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【乙女(おとめ)】の巻】 その(22)
源氏から差し出された舞姫(惟光の娘)は、
「もの清げに今めきて、そのものとも見ゆまじう、したてたる様体などの、あり難うをかしげなるを、かう誉めらるるなめり。」
――上品で当世風で、素顔がわからないほどにつくり立て、着飾った様子が、類まれなほどに美しいのを、このように褒められるのでしょう。――
夕霧も、この舞姫がお心に留って、心密かに思いをかけて歩き回られますが、惟光の娘は近くにも寄せ付けず、きっぱりとした態度ですので、若い夕霧は気おくれがして、ただただ嘆きがちに過ごしておられます。お心のうちでは、
「容貌はしもいと心につきて、つらき人のなぐさめにも、みるわざしてむや、と思ふ」
――かの舞姫の容貌が大そうお心に叶って、雲井の雁に逢えない慰めにも、なんとかしてこの娘に逢ってみたいと、思うのでした。――
五節の節会が果てて、内裏では典侍(ないしのすけ)というお役に欠員があって、惟光は、娘の舞姫を宮仕えに差し出したいと言いますので、源氏は何とか希望どおりにしてやりたいものだとお思いになります。夕霧は、そのことを聞き及んで、口惜しく、
「わが年の程位など、かくものげなからずば、乞い見てましものを、思ふ心あり、とだに知られでやみなむこと、と、わざとの事にはあらねど、うちそへて涙ぐまるる折々あり。」
――こうもつまらない身でなければ、私が所望してみたいものを、あなたをお慕いしていますとさえ知られずに、済んでしまいますのは残念でなりません。それほどお強いご執心ではないのですが、雲井の雁への思いに加えて涙ぐまれるのでした。――
惟光の娘の兄は、童殿上(わらわてんじょう)をしている人で、いつもは夕霧にお仕えしているのですが、今日は常よりも懐かしげに話しかけて来られて、
「五節はいつか内裏へは参る」
――五節に舞姫として出たそなたの妹は、いつ御所へ伺うのだ――
と、お聞きになります。
◆夕霧はわずか14歳。「会話」に身分と主従関係が現れています。
◆写真:アップにした舞姫
ではまた。
【乙女(おとめ)】の巻】 その(22)
源氏から差し出された舞姫(惟光の娘)は、
「もの清げに今めきて、そのものとも見ゆまじう、したてたる様体などの、あり難うをかしげなるを、かう誉めらるるなめり。」
――上品で当世風で、素顔がわからないほどにつくり立て、着飾った様子が、類まれなほどに美しいのを、このように褒められるのでしょう。――
夕霧も、この舞姫がお心に留って、心密かに思いをかけて歩き回られますが、惟光の娘は近くにも寄せ付けず、きっぱりとした態度ですので、若い夕霧は気おくれがして、ただただ嘆きがちに過ごしておられます。お心のうちでは、
「容貌はしもいと心につきて、つらき人のなぐさめにも、みるわざしてむや、と思ふ」
――かの舞姫の容貌が大そうお心に叶って、雲井の雁に逢えない慰めにも、なんとかしてこの娘に逢ってみたいと、思うのでした。――
五節の節会が果てて、内裏では典侍(ないしのすけ)というお役に欠員があって、惟光は、娘の舞姫を宮仕えに差し出したいと言いますので、源氏は何とか希望どおりにしてやりたいものだとお思いになります。夕霧は、そのことを聞き及んで、口惜しく、
「わが年の程位など、かくものげなからずば、乞い見てましものを、思ふ心あり、とだに知られでやみなむこと、と、わざとの事にはあらねど、うちそへて涙ぐまるる折々あり。」
――こうもつまらない身でなければ、私が所望してみたいものを、あなたをお慕いしていますとさえ知られずに、済んでしまいますのは残念でなりません。それほどお強いご執心ではないのですが、雲井の雁への思いに加えて涙ぐまれるのでした。――
惟光の娘の兄は、童殿上(わらわてんじょう)をしている人で、いつもは夕霧にお仕えしているのですが、今日は常よりも懐かしげに話しかけて来られて、
「五節はいつか内裏へは参る」
――五節に舞姫として出たそなたの妹は、いつ御所へ伺うのだ――
と、お聞きになります。
◆夕霧はわずか14歳。「会話」に身分と主従関係が現れています。
◆写真:アップにした舞姫
ではまた。