永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(59)

2008年05月27日 | Weblog
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【賢木】の巻 (7)

 「まねぶべきやうなく聞え続け給へど、宮いとこよなくもて離れ聞え給ひて、はてはては御胸をいたう悩み給へば……」
――ここに書きようもないぼどに源氏は巧みに申し上げなさいますが、中宮は決してお聞き入れなさらず、ついには胸痛を訴えられるので、(命婦や弁たちが、言いようもない気持ちで介抱されます)――

 源氏の方も正気も失せてしまわれ、夜も明けきっていてお帰りにもなれず、中宮の御発病にお屋敷も人々が騒がしくなりましたので、急ぎ女房たちは源氏を塗籠(ぬりごめ)に押し込めて、この場を繕ったものの、大変なことになったと心配です。兄上の兵部卿宮や中宮大夫(ちゅうぐうだいぶ)、僧侶も駆けつけられて、夕方になってようやく快方に向われました。

 中宮は、源氏がこのような所に隠れていらっしゃるとはつゆ知らず、女房たちも源氏がまだ、おいでになるとお伝えして又失神でもされたらと、申し上げることができません。
その後、中宮は少しご気分が良くなられたようで、昼の御座(ひのおまし)に膝行(しっこう=膝で進退する)でおいでになっています。

源氏はお近くには女房が少ないのを見計らって、

「君は、塗籠の戸の細めにあきたるを、やをらおしあけて、御屏風のはざまに伝ひ入り給ひぬ。めづらしくうれしきにも、涙はおちて見たてまつり給ふ」
――源氏は塗籠の戸が少し開いているのを、そろそろと押し開けて、屏風との間に御身を滑らせます。思いがけないうれしさに、涙がこぼれ落ち、じっと見入っていらっしゃいます。――

 それと知らぬ藤壺は「なほ、いと苦しうこそあれ。世やつきぬらむ」
――ああ、とても苦しいこと、死んでしまうのかしら――

 源氏のこころ
 
 藤壺の、外を眺める横顔のなんとなまめかしいことよ。この上ないお顔のお美しいこと。かんざし、御髪のご様子、特にお顔はあの紫の上にそっくりだ。しばらくお逢いしていなかったが、このようなとんでもない形ででもお逢いできて気持ちが晴れるというものだ。紫の上とそっくりとはいうものの、やはり中宮を昔からお慕いしていたせいか、ご年齢とともにその美しさは、別格だ。

 と、だんだん気持ちが高揚してきて我慢できなくなって、御帳台の中に紛れ入って、藤壺の衣の褄を引かれます。
 藤壺は、衣裳の香で、すぐの源氏と察せられたので、なんとあさましいことと思われ、うつ伏してしまわれます。

ではまた。


源氏物語を読んできて(塗籠)

2008年05月27日 | Weblog
塗籠(ぬりごめ)  

昼の御座の西側の、土壁で囲まれた二間の部屋である。

ここは寝殿で最も神聖な場所とされ、先祖伝来の宝物を収納したり、寝所にあてたりした。

後期になると神聖視が薄れ、物置きとしても使われだした。

◆写真 風俗博物館より

源氏物語を読んできて(昼の御座)

2008年05月27日 | Weblog
昼の御座(ひのおまし)

寝殿の母屋、東西五間(柱間)・南北二間のうち、東側三間を昼の御座と呼び主人の御座とする。

奥に御帳台(みちょうだい)を構え、前方に二帖の畳を敷き茵(しとね)を置いて座を設える。

背後には屏風(びょうぶ)を立て、二階厨子(にかいずし)や二階棚(にかいだな)など、調度の品々を並べた。

◆写真 風俗博物館より