永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(352)

2009年04月10日 | Weblog
09.4/10   352回

三十一帖【真木柱(まきばしら)の巻】 その(23)

 この頃の宮中は、女御、更衣の方々は銘々綺羅をつくし競争なさっておいでで、身分の低い更衣などはお仕えになっておらず、たいそう面白く華やかな時代です。
 玉鬘は承香殿の東面をお局にいただいております。この年は、二年に一度の男踏歌が華やかに行われまして後、宮中の宿直所におられる髭黒の大将が、一日に何度も玉鬘におっしゃるのは、

「夜さり罷でさせ奉りてむ。かかるついでにと思し移るらむ御宮仕へなむ、安からぬ」
――今夜こそ退出おさせしたいものです。これを機会に宮仕えにお心が移っては、とても不安ですから――

 と、同じ事を繰り返し申しますが、玉鬘からのお返事はありません。玉鬘の侍女たちも、

「大臣の、心あわただしき程ならで、まらまれの御まゐりなれば、御心ゆかせ給ふばかり、(……)」
――源氏が、ご退出をあまり急かさぬように、たまのご参内なのですから、帝のご満足がいくまでおいでになって、(お許しがあってから退出なさい)――

 と、言われていますので、大将は、

「さばかり聞こえしものを、さも心にかなはぬ世かな」
――参内されても、早く帰って来るようにと、あれ程申し上げましたのに、思いどおりにならぬものよ――

と、嘆いていらっしゃる。

蛍兵部卿の宮は、丁度、帝の管弦の催しに伺候しておられましたが、玉鬘の御局の辺りが気に係り、落ち着かなくて堪え切れず、お文をお出しになります。侍女が、「髭黒の大将からの御文です」と、わざと隠して取り次がれましたので、玉鬘はしぶしぶご覧になりますと、

蛍兵部卿の宮からのお歌でした。

「深山木に羽うちかはしゐる鳥のまたなくねたき春にもあるかな」
――深山木に羽を交わす鳥のように睦まじげなお二人が羨ましい春ですこと――

 「睦言まで気になります」、との文に、玉鬘は、

「いとほしう面赤みて、聞こえむ方なく思ひ居給へるに、上わたらせ給ふ」
――(玉鬘は)宮を、なつかしく、お気の毒にもお思いになりますものの、お返事のしようもなく思案しておりますところへ、冷泉帝がこちらへいらっしゃいました。――

ではまた。