ことばと詩 23 平井和正『幻魔大戦 ⑳ 光芒の宇宙』角川文庫、1983年、p197~198 20191213
故平井和正さんのSF小説『幻魔大戦』の第20巻「光芒の宇宙」。宗教小説とも言われる本書をふつうに読む人はそういないと思う。ボクは1980年代にふつうに読んだ。愛読書と言ってもいい。ふつうの文学のように読む価値があると思う。
最初は本屋で雑誌『野生時代』を立ち読みした記憶がある。
残念ながら小説は、ここで中断してしまう。著者には、これ以外のいくつかの「幻魔大戦」シリーズがある。
「簡単に人間は己惚れの虜になってしまうのですね。他人の持たない優れた力を自分は持っている‥‥もうエリート意識が生じます。自分が特別な選ばれた存在だと思わない人間はまずいないのではないでしょうかしら?たとえ自分では意識しなくても、使命感とすりかわってしまいそうな気がします。自分では使命感に燃え、純粋な気持ちでやっていても、本当はそうではなくて、選民意識、エリート意識のもたらす己惚れだとしたら、これほど恐いことはありませんわね」
「それは、恐ろしいです。鳥肌が立ちます。人間は知らない間に我と我が心を騙しているということですか?」
田崎は逞しい顔に鳥肌を立てていった。
「自分で自分を知らずに騙す‥‥自己欺瞞という問題は、どんな人間も避けて通れないのではないでしょうか?自分の動機というものを改めて洗い直す必要がありそうです。今度のことで、それがはっきりしたように思います。
「会でも塾でも、もうとうの昔に起きていることかもしれません。まさか自分の動機がいつのまにかすりかわってしまうなど、考えも及ばないことですから‥‥」
田崎は鳥肌の消えない顔を、巨きな両手でごしごしとこすった。いささか照れ隠しのようでもあった。
「見て下さい。お姉さんの一言で鳥肌が立ったまま消えません。これほどショックを受けたのは初めてです」
「あたくしだって同じですわ。全身に鳥肌が立っています。でも、今の邪鬼は本当に恐ろしいことを教えてくれたと思います。この問題は彼女だけではないのですね‥‥あたくしたち全員の重大な問題ですわ。誰だって最初の動機が純粋で清らかなものであれば、ずっとそれは変わらないと思い込んでしまいでしょうから‥‥」
≪ 平井和正『幻魔大戦 ⑳ 光芒の宇宙』<角川文庫>、1983年、p197~198 ≫