永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(713)

2010年04月23日 | Weblog
2010.4/23  713回

四十三帖 【紅梅(こうばい)の巻】 その(7)

 紅梅大納言は、源氏程の方ではないけれど、わが娘の縁組先としては匂宮しか見当たらないと、心に決めて、大夫を御つかいに歌に紅梅を添えて持たせられます。匂宮は、

「大納言の御心ばへは、わが方ざまに思ふべかめれと、聞き合せ給へど、思ふ心は異にしみぬれば、この返事けざやかにも宣ひやらず」
――大納言のおつもりでは、自分を実子の中君の婿にと思っているらしいと、その歌から承知されますが、自分としては別の人(宮の御方)に打ち込んでいるので、お返事もはかばかしく出されない――

 やっと頂いた匂宮からのお返事には、

(歌)「花の香にさそはれぬべき身なりせば風のたよりを過ぐさましやは」
――あなたのお望みに添える筈の私でしたら、あなたのお便りをいつまでもそのままにいたしましょうか。(私はとてもその資格はありません)――

 大納言は、「にくらしい事をおっしゃるなあ」とご覧になります。その後も匂宮からは打ち解けぬご返事ばかりですので、気を揉んでいらっしゃる。

「宮の御方は、物思し知る程にねびまさり給へれば、何事も見知り、聞きとがめ給はぬにはあらねど、人に見え、世づきたらむ有様は、さらに、と思し離れたり」
――宮の御方は、物の判断もしっかりおできになるほどに大人でいらっしゃって、何事も理解し、意にとめられぬわけではありあせんが、夫を持って、世の女たちのように暮らすことは絶対にしまいと、お心に決めていらっしゃいます――

 匂宮は、このように万事に遠慮がちに引込んでおられるのを、この人こそは自分に似つかわしいと人も言い、ご自分でも、ますます心から思うようになられるのでした。真木柱としても娘の婿として匂宮をお世話申したい程末頼もしくお見えになりますものの、しかし、

「いといたう色めき給ひて、通ひ給ふ忍び所多く、八の宮の姫君にも、御志浅からで、いと繁う参うでありき給ふ。たのもしげなき御心の、あだあだしさなども、いとどつつましければ、まめやかには思ほし絶えたるを、かたじけなきばかりに、忍びて、母君ぞ、たまさかにさかしらがり聞こえ給ふ」
――(匂宮は)ひどく好色とのご評判で、お通いになる忍び所も多く、宇治の八の宮の姫君達にも気のあるようで、しげしげと訪うていらっしゃるとか。少し頼りがいのない浮ついたご様子をお聞きになりますにつけても、気懸りなことに思われて、心の奥では断念しておりながら、娘へのお気持はもったいなく、真木柱ご自身が差し出がましいようですが、お返事申されました(その気の無いことを)――

◆ねびまさり=大人びている

◆あだあだしさ=誠実でない、浮ついている。

◆この巻は、源氏亡きあとの、致仕大臣家(源氏時代の頭の中将や柏木など)の様子を
 説明しているだけで、何の発展もない。

【紅梅(こうばい)の巻】終わり。

ではまた。