09.4/9 351回
三十一帖【真木柱(まきばしら)の巻】 その(22)
髭黒の大将は、二人の君達を「今までどおり、この家に居なさい」と自邸で降ろし、悩みが一つ増えた心地ですが、一方では玉鬘のご様子の美しさは、北の方の狂おしいご様子と比較なさっても、こうなさる甲斐があり、これに慰められて、
「うち絶えておとづれもせず、はしたなかりしに、ことつけ顔なるを、宮にはいみじうめざましがり歎き給ふ」
――(大将は)その後一度も北の方へご消息されず、先日の無愛想な待遇を良い口実にしておられるらしいのを、式部卿の宮は心外のことと嘆いていらっしゃる――
紫の上も、このことをお聞きになって、
「ここにさへうらみらるるゆゑになるが苦しきこと」
―私まで恨まれます原因になるなど、困ったことです――
と、おっしゃる。源氏は「なかなか難しいことだ。私の考え一つで、玉鬘をどうにかできるわけでもなく、髭黒のことでも、私たちが心配するほどの過ちをしたわけではないのだから」などと、紫の上を慰められます。
尚侍の君(玉鬘)は、このような騒ぎの中で、ますますご気分の晴れる時なく過ごされていますので、大将は、
「この参り給はむとありし事も絶えきれて、さまたげ聞こえつるを、内裏にも、なめく心あるさまに聞し召し、人々も思す所あらむ。おほやけ人を頼みたる人はなくやはある」
――玉鬘が参内なさる筈であった事も中止になって、私が妨げ申したことを、帝も無礼なことと思し召し、源氏や内大臣もさぞご不審をお抱きであろう。宮中の女房を妻としている人が居ないでもないのだから――
と、お考えになって、年明けて参内おさせになります。折しも男踏歌(隔年の正月十四日、おとことうか)のある年で、玉鬘入内の儀式を、源氏も内大臣もご一緒になって、またとなく立派になさったのでした。
◆なめく心=無礼な、失礼な
ではまた。
三十一帖【真木柱(まきばしら)の巻】 その(22)
髭黒の大将は、二人の君達を「今までどおり、この家に居なさい」と自邸で降ろし、悩みが一つ増えた心地ですが、一方では玉鬘のご様子の美しさは、北の方の狂おしいご様子と比較なさっても、こうなさる甲斐があり、これに慰められて、
「うち絶えておとづれもせず、はしたなかりしに、ことつけ顔なるを、宮にはいみじうめざましがり歎き給ふ」
――(大将は)その後一度も北の方へご消息されず、先日の無愛想な待遇を良い口実にしておられるらしいのを、式部卿の宮は心外のことと嘆いていらっしゃる――
紫の上も、このことをお聞きになって、
「ここにさへうらみらるるゆゑになるが苦しきこと」
―私まで恨まれます原因になるなど、困ったことです――
と、おっしゃる。源氏は「なかなか難しいことだ。私の考え一つで、玉鬘をどうにかできるわけでもなく、髭黒のことでも、私たちが心配するほどの過ちをしたわけではないのだから」などと、紫の上を慰められます。
尚侍の君(玉鬘)は、このような騒ぎの中で、ますますご気分の晴れる時なく過ごされていますので、大将は、
「この参り給はむとありし事も絶えきれて、さまたげ聞こえつるを、内裏にも、なめく心あるさまに聞し召し、人々も思す所あらむ。おほやけ人を頼みたる人はなくやはある」
――玉鬘が参内なさる筈であった事も中止になって、私が妨げ申したことを、帝も無礼なことと思し召し、源氏や内大臣もさぞご不審をお抱きであろう。宮中の女房を妻としている人が居ないでもないのだから――
と、お考えになって、年明けて参内おさせになります。折しも男踏歌(隔年の正月十四日、おとことうか)のある年で、玉鬘入内の儀式を、源氏も内大臣もご一緒になって、またとなく立派になさったのでした。
◆なめく心=無礼な、失礼な
ではまた。