新・眠らない医者の人生探求劇場・・・夢果たすまで

血液専門医・総合内科専門医の17年目医師が、日常生活や医療制度、趣味などに関して記載します。現在、コメント承認制です。

災害医療と(平時の)医療

2009-05-23 23:19:48 | 医療

こんばんは。

 

先程、廊下での診療というお話をいただきました(年齢によるTriageが必要な日本社会参照)。

 

ベッド数などを問題にするときに、医療従事者以外の方々はそれを廊下で診ればいいじゃないかと思われるかもしれません。 ただ、やはり廊下での診療というのは特殊な状況と言わざるを得ないです。

 

 

例えば災害医療の時などですね。

 

 

災害医療であれば現場からある程度離れた場所に、前線の指揮所などをつくり、それこそ医療の需要と供給が乖離しているために、ベッド数などが足りなくなり廊下での診療を行うなどします。

 

 

例えば廊下に点滴台をいくつか持ってきて、それにロープ(ビニールテープだと垂れ下がります)を張って、S字フックをかけて点滴台の数を増やしたりして・・・

 

 

ただ、こういった処置は医療の供給が足りない前提での診療です。そしてそれゆえに提供する医療は限られたものになります。

 

 

災害現場で提供する医療は「生命をつなぎとめる」ものであり、最後まで行うものではありません。ある程度の処置が行われ、しばらく時間が持つのであれば後送します。

 

 

災害現場やその近場の病院などで提供するのは「次の場所に移動できる時間を稼ぐ医療」です。多くの人を助けるために「医療を限定」します。その処置の順番などを決めたりします。そういうのをTriageと言います。

 

 

Triageというのは1800年ころのフランス軍がエジプト遠征の際に「兵士を前線にうまく供給」するために、助かる人から治療をしたというところに始まります。そういう意味では今の医療でのTriageとは少し異なりますね。

 

 

いずれにせよTriageは「選別」することを示します。

 

災害の時や戦争の時など「異常時」に、人間の命を「人間」が選別する。そういう異常なことを「医療の供給」が足りないために行うというものです。

 

 

異常時に行うべきものが「平時」に行われるようになってしまっていることを「おかしな社会」と僕は言っております。

 

 

難しい話になっているかもしれませんが、平時であれば「廊下で診療しろ」などという人はいないと思います。平時ではないという認識があるから「廊下で診療すればよい」という話が出てくるのだと思います。

 

すごい理解力だと思います。

 

そういうことを言わなくてはならない異常な状況。それを誰よりも認識している人でなくては言えないコメントだと思います。

 

 

そういった話を「医療従事者」でない人が言うようになってしまったことがいいことか悪いことか、本当に難しいです。

 

 

平時の医療であれば、医療従事者もベッド数もしっかりと確保されていて・・・というのが当たり前です。重症患者、研修医軍団から「プチICU」が全患者と言われてしまう血液病棟で廊下で診療をすることはありません。

 

 

例えば・・・廊下で酸素ボンベを使用します。まかり間違って毎分10lの酸素を流したらボンベの大きさにもよりますが、普通のボンベであれば20分持ちません。

 

そういう患者さん・・・救急の3次救急レベルの患者さんも廊下でみろと言われたらそれまでです。患者さんは酸素投与がまともにできず、死んでしまうでしょう。

 

死ぬことが分かっているのであれば自分のところで診ないのが「Best」もしくは「Better」な選択肢になります。

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なかのひと 

それゆえに「たらいまわし」と言われている「受け入れ不能」状態が作られます。

 

 

埼玉県内は医療過疎ですから「受け入れ不能」になりやすいです。

 

 

そういったことを多くの方々が知ってほしいと思います。もしかすると救急隊の人ですら理解していないのかもしれませんね・・・。 困ったものです。

 

 

では、明日もありますので失礼いたします。

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埼玉は医師不足

2009-05-23 18:49:24 | 医療

さて、続けます

 

日本で人口当たりもっとも医師の数が少ない「埼玉県」

 

ここは医師一人一人の頑張りが県民を支えていると言っても過言ではないと思います。 その代り受け入れ不能にもなりやすいのですが・・・・。

 

うちの先生とも「ベッド数が30床になって、医師数がもう一人でも増えたらベッドの運営も楽なのだけど」と言っております

 

深谷赤十字病院:医師不足で危機 救急患者受け入れ減 支援態勢求め意見交換 /埼玉

5月22日12時1分配信 毎日新聞

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090522-00000031-mailo-l11  

 

◇行政との意見交換で医師会 

県北で最大の病床数があり、救急医療や周産期医療などで地域の基幹病院に位置付けられる深谷赤十字病院(深谷市)が、厳しい医師不足に陥っている。危機感を持った深谷市・大里郡医師会(清水巌会長)が、行政など関係機関に呼びかけた意見交換会が21日、市内で開かれた。 

 

深谷赤十字病院では、耳鼻咽喉(いんこう)科に1人だけいた医師が6月末で退職することになり、7月から同科の診療を中止する。4月には心臓血管外科で3人いた医師が1人に減ったばかり。さらに別の診療科でも近く医師の減少が予定される。5月現在の常勤医師数は66人と、4年間で10人減った。1年半前からは506床のうち47床を休床している。 

 

意見交換会では、諏訪敏一院長らが、医師の減少で救急患者の受け入れ減につながっている現状を説明。特に半減して3人になった小児科は「来年は1人になるかもしれない」とした。医師会側も「地域全体で医師が足りず、妊婦の受け入れ拒否がいつ起きてもおかしくない」と訴えた。 

 

