永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(719)

2010年04月29日 | Weblog
2010.4/29  719回

四十四帖 【竹河(たけがわ)の巻】 その(6)

 そのことについて、玉鬘は、

「女御なむ、つれづれにのどかになりたる有様も、同じ心にうしろみて、なぐさめまほしきを、など、かのすすめ給ふにつけて、いかがなどだに思ひ給へよるになむ」
――その弘徽殿女御さまが、「今では暇で所在なくのんびりしていますので、冷泉院と同じように、私どもの姫君の後見をいたしますことで、心を楽しませたいと思います」などとお勧めくださいますので、どうしたものかしらと、そこまで考えるようになったのでございます――

 この日、こちらにお出でになった方々は、続いて三條の宮(女三宮)の御邸にご挨拶に参上されます。朱雀院や源氏にお仕えなさった方々は、やはり入道の宮(女三宮)邸を素通りできないのでしょう。

 夕方になって、薫が玉鬘の邸に戻って来られました。たいそうご立派なご様子に、例によってすぐ大騒ぎする女房達が、

「『なほことなりけり。この殿の姫君の御傍には、これをこそさし並べて見め』と、聞きにくく言ふ。げにいと若うなまめかしきさまして、うちふるまひ給へる匂香など世の常ならず。姫君と聞こゆれど、心おはせむ人は、げに人よりはまさるなめりと、見知り給ふらむかし、とぞ覚ゆる」
――「やはり薫の君は、他の方々と違ってご立派ね。こちらの姫君の婿君としては、薫の君こそお似合いでしょう」などと、聞き苦しいほどに、囁き合っています。いくらお姫さまと申しても、物のわかる方なら、薫は他の人より立派らしいとお分かりになる筈と思われます――

 このとき、玉鬘は御念誦堂にいらっしゃいましたので、「こちらへ」と女房にご案内させます。薫は御簾の前に参られました。お庭先の梅の木もほつほつと蕾をつけ始めた頃で、鶯がたどたどしい声で鳴き初めています。女房が、

「いと好かせたてまほしきさまのし給へれば、人々はかなきことをいふに、言すくなに心にくき程なるを、ねたがりて、宰相の君と聞こゆる上臈の詠みかけ給ふ」
――何となくそそのかして上げたいような、薫のご様子なので、戯れごとを言いかけてみますが、相手は言葉少なに、憎らしいほど落ち着いていらっしゃるので、口惜しがって、宰相の君という上臈の女房が、歌を詠みかけます――

 宰相の君の(歌)

「折りて見ばいとどにほひもまさるやとすこし色めけ梅のはつはな」
――折ってみましたら一層匂いも勝るでしょうと思われます。もうすこし色っぽく咲け、梅の初花よ――(梅に薫をたとえて詠んだ)

◆ねたがりて=妬たがる=くやしがる。憎たらしい。妬ましい。

ではまた。