永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(717)

2010年04月27日 | Weblog
2010.4/27  717回

四十四帖 【竹河(たけがわ)の巻】 その(4)

「六条の院の御末に朱雀院の宮の御腹に生まれ給へりし君、冷泉院に御子のやうに思しかしづく四位の侍従、その頃十四、五ばかりにて、いときびはに幼かるべき程よりは、心おきておとなおとなしく、めやすく、人にまさりたる生ひ先しるく、ものし給ふを、かんの君は、婿にても見まほしく思したり」
――六条院(源氏)の末の御子で、朱雀院の姫君(女三宮)腹にお生まれになった方で、冷泉院の御子のように大事にされていらっしゃる四位の侍従(薫)は、その頃十四、五歳でいらっしゃいます。だれもが幼少で幼稚な筈のお年頃に比べて、思慮深く、人並み優れた将来が期待される方であると、尚侍の君(玉鬘)は、娘の婿としてお世話できたらと思っていらっしゃる――

 玉鬘のお屋敷と三條の宮(母女三の宮)の御住いが近いこともあって、若い公達同志
遊びがてら、しばしばこちらへお見えになります。姫君がおいでになる御住いなので、若い公達はみな気もそぞろで、うろうろなさっていらっしゃいますが、ひと際ご立派な方は蔵人の少将で、優雅な風情のある方は薫と、この御二方に似つかわしい人は一人もおられません。玉鬘は「なるほど、ご評判どおり綺麗な方」と薫を親しくおもてなしなさいます。

「院の御心ばへを思ひ出で聞こえて、なぐさむ世なう、いみじうのみ思ほゆるを、その御形見にも、誰をかは見奉らむ」
――源氏の御心立てをお偲び申し上げては、今でもただただ悲しく、辛く思っておりますが、そのお形見としてどなたをお眺め申したら良いでしょう――

 などと、玉鬘は姉弟同様に思っていらっしゃいますので、薫も姉君のお邸にあがるようなお気持で、気安くおいでになるのでした。

「世の常のすきずきしさも見えず、いといたうしづまりたるをぞ、ここかしこの若き人ども、くちをしうさうざうしき事に思ひて、言ひなやましける」
――(薫という方は)世間一般のような好色めいたところも見えず、たいそう落ち着いておいでになりますのを、あちこちの女房達は口惜しがったり、物足りなく思ったりして、薫を困らせるのでした――

◆きびはに=幼くて弱々しいさま、幼少

◆すきずきしさ=好き好きし=好色めいている。

◆くちをしうさうざうしき事=残念で寂しい=ここでは、気を引く機会とてなくつまらない。

ではまた。