永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(371)

2009年04月29日 | Weblog
09.4/29   371回

三十二帖【梅枝(うめがえ)の巻】 その(10)

さらに、源氏がおっしゃるには、

「いみじう思ひのぼれど、心にしもかなはず、限りあるものから、すきずきしき心つかはるな、(……)位浅く何となき身の程、うちとけ、心のままなるふるまひなどものせらるな。」
――ひどく高望みしても思う通りにはならず、限界があるものだが、浮気はなさるな。(私などは、窮屈な宮中で育ち、過失のないようにと慎んでいたが、それでも色好みとの非難を受けてきまり悪い目にあいましたよ)官位が低く詰まらぬ身分だからとて、自由気ままな行動はなさるな――

「思ひしづむべきくさはひなき時、女の事にてなむ、賢き人、昔も乱るるためしありける。さるまじき事に心をつけて、人のなをも立て、自らもうらみを負ふなむ、つひのほだしとなりける。とりあやまりつつ見む人の、わが心にかなはず、しのばむこと難きふしありとも、なほ思ひ返さむ心をならひて、もしは親の心にゆづり、もしは親無くて世の中かたほにありとも、人がら心苦しうなどあらむ人をば、それを片かどによせても見給へ。わがため、人のため、つひによかるべき心ぞ深うあるべき」
――浮気を止めてくれる種になるような良い妻がない場合は、女の事で賢人が昔も身を持ち崩した例があったのだ。つまらぬことに熱中して、相手の浮き名も立て、自分も恨みを受けるのは、後生までの障りになるのです。見損なって結婚した女が、自分の気に入らず我慢できない点があろうとも、やはり思い直すように心掛けるがよい。親が居れば親に免じて、あるいは親が無くて暮らしが不十分でも、その人がよさそうならば、それを一つの取り柄として連れ添いなさい。自分の為にも相手のためにも、結局はよくなるようにと分別する心が、深いおもいやりというものですよ――

 こんなふうに、ご用のないつれづれの時には、源氏はお教えになります。
 夕霧は、このようなご教訓があるからという訳ではなく、もとより雲井の雁以外の女に心を移すことなど、考えてみたこともないと思っていらっしゃる。
 雲井の雁も、憂き身の上を思って沈んでいらっしゃるが、夕霧のお心を疑うこともなく、時々のお手紙をしみじみとご覧になっています。

 内大臣は、

「中務の宮なむ、大殿にも御気色たまはりて、さもやと思しかはしたなる」
――中務(なかつかさ)の宮が太政大臣(源氏)のご承諾を得て、ご縁談をおすすめになっているらしい――
 
 と、噂する人もあるので、さらに胸の塞がる思いをなさっていらっしゃる。

◆くさはひ=種はひ=物事の原因、種

◆かたほ=物事が不完全なこと=片親

◆片かど=ちょっとした取得

ではまた。


源氏物語を読んできて(織り・穀)

2009年04月29日 | Weblog
穀(こめ)

 捩り織物の一種で我が国では奈良時代からみられる。表面に米粒のような点描で表された織物で、全面にあるのを無文穀(むもんのこめ)、文様部に表したのを文穀(もんこめ)と呼ぶ。

 経緯ともに生絹(すずし)で織って張を持たせ、夏の料とした。殿中での夏の直衣(のうし)は三重襷(みえだすき)紋に織った文穀を用い、二藍(ふたあい)に染めた。