2010.4/5 697回
四十二帖 【匂宮(にほふのみや)の巻】 その(2)
明石中宮腹の女一宮は、亡き紫の上の御住いを御調度類もそのままにお住みになって、朝夕紫の上を懐かしく偲ばれて暮らしていらっしゃいます。第二皇子は、夕霧右大臣の中姫(二番目の姫君)を娶られて、六条院の南の町の正殿に居られ、内裏に参内なさるときは凝華舎を宿直所とされておられます。
「次の坊がねにて、いとおぼえことに重々しう、人柄もすくよかになむものし給ひける」
――この二の宮(第二皇子)は、次の東宮の候補者で世人の信望も特に篤く、お人柄も真面目でいらっしゃいます――
夕霧には、姫君が多くいらっしゃって、
「大姫君は東宮に参り給ひて、またきしろふ人なきさまにてさぶらひ給ふ。そのつぎつぎなほ皆ついでのままにこそは、と、世の人も思ひ聞こえ、后の宮ものたまはすれど、この兵部卿の宮は、然しもおぼしたらず。わが御心よりおこらざらむことなどは、すさまじくおぼしぬべき御気色なめり」
――ご長女の大姫君(おほひひめぎみ)は、東宮に奉られて、他に競争者もいらっしゃらないほどの勢力をお持ちです。その次の姫君も皆その順序に従って、皇子方にお逢わせになるものと、世間でも思い、明石の女御もお薦めなさいますが、この兵部卿宮(匂宮)は、ご自分の心から発したのではないようなご縁談などは、まったく興味がないにちがいない、というご様子でいらっしゃる――
夕霧も、何の同じようにきちんと皇子方にばかり縁付けなくてもと、気を落ち着けてはいらっしゃいますが、
「またさる御気色あらむをば、もて離れてもあるまじうおもむけて、いといたうかしづき聞こえ給ふ」
――また先方から、お申込みでもあるならば、応じないというわけでもないような態度を残して、姫君たちを大切にしていらっしゃる――
「六の君なむ、その頃のすこしわれはと思ひのぼり給へる親王たち上達部の、御心つくす、くさはひにものしたまひける」
――六の君(夕霧の六女で籐典侍腹)とおっしゃる方は、大そう美しい方で、その頃多少でも我こそはと自信をお持ちの親王方や公卿たちが、お心を騒がせる種でいらっしゃいました――
◆次の坊がねにて=次の東宮坊に住まわれる方
◆きしろふ人なきさま=競い合う人もいないほどの
◆くさはひにものしたまひける=くさはひ(種)。
ではまた。
四十二帖 【匂宮(にほふのみや)の巻】 その(2)
明石中宮腹の女一宮は、亡き紫の上の御住いを御調度類もそのままにお住みになって、朝夕紫の上を懐かしく偲ばれて暮らしていらっしゃいます。第二皇子は、夕霧右大臣の中姫(二番目の姫君)を娶られて、六条院の南の町の正殿に居られ、内裏に参内なさるときは凝華舎を宿直所とされておられます。
「次の坊がねにて、いとおぼえことに重々しう、人柄もすくよかになむものし給ひける」
――この二の宮(第二皇子)は、次の東宮の候補者で世人の信望も特に篤く、お人柄も真面目でいらっしゃいます――
夕霧には、姫君が多くいらっしゃって、
「大姫君は東宮に参り給ひて、またきしろふ人なきさまにてさぶらひ給ふ。そのつぎつぎなほ皆ついでのままにこそは、と、世の人も思ひ聞こえ、后の宮ものたまはすれど、この兵部卿の宮は、然しもおぼしたらず。わが御心よりおこらざらむことなどは、すさまじくおぼしぬべき御気色なめり」
――ご長女の大姫君(おほひひめぎみ)は、東宮に奉られて、他に競争者もいらっしゃらないほどの勢力をお持ちです。その次の姫君も皆その順序に従って、皇子方にお逢わせになるものと、世間でも思い、明石の女御もお薦めなさいますが、この兵部卿宮(匂宮)は、ご自分の心から発したのではないようなご縁談などは、まったく興味がないにちがいない、というご様子でいらっしゃる――
夕霧も、何の同じようにきちんと皇子方にばかり縁付けなくてもと、気を落ち着けてはいらっしゃいますが、
「またさる御気色あらむをば、もて離れてもあるまじうおもむけて、いといたうかしづき聞こえ給ふ」
――また先方から、お申込みでもあるならば、応じないというわけでもないような態度を残して、姫君たちを大切にしていらっしゃる――
「六の君なむ、その頃のすこしわれはと思ひのぼり給へる親王たち上達部の、御心つくす、くさはひにものしたまひける」
――六の君(夕霧の六女で籐典侍腹)とおっしゃる方は、大そう美しい方で、その頃多少でも我こそはと自信をお持ちの親王方や公卿たちが、お心を騒がせる種でいらっしゃいました――
◆次の坊がねにて=次の東宮坊に住まわれる方
◆きしろふ人なきさま=競い合う人もいないほどの
◆くさはひにものしたまひける=くさはひ(種)。
ではまた。