11/16 223回
【玉鬘(たまかづら)】の巻】 その(2)
乳母たちは、ご主人である夕顔の行方を神仏にお頼みしては、夜昼泣いてはお尋ねしましたが、ついに聞き出すことができなかったので、どうしたらよいものか。それならばせめて姫君を夕顔のお形見としてお見上げしよう、でも賤しい身分のわが身と一緒に、遠い国へお連れ申すのも悲しく、姫君の真の父上(当時の頭中将・現内大臣)にそっとお知らせ申そうかとも思いますが、何の便宜(つて)もございません。
玉鬘は、幼心にも母君を覚えておられて、
「母の御許へ行くか」
――お母様のところへ行くの――
と、御問いになりますのにも、乳母たちは涙の絶える暇もなく、今から気高く美しく見える姫君を、何の設えもない船にお乗せして、漕ぎだした時には、しみじみいとおしく思われるのでした。
この乳母の子供は、男三人、女二人で、みなこの幼い姫君をご主人さまとして、大切にお世話申し上げております。乳母は、
「夢などに、いとたまさかに見え給ふ時などもあり。同じさまなる女など、添ひ給うて見え給へば、名残心地悪しくなやみなどしければ、なほ世になくなり給ひにけるなめり、と思ひなるも、いみじくのみなむ。」
――乳母の夢に、偶然現れることがありました。夕顔と同じような女などが一緒に現れますので、目覚めた後の気分が悪く病気になったりしましたので、もしかして、夕顔はお亡くなりになったのであろうかと、思えてきますのも縁起でもないことと思うのでした。――
少貮の任期五年が果てて、都に上ろうとしますが、遠路である上に格別の勢力のない身には、何かと思い立ちかねて、出立もできずにいるうちに、少貮は重病の床についてしまいました。玉鬘は十歳ほどになっておられ、気味悪いほどお美しく成長なさっています。
ではまた。
【玉鬘(たまかづら)】の巻】 その(2)
乳母たちは、ご主人である夕顔の行方を神仏にお頼みしては、夜昼泣いてはお尋ねしましたが、ついに聞き出すことができなかったので、どうしたらよいものか。それならばせめて姫君を夕顔のお形見としてお見上げしよう、でも賤しい身分のわが身と一緒に、遠い国へお連れ申すのも悲しく、姫君の真の父上(当時の頭中将・現内大臣)にそっとお知らせ申そうかとも思いますが、何の便宜(つて)もございません。
玉鬘は、幼心にも母君を覚えておられて、
「母の御許へ行くか」
――お母様のところへ行くの――
と、御問いになりますのにも、乳母たちは涙の絶える暇もなく、今から気高く美しく見える姫君を、何の設えもない船にお乗せして、漕ぎだした時には、しみじみいとおしく思われるのでした。
この乳母の子供は、男三人、女二人で、みなこの幼い姫君をご主人さまとして、大切にお世話申し上げております。乳母は、
「夢などに、いとたまさかに見え給ふ時などもあり。同じさまなる女など、添ひ給うて見え給へば、名残心地悪しくなやみなどしければ、なほ世になくなり給ひにけるなめり、と思ひなるも、いみじくのみなむ。」
――乳母の夢に、偶然現れることがありました。夕顔と同じような女などが一緒に現れますので、目覚めた後の気分が悪く病気になったりしましたので、もしかして、夕顔はお亡くなりになったのであろうかと、思えてきますのも縁起でもないことと思うのでした。――
少貮の任期五年が果てて、都に上ろうとしますが、遠路である上に格別の勢力のない身には、何かと思い立ちかねて、出立もできずにいるうちに、少貮は重病の床についてしまいました。玉鬘は十歳ほどになっておられ、気味悪いほどお美しく成長なさっています。
ではまた。