09.4/20 362回
三十二帖【梅枝(うめがえ)の巻】 その(1)
源氏・太政大臣 39歳正月~3月
紫の上 31歳
秋好中宮 30歳
明石の御方 30歳
明石の姫君 11歳
夕霧(宰相の中将) 18歳
雲井の雁 20歳
内大臣
柏木(頭の中将) 23~24歳
東宮(朱雀院の皇子)13歳
前斎院(朝顔の君)
朧月夜(朱雀院の尚侍)
この巻は、その他今までの人物総出
「御裳著のこと思しいそぐ御心おきて、世の常ならず。東宮もおなじ二月に、御かうぶりの事あるべければ、やがて御まゐりもうち続くべきにや」
――(源氏は)明石の姫君の御裳著のことを準備なさるのに余念がなく、そのご配慮は一通りではありません。東宮も、同じ二月に御元服の儀式も催される筈ですので、それに引き続いて、姫君の入内となるのでございましょう――
源氏は、正月の晦日ごろともなりますと、公私共にお暇な頃ですので、裳著のお式に用います薫物(たきもの)を調合なさいます。二条の院の御蔵をお開けになって、
「錦綾なども、なほ古きものこそなつかしうこまやかにはありけれ」
――錦や綾などでも、やはり古い時代のものはしっとりとして、こまやかな心がこもっているものだ――
と、おっしゃって、入内なさる姫君の御調度品の覆い、敷物の縁にも、それぞれに配合良く割り当てられて、作らせられます。さまざまな香は、昔のと今のとを取り揃えて、女君たちにお配りになって、「薫物を二種づつ調合してください」と言われます。源氏ご自身と、紫の上、明石の御方、前斎院(朝顔の君)、花散里の五人でいらっしゃいます。
「おくりもの、上達部の禄など、世になきさまに、内にも外にもこと繁くいとなみ給ふに添へて、方々にえり整へて、鐡臼(かなうす)の音耳かしがましき頃なり」
――裳著の折に人々に贈るお土産、儀式のお役を勤めた公卿への贈り物など、六条院の内でも外でも、盛んにご準備されますに加えて、女君たちはそれぞれ材料をお合わせになりますので、この頃は、鐡臼(かなうす)で香を挽く音があちらこちらで騒々しく聞こえるのでした――
◆御かうぶり=元服
ではまた。
三十二帖【梅枝(うめがえ)の巻】 その(1)
源氏・太政大臣 39歳正月~3月
紫の上 31歳
秋好中宮 30歳
明石の御方 30歳
明石の姫君 11歳
夕霧(宰相の中将) 18歳
雲井の雁 20歳
内大臣
柏木(頭の中将) 23~24歳
東宮(朱雀院の皇子)13歳
前斎院(朝顔の君)
朧月夜(朱雀院の尚侍)
この巻は、その他今までの人物総出
「御裳著のこと思しいそぐ御心おきて、世の常ならず。東宮もおなじ二月に、御かうぶりの事あるべければ、やがて御まゐりもうち続くべきにや」
――(源氏は)明石の姫君の御裳著のことを準備なさるのに余念がなく、そのご配慮は一通りではありません。東宮も、同じ二月に御元服の儀式も催される筈ですので、それに引き続いて、姫君の入内となるのでございましょう――
源氏は、正月の晦日ごろともなりますと、公私共にお暇な頃ですので、裳著のお式に用います薫物(たきもの)を調合なさいます。二条の院の御蔵をお開けになって、
「錦綾なども、なほ古きものこそなつかしうこまやかにはありけれ」
――錦や綾などでも、やはり古い時代のものはしっとりとして、こまやかな心がこもっているものだ――
と、おっしゃって、入内なさる姫君の御調度品の覆い、敷物の縁にも、それぞれに配合良く割り当てられて、作らせられます。さまざまな香は、昔のと今のとを取り揃えて、女君たちにお配りになって、「薫物を二種づつ調合してください」と言われます。源氏ご自身と、紫の上、明石の御方、前斎院(朝顔の君)、花散里の五人でいらっしゃいます。
「おくりもの、上達部の禄など、世になきさまに、内にも外にもこと繁くいとなみ給ふに添へて、方々にえり整へて、鐡臼(かなうす)の音耳かしがましき頃なり」
――裳著の折に人々に贈るお土産、儀式のお役を勤めた公卿への贈り物など、六条院の内でも外でも、盛んにご準備されますに加えて、女君たちはそれぞれ材料をお合わせになりますので、この頃は、鐡臼(かなうす)で香を挽く音があちらこちらで騒々しく聞こえるのでした――
◆御かうぶり=元服
ではまた。