5/19
【賢木】の巻 (2)
ようよう明け初める空の色は格別です。
後朝(きぬぎぬ)のうた
源氏「暁の別れはいつも露けきをこは世に知らぬ秋の空かな」
――暁の別れはいつも涙がちで悲しいのを、今朝は特別世に比類無いほど、あわれな秋の空です――
御息所「大かたの秋のわかれもかなしきに鳴くねな添へそ野辺の松虫」
――おおかたの秋の別れは悲しいものなのに、野辺の松虫よ、この上鳴く音を添えて悲しみを増さないでほしい――
源氏の愛情の示し方はお上手で、御息所としても下向のことの決心がまたまたお付きにならない。世の人々は母君同伴の下向を前例のないことと非難したり、同情したり噂申すようですが、一段と高い身分の方々は、かえって窮屈なことが多いものです。
九月十六日、斎宮は群行(ぐんこう)前のご潔斎を桂川でなされます。桐壺院のお心添えもあったのでしょう、常に勝って勅使もお供もすぐれた者をお選びになります。
源氏は斎宮と、お便りを交します。内容は「(国つ神として)母上との仲を上手く計らってください。」
返しは
「あなた様の実意のないお心を、国つ神はまづ、正されるでしょう」もちろん、女官にお書かせになったものです。
源氏は「……ほほゑみて見居給へり。御年の程よりはをかしうもおはすべきかな、とただならず。
――斎宮のお返事の大人びておられるのを、ほほえんでごらんになります。お年よりなかなか風流でいらっしゃるなと、あやしくお心が動くのでした――
源氏の心
十分に拝見できたご幼少の頃を、見ずじまいになったのは残念だが、御世はいつどう変わるか分からないから、いつか対面できる事もあろうよ。
◆見る、対面=いずれも関係をもつ、結婚する、を暗示する。
作者のことば。
このような、普通でない面倒な関わり合いには、必ずご執心のお癖なのです。
ではまた。