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【玉鬘(たまかづら)】の巻】 その(5)
長兄で豊後介(ぶんごのすけ)は、このことを聞いて、とんだことになったと困り果てたものの、
「なほいとたいだいしくあたらしき事なり。故少貮の宣ひしこともあり。とかく構へて京に上げ奉りてむ。」
――やはりそれでは、我々としては申し訳ないことだ。故父上の遺言もあります。何とか工夫をして京へお上らせ申うそう。――
娘二人も、玉鬘の母君のご不運の代わりに、せめて姫君だけでもお守り申し上げて、あのような、むくつけで田舎者の男と縁をお結びになろうなどとはとんでもない、と、嘆き、泣き惑っております。監は、いっこうにそんなことを言われているとも知らず、自分を立派な名望家と思って、文などを書いて寄こすのでした。
監は、この家の二男をうち連れて、やってきました。
「三十ばかりなる男の、丈高くものものしく肥りて、穢げなけれど、思ひなしうとましく、荒らかなるふるまひなど、見るもゆゆしく覚ゆ。色あひ心地よげに、声いたう枯れてさへづり居たり。」
――監は、歳は三十歳位の男で、丈高くものものしく肥っていて、小ざっぱりはしているけれど、思いなしか疎ましく思え、立ち居振る舞いの荒々しいのが、ちょっと見ても恐ろしいくらいです。血色も元気そうで、声はしわがれて訛りのある言葉で、早口によくしゃべります。――
祖母の乳母は(乳母の孫ということにしてあるため、祖母と表現)、監の機嫌を損ねないようにと対面します。監は、
「……このおはしますらむ女君、筋ことに承れば、いとかたじけなし。ただなにがしらが、私の君と思ひ申して、いただきになむ、ささげ奉るべき。(……)」
――お宅におられるとういうこの姫は、高貴のご血統と伺っていますので、まことにもったいなく存じますが、ただただ私は、内内のご主君とお思い申して、頭の上にもお乗せして、大切にいたしましょう。(祖母殿はこの縁談を渋っておられるようだが、私がつまらぬ女達を大勢持っているのを聞かれて、嫌がるのですね。姫君を、そいつらと同じようにお扱いいたすものですか。――
と大層結構そうな話を言い続けるのでした。
だはまた。
【玉鬘(たまかづら)】の巻】 その(5)
長兄で豊後介(ぶんごのすけ)は、このことを聞いて、とんだことになったと困り果てたものの、
「なほいとたいだいしくあたらしき事なり。故少貮の宣ひしこともあり。とかく構へて京に上げ奉りてむ。」
――やはりそれでは、我々としては申し訳ないことだ。故父上の遺言もあります。何とか工夫をして京へお上らせ申うそう。――
娘二人も、玉鬘の母君のご不運の代わりに、せめて姫君だけでもお守り申し上げて、あのような、むくつけで田舎者の男と縁をお結びになろうなどとはとんでもない、と、嘆き、泣き惑っております。監は、いっこうにそんなことを言われているとも知らず、自分を立派な名望家と思って、文などを書いて寄こすのでした。
監は、この家の二男をうち連れて、やってきました。
「三十ばかりなる男の、丈高くものものしく肥りて、穢げなけれど、思ひなしうとましく、荒らかなるふるまひなど、見るもゆゆしく覚ゆ。色あひ心地よげに、声いたう枯れてさへづり居たり。」
――監は、歳は三十歳位の男で、丈高くものものしく肥っていて、小ざっぱりはしているけれど、思いなしか疎ましく思え、立ち居振る舞いの荒々しいのが、ちょっと見ても恐ろしいくらいです。血色も元気そうで、声はしわがれて訛りのある言葉で、早口によくしゃべります。――
祖母の乳母は(乳母の孫ということにしてあるため、祖母と表現)、監の機嫌を損ねないようにと対面します。監は、
「……このおはしますらむ女君、筋ことに承れば、いとかたじけなし。ただなにがしらが、私の君と思ひ申して、いただきになむ、ささげ奉るべき。(……)」
――お宅におられるとういうこの姫は、高貴のご血統と伺っていますので、まことにもったいなく存じますが、ただただ私は、内内のご主君とお思い申して、頭の上にもお乗せして、大切にいたしましょう。(祖母殿はこの縁談を渋っておられるようだが、私がつまらぬ女達を大勢持っているのを聞かれて、嫌がるのですね。姫君を、そいつらと同じようにお扱いいたすものですか。――
と大層結構そうな話を言い続けるのでした。
だはまた。