新井家光市長は、▽安易な救急搬送の抑制▽地域内の県立病院の充実▽隣接の群馬県を含めた広域的な医療圏の設定--などの対応が必要だとの認識を示した。出席した県議らも県への働きかけに努めることに同意した。 

 

同医師会の金子勝担当理事は「病院が患者の受け入れがままならないほど深刻な状況であることを住民は理解していない。病院が抱える課題を地域で共有することが出発点」と話している。【金沢衛】

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うちも800床のところを実際の稼働を600床に減らしていますけどね。

 

本当にどうするのか考えないと崩壊しますね、この地域の医療は・・・。血液内科に関しても人口当たり東京の3分の1くらいの医師数で動いている埼玉県。経験数は3倍なのかもしれませんが、過労で倒れていく医師が多いのは当たり前ですよね。

 

実際、去年書きましたが・・・・・一日前に(いろいろと相談)話をしていた先生が、もう二度と話たりすることができなくなりましたしね

 

埼玉県の医師数を増やさないと、結局過労で倒れたり、そういう理由でどんどん勤務医が辞めて行ったりするわけです。負のスパイラルを描いています。

 

まぁ、医師の絶対数が足りない現状では「余っている地域」から医師を集めてくることもできない(笑)わけです。

 

 

せめて僕が学生時代に厚労省にメールした時に「そうかもしれない」と動いていたら、今頃は少しは改善の兆しが出てきたのかもしれません。

 

まだ、何もしていない国に期待しても仕方がないのかもしれませんが・・・このままでは「国民の安全」を保証することもできなくなりますね。

 

 

先程も書きましたが、もはや「Triage」せざるを得なくなってきています。

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なかのひと 

そんな国「日本」をどう思いますか?

 

さて、それではまた。

今日は何もないといいなぁ・・・・。

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年齢によるTriageが必要な日本社会

2009-05-23 18:24:49 | 医療

こんにちは

 

今日の緊入は…非常に今の社会制度を考えさせる患者さんでした。

 

 

患者さんは80歳くらいのおじいさんで悪性リンパ腫の治療後の患者さんです。去年治療をしたけど、全行程は年齢もあって施行しきれなかったのですが、運よくその段階でPET-CT上CRに入っていました。

 

外来でしばらく経過を見られていましたが、本人は「これ以上の治療はいずれにせよ望まず」ということで、こちらは手を引いて近くの病院で…ということになったようです。

 

 

その患者さんが体調が悪くなり、うちに運ばれてきました。

 

僕が診察したわけではないのですが、結局・・・「老衰」に近い状態で、ご飯が食べれなくなって…ということのようです。

 

当初は心房細動などでも診療している循環器内科の方が救急で当たったようですが、「心臓ではない」という理由で「基礎疾患があるから血液内科で診てもらうように(それを言うなら心房細動という基礎疾患はどうするんだ?)」とこちらの当直に降ってきたと・・・。

 

 

こちらの当直は当直で「ただ寝ているだけ・・・」の患者さんを入院させる余裕はありませんし、本質的に悪性リンパ腫はCRのままで再発しても治療はしないことになっている患者さんを受けとっても仕方がないから

 

「救急を受けたのだからそっちが診るのが普通ではないか?」

と断ったら、循環器内科の当直が「教授当直(が一人いるんですけど)」に言って・・・・・。

 

どういうわけか、基礎疾患がある方がみろと言われて入っていらっしゃいました(月曜日に直接プレッシャーをかけに行ってこようかと思っています。もういなかったので・・・・。循環器科の当直には「こんなことをするのなら70歳以上の血液疾患が疑われる患者、お前の所からは二度と診察しないからな!」と言ってきました。)。

 

僕らは昨日の夕方、受け入れ不能で断られ続けている10代の急性白血病の子を断っています。本当は僕は受け入れる余裕はあったし、受け入れたかったのですけど

この子を受けると明日以降の入院が入らない

という(ベッド数)理由で断ったのに・・・

 

 

わけのわからない理由で患者さんの入院の余地がいきなりなくなるというのは如何なものかと思う。

 

昨日の白血病の子を受けなかったのに、治療をしないことになっている79歳の寝たきりの方を受け入れるというのは納得もいかない!

 

このようなことになったのは何が悪いのでしょうか?

 

救急隊がともかく運ばないといけないという理由で「患者の状態」を考えずに大学病院に運ぶからでしょうか?

 

それは一つの理由ではあります。

 

 

医者の数も救急の患者を受け入れるベッド数も、看護師数も足りないから・・・それも大きな要因だと思います。

まぁ、一番悪いのは国なんでしょうけど・・・そんなことを言っても始まりませんから・・・

 

 

救急対応できるベッド数が少ない…ということはどういうことか・・というと「年齢でのTriage」が当然始まるということになります。

 

今回は典型的なパターンです。助けられる患者さんを断って、大学病院で入院加療が不要な患者さんが入院する。それによって助けられる患者さんは助けられなくなる。

 

このままでは「70歳以上の患者さん」の受け入れる余地はなくなります。

 

合併症のために入院し、それに対応できるほどの余力は医師の数もベッド数もないのですから。 70歳以上の患者さんは当然合併症が多くなります。それを抱えていることで「若年層」の患者さんの治療が不能になるのであれば、助けられる患者さんを助けるために「年齢でのTriage」を行わざるを得なくなります。

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なかのひと 

しかし、それは「医師の応召義務」に反することになりますし、本質的に人としてやりたくはない話です。

 

にもかかわらず、(年齢でのTriageを)やらざるを得なくなってきている日本の医療社会。

 

もっと本格的に国民はそれについて考えていかなくてはならないと心から思います。

 

それでは、また。

コメント (2)
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