永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(706)

2010年04月14日 | Weblog
2010.4/14  706回

四十二帖 【匂宮(にほふのみや)の巻】 その(11)

 夕霧は、この縁組は近親結婚ではない(表向きにはご兄弟ながら、実は遠い血縁関係)と思っていらっしゃいますが、やはり、娘たちには匂宮や薫をおいて、ほかには較べものになりそうな婿も見いだせない、と、思案にくれていらっしゃる。

「やむごとなきよりも、典侍腹の六の君とか、いとすぐれてをかしげに、心ばへなども足らひて生い出で給ふを、(……)一條宮の、さるあつかひぐさ持たまへらで、さうざうしきに、迎えとりて奉り給へり」
――正妻の雲居の雁腹の姫君たちよりも、藤典侍(とうのないしのすけ)腹の六の君が、非常に美しく、気立ても申し分なく成長していますのを、(母の身分が低いため世間では少し軽く見ているようで)一條宮(落葉宮)には、お子がおられないので、夕霧は
六の君を典侍から引き取って、落葉宮にお預け申されました。(箔をつけるために高貴な方の養女とする)――

夕霧はお心の内で、

「わざとはなくて、この人々に見せそめてば、必ず心とどめ給ひてむ、人のありさまをも知る人は、ことにこそあるべけれ、などおぼして、いといつくしうはもてなし給はず、今めかしくをかしきやうに、物好みせさせて、人の心つけむ便り多くつくりなし給ふ」
――(六の君を)わざとらしくなく、ごく自然に、この匂宮や薫にお見せしはじめたなら、必ずお心を留められるであろう。女を見る目の高い人はなおさらそうであるに違いない。ことさら厳格ではなく、今風に華やかで、趣味にも風流をきかせて、男たちが目をつける機会を多く作るようにしよう――

年が明けて正月、

「賭弓の還饗のまうけ、六条の院にて、いと心ことにし給ひて、親王をもおはしませむの心づかひし給へり」
――賭弓(のりゆみ)の還饗(かえりあるじ)のご用意を、夕霧は六条院でなさることにして、心を込めて親王をおもてなしなさる程のお心遣いをして御準備されました――

 この賭弓では、薫方が負けましたので、薫がひそかに御退出なさろうとしているときに、夕霧は、還饗のお席に強いてお誘いになります。六条院の薫の行くところ匂いが引き立って、夕暮れでお姿がおぼろげでも、その艶なる美しさが想像される春の宵でした。

◆やむごとなきより=尊い、おそれ多い。ここでは正妻の雲居の雁。

◆さるあつかひぐさ持たまへらで=そうしたお育てする御子を持っておられない。

◆賭弓(のりゆみ)の還饗(かえりあるじ)=賭弓(のりゆみ)は、正月十八日、帝が弓場殿で、左右近衛、兵衛の舎人の競射をご覧になる儀式。賭け物をして勝敗をつける。還饗(かえりあるじ)は、その儀が終わって、勝った方の大将の邸で行われる饗宴。

◆写真:弓術

【匂宮(にほふのみや)の巻】終わり。

4/15~16の2日間、お休みします。ではまた。