永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(212)

2008年11月05日 | Weblog
11/5  212回

【乙女(おとめ)】の巻】  その(22)

 源氏から差し出された舞姫(惟光の娘)は、

「もの清げに今めきて、そのものとも見ゆまじう、したてたる様体などの、あり難うをかしげなるを、かう誉めらるるなめり。」
――上品で当世風で、素顔がわからないほどにつくり立て、着飾った様子が、類まれなほどに美しいのを、このように褒められるのでしょう。――

 夕霧も、この舞姫がお心に留って、心密かに思いをかけて歩き回られますが、惟光の娘は近くにも寄せ付けず、きっぱりとした態度ですので、若い夕霧は気おくれがして、ただただ嘆きがちに過ごしておられます。お心のうちでは、

「容貌はしもいと心につきて、つらき人のなぐさめにも、みるわざしてむや、と思ふ」
――かの舞姫の容貌が大そうお心に叶って、雲井の雁に逢えない慰めにも、なんとかしてこの娘に逢ってみたいと、思うのでした。――

 五節の節会が果てて、内裏では典侍(ないしのすけ)というお役に欠員があって、惟光は、娘の舞姫を宮仕えに差し出したいと言いますので、源氏は何とか希望どおりにしてやりたいものだとお思いになります。夕霧は、そのことを聞き及んで、口惜しく、

「わが年の程位など、かくものげなからずば、乞い見てましものを、思ふ心あり、とだに知られでやみなむこと、と、わざとの事にはあらねど、うちそへて涙ぐまるる折々あり。」
――こうもつまらない身でなければ、私が所望してみたいものを、あなたをお慕いしていますとさえ知られずに、済んでしまいますのは残念でなりません。それほどお強いご執心ではないのですが、雲井の雁への思いに加えて涙ぐまれるのでした。――

 惟光の娘の兄は、童殿上(わらわてんじょう)をしている人で、いつもは夕霧にお仕えしているのですが、今日は常よりも懐かしげに話しかけて来られて、

「五節はいつか内裏へは参る」
――五節に舞姫として出たそなたの妹は、いつ御所へ伺うのだ――

と、お聞きになります。

◆夕霧はわずか14歳。「会話」に身分と主従関係が現れています。

◆写真:アップにした舞姫

ではまた。

源氏物語を読んできて(豊明節会)

2008年11月05日 | Weblog
豊明節会(とよのあかりのせちえ)

中の辰の日
豊明節会が行われ、五節舞が披露されます。豊明節会は、帝が豊楽院または紫宸殿に出御して新穀の御膳を食し、群臣にも新穀、白酒(しろき)・黒酒(くろき)を賜る儀式で、一献で国栖(くず)奏、二献で御酒勅使、三献で五節舞が奏されました。

「豊明=とよのあかり」とは、本来は宮中儀式の後で催される宴会のことをいい、酒を飲んで顔が火照って赤くなることで、酒宴を意味しました。

 ここで舞姫は、「五節」の名の由来どおり、袖を5度翻して舞います。この日が五節舞の本番で、前の3日間の儀式はいわば予行演習という位置付けです。
一方で、舞姫の中には重たい衣裳と慣れない結髪、更に帝以下公卿・殿上人らが勢揃いした中で舞わねばならないという大変な緊張のため、儀式の最中に気分を悪くしてしまう人もあったようです。

 辰の日の儀式が終わると、舞姫は翌日の暁に神事を解くための祓をして御所を退出しました。

◆写真:本番の御所での五節の舞  風俗博物館