永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(213)

2008年11月06日 | Weblog
11/6  213回

【乙女(おとめ)】の巻】  その(23)

五節の兄は、
「今年とこそは聞き侍れ」
――今年の内にと聞いております。――

夕霧は、
「顔のいとよかりしかば、すずろにこそ恋しけれ。ましが常に見るらむもうらやましきものを、また見せてむや」
――顔がとても綺麗だったので、何となく恋しいのだ。お前がいつも見ていられるとは羨ましい。私にもう一度見せてくれないか。――
◆ましが=お前が

 兄は、「どうしてそんなことができましょうか。自由に妹を見ることなどできないのです。男の兄弟だからというので、身近にも寄せつけてくれませんのに、どうして若君にお逢わせなどできましょうか」と申し上げます。

 それでは、文だけでもと、手渡されます。常々文などの取次をしてはならないと、父から言われていましたのでこまりましたが、夕霧をお気の毒の思い持って行きました。

 惟光の娘は、
「年の程よりは、ざれてやありけむ、をかしと見けり。」
――五節は、年齢の割には色めいていたのでしょうか。夕霧の手紙を意味ありげによんだようです。――

夕霧の歌は、
「日かげにもしるかりけめやをとめ子があまの羽袖にかけし心は」
――舞姫のあなたにかけた私の心は、お分かりになっているでしょうね――

 こうして、兄妹が夕霧のお手紙を拝見しているところへ、父の惟光が来て、叱りますが、相手が源氏の若君からと聞きますと、不機嫌も打って変ってにこにこと、妻にも見せて、
「この君達の、すこし人数に思しぬべからましかば、おほぞうの宮仕えよりは、奉りでまし。(……)」
――こんな若君などが、少しでも娘を一人前にお思いくださるのなら、いい加減な宮仕えをさせるよりも、差し上げてしまおう。(源氏のご性格を拝見していますと、一旦思いをかけられた方は、ご自身からはお忘れにならないようですから、その御子もきっと頼もしいにちがいない。)――

 と、言っているものの、家の者たちは皆、宮仕えの準備に忙しくて耳をかそうとしません。

◆写真:乙女(雲井の雁) 新井勝利画

ではまた。