29.12.06 父さん返せ! NO.1730
戦後の昭和21~24年ころまでは、日本人の生活物資は極端に不足する状態でし
た。 裁判官の山口良二は法で人を裁く立場の人間が、法を犯してヤミ米を食べては
いけないと頑なにヤミコメを食べなかったために、栄養失調になり死亡した事件があり
ました。
そう言う状態は我が家も同じでしたが、家族を栄養失調で死なすことを避けるために
は、ヤミコメを食べなければならないし、そのヤミコメを買うお金を稼ぐ必要がありま
した。 叔母が米軍キャンプに乗り込み身振り手振りでご禁制の煙草を仕入れてき
て、わが母がそれを密売するという生活をしていました。
秘すれば現るの例えの通り違法行為が発覚して母は検挙されました。
取り調べ対して母は叫びました「ワテがヤミして生活せなあかんのは、国が(戦争で)
夫を奪った(戦死させた)からや!」「父さん返せ!」「ワテを逮捕するんやったら4
人の子供は餓死や!」「子供も一緒にブタ箱に入れなはれ!」でした。
執行猶予がついて実刑にはなりませんでしたが、私たち家族はそういう生活をしてきた
のです。
今はそういうことはない一見平和な時代ですが、ちょっと油断をするとまたそういう時
代になってしまうのではないかとの思いがよぎります。
今国民を覆う「貧困問題」は他人ごとではなく、いつ自分に降りかかってくるかもしれ
ないという、危険な状態にあることを理解する必要があるのではないでしょうか?
*この原稿は朝日新聞「声欄」に掲載されました。
*貧困問題については「反貧困」湯浅 誠著 岩波新書を参考にしました。