永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(708)

2010年04月18日 | Weblog
2010.4/18  708回

四十三帖 【紅梅(こうばい)の巻】 その(2)

 按察使の大納言は、この御子たちのいずれをも分けへだてなく可愛がり、大切に養育なさっておりますが、

「おのおの御方の人などは、うるはしうもあらぬ心ばへうちまじり、なまくねくねしき事も出で来る時々あれど、北の方、いとはればれしく今めきたる人にて、罪なく取りなし、わが御方ざまに苦しかるべき事をも、なだらかに聞きなし、思ひなほし給へば、聞きにくからでめやすかりけり」
――それぞれの御子にお付きの侍女たちの中には、心がけの良くないひねくれた人たちもいて、時々面倒なもめ事も起こるようですが、北の方(眞木柱)は、たいそうさっぱりとした当世風な方ですので、すべて穏やかに取り裁き、ご自分の方に非があるときには穏やかにお認めになって改められますので、家庭内はいたって平穏でいらっしゃるご様子です――

 大納言の姫君は次々と裳儀をお済ませになり、七間の寝殿を大きく広くお造りになって、南面に大納言の大君(おおいきみ)、西に中の君、東に宮の御方(みやのおんかた=眞木柱の連れ子)を住まわせていらっしゃいます。

「大方にうち思ふ程は、父宮のおはせぬ、心苦しきやうなれど、こなたかなたの御宝物多くなどして、内々の儀式有様など、心にくく気高くなどもてなして、けはひあらまほしくおはす」
――宮の御方(眞木柱と故蛍兵部卿の宮との姫君)のことを、普通一般的には父宮がおられないことで、お気の毒のようですが、父宮や外祖父からの御遺産も多く、内々の儀式や日頃のお暮らしなど、奥ゆかしく上品に取りなして、まことに申し分のないご生活ぶりです――

 こうして大納言が姫君たちを大切にお育てになっておいでのことを、世間で噂になりますと、姉君から順を追って御縁を求めてのお話がありまして、それはそれで結構なことではありますが……。

◆なまくねくねしき=ちょっとひねくれている。少し心がねじけている。

◆生(なま)=中途半端なこと。

◆いとはればれしく今めきたる人=さっぱりとした明るい当世風な人

◆七間の寝殿=今の尺度ではなく、柱と柱の間が七つある。普通は五間。つまり貴族の中でも最も立派で大きな邸宅。

◆父宮や外祖父からの御遺産=この時代は婿取り婚で、遺産は娘に相続する場合が多かった。婿に対しては将来の出世を見込む。ただし徐々に嫁取り婚にも移りつつある。
天皇家は代々「嫁取り婚」である。

ではまた。