09.4/13 355回
三十一帖【真木柱(まきばしら)の巻】 その(26)
帝は、玉鬘のご様子が、聞いておられた以上に実際美しいので、恋しく思われますが、余りにも軽薄な色好みのように思われて、玉鬘に嫌われてもと、心をこめてお優しく、何とか今後のお約束をと、おっしゃいますのを、玉鬘も勿体なく、わが身を自分でもどうしようもないものをと、お返事のしようもないのでした。
御輦車(てぐるま)が準備されて、源氏と内大臣方のお迎え人たちが、待ち遠しがって、髭黒の大将もうるさいほど付き添ってお急きたてしますが、帝はなかなか玉鬘をお離しになりません。帝は、
「かういと厳しき近きまもりこそむつかしけれ」
――こうまで付きっきりで、厳重に守っているとは怪しからぬ――
と、面白くないご様子です。帝の歌。
「九重にかすみへだてば梅の花ただかばかりもにほひ来じとや」
――宮中から離れたならば、梅の香ほどの、ちらとももう参内なさらないのだろうか――
玉鬘の返歌
「かばかりは風にもつてよ花の枝に立ち並ぶべき匂ひなくとも」
――お言葉だけでもことづけてくださいまし、女御更衣のようにお側にお仕えできる身分の私ではございませんが――
髭黒の大将は、かねてからそのまま自邸へと予定していましたが、前もってお話しては、源氏のお許しが出ないと思って、それは申し上げずに、髭黒は、
「にはかにいとみだり風のなやましきを、心やすき所にうち休み侍らむ程、よそよそにては、いとおぼつかなく侍らむを」
――急にひどく風邪気味で苦しいので、気楽な自宅で休みたいと思います。その間、玉鬘と別々に居りますのも心配ですので――
と、穏やかに源氏と内大臣のお世話をお断りになって、玉鬘を、そのまま大将の邸にお連れになってしましました。
◆御輦車(てぐるま)=輿の形をした屋形に車輪をつけ、人が手で前後の轅を引いて動かす車。写真は牛車ですが、雰囲気として出しました。
ではまた。
三十一帖【真木柱(まきばしら)の巻】 その(26)
帝は、玉鬘のご様子が、聞いておられた以上に実際美しいので、恋しく思われますが、余りにも軽薄な色好みのように思われて、玉鬘に嫌われてもと、心をこめてお優しく、何とか今後のお約束をと、おっしゃいますのを、玉鬘も勿体なく、わが身を自分でもどうしようもないものをと、お返事のしようもないのでした。
御輦車(てぐるま)が準備されて、源氏と内大臣方のお迎え人たちが、待ち遠しがって、髭黒の大将もうるさいほど付き添ってお急きたてしますが、帝はなかなか玉鬘をお離しになりません。帝は、
「かういと厳しき近きまもりこそむつかしけれ」
――こうまで付きっきりで、厳重に守っているとは怪しからぬ――
と、面白くないご様子です。帝の歌。
「九重にかすみへだてば梅の花ただかばかりもにほひ来じとや」
――宮中から離れたならば、梅の香ほどの、ちらとももう参内なさらないのだろうか――
玉鬘の返歌
「かばかりは風にもつてよ花の枝に立ち並ぶべき匂ひなくとも」
――お言葉だけでもことづけてくださいまし、女御更衣のようにお側にお仕えできる身分の私ではございませんが――
髭黒の大将は、かねてからそのまま自邸へと予定していましたが、前もってお話しては、源氏のお許しが出ないと思って、それは申し上げずに、髭黒は、
「にはかにいとみだり風のなやましきを、心やすき所にうち休み侍らむ程、よそよそにては、いとおぼつかなく侍らむを」
――急にひどく風邪気味で苦しいので、気楽な自宅で休みたいと思います。その間、玉鬘と別々に居りますのも心配ですので――
と、穏やかに源氏と内大臣のお世話をお断りになって、玉鬘を、そのまま大将の邸にお連れになってしましました。
◆御輦車(てぐるま)=輿の形をした屋形に車輪をつけ、人が手で前後の轅を引いて動かす車。写真は牛車ですが、雰囲気として出しました。
ではまた。