永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(715)

2010年04月25日 | Weblog
2010.4/25  715回

四十四帖 【竹河(たけがわ)の巻】 その(2)

 玉鬘の血縁でいらっしゃる致仕大臣家のご子孫が、この世に時めいていますが、元来それほど親しくしていたわけでもなく、その上、髭黒が少し人情に薄く、ご気分にムラの多すぎる方だったので、人から敬遠されることがありましたせいか、玉鬘は今となっては親しくお付き合いするところも多くないのでした。

亡くなられた六条院(源氏)は、玉鬘を養女として後々のことまでをもご遺言なさっていらしたこともあって、夕霧はそのご遺志に従って、今でも何かの折毎に玉鬘をお見舞いなさっております。玉鬘腹の男君たちは皆元服を終えていますので、この先は自然に出世の道も開かれていくでしょうが、玉鬘としては、

「姫君達をばいかにもてなし奉らむ」
――この姫君たちのご結婚をどうして差し上げよう――

 と、悩んでいらっしゃるのでした。生前髭黒大臣が、必ず姫君たちを入内させたい旨を、今帝に申し上げておられましたので、そろそろ入内するようにとの仰せもありますが、

「中宮のいよいよ並びなくのみまさり給ふ御けはひに圧されて、皆人無徳にものしたまふめる末にまゐりて、遥かに目をそばめられ奉らむも、わづらはしく、また人に劣り、数ならぬさまにて見む、はた、心づくしなるべきを」
――(今帝には)明石中宮がいよいよ並ぶ者のないご様子で帝のご寵愛を得ておられるのに圧倒されて、そのほかの女御、更衣など皆いるかいないかのお扱いをうけていますのに、更にわが娘がその末席に連なって、はるか上席の中宮から目をそむけられる者と尻目にかけられたりすることも面倒なこと。そうかといって、他人にも劣っているような状態で、人の数にも入らぬ有様で居られるのを、いつまでもお世話するなどは、これもまた苦労なことであろう――

 と、すっかり思い悩んでおります。

そのような折、冷泉院より、まことにお心のこもったお言葉がありました。

「かんの君の昔本意なくて過ぐし給うしつらさをさへ、とりかへしうらみ聞こえ給うて」
――玉鬘が昔、冷泉院からご入内の御意がありながら、髭黒にさらわれるように結婚してしまわれたことの辛さを、今更に恨みがましく仰せになって――

さらに、

「今はまいてさだすぎ、すさまじき有様に思ひ棄て給ふとも、後やすき親に准へて、ゆづり給へ」
――(私は譲位をした)今は、ましてや年老いてしまい、(昔でさえ嫌われたのですから)あなたはもう私に興味もなくお見棄てになるとしても、姫君の為には頼りになる親と思って、あなたの姫君を私にお譲りください――

◆皆人無徳にものしたまふめる末にまゐりて=他の女御、更衣として入内なさった方方が、影の薄い存在に扱われて

◆さだすぎ=盛りの時が過ぎる。老いる。

ではまた。