永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(208)

2008年11月01日 | Weblog
11/1  208回 

【乙女(おとめ)】の巻】  その(18)

 雲井の雁の乳母は、あちらこちらと姫君を探しておりますと、夕霧の気配を察してか、「まあ、いやですこと。内大臣がお叱りになるのはもっともですよ。義理のお父上の按察使大納言さまに何と申し上げましょう。どんなに立派な方でも、最初のご結婚に六位風情では…」とつぶやいていますのが、聞こえてきます。

夕霧は、雲井の雁に、

「かれ聞き給へ、
 (歌)くれなゐの涙にふかき袖の色をあさみどりとやいひしぼるべき
 はづかし」
――あれをお聞きなさい。
 (うた)血の涙で深紅に染まった私の袖の色を、浅黄色とあざけってよいものでしょうか。恥ずかしい。――

 と、おっしゃると、雲井の雁は、

「(歌)いろいろに身のうきほどの知らるるはいかに染めける中の衣ぞ」
――さまざまの憂さを知らされる私たちの運命は、一体どういうものなのでしょう――

と、返歌もなさり終えないうちに、内大臣が邸内に入っていらしたので、どうしようもなく、急いであちらへ行っていまわれました。

 男君(夕霧)は、取り残されて、ひどくみっともなく、胸もいっぱいでご自分のお部屋に臥してしまわれます。内大臣は車三台ほど連ねてお帰りになりました。
大宮がお呼びになりますが、夕霧は涙も止まらず泣き明かして、早朝に急いで二條院に帰られます。

「道の程、人やりならず、心細く思ひ続くるに、空の気色もいたう曇りて、まだ暗かりけり。」
――帰り道は、気持ちのやり場もなく、心細く思い続けておりますと、空もひどく曇りきって暗いのでした。――

ではまた。


源氏物語を読んできて(年中行事・五節の内容1)

2008年11月01日 | Weblog
4日間の行事の内容
 
 五節の行事は、陰暦十一月中の丑の日に行われる「帳台の試(ちょうだいのこころみ)」に始まり、寅の日の「御前の試」、卯の日の「童女御覧」、そして、最終日、辰の日の豊明節会(とよのあかりのせちえ)における「五節の舞」まで、4日間連続して催されました。
以下に、それぞれの行事の内容を見ていきましょう。


中の丑の日

 この日は、舞姫が宮中へ参上するので「参りの夜」とも呼ばれました。舞姫らは玄輝門で車を下り、公卿らが居並ぶ中、筵道が敷かれた上を歩いて五節所に入ります
さて、帳台の試は その夜のうちに行われます。
これは、常寧殿に帝が出御して舞姫の舞を御覧になる儀式で、舞殿である常寧殿の塗籠の中に舞姫の座が設けられ、帳台の北方に灯台4本を立て、帳台の上に長筵を敷き、大歌・小歌の発声によって舞姫が舞います。

 舞殿への参入は、まず2人の童女が1人は香炉、もう1人は茵を持って先行し、次に舞姫が理髪、陪従(付き添い役)を伴って入場、更に下仕えが几帳を持って従います。
塗籠の中は神聖な場として人の出入りが厳しく制限され、舞姫と共に入る介添え達も、役目を終えれば外に出なければならず、舞の間は舞殿にいることが許されませんでした。