクションとノンフィクションのまざりあった感覚に襲われ、それがいっそうルソーの「幻の名作」にリアル感を与えています♪

そして訪れる、再会の時…

時系列と謎解きが絶妙な順番で配置され、ついつい物語りに入り込んでしまいました!

この辺りもうまいなぁ~

『ダヴィンチ・コード』のようなサスペンス要素はありませんが、謎に迫るにしたがい明らかにされるルソーの思いや、絵に込められた作者の情熱に、読んでいるこっちはもうハラハラドキドキ。

久しぶりにいっきに読んでしまいました!

感化されやすい性格なので、美術館に行ってみたくなってしまった(笑)

クーラーも効いているだろうし、本当に出かけてこようかな…

  

とてもいい読書ができました☆

 


小川洋子 『最果てアーケード』

2012-07-14 23:37:55 | 日本人作家

本屋さんで立ち読みをしていると、ふいにこんな会話が聞こえてきました。

「ずっと派遣で働いていたので友達いないんですよ。ネットの知り合いばかりで…」

……どういう流れでそんなセリフが?

どうやら男の人が女の人に対して話しているようなのですが、前後の会話がまったく想像できなくて、しばらく呆然と立ち尽くしてしまいました。

何を訊かれたらそういう答えになるの?

というか、じゃあ今話しているのは誰?

世の中には、いろいろな立場、境遇の人がいますよね。

コンビニで、携帯でしきりに商品の説明をしては、どれを買うのか電話の向こうの奥さん(彼女?)に選んでもらっている若い兄ちゃん。

どれでもいいよ、こっちがわざわざ買いに来ているんだから文句なんか言わすな!!

と、その姿を見ていると全然関係ないくせに、つい無責任にたきつけたくなってしまいます(苦笑)

 

ずっと派遣で友達もいないという彼のいた本屋さんで立ち読みしていたのは、小川洋子さんの、

 

『最果てアーケード』(講談社)

 

講談社
発売日:2012-06-20

 

 

 

 

 

 

ともすると通り過ぎてしまいそうな小さなアーケード。

そこに並ぶのは、やっているのかどうかもわからないほど、目立たない小さなお店たち。

そんなアーケードの突き当たりに、小さな中庭があり、本棚のある休憩所がある。

そこには、犬を連れた女性が一人…

 

愛するものを失った人々が、想い出を買いにくる、世界で一番小さなアーケード。

酒井駒子さんの表紙が素敵だったのと、小川洋子さんの本ということで前から気になっていたんですよね。

いくつかのお話があるのですが、私は「百科事典少女」というお話が一番好きかな。

見えないウサギの義眼を探している「兎夫人」も雰囲気は好きです。

「人さらいの時計」という言葉には、内容ではなくその言葉自体に惹かれました。

ちょうど最近見た『グスコーブドリの伝記』というアニメ映画でも、「人さらい」が幻想的に描かれていたんですよね。

ここではない世界に連れて行ってしまう怖い存在…

 

子供の頃には、確かにそんな存在を感じていました。

それは夜更かしをしたり、言うことをきかない悪い子を連れて行く存在だったり、デパートやお祭りで親の手を離すと、どこからともなく現れる大きな大人だったり、いつもどこか物陰に隠れて、子供たちが油断するのをジッと待っている黒い影だったり、どこか良心に対する警報のような存在としてとらえていたのかも知れません。

昔話によく出てくる魔女ややまんば、子供をさらって食べてしまう怖い存在。

専門的には親が植えつけた罪悪感の反映だとか、いろいろ理屈はつけられるでしょうが、小川洋子さんの作品には、どこかそんな子供の頃の記憶に呼びかけてくるところがあるんですよね~

 

いまの時代、子供たちは何が怖いのかな?

 

ラスト「あれ?」と思わせる描写も、後を引く感じで余韻があってなかなか良かったです♪

実は私も百科事典は大好き!

家に訪問販売の人から買った大きな百科事典があって、オールカラーでとても立派なものがそろっていたんです。

よくページをめくっては、大砲だとか、お城だとか、巻末についている絵画だとかをながめていました。

お小遣いで自分の本を買えるようになるまででしたけどね。