永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(710)

2010年04月20日 | Weblog
2010.4/20  710回

四十三帖 【紅梅(こうばい)の巻】 その(4)

 大納言の御邸は、大君が入内なさった後、すっかり物寂しげなご様子です。大君はたいそう東宮の御寵愛を得ていらっしゃるとの評判ですが、慣れない宮中のご生活には御後見役が居なくてはお困りでしょうと、継母の眞木柱が付き添って内裏にお出でになっています。
御邸に残っておられる、中の君と、宮の御方は、以前から大君とも仲睦まじくお過ごしになっておられましたので、お二人ともたいそう物足りなく沈んでいらっしゃる。

 宮の御方(蛍兵部卿の宮と眞木柱の姫君)とおっしゃる方は、

「物恥ぢを世の常ならずし給ひて、母北の方にだに、さやかには、をさをささし向ひ奉り給はず、かたはなるまで、もてなし給ふものから、心ばへけはひのうもれたるさまならず、愛敬づき給へること、はた、人よりすぐれ給へり」
――並みはずれてもの恥ずかしがるご性質で、母君とさえ、はっきりと差し向かうことをなさらず、どうかと思うほど慎ましくていらっしゃいますが、お気立てやご様子は、ただの引っ込み思案というのではなく、匂うばかりに愛嬌もあって、だれよりもそこが
優れていらっしゃる――

 大納言は、御自分の姫君のご縁談にばかり気を入れていらっしゃる風なのも、眞木柱の姫君にもお気の毒だと思われて、

「さるべからむさまに思し定めて宣へ。おなじ事とこそは仕うまつらめ」
――宮の御方に相応しい御縁組などもお定めになって、私に御相談ください。実の娘と同じようにお世話いたしましょうから――

 と、眞木柱に申されます。北の方は、

「さらにさやうの世づきたるさま、思ひたつべきにもあらぬ気色なれば、なかなかならむ事は心苦しかるべし。御宿世に任せて、世にあらむ限りは見奉らむ」
――(私の娘・宮の御方は)少しも結婚の方面のことは考えていられない様子ですから、なまじ薦めたりしては可哀そうでしょう。あの子のご運に任せて、私も生きている間はお世話しましょう――

さらに、

「後ぞあはれにうしろめたけれど、世に背く方にても、おのづから人わらへに、あはつけき事なくて過ぐし給はなむ」
――私の死後こそ可哀そうで気懸りですが、その時は出家してなど、過ごしていただきたいのです。人に笑われるような軽々しい過ちなどもなく過ごして貰いたいと思います――

 と、泣きながら、宮のご性質などお話申し上げます。
◆物恥(ものはじ)=なんとなく恥ずかしいと思うこと

◆かたはなるまで=片端なるまで=欠点というほどの、不完全なほどの、

◆宮の御方=父君は蛍兵部卿の宮で、源氏の腹違いの弟宮です。つまり親王で帝の血縁にある方の御子。なまじ臣下との縁組をして身を落とすより、独身を通すのが最上と思われていた時代でした。内親王の出家が多いのは、そのような思いからです。

◆眞木柱(まきばしら)も、父君は式部卿の宮という親王だった方で、帝の血筋にありますので、大納言(藤原氏)としては、血統としても是非正妻に欲しかった。天皇家と姻戚を持つことは官位の次に必要であった。

ではまた。